幼なじみが散々な目に合っていると勘違いして助けようとしたのが始まりでした。世界を元に戻せたのも元凶の私でしたが、覚えてません

珠宮さくら

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人生最悪の日だ。

そう思うことは、ヴァレリア・アッカルドにとってこれが初めてではない。おかしな話、どんどん上書きされて悪化していっている。

そんな呪いにでもかかっているのではなかろうかと思うほど、ヴァレリアはこれまで最悪の日を経験してきた。

まだ、10代のヴァレリアが、大袈裟なことを言っていると思うかもしれないから、ちょっと思い返してみようと思う。

それは、ヴァレリアの心の傷をえぐるようなものだが、ヴァレリアが大袈裟ではない証明のためなら、致し方ない。

一番最初は、忘れもしない。人間なら誰しも1番最初のことは、よく覚えているものだと思う。ヴァレリアが齢7つの時に人生最悪と思った出来事は、それまで見たことないほど素敵な少年に思わず一目惚れした。何やらキラキラして見えて、少年に見惚れてしまった。

よく覚えていないが、彼の目の前でそれは見事にすっ転んでしまった。どうやって転んだらそうなるのかというほど、派手に転んでいた。

まぁ、それも最悪だが続きがある。


「ぶっ、凄いこけかただな!」
「っ!?」


思いっきり笑われてしまったのだ。それはもう、お腹を抱えて、彼は自己紹介もしていないのに笑い転げた。ヴァレリアは一目惚れしたのも、どこかにいった。キラキラして見えていたはずなのに急にこんなのに見惚れて転んだのかと思えてしまい、ただ恥ずかしくて、仕方がなかった。

その少年が、ヴァレリアの3つ上の姉の婚約者に決まったのは、その後だった。

転んだヴァレリアを婚約者にしたくなかったということではない。更に続きがあるのだ。

あの時、転んだヴァレリアのことを助けて駆け寄り、怪我をした妹を心配した素振りを見せた姉のロザリア・アッカルドを彼は選んだのだ。

それこそ、普段はあんなことはロザリアは決してしない。あんな風に派手に転んだのは、妹ではないかのように振る舞う。即座に妹の心配をするより、己の心配をするような人だ。

赤の他人のフリをするのが、いつもの姉だった。それか、人がいない時は、彼のように笑っている。そのようなことをする人が、ヴァレリアの姉だった。

でも、あの時は頭でも、どこかに思いっきりぶつけたかのように別人なことをした。ヴァレリアにとっては理想の姉が、そこにいた。

すぐさま、ヴァレリアに駆け寄って来て心配してくれたのだ。それも大げさなくらいに過剰に。


「まぁ! ヴァレリア、大丈夫! 可哀想に痛かったでしょう」


思い返せばかなり棒読みなものだったのだが、ヴァレリアはそれにしばらく騙された。その時だけでなく、しばらくの間、感激すらしていた。

本音を聞くまでは、姉を信じていた。


「お姉さま」
「大丈夫よ。私が、ついてるわ」


恥ずかしくてたまらなくて、悔しくて泣いてしまったヴァレリア。姉の普段は見せたことのない優しさにコロッと騙されて、更に泣いた。

冷静に聞いていれば、白々しいものだったのだが、この時のヴァレリアはいっぱいいっぱいだったこともあり、騙されることになった。

やっと、理想の姉ができたのだと思ってすらいた。それに比べて、笑いものにした子息は、見ているだけで何もしてくれなかった。

だが、そもそも派手にすっ転ぶことになったのも、一目惚れしてぼーっとしていたヴァレリアを姉が使用人を利用してわざと転ばせたせいだったのだ。それにヴァレリアが気づかなかったのは、余裕がなかったのとそこまでのことをするとは思っていなかったのだ。

そんなことを妹にさせて、優しい姉と印象付けるために彼の前でやらせて、利用した上で見事、思惑通りに彼の婚約者となったというわけだ。


「やったわ! ヴァレリアを利用した甲斐があったわ!」
「っ!?」


そんなことを言って、婚約したことを大喜びしているロザリア。誰もいないと思っていたようだがらバッチリ聞こえた。

それを知ることになって、ヴァレリアがどんな気持ちになったかなんて、簡単に想像がつく。


「最悪だわ。ちょっとでも、お姉さまを信じた私が、馬鹿だった。あの人、私のこと利用したんだわ」


本当に最悪だった。そして、ヴァレリアを笑いものにするところは、彼も姉も同じだったから、ある意味、物凄くお似合いだと思うことになった。


「同じことで笑えるって、いいことのはずなのに。最悪の共通点があるってだけで、義兄としては期待できそうもないわね」


色々わかったヴァレリアはたった数日とは言え、姉のことを見直した自分がどれだけ馬鹿だったかを思い知った。

そこから、年月は流れた。

昔は、見目麗しい少年だった。ほんの僅かな間、騙されたヴァレリア。

その頃の彼はヴァレリアも笑われる前までは思わず見惚れてしまうほど、見た目だけは物凄くよかった。


「素敵よね。ロザリア様が羨ましいわ」


あちらこちらで、何も知らない令嬢がロザリアのことを羨んだ。

ただ中身が最悪すぎたが、年頃の令嬢たちにキャーキャーと騒がれていた。中身を知られない限りは、みんな見た目に騙されていたようだ。

その上、彼は公爵家の跡継ぎということもあり、しばらくして王太子の側近となった。

そんな彼と婚約しているロザリアは、婚約してからずっと鼻を高くしている。でも実際は、鼻は低めだ。妹を転ばせて、演出しなくては、婚約者になれない程度の容姿でしかない。

そして、歳を重ねるごとに素敵だった彼は残念な成長を遂げることになった。


「なんか、昔の面影がないわよね」
「そうね。なんか、格好良くならなかったわね」


期待し過ぎていたかのように彼は、そこそこ以下の容姿となって成長した。その上、中身はあんなんだ。

王太子の側近の1人となっても、大して期待通りなことはしていないようで、キャーキャーと騒ぐ令嬢もめっきり減った。

学園の成績を見てもわかる。頭がいまいちなのだ。

ロザリアはそれでも公爵家の跡継ぎとなる子息と婚約していることを自慢し続けていた。

前までは、流石とか、凄いとよく言われていたが、最近は……。


「他に話題ないのかしらね」
「聞き飽きたことしか言わないわよね」


そんな風にロザリアがいないところで言われるようになったことを姉は知らない。


「あの人らしいわね」


いない時の話題など、耳にしたことはないかのようにロザリアは相変わらず好き勝手なことをし続けることをやめることはなかった。

そのしっぺ返しがロザリアの身におとずれるとも知らずにヴァレリアを利用したことで、勝ち組になれたとずっと思っていた。

それがつかの間の幸せになるとは思いもしなかっただろう。

ヴァレリアも、この先、あんなことになるとは思いもしなかった。


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