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第4話 周回勇者のインターンシップ
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わたしは、日本の大手ゲームメーカー株式会社スタートイの採用人事の面接官だ。
といっても、毎日面接をしているわけではない。
就職活動に関わることであれば、企業説明会をする日や、膨大なエントリーシートに目を通す日、採用通知やお祈りメールの文章チェックをする日もある。
そしてインターンの就活生の対応をすることもある。
実際に面倒を見るのは部下に一任しているため、わたしの役割は就活生に目を配り、終了時刻前に彼らの活動記録を読んで評価を含めたコメントを記入することだ。
しかし、近年の日本の就活生は一筋縄ではいかない。
理由は、日本人のほとんどが異世界トリップを経験しており、如何に特殊で希有な体験をして来たかを散々に、声高々にアピールしてくるからだ。
例えば、
「初めはショボいスキルだと思っていたら、チートスキルだったんです」
「無能者認定されたのですが、実は使い方によっては最強の能力を秘めていました」
「落ちこぼれ扱いでパーティをクビになったのですが、まさかこんなスキルで⁈ というスキルで商人として無双しました」
などという武勇伝は、耳にタコができるほど聞いた。おそらく、異世界には役に立たないスキルなんて存在せず、どのスキルもすごいポテンシャルを秘めているに違いない。
我が人事部の社員には、そんな似たり寄ったりのエピソードを自信満々に語る就活生にうんざりしている者も少なくない。勇者アレルギーや悪役令嬢湿疹、 Sランク冒険者頭痛を発症している者もいるくらいだ。
そして、「異世界での英雄譚がステータスになってしまった、この時代が憎い!」と叫ぶ部下たちのケアは、不本意ながらわたしの仕事のひとつだ。
ちなみに、今使った「ステータス」は、異世界に於いて、最早常識のように根付いている「能力値」の意ではない。現代の若者には、「社会的地位」の意では認知されていないことが末恐ろしい。
話を戻すと、インターン就活生に対応しきれなくなった部下のケアやフォローを、わたしが行うことがある。
試しに、とある日の出来事を聞いていただこう。
***
●真嶋裕也(25)
「部長。本当にすみません。まさか、持病の勇者アレルギーが悪化するなんて……」
昼休みの自販機前で、わたしの部下の白峰は、たいそう申し訳なさそうに頭を下げる。
全身に発赤が出ていて痛々しい容姿になっているのが、彼の持病が悪化した結果だ。年に一度くらいは見かける。
本日彼は、真嶋裕也という就活生をインターンとして受け入れ、指導に当たってくれていた。しかし、彼との相性がとんでもなく悪かったようで、白峰はわたしに助けを求めて来たのだ。
「まぁ、インターンの扱いは難しいもんだよ。どんな子か、言ってみて」
わたしは白峰にカフェオレの缶をくれてやりながら、話を促した。すると白峰は、「さすが部長はわかってらっしゃる」と、嬉しそうに缶を開ける。
そして、履歴書を見ながら話し始めた。
「真嶋裕也は、クリミア王国で勇者として魔王を倒した後に、タイダルニアで邪神封印を果たしているそうです。クールな感じの黒髪の二刀流剣士です」
「昔から、二刀流好きな子多いよね」
「そうですね。僕は個人的に三刀流が好きなんですが、それはあまり聞かないので残念なんですよ」
「君の趣味は聞いてないよ」とわたしは笑った。
ちなみにわたしは、六双流が最高にクールで伊達だと思っているが、それをやってのけたという就活生にはお目に掛かったことがない。
失礼。話の腰を折ってしまった。
その就活生の真嶋裕也が、わたしの部下を勇者アレルギー発症に追い込んだ経緯についてだ。
白峰は、極力思い出したくないようだったが、業務上仕方なく話してくれた。
「まずは、社内を案内しました。まぁ、異世界での活動について聞きながらですよ。聞くと、仲間にハーフエルフの奴隷の子がいたようで。あっ、もちろん女の子ですよ?」
「うん。そこは疑ってない。何故か異世界で仲間になるハーフエルフは、女の子ばかりだからね」
「ですよね! あれ、なんでなんでしょうね。ゲルド族みたいに、滅多に男が生まれないんでしょうか」
「分からないけど、他社のゲームの種族については、いったん置いておいてくれ」
もちろん、好きなゲームだが。日本に来て、初めてそのゲームをプレイした時の感動を、わたしは一生忘れない。
失礼。また話の腰が折れた。
わたしは「それで?」と部下を促す。
「いやぁ、もう、彼の説明が長いんですよ! 僕に言わせたら、三行で済みますよ。……タイダルニアの世界では、ハーフエルフが差別されてる。自分は初めは従順な仲間が欲しかっただけだけど、徐々に信頼関係を築いて、掛け替えの無いパートナーになった……。それを、一時間かけて話すんです!」
「一時間は長いね」
異世界トリップ者は、空気を吸うように奴隷を仲間にする。
そして彼らから驚くほど慕われるベタな展開は、「他者に優しく、他者からの評価が高い」というエピソードで使われがちだ。
「でしょう⁈ もうね、ハーフエルフという種族の説明からするんですよ。ハーフエルフが、耳が長くて金髪で色白で美しくて魔法が得意で、悲しいことにエルフと人間から疎まれているなんて、最早常識じゃないですか!」
「その常識が覆される日が、いっこうに訪れないのが悲しいよね」
わたしは出来るだけ穏やかな口調に努め、早口でまくし立てる白峰をなだめた。
「で、他には?」
「えっと、擬似的に書類作成を体験させようかと思ったんです……。そしたら真嶋のやつ、PCのエクセルのフォーマットをより簡易になるように弄りやがって…!」
「彼は改良してくれたの? ならいいんじゃないか?」
就活生の新たな視点で、会社の業務が効率化されることは良いことだ。
しかし、白峰は首をぶんぶんと激しく横に振る。
「問題はそこじゃありません。奴の態度です。はっきり言ったんです。……『俺、また何かやってしまいましたか?』って!」
白峰はホラー話のように緩急を付けて語ると、「ひぃぃぃーっ!」とセルフで叫んだ。
「『受動無双系』の子なわけだ」
わたしが言い当てると、白峰はコクコクと頷いた。
「受動無双系」とは、人事部用語で異世界でチート級の能力を持ちながら、本人は活動に対して非積極的。向こうからトラブルや事件が舞い込んで来て、気が進まないが対処をすると、周囲が驚き称賛するレベルの偉業を成し遂げてしまう……、という性質の人間のことだ。
「しかもですよ! 『俺は静かに暮らしたいだけなのに』って言ったんですよ⁈」
白峰は、さらに荒ぶる。
「静かに暮らしたい」なんて、どこかの町の殺人鬼のようなささやかな希望なのだが、この手の話をする就活生も無数にいる。
そして大半の者にとって、そのような望みは建前でしかない。チヤホヤされたい、無双したい、というのが本音なのだ。
おそらく、真嶋もそうだろう。
真嶋は、いわゆる「周回勇者」。ひとつの異世界人生を終え、二週目三週目に突入する日本人のことだ。
種類は色々とあるが、基本的に記憶は保持、ハイスペックなステータスもスキルも保持。無念の死によりある時点まで遡って人生をやり直したり、魔王を倒した後に余生を楽しむかのように平凡なジョブに転職したり、スローライフを楽しんだりする。
そして真嶋の場合は、第二の異世界人生をタイダルニアで戦うことを選んだ。
「真嶋君は、クリミア王国を救った後、日本に帰るという選択肢を蹴って、タイダルニアに行ったようだね」
わたしは真嶋の履歴書に目を落としながら、彼の心中を想像する。
「モラトリアム、かな。平和になったクリミア王国で仕事を探して行きていくのは嫌。でも、日本に戻って就活もしたくない。だから、別の異世界でヒーローを続ける」
「なんか、昔のダメな学生みたいですね。学費を入れたら、もう一回遊べるドン♪ っていうやつ」
そのゲームは他社のリズムゲームだったが、とにかく白峰も納得した様子で頷いていた。
将来の選択から逃げたい学生が、とりあえず大学院や留学に行く、という事例を過去の資料で見たことがあった。
真嶋の周回理由は、それに近いのではないだろうか。
「まぁ、『周回勇者』と『受動無双系』が合わさると、扱いづらさが倍増するからね。あとは、わたしが引き継ぐから、今日は通常業務に戻ってくれ」
わたしがそう言うと、白峰は「ほんとに申し訳ないです」と何度か繰り返した。
と、そこにふらりと現れたのは、営業部の仙道蓮という社員だ。
「お疲れっすー。インターンの履歴書ですか?」
彼は自販機でコーラを購入すると、ひょいっと真嶋の履歴書を覗き込んで来た。
すると、思いがけない発言が飛び出す。
「あっ、真嶋裕也じゃないですか! ステータス貧弱すぎて、ギルドに入れてもらえなかった奴だ」
聞き捨てならない内容に、わたしと部下は思わず仙道の顔を凝視した。
そういえば、仙道はタイダルニアにトリップし、ギルドの受付事務をしていた経歴があった。だから、真嶋を知っているのだ。
「懐かしいな~。こいつ、オレにこっそりワイロ──、魔王特効の聖剣渡してきたんですよ。これでギルドに登録させてくれって。でも、魔王がいない世界じゃ、そんな聖剣ゴミ同然で……。あっ、すんません。邪魔しちゃいましたね。オレはこれで失礼しますね!」
軽やかに去って行く仙道を見送りながら、わたしと部下は顔を見合わせた。なんだか、風船に穴が空いたような気分だ。
「まぁ、昼からはわたしが真嶋を暴いてくるから……」
「お手柔らかにしてあげてください。彼、苦労したみたいですし」
わたしは「そうだね」と頷く。
真嶋が真に異世界で経験した、身になるエピソードに期待だ。
といっても、毎日面接をしているわけではない。
就職活動に関わることであれば、企業説明会をする日や、膨大なエントリーシートに目を通す日、採用通知やお祈りメールの文章チェックをする日もある。
そしてインターンの就活生の対応をすることもある。
実際に面倒を見るのは部下に一任しているため、わたしの役割は就活生に目を配り、終了時刻前に彼らの活動記録を読んで評価を含めたコメントを記入することだ。
しかし、近年の日本の就活生は一筋縄ではいかない。
理由は、日本人のほとんどが異世界トリップを経験しており、如何に特殊で希有な体験をして来たかを散々に、声高々にアピールしてくるからだ。
例えば、
「初めはショボいスキルだと思っていたら、チートスキルだったんです」
「無能者認定されたのですが、実は使い方によっては最強の能力を秘めていました」
「落ちこぼれ扱いでパーティをクビになったのですが、まさかこんなスキルで⁈ というスキルで商人として無双しました」
などという武勇伝は、耳にタコができるほど聞いた。おそらく、異世界には役に立たないスキルなんて存在せず、どのスキルもすごいポテンシャルを秘めているに違いない。
我が人事部の社員には、そんな似たり寄ったりのエピソードを自信満々に語る就活生にうんざりしている者も少なくない。勇者アレルギーや悪役令嬢湿疹、 Sランク冒険者頭痛を発症している者もいるくらいだ。
そして、「異世界での英雄譚がステータスになってしまった、この時代が憎い!」と叫ぶ部下たちのケアは、不本意ながらわたしの仕事のひとつだ。
ちなみに、今使った「ステータス」は、異世界に於いて、最早常識のように根付いている「能力値」の意ではない。現代の若者には、「社会的地位」の意では認知されていないことが末恐ろしい。
話を戻すと、インターン就活生に対応しきれなくなった部下のケアやフォローを、わたしが行うことがある。
試しに、とある日の出来事を聞いていただこう。
***
●真嶋裕也(25)
「部長。本当にすみません。まさか、持病の勇者アレルギーが悪化するなんて……」
昼休みの自販機前で、わたしの部下の白峰は、たいそう申し訳なさそうに頭を下げる。
全身に発赤が出ていて痛々しい容姿になっているのが、彼の持病が悪化した結果だ。年に一度くらいは見かける。
本日彼は、真嶋裕也という就活生をインターンとして受け入れ、指導に当たってくれていた。しかし、彼との相性がとんでもなく悪かったようで、白峰はわたしに助けを求めて来たのだ。
「まぁ、インターンの扱いは難しいもんだよ。どんな子か、言ってみて」
わたしは白峰にカフェオレの缶をくれてやりながら、話を促した。すると白峰は、「さすが部長はわかってらっしゃる」と、嬉しそうに缶を開ける。
そして、履歴書を見ながら話し始めた。
「真嶋裕也は、クリミア王国で勇者として魔王を倒した後に、タイダルニアで邪神封印を果たしているそうです。クールな感じの黒髪の二刀流剣士です」
「昔から、二刀流好きな子多いよね」
「そうですね。僕は個人的に三刀流が好きなんですが、それはあまり聞かないので残念なんですよ」
「君の趣味は聞いてないよ」とわたしは笑った。
ちなみにわたしは、六双流が最高にクールで伊達だと思っているが、それをやってのけたという就活生にはお目に掛かったことがない。
失礼。話の腰を折ってしまった。
その就活生の真嶋裕也が、わたしの部下を勇者アレルギー発症に追い込んだ経緯についてだ。
白峰は、極力思い出したくないようだったが、業務上仕方なく話してくれた。
「まずは、社内を案内しました。まぁ、異世界での活動について聞きながらですよ。聞くと、仲間にハーフエルフの奴隷の子がいたようで。あっ、もちろん女の子ですよ?」
「うん。そこは疑ってない。何故か異世界で仲間になるハーフエルフは、女の子ばかりだからね」
「ですよね! あれ、なんでなんでしょうね。ゲルド族みたいに、滅多に男が生まれないんでしょうか」
「分からないけど、他社のゲームの種族については、いったん置いておいてくれ」
もちろん、好きなゲームだが。日本に来て、初めてそのゲームをプレイした時の感動を、わたしは一生忘れない。
失礼。また話の腰が折れた。
わたしは「それで?」と部下を促す。
「いやぁ、もう、彼の説明が長いんですよ! 僕に言わせたら、三行で済みますよ。……タイダルニアの世界では、ハーフエルフが差別されてる。自分は初めは従順な仲間が欲しかっただけだけど、徐々に信頼関係を築いて、掛け替えの無いパートナーになった……。それを、一時間かけて話すんです!」
「一時間は長いね」
異世界トリップ者は、空気を吸うように奴隷を仲間にする。
そして彼らから驚くほど慕われるベタな展開は、「他者に優しく、他者からの評価が高い」というエピソードで使われがちだ。
「でしょう⁈ もうね、ハーフエルフという種族の説明からするんですよ。ハーフエルフが、耳が長くて金髪で色白で美しくて魔法が得意で、悲しいことにエルフと人間から疎まれているなんて、最早常識じゃないですか!」
「その常識が覆される日が、いっこうに訪れないのが悲しいよね」
わたしは出来るだけ穏やかな口調に努め、早口でまくし立てる白峰をなだめた。
「で、他には?」
「えっと、擬似的に書類作成を体験させようかと思ったんです……。そしたら真嶋のやつ、PCのエクセルのフォーマットをより簡易になるように弄りやがって…!」
「彼は改良してくれたの? ならいいんじゃないか?」
就活生の新たな視点で、会社の業務が効率化されることは良いことだ。
しかし、白峰は首をぶんぶんと激しく横に振る。
「問題はそこじゃありません。奴の態度です。はっきり言ったんです。……『俺、また何かやってしまいましたか?』って!」
白峰はホラー話のように緩急を付けて語ると、「ひぃぃぃーっ!」とセルフで叫んだ。
「『受動無双系』の子なわけだ」
わたしが言い当てると、白峰はコクコクと頷いた。
「受動無双系」とは、人事部用語で異世界でチート級の能力を持ちながら、本人は活動に対して非積極的。向こうからトラブルや事件が舞い込んで来て、気が進まないが対処をすると、周囲が驚き称賛するレベルの偉業を成し遂げてしまう……、という性質の人間のことだ。
「しかもですよ! 『俺は静かに暮らしたいだけなのに』って言ったんですよ⁈」
白峰は、さらに荒ぶる。
「静かに暮らしたい」なんて、どこかの町の殺人鬼のようなささやかな希望なのだが、この手の話をする就活生も無数にいる。
そして大半の者にとって、そのような望みは建前でしかない。チヤホヤされたい、無双したい、というのが本音なのだ。
おそらく、真嶋もそうだろう。
真嶋は、いわゆる「周回勇者」。ひとつの異世界人生を終え、二週目三週目に突入する日本人のことだ。
種類は色々とあるが、基本的に記憶は保持、ハイスペックなステータスもスキルも保持。無念の死によりある時点まで遡って人生をやり直したり、魔王を倒した後に余生を楽しむかのように平凡なジョブに転職したり、スローライフを楽しんだりする。
そして真嶋の場合は、第二の異世界人生をタイダルニアで戦うことを選んだ。
「真嶋君は、クリミア王国を救った後、日本に帰るという選択肢を蹴って、タイダルニアに行ったようだね」
わたしは真嶋の履歴書に目を落としながら、彼の心中を想像する。
「モラトリアム、かな。平和になったクリミア王国で仕事を探して行きていくのは嫌。でも、日本に戻って就活もしたくない。だから、別の異世界でヒーローを続ける」
「なんか、昔のダメな学生みたいですね。学費を入れたら、もう一回遊べるドン♪ っていうやつ」
そのゲームは他社のリズムゲームだったが、とにかく白峰も納得した様子で頷いていた。
将来の選択から逃げたい学生が、とりあえず大学院や留学に行く、という事例を過去の資料で見たことがあった。
真嶋の周回理由は、それに近いのではないだろうか。
「まぁ、『周回勇者』と『受動無双系』が合わさると、扱いづらさが倍増するからね。あとは、わたしが引き継ぐから、今日は通常業務に戻ってくれ」
わたしがそう言うと、白峰は「ほんとに申し訳ないです」と何度か繰り返した。
と、そこにふらりと現れたのは、営業部の仙道蓮という社員だ。
「お疲れっすー。インターンの履歴書ですか?」
彼は自販機でコーラを購入すると、ひょいっと真嶋の履歴書を覗き込んで来た。
すると、思いがけない発言が飛び出す。
「あっ、真嶋裕也じゃないですか! ステータス貧弱すぎて、ギルドに入れてもらえなかった奴だ」
聞き捨てならない内容に、わたしと部下は思わず仙道の顔を凝視した。
そういえば、仙道はタイダルニアにトリップし、ギルドの受付事務をしていた経歴があった。だから、真嶋を知っているのだ。
「懐かしいな~。こいつ、オレにこっそりワイロ──、魔王特効の聖剣渡してきたんですよ。これでギルドに登録させてくれって。でも、魔王がいない世界じゃ、そんな聖剣ゴミ同然で……。あっ、すんません。邪魔しちゃいましたね。オレはこれで失礼しますね!」
軽やかに去って行く仙道を見送りながら、わたしと部下は顔を見合わせた。なんだか、風船に穴が空いたような気分だ。
「まぁ、昼からはわたしが真嶋を暴いてくるから……」
「お手柔らかにしてあげてください。彼、苦労したみたいですし」
わたしは「そうだね」と頷く。
真嶋が真に異世界で経験した、身になるエピソードに期待だ。
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