Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

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協力要請

協力要請1

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 僕が最下層に落ちて、三ヶ月と少し。
 EMANONで僕が任される依頼といえば、いなくなったペットの捜索や人捜しといったものが主である。
 本来は警察の要請で潜入捜査や重要参考人の尾行の依頼も受けているけど、僕が来てからは誰か一人が常に僕に付き添わないといけないから、色々と皺寄せが来ているらしくて申し訳なかった。
 一番大変だろう上司のシェルアさんとロジェさんに謝ると、二人はきょとんとした後笑っていた。
 シェルアさんは僕の身を案じてくれて、ロジェさんは死なれちゃ困るからねと皮肉混じりにそう言った。
 僕は二人の優しさに胸がぎゅっとなって、この人達の役に立ちたいと思った。

——数日後、その機会はやって来た。

 金曜日の正午。
 皆で昼食を摂っていると、ロジェさんが読んでいた手紙をシェルアさんに手渡した。
 普通の封筒ではなく黒い封筒みたいだ。
 シェルアさん手紙を受け取ると、静かに読み始めた。

「人数おかしいよな?」
「うん。どうしよう」
「どうしようったって……断るしかないだろ」
「でも断れる? この人警察では結構上の人でしょ」
「あいつの処遇を気にしてるのか? どうせいつもみたいに上手くやるだろ」
「うーん、でも……」

 チラ、とシェルアさんと目が合った。
 シェルアさんは苦笑を浮かべると、再び手紙に視線を落とした。

「何かあったんですか?」

 マリアンネさんがシェルアさんとロジェさんに聞くと、二人は揃って微妙な顔をした。

「ああ、まあ捜査の協力を依頼されてね……」
「へー、久々ですね」

 ルイスさんはロジェさんの言葉に相槌を打ちながら、パソコンで報告書を作成している。
 ルイスさんがキーボードのエンターキーを叩くと、印刷機が作動した。

「数が七人と二匹なんだよ」
「は? 匹ってこいつらも?」

 ブラッドさんは近くにいた大福を指差した。
 大福は首を傾げる。

「ワフ?」
「いやそれより七人の方でしょ。サンも人数に入ってるって、そんな切羽詰まってるんですか?」

 ルイスさんがロジェさんに言うと、ロジェさんは複雑そうな顔をした。

「被害者に若い子が多いらしい。だから協力してほしいんだと」
「なら別に俺達がいればサンは出なくていいですよね」
「まあね。ただその被害者が可愛らしい子が多いから、全員で来いって言ってきたんだと思うよ」

 ロジェさんはシェルアさんが持っていた手紙を抜き取ると、今度はルイスさんに手渡した。
 僕はマリアンネさん達と一緒に、手紙を横から覗き込んだ。

 手紙の内容は警察がEMANONに協力を依頼するものだった。
 パーティーに行って行方不明になった人が十六名いて、いずれも十代から二十代の若い子ばかりらしい。
 会場に監視カメラはなく、パーティーは自由参加で入退場の時間にも特に決まりがなかったため、誰がいつ何処でいなくなったのか不明で捜査は難航中のようだ。
しかもパーティーは表向き社交パーティーになっているけど、実際は違法薬物取引と人身売買が絡んでいると手紙に書いてあった。
  
「こういうのってやっぱり主催者が怪しいですよねぇ」
「あ、この人あんまりいい噂聞かないですよ。投資家で結構、慈善事業に寄付とかしてるみたいですけど」
「まー金持ちなんか裏あんだろ」

 マリアンネさん、エッシさん、ブラッドさんが口々に感想を言う。
 僕は足元に擦り付いてきた大福を優しく撫でた。

「んで? お前どうすんだよ」
「え?」
「参加すんのかしないのか」

 いきなり話題を振られて僕は思考が一瞬停止した。 
 ブラッドさんの言い方は、まるで僕に決定権があるみたいだった。
 
「何考えてるんすか? どう考えても危ないから不参加でしょ」
「お前が答えんなよ。親でも何でもねェんだから」
「心配して何が悪いんすか。もしかして喧嘩売ってます?」
「あァん? じゃあテメー百億ゼッロで買い取れや」
「ちょっとちょっとちょっと! 何でそうなんのよ二人とも!」

 ルイスさんとブラッドさんが喧嘩になりそうになったところで、エッシさんが仲裁に入る。
 僕は呆気に取られて口を挟めなかった。

「まったく……サンくんも困ってるでしょうが」
「そうですよ。ルイスも落ち着きなさい」

 ブラッドさんは舌打ちをして、ルイスさんは溜息をついた。
そんな二人の反応にエッシさんとマリアンネさんは苦笑している。

「けどコイツだってガキじゃねェし、自分の意思くらいあんだろ。自分の知らない所で他人にあれこれ決められんのは、俺はどうかと思いますケドー?」
「まあ一理あるな」

 ブラッドさんの言葉に、ロジェさんが頷く。
 ロジェさんは僕と目が合うと、ニコリと微笑んだ。

「君はどうしたい?」
「え、えっと……」
「危険はどうしたって伴う。不参加なら安全地帯の、僕の友人の所にでもいて貰うよ」
「さ、参加したいです!」

 皆の目が僕に向いた。
 よもぎちゃんだけが欠伸をしている。

「 あの……僕で役に立てるなら、やりたいなって……」

 誰に目を向けていいのかわからなくて、僕はそっと床に視線を落とした。

「……わかった。その代わり無理は絶対しないように」
「ま、その辺は僕達大人が上手くやるさ。君は適当にパーティーを楽しんでればいいよ」
「っは、はい!」

 頷いて返事をすると、シェルアさんとロジェさんは笑みを浮かべてパソコンに向き直った。
 特に何も言われなかった事にそっと息をつくと、マリアンネさんに笑われた。

「良かったですね、お許しが出て」
「良くねーよ。危ねぇのに」
「過保護かよ」
「人数いるんだから誰かがサンくんの側から離れなければいい話でしょ。あんたもいちいち突っかからないの」

 ブラッドさんはエッシさんに注意されると、あからさまに顔を歪めてそっぽを向いた。
 ルイスさんは呆れた目でブラッドさんを見ている。

「えーと……なんか、すみません……」
「なんでお前が謝んだよ」
「だから言い方!」
「ブラッド」

 静かな声でシェルアさんがその名を呼ぶと、ブラッドさんはたちまち大人しくなった。
 
「十五日の報告書の誤字脱字、今日中に修正出来るか?」
「はい」
「ん。ルイスは?」
「もう出来て印刷してます」
 
 ルイスさんが印刷した紙をシェルアさんに渡す。
 シェルアさんはそれを受け取ると、スタンプを押してルイスさんに返した。

「ありがとう。ついでにファイルに挟んでおいてくれ」
「っす」

 ルイスさんはそう言って、報告書をファイルに挟んで棚にしまった。
そしてルイスさんは開いていたノートパソコンを閉じると、ブラッドさんを一瞥した。
 
「おいブラッド、お前昨日十一番通りで乱闘騒ぎ起こしてないよな?」
「してないッスよ! 言いがかりつけんのはやめてください!!」
「じゃあ五十六番通りは?」
「それは……別人じゃないスかねぇ?」
「よしお前だな。明日までに反省文書いて来いよ」
「なんで!?」
「目撃者がいるんだよ。だいたいもっと上手くやれって前から言ってるだろう」

 ロジェさんは騒ぐブラッドさんを軽く躱して、反省文の提出を促した。
 エッシさんがしっかりしろと言わんばかりにブラッドさんの背中を叩く。
 ブラッドさんは文句を言いながらも棚からノートパソコンを取り出すと、作業し始めた。

「……まあ、頑張ってください」
「あァ? やっぱ喧嘩売ってんだろお前」
「ブラッド、十八日の報告書も」
「アッハイすんません!」

 ルイスさんの一言にブラッドさんは怒っていたけど、シェルアさんの一言でブラッドさんは態度を変えて謝っていた。
 
「……馬鹿の極み」
「こらこら、エッシちゃん」
「だって本当の事ですよマリアさん。サンくんはこんな大人になっちゃ駄目だからね」

 ブラッドさんを指差して言うエッシさんに、僕は曖昧に笑って返事をした。
 視界の端で、よもぎちゃんがまた欠伸をしているのが見えた。
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