完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら

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エウフェシアが、マカリオス国に行くまでにある出来事が起こった。それは、何気ないところから始まった。もうすぐ、マカリオス国に行ってしまうエウフェシアとの別れを惜しむのと婚約者候補となった面々で、労いも兼ねて楽しもうと開かれたお茶会でのことだった。

大勢いるせいで、エウフェシアと話すのに数回開かれることになったが、最終的にはみんなで話すことになってしまい、それを主催するのがエウフェシアの役目になってしまった。


(まぁ、そうなるわよね。あれだけ、やったんだもの)


みんなが王太子と話す機会をエウフェシアはぶち壊したのだ。名前や顔を覚えられないなんて言ってられはしなかった。会いたくなんて欠片もなくとも、そうは言っていられなかった。

それでも和やかに始まって、そのまま終わるのかと思っていたところで話題をそちらに向けたのは、エウフェシアの姉のアルテミシアだった。


「エウフェシア。試練の場で、何をしたの?」
「何、とは?」


エウフェシアは、何のことだろうと言う顔をしたが、姉の親友のイオアンナも、婚約者候補となっていた令嬢たちも、アルテミシアが何を聞きたがっているかをわかっているようだった。

ただ1人、エウフェシアだけがわけがわからない顔をして姉たちを見た。それが、焦れったいと思ったようだ。

お茶会が開かれるたびにそんなことを聞かれたが、エウフェシアはのらりくらりとかわしていた。でも、今回ばかりはそうは言っていられそうもなかった。


(このお茶会の目的が、そこなのよね)


「今更、隠すことないわ。私、鳥なんて出て来なかったのよ」
「私もよ」
「……」


みんな鳥なんて出て来なかったと話していた。それは、たくさんお茶会をしてエウフェシアも耳にタコができるほど聞いた。


(その話を聞きたがるとは思っていたけど、こんな楽しい場でする話ではないのに。聞くまで終わらないのでしょうね。今更聞いても、終わったことなのに)


エウフェシアは、何があったかを全部は思い出せていないが、大体のことは思い出していた。雛のことを思い出した途端、芋づる式に記憶を思い出していた。

あんな世界でよく壊れなかったものだと他人事のように思うだけで、同じようになったら耐えられるかというとそんな自信は今のエウフェシアには全くなかった。


(もう、あの試練をやることもないのはわかっているけど、もう終わらない悪夢に付き合うなんて絶対にしたくない。次にやることになったら、私は……)


エウフェシアの心は、ざわついていた。それなのに姉たちは、そんなエウフェシアの気持ちなどお構いなしだった。

ただ1人、鳥が登場したとわかって、知りたいと言われても、いつものようにのらりくらりと回避しようとした。エウフェシアは、言葉にしたくなかった。

でも、知りたがるのも無理もなかった。クリストフォロスの婚約者候補は、各国からより優れた令嬢が集まって学園で学んでいたのだが、数年に一度、開催していても決まらないこともよくあったようだ。

なのに今年は、これまでと違うことばかりが起こっていた。すぐに試練から離脱する令嬢たちを他所に逆に目を覚まさなくなったままの令嬢が現れたのだ。それが、エウフェシアだった。

何ヶ月もエウフェシアは、眠ったままだったと目が覚めてから聞かされて、鳥のことを思い出してからは、何があったかをちらほらと思い出し始めて、眠ることが怖くなってしまっていた。

眠ったら、またあそこに戻っている気がした。今が、夢で本当はあちらが現実なのではないかとすら疑いも現れて来ていたが、そんな話を誰かにエウフェシアがすることはなかった。


(思い出したくもない出来事ばかりだった。思い出さないままでよかった。何があったかを聞いて、どうするつもりなのよ。もう、終わったことなのに)


エウフェシアは、イライラして仕方がなかった。あの世界の人たちがおかしくなっていたのは、そういう試練だったからで、本来のみんなは違うのだと思おうと必死になっているのすら、誰も気づいていなかった。

もう、あんなことにあうことはない。もうすぐ、マカリオス国に行くのだ。そこに行けば、悪夢は終わる。それまでの辛抱だとエウフェシアは必死に思おうとしているのに。それを忘れさせるのではなくて、思い出させようとする人たちとのお茶会にエウフェシアの心は、歪むだけでは済まされず、ひび割れるような音がしていることに誰も気づいてはいなかった。

これでは、エウフェシアは試練の世界にいるのと何ら変わらない気すらし始めていた。


(違うのは、ここではループしないことくらいよね。……しないわよね?)


ここでも、同じことが起こったら、今度こそエウフェシアは耐えられはしないだろう。その自信だけはあった。もう、次なんてないはずなのに不安で仕方がなかった。


(……よく耐えられたわ。自分のことなのに変な感じ)


そんな風に他人事のようにエウフェシアは思いながら、また同じことになるわけがないのに不安が消えることはなかった。


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