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協力要請 side
協力要請 side:よもぎ
しおりを挟む今日は仕事が押しているらしく、私と大福は先にご飯を貰った。
ロジェさんとシェルアさんはまだ忙しいみたいで手紙を持って何か話をしているけど、私は嫌な予感がしていた。
マリアさんが話を聞くと、やっぱり警察の協力要請だった。
流し聞きしていると、私達もパーティーに参加するみたいな事をロジェさんが言った。
ブラッドは大福を指差してロジェさんに確認を取ったけど、大福は何の用かと首を傾げる。
ルイスさんはあの人間が任務に加わるのを反対しているようだった。
感情的なルイスさんの声は珍しく、あの子にかなり入れ込んでいる事がわかる。
私はそれに少し不安を覚えたけど、人間の問題は人間が解決するかと思い直して静観を貫いた。
結局ルイスさんは最後まであの人間が任務に加わるのを反対していた。
でもあの人間本人は参加したかったみたいで、他人の役に立ちたいと言っていた。馬鹿な人間である。
大人しく安全な場所で囲われていた方が良いだろうに、戦い方も知らない人間が任務に参加するなんて無謀すぎる。
私はそっと溜息をついた。
パーティーはこの場にいる全員が参加する事になった。
人混みが嫌いな私は当日に仮病を使って休みたくなった。
大福は美味しい物が食べられるとご機嫌だったけど、私は嫌なものは嫌だ。
現実逃避を味わっていると、ブラッドがルイスさんにちょっかいをかけて、エッシに怒られていた。
……ブラッドはいつになったら大福より精神年齢が上になるんだろうか。
シェルアさんとロジェさんにもやんわり怒られるブラッドを横目に、私は床に伏せると、欠伸をして目を瞑った。
エッシが馬鹿の極みという言葉を口にして、上手い事言うなと思った。
♢
当日仮病を使おうとしても、大福は私を外に連れ出そうとするから意味はなかった。
私は八つ当たりに大福の鼻先を軽く噛んでやった。
今回は悪い人間を警察に引き渡すのが仕事だけど、今日は頭脳派の二人がいるのだ。私達の出番はそんなにないはずだろう。
そう思っていたのに、パーティーにはドレスコードがあるとか何とかで、朝早くからブラッシングをされた。
相手がシェルアさんだったから半分寝ていられたけど、これがもしブラッシング下手のあの人間だったら寝てなんていられなかっただろう。
大福は大福で、マリアさんのブラッシングを堪能していた。
人間は服や髪型を変えていたけど、犬の私と大福は首輪の所に飾りを付けられた。
私はリボンタイで、大福はネクタイである。
見慣れないそれに違和感はあったものの、大福のネクタイはまあまあ似合っていた。
外でロジェさん達が来るのを待っていると、大きな車が停まってドアが開いた。
運転手はロジェさんで、私は大福と一番後ろの座席に座った。
車に乗るのは久しぶりだ。
後ろの窓から眺める景色は、自分のいつもの視点では見られないもので新鮮だった。
遠出はそんなに好きじゃないけど、こういう景色が見られるのは車ならではだろう。
大福は外の景色にはしゃいでいた。
シェルアさん達は今回のパーティーについて話していたけど、いつの間にか大福が食べすぎないかという話になって、皆同じ反応をしていた。
当の本犬は景色に夢中で聞こえていない。天然は一番厄介である。
しばらくして目的地に到着すると、ロジェさんは車を停めてルイスさんに荷物を取って配るよう指示を出した。
紙袋の中には人間の着ける仮面が入っていて、匿名性を上げるために全員が着けるらしかった。
独特なセンスを不思議に思っていると、ルイスさんに大福とよもぎはこれと、一回り小さな仮面を見せられた。
流れるようにルイスさんに仮面を着けられて、私は首を横に振る。
窮屈だと不満を言うと、ルイスさんは終わったら外すからと言ってくれたけど、今回の仕事は短く見積もっても二時間はかかるだろう。
憂鬱になっていると、大福が笑って~なんて呑気に言った。
私は鼻を鳴らして伏せた。
車から降りると、エッシが近くにいたからドレスを褒めにいった。
エッシはいつものように私を撫でてくれた。
好きな人の色を身に纏う人間の心はよくわからないけど、エッシが可愛い人間なのは私は前から知っているのだ。
ブラッドはエッシに突っかかっていたけど、シェルアさんがこっちに来るとすぐ顔色を変えた。
他の生き物には強気に出るくせに、シェルアさんには唯一弱気である。
惚れた弱みなんだよと大福は言っていたけど、あれだけわかりやすかったらシェルアさんも気付いてるんじゃないだろうか。
シェルアさんはブラッドのネクタイを締めると、ロジェさんに呼ばれて向こうへ行ってしまった。
エッシに馬鹿と言われたブラッドを大福は一緒だと慰めていたけど、全然伝わっていなくて食べすぎるなよと言われていた。
拗ねた大福はブラッドにわかってると言い返して、シェルアさんとロジェさんの所に走っていった。
話はちょうど終わった所だったらしく、大福はシェルアさんに頭を撫でられた。
ルイスさんと一瞬目が合ったけど、私はこっちに戻って来たシェルアさんとロジェさんに目を向けた。
シェルアさんとロジェさんは最初二手に分かれて情報収集をした後に、合流する事を説明した。
今回は二手に分かれて会場に向かうらしく、私は大福と違うチームになった。
メンバーはロジェさん、ルイスさん、エッシ、サンだ。
あの人間はロジェさんに酒は飲めるのかと聞かれると、飲めたようなと曖昧な返事をした。
エッシとルイスさんがそれに対して飲むのはやめておけと言う。
あの人間は驚いていたけど、ロジェさんからジュースにしておけと助言されると素直にわかりましたと頷いていた。
行くぞとルイスさんの声がかかる。
あまりの億劫さに動き出せずにいると、エッシに抱き上げられた。
——せっかくのドレスが毛まみれになってしまう。
私は地面に降りようと前足を動かしたけど、エッシは私をぎゅっと抱き締めて離さなかった。
流石にエッシ相手に暴れる訳にもいかないため、私は大人しくする事にした。
歩かなかったから楽は出来たけど、複雑な気分だ。
会場に着くと、うじゃうじゃ人間がいて、人間と一緒に来た動物もいた。
私達と同じ犬もいたけど、鳥を肩にのせている人間をちらほら見かけた。
受付の手続きを済ませて中に入ると、テーブルには食事や飲み物が並べられていて、色んな物が混ざった匂いがした。
ロジェさんは女の人達と話をしているようだ。
エッシはロジェさんを見るとすぐに目を逸らして、ルイスさんとあの人間を追いかけた。
『エッシはそれでいいの?』
そう聞いても、エッシはあっちに行きたいのかと私に聞き返した。
言語が通じないとこういう時不便だ。
鼻を鳴らして見上げると、しっかりと目が合った。
エッシはルイスさんに大福を探しに行くと言うと、会場を回った。
「君、可愛いね。連絡先交換しない?」
「え? いやそれは……」
『忙しいんだからあっち行きなさいよ』
グルグル唸ってやると、軽薄そうな男はさっと手を引っ込めて苦笑いを浮かべた。
他人のくせにエッシに気軽に触れようとするなと吠える。
男は犬が苦手なのか、さっさと逃げていった。
「ありがとよもぎ、助かった」
『どーいたしまして』
エッシは途中で何人かと情報収集のために話していたけど、世間話で終わったから飲み物を持ってきてくれた。
味わって飲んでいると、大福とマリアさんの匂いがして私は顔を上げた。
エッシはすぐ私を抱き上げると、人混みを掻き分けてマリアさんの名前を呼んだ。
マリアさんが私達に気付いて笑みを浮かべる。
エッシは私を床に下ろすと、大福がいたと声をかけてくれたけど、疲れたのもあったから返事をしなかった。
すると大福が私に気を遣って擦り寄って来た。
慰められても気分は良くならなくて、このまま寝てやろうかと思っていると、マリアさんがご飯を持って来てくれた。
匂いを確認して食べてみると不思議な味がして、私は早速二口目を口にした。
食べている途中で大福が話しかけてきたけど、食べている時に話しかけないでと言うと、大福はちょっとショックを受けていた。
エッシとマリアさんは知らない内にロジェさんの話で盛り上がっている。
エッシは素直じゃないからあれこれマリアさんに言い返していたけど、マリアさんの方が一枚も二枚も上手《うわて》だった。
だってエッシの言う事を全部見透かしているのだ。
慌てているエッシを眺めていると、突然会場の電気が消えた。
真っ暗な空間に子供の泣き声が響いて、足音が動き出す。
再び電気がつくと、大福は消えていた。
大福がいない事にエッシは焦っていたけど、マリアさんは冷静に私がいるから大丈夫だと言う。
エッシは大福の居場所がわかるかと私に聞いた。
『わかるから大丈夫よ』
そう返事をすると、エッシは小さく頷いた。
大福の事だから単独行動でも相手の懐に上手く入り込めるだろう。
エッシはスマホを操作すると、私と一緒に会場を出て地下へ走った。
火薬の匂いが近付いてきたため立ち止まって廊下を右に曲がると、屈強な人間がドアの前までやって来てもう一人と会話を始めた。
——大福はあのドアの向こう側にいる。
今は急ごうと進行方向とエッシの顔を何度も繰り返し見ると、私の意図は伝わったらしく、エッシは後をついて来た。
人間との遭遇を避けながら、とある一室に辿り着いた。
中には四人の人間がいたけど、先手必勝で頭に飛び付いて噛み付いてやった。
エッシも麻酔銃で応戦して、効き目の悪い人間は実力行使でコテンパンにした。
人間がちゃんと寝ているか確認していると、エッシは人間に手錠をかけた後、私を椅子へと座らせた。
特にやる事もないからモニター画面を眺める。
エッシが機械をいじって映像を巻き戻すと、そこには大福が映っていた。
ドアの前にいた人間はつい先程ルイスが倒したらしい。
私とエッシは顔を見合わせた。
『大福もルイスもそう簡単にやられないでしょ!』
エッシは小さく笑うと、そっと私の頭を撫でた。
スマホを操作している様子を見るに、皆に今見た映像の内容を報告しているようだ。
私は切り替わる映像を眺めながら、早く終わらないかなと身体を伸ばした。
オークションが始まると、生き物が次々に競り落とされていった。
嫌な記憶が蘇って、頭を振る。
エッシと一緒にモニター画面を見つめていると、中盤頃に大福とサンが出て来た。
こっちにも聞こえるくらい大きな人間の声が飛んできてうるさい。
エッシはシェルアさんの合図で会場の電気を消すと、私と一緒にさっきのあのドアの向こう側を目指した。
行く途中で乱闘騒ぎも起こっていたけど、私達は無視して大福とルイスが入っていったそのドアを開けた。
警察官と一緒に人間と動物を避難させると、私は階段を上がって舞台に立った。
火薬の匂いが充満する不快さに鼻を鳴らす。
すると能天気な大福は私に駆け寄ると、匂いを嗅いできた。
思わず顔を前足で押さえ付けると、大福は心配かけてごめんと言う。
私は別に心配なんてしていないからもう一度顔を前足で押さえ付けておいた。
無茶するのはやめろと言っても、大福は気をつけると言うだけで意味はなかった。
『毎回毎回……懲りないの?』
『うん!』
『自信満々に言う事じゃないでしょ』
呆れていると、ルイスさんから行くぞと声をかけられて今行くと返事をする。
外に出るとパトカーがたくさん停まっていて、警察の人間達が忙しそうにしていた。
ロジェさんの所に行くと、ロジェさんの友達の人がいた。
大福は不思議そうに首を傾げている。
『……この前会ったロジェさんの友達でしょ』
『そうだっけ?』
大福はそういえば会ったような気がすると付け足した。
何回か会っている上、この人には二週間前に会っているのに覚えていないなんてどういう事だ。
食べ物の記憶しかないのかと突っ込むと、大福はあからさまにしょんぼりした。
ロジェさんの友達であるニコライさんは皆と世間話を少しすると、仕事に戻ると言って去っていった。
ルイスさんがロジェさんにシェルアさん達の居場所を聞く。
ロジェさんは裏口から先に外に出たんじゃないかと辺りを見回した。
『いた!』
私と大福はほぼ同時にシェルアさんを見つけると、駆け出した。
大福が叫ぶと、マリアさんは私達に手を振った。
大福はそのままの勢いではしゃいでマリアさんの周りを回ると、知らない人間がロジェさん達に挨拶した。
知らない人間——ノヴィラさんはニコライさんの部下らしい。所作から真面目な性格が窺えた。
大福は好奇心を隠さずにその人間に近付いていたけど、ノヴィラさんは大福を撫でる事なく、仕事に戻ると言ってニコライさんと同じように去っていった。
撫でられずに落ち込んでいる大福をエッシが慰める。
するとブラッドは大福が浮気していると冗談を言ってきた。
浮気なのは知っていると冗談で返すと、大福が浮気じゃないよ違うよと私の周りを回って必死に訴えた。
どうやらブラッドと私の発言を本気で捉えたらしい。
私は溜息をつくと、からかっただけだと大福に伝えた。
そもそも大福のアレは日常茶飯事だ。
私と違って大福は人間に好意的だから、誰にでも撫でられたがるのはわかりきっている。
今更浮気もないだろうと思っていると、大福はホッとして私にしばらくくっついた。
ロジェさんが帰るぞと言うと、ブラッドはご飯を食べていないと文句を言っていたけど、エッシのお腹が鳴ると全員黙り込んだ。
エッシは恥ずかしがって顔を赤くしている。
腸内環境を整えるのに身体が出している音を恥ずかしがるのは犬の私にはあまり理解出来なかったけど、人間にとっては重要な事なのだろう。
流し聞きしていると、シェルアさんが皆でご飯に行かないかと提案した。
大福は美味しい物が食べたいね~と呑気な顔をして言った。
さっき食べたのにまだ食べるのかと聞くと、大福はまた違った美味しい物があるかもしれないと声を大にした。
運動量的にそんなにいっぱいは貰えないだろう。
それを指摘すると大福はでも食べたいと言ってお腹を鳴らした。
そんな風にお腹を鳴らしても駄目なものは駄目だ。
私は大福に軽く体当たりをすると、マリアさんにご飯を貰ったんじゃないのと確認した。
大福には少なめだったから足りなくてお腹が鳴ったらしかった。
燃費の悪さに呆れていると、シェルアさんはその間に私達も入れる店を探してくれたみたいで、大福は早く行こうと皆を急かした。
ロジェさんを追いかけて駐車場に行くと、私達は車に乗り込んだ。
着いた所はなかなか高級なレストランで、店先からは既に美味しそうな匂いが漂っていた。
部屋に案内されると、私と大福はテーブルの足元で大人しく伏せて待機した。
メニューはシェルアさんが選んでいたから、大福はきっとカロリー少なめの物だろう。
横目に見ると、大福は涎を垂らしそうになっているのを我慢していた。
料理が来るのを待っていると、早速店の人間がいくつか料理を運んで来た。
ご飯は美味しかった。
でも私はどちらかと言うと、シェルアさんの家で食べるご飯の方が好きだった。
帰りもロジェさんの運転で、私達は家まで送って貰った。
マリアさんとルイスさんにおやすみを言って別れると、私は大福と欠伸をして寝床に向かった。
……今日は色々あって疲れた。
私は半ば気絶するように、深い眠りに就いた。
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