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次の日、教室の雰囲気は一変した。
悪鬼の如きオーラを放っていたセリスさんが、クール系の綺麗なメガネ女子になっていたからだ。
だけど、クラスメイトのみんなは遠巻きにひそひそ話をするくらいで、直接セリスさんに話しかけようという人はいなかった。
それでも、みんなのセリスさんに対する印象は変わっていくんじゃないかと思う。
ダリウスだって少し変わり始めていると思うから。
「なあ、トリスタン。セリスさん、大胆なイメチェンしたな」
「うん、似合ってるよね」
「でも、やっぱりまだ怖いな。あの鋭い目は変わってないもん」
「そうかな? セリスさんは話すと結構面白いんだけど」
僕はチラッとセリスさんを見る。
眼鏡……似合ってるな。
昨日のことを思い出してみても……結構楽しかった。
「トリスタンは怖い物知らずだな!」
「そんなに怖くないって……」
「まあでも彼女……お前とは普通に話してるみたいだよな」
「そうでしょ? セリスさんと話すと楽しいよ。ダリウスも話してみたらどう?」
「俺はまだ死にたく、いや、そんな勇気無いよ……」
その後は、普段のようにとりとめのない話が続いた。
ダリウスはセリスさんを極端に恐れることはなくなったけど、怖いのは変わらないらしい。
でも、以前よりはセリスさんを受け入れているような気がした。
その日のお昼休憩時間のことだった。
僕が1人で歩いていた時、思わぬ人から声がかかった。
「トリスタン君、少しいいかな?」
「はい?」
振り返るとそこにいたのは……この国の王太子。
メインキャラの1人である、ユージーン殿下だった。
彼はこの学園の3年生。
2年生の僕からすると上級生にあたる。
もっとも重要なのは、彼が王族ということだ。僕は失礼の無いよう、急いで敬礼のポーズを取った。
「殿下。何の御用でしょうか?」
「トリスタン君、そんなにかしこまらなくていいよ。」
「ですが、殿下」
「……身分の上下に関わらず、すべての生徒は等しくある。この学園の規則にあったはずだよ?」
まさか、ここで恋愛奨励制度を持ち出すとは……さすが王太子様だ。
「確かに……そうですが、よろしいのでしょうか?」
「もっと気軽に話してくれたほうが楽でいいかな」
「わかりました、殿下」
「ユージーンでいいよ」
殿下は気さくに言う。
そう言われても……。
さすがに王太子殿下を呼び捨ては不味い。
「……ユージーン様」
「もっとフランクに頼むよ」
「ゆ、ユージーンさんっ……」
「うん、そう呼んでくれると親近感が湧くね」
殿下……改めユージーンさんはにこやかに笑う。
メインキャラなだけあって造形美がすごい。ただ微笑んでいるだけなのに、絵になる。
ところで、僕みたいなモブになんの用があるのだろう?
「それで用事というのは?」
「そうだった。実はトリスタン君にお礼を言いにいたんだ」
「僕にですか? ユージーンさんにお礼を言われるようなことは……心当たりがありませんけど……」
「私じゃなくて、セリスの件なんだ」
「セリスさんの……ですか?」
「そう、彼女はアイリス……私の婚約者の妹でね。つまり、私にとっては義理の妹になるってわけさ」
「セリスさんとユージーンさんに、そんな関係があったんですか……全く知りませんでした」
ユージーンさんは王太子で、姉であるアイリスさんが婚約者……。
そしてセリスさんが悪役令嬢なわけだから……。
もしかして、姉妹でユージーンさんを取り合ってるのだろうか?
だとしたら、この3人の関係性は思っている以上に複雑かも知れない。
「アイリスが喜んでいたよ。セリスの表情が全然違うってね。君のお陰だそうだね、トリスタン君」
「もしかして、眼鏡の件ですか?」
「そうさ、私も実際に見たけどセリスが本当に見違えて驚いたよ。アイリスを含めて私たちはセリスの目が悪いなんて分からなかったのに、君はすごいね」
「いえ……僕が気がついたのはたまたま偶然です」
たまたま隣の席になって、偶然セリスさんが睨んでいたから、理由を聞いてみただけで。
僕は全然すごくない……。
「それでも最後までセリスをサポートしてくれたんだろう。感謝しているよ」
「そんな……勿体ないお言葉です」
「はは、堅苦しいって。もっと気楽に接してくれ」
「すいません、つい……」
僕の予想に反して、ユージーンさんとアイリスさんはセリスさんを大切に思っているみたいだった。昼ドラみたいにドロドロな三角関係じゃなく、お互いを尊重し合っているようだ。
……僕の考えすぎだったらしい。
「セリスを助けてくれたのは、これで2度目だね」
「2度目……ですか?」
「あれ? 覚えていないのかい。ほら去年、セリスがトラブルに会っているところを助けてくれただろう?」
「去年……?」
「そう、その時、私に会っているよ」
「ユージーンさんと……?」
去年……。
ユージーンさんに会ったのは、校舎裏で男子と揉めていた女子を助けた時だ。
あの時は王太子であるユージーンさんの印象が強すぎた。
颯爽と現れたイケメン王子のインパクトが強烈で、揉めていた2人の顔をほとんど覚えていない。
あの時の女子がセリスさんだったと言われても、いまいち実感が無い。
「まあ、これからもセリスを頼むよ」
そう言って、ユージーンさんは爽やかに去っていった。
分かりました。と返事をしたものの……。
僕にできることは何なのだろう?
教室へ戻り席に着くと、セリスさんと目が合った。相変わらず鋭い目つきだけど、睨まれてるわけじゃないことはもう分かる。
その違いはもしかしたら、この世界で僕だけが分かるのかも知れない。
セリスさんの瞳には、親しみが込められている。
なんとなくだけど、そんな気がした。
悪鬼の如きオーラを放っていたセリスさんが、クール系の綺麗なメガネ女子になっていたからだ。
だけど、クラスメイトのみんなは遠巻きにひそひそ話をするくらいで、直接セリスさんに話しかけようという人はいなかった。
それでも、みんなのセリスさんに対する印象は変わっていくんじゃないかと思う。
ダリウスだって少し変わり始めていると思うから。
「なあ、トリスタン。セリスさん、大胆なイメチェンしたな」
「うん、似合ってるよね」
「でも、やっぱりまだ怖いな。あの鋭い目は変わってないもん」
「そうかな? セリスさんは話すと結構面白いんだけど」
僕はチラッとセリスさんを見る。
眼鏡……似合ってるな。
昨日のことを思い出してみても……結構楽しかった。
「トリスタンは怖い物知らずだな!」
「そんなに怖くないって……」
「まあでも彼女……お前とは普通に話してるみたいだよな」
「そうでしょ? セリスさんと話すと楽しいよ。ダリウスも話してみたらどう?」
「俺はまだ死にたく、いや、そんな勇気無いよ……」
その後は、普段のようにとりとめのない話が続いた。
ダリウスはセリスさんを極端に恐れることはなくなったけど、怖いのは変わらないらしい。
でも、以前よりはセリスさんを受け入れているような気がした。
その日のお昼休憩時間のことだった。
僕が1人で歩いていた時、思わぬ人から声がかかった。
「トリスタン君、少しいいかな?」
「はい?」
振り返るとそこにいたのは……この国の王太子。
メインキャラの1人である、ユージーン殿下だった。
彼はこの学園の3年生。
2年生の僕からすると上級生にあたる。
もっとも重要なのは、彼が王族ということだ。僕は失礼の無いよう、急いで敬礼のポーズを取った。
「殿下。何の御用でしょうか?」
「トリスタン君、そんなにかしこまらなくていいよ。」
「ですが、殿下」
「……身分の上下に関わらず、すべての生徒は等しくある。この学園の規則にあったはずだよ?」
まさか、ここで恋愛奨励制度を持ち出すとは……さすが王太子様だ。
「確かに……そうですが、よろしいのでしょうか?」
「もっと気軽に話してくれたほうが楽でいいかな」
「わかりました、殿下」
「ユージーンでいいよ」
殿下は気さくに言う。
そう言われても……。
さすがに王太子殿下を呼び捨ては不味い。
「……ユージーン様」
「もっとフランクに頼むよ」
「ゆ、ユージーンさんっ……」
「うん、そう呼んでくれると親近感が湧くね」
殿下……改めユージーンさんはにこやかに笑う。
メインキャラなだけあって造形美がすごい。ただ微笑んでいるだけなのに、絵になる。
ところで、僕みたいなモブになんの用があるのだろう?
「それで用事というのは?」
「そうだった。実はトリスタン君にお礼を言いにいたんだ」
「僕にですか? ユージーンさんにお礼を言われるようなことは……心当たりがありませんけど……」
「私じゃなくて、セリスの件なんだ」
「セリスさんの……ですか?」
「そう、彼女はアイリス……私の婚約者の妹でね。つまり、私にとっては義理の妹になるってわけさ」
「セリスさんとユージーンさんに、そんな関係があったんですか……全く知りませんでした」
ユージーンさんは王太子で、姉であるアイリスさんが婚約者……。
そしてセリスさんが悪役令嬢なわけだから……。
もしかして、姉妹でユージーンさんを取り合ってるのだろうか?
だとしたら、この3人の関係性は思っている以上に複雑かも知れない。
「アイリスが喜んでいたよ。セリスの表情が全然違うってね。君のお陰だそうだね、トリスタン君」
「もしかして、眼鏡の件ですか?」
「そうさ、私も実際に見たけどセリスが本当に見違えて驚いたよ。アイリスを含めて私たちはセリスの目が悪いなんて分からなかったのに、君はすごいね」
「いえ……僕が気がついたのはたまたま偶然です」
たまたま隣の席になって、偶然セリスさんが睨んでいたから、理由を聞いてみただけで。
僕は全然すごくない……。
「それでも最後までセリスをサポートしてくれたんだろう。感謝しているよ」
「そんな……勿体ないお言葉です」
「はは、堅苦しいって。もっと気楽に接してくれ」
「すいません、つい……」
僕の予想に反して、ユージーンさんとアイリスさんはセリスさんを大切に思っているみたいだった。昼ドラみたいにドロドロな三角関係じゃなく、お互いを尊重し合っているようだ。
……僕の考えすぎだったらしい。
「セリスを助けてくれたのは、これで2度目だね」
「2度目……ですか?」
「あれ? 覚えていないのかい。ほら去年、セリスがトラブルに会っているところを助けてくれただろう?」
「去年……?」
「そう、その時、私に会っているよ」
「ユージーンさんと……?」
去年……。
ユージーンさんに会ったのは、校舎裏で男子と揉めていた女子を助けた時だ。
あの時は王太子であるユージーンさんの印象が強すぎた。
颯爽と現れたイケメン王子のインパクトが強烈で、揉めていた2人の顔をほとんど覚えていない。
あの時の女子がセリスさんだったと言われても、いまいち実感が無い。
「まあ、これからもセリスを頼むよ」
そう言って、ユージーンさんは爽やかに去っていった。
分かりました。と返事をしたものの……。
僕にできることは何なのだろう?
教室へ戻り席に着くと、セリスさんと目が合った。相変わらず鋭い目つきだけど、睨まれてるわけじゃないことはもう分かる。
その違いはもしかしたら、この世界で僕だけが分かるのかも知れない。
セリスさんの瞳には、親しみが込められている。
なんとなくだけど、そんな気がした。
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