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第1章
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しおりを挟む(そういえば、前世のおばあちゃんは花とお話しできないと不便だって、よく言っていたっけ。不思議なことを言うなって思って聞いていたけど、あの言い方って前はできていたみたいに聞こえるのよね。そんなことが元々できていたなら、私もいつかできるようになったのかな? ここは前とは違う世界みたいだし、ここでならできるとかだとここに転生した意味がありそうだけど。……そうだったらいいのに。でも、都合よすぎるわよね)
そんな風に思っていたが、言葉にすることはなかった。そんな都合のいいことなんて、ありえないと思って、あまりその辺の期待をしないようにした。
ただ、花に触れ合える今がフィオレンティーナには幸せでならなかった。使用人たちにフィオレンティーナが花に触れ合えるためにそれをバラさない代わりに全ての仕事を押し付けられていたとしても、花に囲まれた生活ができるなら、彼女にはどうでも良かった。
(さて、次は掃除ね。さっさと終わらせて、昼食を作って、花の世話をしよう)
10歳の少女が、大人数人分の仕事を1人でこなしていた。そんな毎日を続けているのに彼女は、疲れ切った顔を見せることはなかった。
前世の小さい頃のようになぜか、物凄く元気があり余っているようで疲れ切って動けなくなることもなければ、朝起きるのもしんどいと思うこともなかった。
子爵家とはいえ、それなりに広い屋敷を1人で切り盛りしていても平然としていられるのは、フィオレンティーナくらいしかいないだろう。
だが、それが異常なことだということに本人だけでなくて、使用人たちも気づいていなかった。
前世の記憶を持って生まれたフィオレンティーナは、貴族令嬢とは名ばかりの土いじりと花の世話が大好きな女の子だった。
いつから記憶があるのかというと転生して生まれた時からだったりする。赤ちゃんの頃から、花のことが頭から離れなかった。
もっとも、赤ちゃんの頃は、やることが特になくて、あれやこれやと考えることばかりしていたが、その全てが花のことだった。
(土いじりがしたい。花の世話をしたい。花に触れられたら、どんなに楽しくて幸せな気分になれるか。花の香り、水を上げた時の生き生きとした反応。風にそよぐ姿。自然の雨と人が水やりする時の反応の違い。……もう、遠い昔のことみたい)
そんなことをフィオレンティーナは考えていた。近くで双子の片割れのチェレスティーナが不満だとばかりに何かにつけてよく泣いているのが、とにかく煩かった。その煩さに慣れる前に考えることに没頭することで気にならなくなる方が早かった。これぞ、心頭滅却というやつだろう。
貴族となったフィオレンティーナは、花の世話はできなくとも、花を見ていたいとは思っていたが、両親には愛でるという気持ちが欠片もない人たちだったようだ。
子爵家にいる使用人たちも、そうだ。言われたことしかやらない。最低限のことしかせずにいかに無駄なく仕事をして、給料をもらうかを極めたような人たちだった。そのせいで、双子の姉妹の世話も雑としか言いようがなかった。
それなのにチェレスティーナは、何をしても、何をしなくとも、とにかく泣いてばかりいたせいで大変だったようで、フィオレンティーナがその真逆で大人しくしていたせいで、放置されることもしばしばだった。
(これ、私じゃなかったら、大問題よね。チェレスティーナも、泣き続けて構ってもらうことに味をしめた感じがしなくもないし、私もアピールしといた方がいいのかな?)
だが、フィオレンティーナには双子の片割れのようなことはできなかった。
赤ちゃんの頃の耐え忍ぶような羞恥を、早く自分でできるようになりたいとどんなに思ったことか。
最初の頃は、前世のことは覚えていることが、まだまだふわっとしていたこともあり、夢にまで見て焦がれるほどではなかった。ただ、花好きだったくらいで、誰に教わって誰に似て、誰に憧れていたのかを思い出して行くと段々と我慢するのが難しくなっていったが、最初の頃はまだ抑えがきいていた。
(花たちの世話ができないとこんなにも満たされない気分になるのね。私の方が元気でなくなってしまうわ。どうにかして、花と生活できるようにしないと私が萎れてしまいそうだわ)
物心ついた頃に婚約者の子息に会ったが、祖父同士が決めたもので、あちらの子息もフィオレンティーナ同様に婚約したことに不満しかなかったようだ。
流石にあからさまに態度や言葉にしなかったフィオレンティーナと違って、彼は苛立ちを爆発させて暴れ回ったため、もっと成長してから仕切りなおすことになった。その後、仕切りなおすタイミングをずるずると先延ばしにして、会うことないままになるとは思もしなかったが、フィオレンティーナは婚約者のことをそういえば、そんなのもいたなと思うレベルでしかなかったため、婚約者らしいことをされ続けていなくてよかったと思って程度でしかなかった。
成長するにつれてフィオレンティーナは貴族令嬢でなくて、平民として生まれていても、あまりにも土いじりと花の世話が好きすぎるまでに成長していた。
どこで生まれていようとも、大変だったに違いないが、彼女の両親は見かけというか。対面を気にする人たちだったため、フィオレンティーナのような娘がいると知られることを良しとはしない人たちだった。
(前世の母は、共働きするのに週末は祖母のところにいても似なきゃいいと思っていて、花の世話をしても怒られることはなかったけど。今世の両親は、それすら貴族らしくないって言うはず。……前の両親が、まだマシって思う日が来るとは思わなかったわ)
そこから、フィオレンティーナが庭いじりができるようになるまでかなり大変だった。そうなるまで、フィオレンティーナは慣れない貴族の生活に四苦八苦することになった。
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