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3話 やっぱりいい子?
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友達になってくれなんて、いきなり直球すぎたか?
「ふふ、リオン君は面白いお方ですね。では、もう少し静かなところでお話しませんか?」
「ええ。喜んで」
……お? 意外と好感触。
やっぱり、彼女はいい子なんだ。
いきなり話しかけて『友達になってくれ』とか無茶なお願いをしてしまったが、笑顔で返してくれるなんて優しすぎる。
アメリアは扉を開けて外に出て、僕に手招きをしてくれた。
その仕草が妙に可愛いくて……僕は視線を彼女から離せない。
そうか……これが『尊い』ということか。
世の人々がアイドルとかにハマる気持ちがちょっと分かった。
会場の外に出て扉を閉めてしまえば、音も気になるレベルではないが……彼女は静かな場所を求めてどんどん歩いていく。
僕たちはしばらく無言で歩き続け、人気のない廊下に差し掛かった時――異変に気付いた。
魔力の高まり。そこにわずかな殺気が混じっている。
勇者としての勘が告げている。
間違いなく、誰かに狙われている。
「アメリア様、ここは危険です。誰かが狙っていま――」
アメリアが振り返ると同時に、猛烈な勢いで右ストーレートが飛んでくる。
――えッ!?
狙っていたのはアメリアだった。しかも狙われたのは僕だった……。
反射的に身を引いて拳を躱す、が彼女は止まらない。
軸足を中心に美しい半円を描く。
ドレスの裾を翻しながら身をひねらせ回転――風が頬をかすめる。
――速いッ!
刈り取るような回し蹴りが僕のこめかみに迫る。
お遊びとは違う、一切の無駄を削ぎ落とした実戦向けの動き。
流れるような洗練されたコンビネーションだ。
魔法によって身体強化しているのだろうが、それにしても12歳の少女とは思えないほどに速く、キレがある。
でも、元勇者を捕らえるにはあまりにも遅い。
頭ごと刈り取るような勢いのキックだったが、最小限の動きで難なく躱した。
視界のすぐ上を、黒いドレスと生足が通り過ぎていく。
……パンツは、白かった。
黒を基調にトータルコーディネートしてるわけじゃなかったらしい。
とても良いものを見せていただきました。
眼福です。
パンツに目を奪われて、危うく蹴りを喰らいそうになったのは内緒にしておこうと思う。
だって彼女の瞳は、ネコ科の肉食獣みたいにギラついていたから。こんなこと白状したら、きっとさらなる追撃が来るだろう。
だけどいきなり襲いかかってくるなんて……普通じゃないぞ。
何かあるのかも知れない。
「き、急にどうしたんですか? もしかして誰かに操られているのですか……?」
「今のを避けるなんて、リオン君。あなたやるわね」
うん、アメリアさんは正気でした。
「……ありがとうございます」
どんな状況でも褒められたら、まずはお礼を言わないといけない。それが紳士というものだ。
「とりあえずは、合格といったところかしらね……」
「合格? ……何かのテストだったのですか?」
今のがお友だちになるテストだったとしたら、彼女が孤独になるのもわかる気がする。
あれは同年代の貴族では反応できない速さだろうし。彼女、相当な達人だぞ。
「リオン君、私と友達になりたいのよね? まずは私の下僕から始めるのをお勧めするわ」
「え、下僕ッ!?」
「あら、何か不満でも?」
下僕って友達の一種だったのか?
てっきり『召使い』という意味だと思っていた。
「もちろん、タダ働きよ!」
やっぱり召使いだった!
しかも完全にブラックな雇用条件だ!
「はい、わかりました……」
「そう、じゃあ決まりね。今からあなたは私の下僕よ」
「えっとその……光栄、です」
得意げにそう告げるアメリアもやっぱり可愛い。
彼女の未来を守れるのなら、下僕だろうが下郎だって構わない。
でも、推しに下僕って言われると、妙な気分。
ちょっとハマりそうだ!
「じゃあ、リオン君……間違えた、そこの下僕。明日の朝、私の家に来なさい」
今、うっかりして名前で呼びかけたぞ。
アメリア様、もしかして下僕って言い慣れてないのか?
なんだよ。やっぱりいい子なんじゃないか。
無理して悪ぶってるみたいで……めちゃめちゃ可愛い。
少しほっこりしていると、アメリアは少し照れた様子でコホンと咳払いをした。
その姿すら可愛い。
やっぱり、推しは尊いです。
「では、リンドブルム侯爵邸に伺えばいいんですね?」
「そうよ。私から執事に話を通しておくわ。下僕……いや『リオンという若造が尋ねてくるはずだから』ってね」
「あの……多分僕たち、同い年ですけど」
「そう、わかったわ。『生意気なガキ』に訂正しておくわね」
「扱いがさらにひどくなった!?」
可愛いお嬢様は下僕に厳しかった。
ここまでくれば僕でも分かる。アメリアの性格は歪んだんじゃなくて……もって生まれた個性だったのだ。
どうやら妹も設定という嘘に騙されていたらしい。『キラメキ☆ラプソディ』のシナリオライターはホントに悪いやつだ。
そして、僕のアメリア更生計画には大幅な変更が必要だと判明したのだった。
「ふふ、リオン君は面白いお方ですね。では、もう少し静かなところでお話しませんか?」
「ええ。喜んで」
……お? 意外と好感触。
やっぱり、彼女はいい子なんだ。
いきなり話しかけて『友達になってくれ』とか無茶なお願いをしてしまったが、笑顔で返してくれるなんて優しすぎる。
アメリアは扉を開けて外に出て、僕に手招きをしてくれた。
その仕草が妙に可愛いくて……僕は視線を彼女から離せない。
そうか……これが『尊い』ということか。
世の人々がアイドルとかにハマる気持ちがちょっと分かった。
会場の外に出て扉を閉めてしまえば、音も気になるレベルではないが……彼女は静かな場所を求めてどんどん歩いていく。
僕たちはしばらく無言で歩き続け、人気のない廊下に差し掛かった時――異変に気付いた。
魔力の高まり。そこにわずかな殺気が混じっている。
勇者としての勘が告げている。
間違いなく、誰かに狙われている。
「アメリア様、ここは危険です。誰かが狙っていま――」
アメリアが振り返ると同時に、猛烈な勢いで右ストーレートが飛んでくる。
――えッ!?
狙っていたのはアメリアだった。しかも狙われたのは僕だった……。
反射的に身を引いて拳を躱す、が彼女は止まらない。
軸足を中心に美しい半円を描く。
ドレスの裾を翻しながら身をひねらせ回転――風が頬をかすめる。
――速いッ!
刈り取るような回し蹴りが僕のこめかみに迫る。
お遊びとは違う、一切の無駄を削ぎ落とした実戦向けの動き。
流れるような洗練されたコンビネーションだ。
魔法によって身体強化しているのだろうが、それにしても12歳の少女とは思えないほどに速く、キレがある。
でも、元勇者を捕らえるにはあまりにも遅い。
頭ごと刈り取るような勢いのキックだったが、最小限の動きで難なく躱した。
視界のすぐ上を、黒いドレスと生足が通り過ぎていく。
……パンツは、白かった。
黒を基調にトータルコーディネートしてるわけじゃなかったらしい。
とても良いものを見せていただきました。
眼福です。
パンツに目を奪われて、危うく蹴りを喰らいそうになったのは内緒にしておこうと思う。
だって彼女の瞳は、ネコ科の肉食獣みたいにギラついていたから。こんなこと白状したら、きっとさらなる追撃が来るだろう。
だけどいきなり襲いかかってくるなんて……普通じゃないぞ。
何かあるのかも知れない。
「き、急にどうしたんですか? もしかして誰かに操られているのですか……?」
「今のを避けるなんて、リオン君。あなたやるわね」
うん、アメリアさんは正気でした。
「……ありがとうございます」
どんな状況でも褒められたら、まずはお礼を言わないといけない。それが紳士というものだ。
「とりあえずは、合格といったところかしらね……」
「合格? ……何かのテストだったのですか?」
今のがお友だちになるテストだったとしたら、彼女が孤独になるのもわかる気がする。
あれは同年代の貴族では反応できない速さだろうし。彼女、相当な達人だぞ。
「リオン君、私と友達になりたいのよね? まずは私の下僕から始めるのをお勧めするわ」
「え、下僕ッ!?」
「あら、何か不満でも?」
下僕って友達の一種だったのか?
てっきり『召使い』という意味だと思っていた。
「もちろん、タダ働きよ!」
やっぱり召使いだった!
しかも完全にブラックな雇用条件だ!
「はい、わかりました……」
「そう、じゃあ決まりね。今からあなたは私の下僕よ」
「えっとその……光栄、です」
得意げにそう告げるアメリアもやっぱり可愛い。
彼女の未来を守れるのなら、下僕だろうが下郎だって構わない。
でも、推しに下僕って言われると、妙な気分。
ちょっとハマりそうだ!
「じゃあ、リオン君……間違えた、そこの下僕。明日の朝、私の家に来なさい」
今、うっかりして名前で呼びかけたぞ。
アメリア様、もしかして下僕って言い慣れてないのか?
なんだよ。やっぱりいい子なんじゃないか。
無理して悪ぶってるみたいで……めちゃめちゃ可愛い。
少しほっこりしていると、アメリアは少し照れた様子でコホンと咳払いをした。
その姿すら可愛い。
やっぱり、推しは尊いです。
「では、リンドブルム侯爵邸に伺えばいいんですね?」
「そうよ。私から執事に話を通しておくわ。下僕……いや『リオンという若造が尋ねてくるはずだから』ってね」
「あの……多分僕たち、同い年ですけど」
「そう、わかったわ。『生意気なガキ』に訂正しておくわね」
「扱いがさらにひどくなった!?」
可愛いお嬢様は下僕に厳しかった。
ここまでくれば僕でも分かる。アメリアの性格は歪んだんじゃなくて……もって生まれた個性だったのだ。
どうやら妹も設定という嘘に騙されていたらしい。『キラメキ☆ラプソディ』のシナリオライターはホントに悪いやつだ。
そして、僕のアメリア更生計画には大幅な変更が必要だと判明したのだった。
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