悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます

文字の大きさ
6 / 6

しおりを挟む
 次の日、教室の雰囲気は一変した。

 悪鬼の如きオーラを放っていたセリスさんが、クール系の綺麗なメガネ女子になっていたからだ。


 だけど、クラスメイトのみんなは遠巻きにひそひそ話をするくらいで、直接セリスさんに話しかけようという人はいなかった。

 それでも、みんなのセリスさんに対する印象は変わっていくんじゃないかと思う。

 ダリウスだって少し変わり始めていると思うから。

「なあ、トリスタン。セリスさん、大胆なイメチェンしたな」

「うん、似合ってるよね」

「でも、やっぱりまだ怖いな。あの鋭い目は変わってないもん」

「そうかな? セリスさんは話すと結構面白いんだけど」

 僕はチラッとセリスさんを見る。

 眼鏡……似合ってるな。

 昨日のことを思い出してみても……結構楽しかった。
 
「トリスタンは怖い物知らずだな!」

「そんなに怖くないって……」

「まあでも彼女……お前とは普通に話してるみたいだよな」

「そうでしょ? セリスさんと話すと楽しいよ。ダリウスも話してみたらどう?」

「俺はまだ死にたく、いや、そんな勇気無いよ……」
 
 その後は、普段のようにとりとめのない話が続いた。

 ダリウスはセリスさんを極端に恐れることはなくなったけど、怖いのは変わらないらしい。

 でも、以前よりはセリスさんを受け入れているような気がした。

 その日のお昼休憩時間のことだった。

 僕が1人で歩いていた時、思わぬ人から声がかかった。

「トリスタン君、少しいいかな?」

「はい?」

 振り返るとそこにいたのは……この国の王太子。

 メインキャラの1人である、ユージーン殿下だった。
 
 彼はこの学園の3年生。

 2年生の僕からすると上級生にあたる。
 
 もっとも重要なのは、彼が王族ということだ。僕は失礼の無いよう、急いで敬礼のポーズを取った。
 
「殿下。何の御用でしょうか?」

「トリスタン君、そんなにかしこまらなくていいよ。」

「ですが、殿下」

「……身分の上下に関わらず、すべての生徒は等しくある。この学園の規則にあったはずだよ?」

 まさか、ここで恋愛奨励制度を持ち出すとは……さすが王太子様だ。
 
「確かに……そうですが、よろしいのでしょうか?」

「もっと気軽に話してくれたほうが楽でいいかな」

「わかりました、殿下」

「ユージーンでいいよ」

 殿下は気さくに言う。

 そう言われても……。

 さすがに王太子殿下を呼び捨ては不味い。
 
「……ユージーン様」

「もっとフランクに頼むよ」

「ゆ、ユージーンさんっ……」

「うん、そう呼んでくれると親近感が湧くね」

 殿下……改めユージーンさんはにこやかに笑う。

 メインキャラなだけあって造形美がすごい。ただ微笑んでいるだけなのに、絵になる。

 ところで、僕みたいなモブになんの用があるのだろう?

「それで用事というのは?」

「そうだった。実はトリスタン君にお礼を言いにいたんだ」

「僕にですか? ユージーンさんにお礼を言われるようなことは……心当たりがありませんけど……」

「私じゃなくて、セリスの件なんだ」

「セリスさんの……ですか?」

「そう、彼女はアイリス……私の婚約者の妹でね。つまり、私にとっては義理の妹になるってわけさ」

「セリスさんとユージーンさんに、そんな関係があったんですか……全く知りませんでした」

 ユージーンさんは王太子で、姉であるアイリスさんが婚約者……。

 そしてセリスさんが悪役令嬢なわけだから……。
 
 もしかして、姉妹でユージーンさんを取り合ってるのだろうか?

 だとしたら、この3人の関係性は思っている以上に複雑かも知れない。

「アイリスが喜んでいたよ。セリスの表情が全然違うってね。君のお陰だそうだね、トリスタン君」

「もしかして、眼鏡の件ですか?」

「そうさ、私も実際に見たけどセリスが本当に見違えて驚いたよ。アイリスを含めて私たちはセリスの目が悪いなんて分からなかったのに、君はすごいね」

 「いえ……僕が気がついたのはたまたま偶然です」

 たまたま隣の席になって、偶然セリスさんが睨んでいたから、理由を聞いてみただけで。

 僕は全然すごくない……。
 
「それでも最後までセリスをサポートしてくれたんだろう。感謝しているよ」

「そんな……勿体ないお言葉です」

「はは、堅苦しいって。もっと気楽に接してくれ」

「すいません、つい……」

 僕の予想に反して、ユージーンさんとアイリスさんはセリスさんを大切に思っているみたいだった。昼ドラみたいにドロドロな三角関係じゃなく、お互いを尊重し合っているようだ。

 ……僕の考えすぎだったらしい。
 
「セリスを助けてくれたのは、これで2度目だね」

「2度目……ですか?」

「あれ? 覚えていないのかい。ほら去年、セリスがトラブルに会っているところを助けてくれただろう?」

「去年……?」

「そう、その時、私に会っているよ」

「ユージーンさんと……?」
 
 去年……。

 ユージーンさんに会ったのは、校舎裏で男子と揉めていた女子を助けた時だ。

 あの時は王太子であるユージーンさんの印象が強すぎた。

 颯爽と現れたイケメン王子のインパクトが強烈で、揉めていた2人の顔をほとんど覚えていない。

 あの時の女子がセリスさんだったと言われても、いまいち実感が無い。

「まあ、これからもセリスを頼むよ」

 そう言って、ユージーンさんは爽やかに去っていった。

 分かりました。と返事をしたものの……。

 僕にできることは何なのだろう?

 教室へ戻り席に着くと、セリスさんと目が合った。相変わらず鋭い目つきだけど、睨まれてるわけじゃないことはもう分かる。

 その違いはもしかしたら、この世界で僕だけが分かるのかも知れない。

 セリスさんの瞳には、親しみが込められている。

 なんとなくだけど、そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

俺の婚約者は悪役令嬢を辞めたかもしれない

ちくわ食べます
恋愛
王子である俺の婚約者は、打算的で、冷徹で、計算高い女だった。彼女は俗に言う悪役令嬢だ。言っておくけど、べつに好きで婚約したわけじゃない。伯爵令嬢だった彼女は、いつの間にか俺の婚約者になっていたのだ。 正直言って、俺は彼女が怖い。彼女と婚約破棄できないか策を巡らせているくらいだ。なのに、突然彼女は豹変した。一体、彼女に何があったのか? 俺はこっそり彼女を観察することにした

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

悪役令嬢、辞めます。——全ての才能を捨てた私が最強だった件

ニャーゴ
恋愛
「婚約破棄だ、リリアナ!」 王太子エドワードがそう宣言すると、貴族たちは歓声を上げた。 公爵令嬢リリアナ・フォン・クラウスは、乙女ゲームの悪役令嬢として転生したことを理解していた。 だが、彼女は「悪役令嬢らしく生きる」ことに飽きていた。 「そうですか。では、私は悪役令嬢を辞めます」 そして、リリアナは一切の才能を捨てることを決意する。 魔法、剣術、政治力——全てを手放し、田舎へ引きこもる……はずだった。 だが、何故か才能を捨てたはずの彼女が、最強の存在として覚醒してしまう。 「どうして私、こんなに強いの?」 無自覚のままチート能力を発揮するリリアナのもとに、かつて彼女を陥れた者たちがひれ伏しにくる。 元婚約者エドワードは涙ながらに許しを請い、ヒロインのはずの少女は黒幕だったことが判明し、処刑。 だが、そんなことよりリリアナは思う。 「平穏に暮らしたいんだけどなぁ……」 果たして、彼女の望む静かな生活は訪れるのか? それとも、新たな陰謀と戦乱が待ち受けているのか——!?

悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?

無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。 「いいんですか?その態度」

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...