サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば

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第1章 ちぎれたサラシと【女体化の呪い】

第2話 呪われ(てない)騎士

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 アルヴァロ・ズッキーニがフェルナン陛下に仕え始めてから、三年が経つ。
 彼は美しい金髪に翠眼をした、まるで女性のように小柄で華奢な美青年でありながら、修道院で身に着けた神聖術と騎士学校一の剣術使いという、とても優れた聖騎士だった。
 フェルナン陛下もアルヴァロをたいそう重宝し、いつもそばに置き――……。

 と、第三者目線で語ってみたが、アルヴァロは私、アルヴァローズが男装した仮の姿だ。

  黒魔術師の奇襲、そして【女体化の呪い】事件から一週間――。

 国をあげて黒魔術師の捜索が行われる中、私、聖騎士アルヴァロの生活……というか、フェルナン陛下の私への態度がガラリと変わった。

 フェルナン陛下は自分が黒魔術師に体育会系的対応をしたせいで、従者の私が呪われてしまったと思い込んでいる。そしてその罪意識からか、私をとんでもなく気遣ってくれるようになったのだ。
 
 たとえば。

「従者だからといって、これまでのように重い荷を持たすわけにはいかん。俺が持つ!」

 私、思わず、きゅん。

「奇異なる視線を向けて来る者がいるが、そんな視線など気にするな。俺のことだけを見ていろ」

 すごく、きゅん。

「慣れない女の体が不便ならば、メイドに着替えや風呂を手伝わせるか? いやいや待て! 中身は男のままであれば、責任をもってこの俺が……!」

 きゅ……じゃない。

「新品のブラジャーを持ちながらそんな話をしないでください!! イケメンな国王じゃなかったら捕まってますよ!!」

 私に叱られ、フェルナン陛下は「うぅぅ、すまん……」と眉をハの字にして縮こまっていた。

 しかし、彼は女嫌いで有名だ。
数多の美しい令嬢たちからの求婚を断り続けていると聞く。つい先日も名門公爵家のご令嬢との縁談を早々に断り、フェルナン陛下の母君が怒りのため息をこれ見よがしに吐いていたのを目撃したところだ。

 熱血で正義感が強く、出生を曖昧にしている私をそばに置くほどの実力主義者であるフェルナン陛下のことなので、相手がどれほど高貴な身分であっても、心から気に入らなければ交際すらしないだろうとは思う。

 けれど、会うこともせずに縁談を蹴るということは、きっと女性という生き物そのものを嫌悪しているのだろう。私の知らない過去に何かトラウマになる出来事があったに違いない。

(本当は従者が女になっちゃうなんて、すごく嫌なんだろうな……。なのにこんなに優しくしてくれるなんて……。空回りしてるせいで、セクハラくさいけど)

 私が新品の高級ブラジャーをフェルナン陛下から奪い取り、後日試着してみようとこっそり懐に隠したことはさておいて。

「安心しろ。女になったからといって、お前を従者の役から解雇することはない。性別など関係なく、お前以上に優れた聖騎士はいないからな」
「陛下……」

 二人っきりの執務室で、フェルナン陛下は優しい言葉と眼差しを私にくれた。そして、大好きな大きな手が私の頭に乗せられる。

 今までフェルナン陛下は、よく私の頭をわしわしと乱暴に撫でていた。私は頼りになる騎士であると同時に、「おもしれー従者」的存在だったのだと思う。「お前は小柄だから、ちょうどいい位置に頭があるんだ」と、陛下はよく笑っていた。

しかし、今日はそっと頭に触れてなでなでなで……。

(て、手つきが全然違うんですが……!)

「あの……、えっと、いつも通りの感じで大丈夫です。陛下。中身は男の時と変わりありませんので」

(ほんとは外身も、ですけど)

 私がおずおずと進言すると、フェルナン陛下は「そ、そうか」と戸惑い気味な相槌を打ち、再び私の頭に手を置いた。

 わしっ……、わしっ。

(ぎ、ぎこちない……)

「すまん、アルヴァロ……。性別など関係なく接したいと思っているのだが……。うぅっ、軽蔑してくれてかまわん。俺は、今のお前をどうしても女として意識してしまうんだ……。頭では、中身は男のままだと理解しているというのに……」

 フェルナン陛下は重いため息を吐き出しながら、こちらに背中を向けていてしまう。いつも大きく逞しいその背中は、なんだか今日はしょんぼりとして見える。

「陛下……。ならどうして……」

 私は真摯な眼差しと共に、フェルナン陛下に問い掛ける。

「どうして欲望丸出しの“谷間くっきりボディアーマー&ミニスカ&ニーハイブーツ”を着させるんですか?」

 はち切れそうな胸とスカートの裾を手で押さえながら、フェルナン陛下を問い詰める私である。

「……アルヴァロ。性癖というものは、理解していても止められないものだ。俺は自分に権力があってよかったと、心の底から思っている」

 振り返るフェルナン陛下の金色の瞳が、きらりと光る。

「あんた最低か!!」

 叱ったり怒鳴ったりしても処罰されないくらいには、信頼関係ができている私たちだが、この陛下、イケメン国王じゃなかったら、本当に捕まるんじゃないかと心配になってしまう。

(でも、好きなんだよなぁ……)

 私はこんなフェルナン陛下のことが大好きだ。
 ちょっと残念な性格をしているが、強く賢く優しくイケメンイケボ。
 それだけじゃない。

 十年前、自暴自棄になっていた私アルヴァローズを救い、生きる道を示してくれたのがフェルナン陛下だった。


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