完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら

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エウフェシアは、何もかも忘れてしまっている中で、王太子であるクリストフォロスの婚約者が自分だと聞いて驚いていた。


「婚約者……? 私が?」


メイドの肯定する言葉にエウフェシアは、心底驚いてしまった。まるで、実感がわかなかった。


(私が、王太子の婚約者? 全く覚えていないわ)


妙な気分だった。みんなが、自分のことをよく知っているかのようにしてくれているが、エウフェシアには懐かしさを感じなかったのだ。

それも、そのはずだ。マカリオス国は、エウフェシアの生まれ育った国ではないのだ。メイドも、エウフェシアが婚約者候補に選ばれてからつけられたに過ぎない。

だが、そんなこと知らないエウフェシアは、違和感だらけな感覚に戸惑うことばかりだった。見るもの全てに見覚えがないのだ。

王太子は、何も覚えていないとわかってからエウフェシアのところに来ることはなかった。そんなことが日常と化して、エウフェシアはこう思うようになった。自分が婚約者でいるより他の方と婚約した方がいいのではないかと。


(それに私は、マカリオス国の出身ではないから、寿命が違いすぎる。結婚するまで、私はこの国の住人より早く歳を取る。だからといって、覚悟もないのに結婚する度胸もない。今の私じゃ、殿下を支えるなんて無理だわ)


記憶がなくとも、勉強は元々知っているかのようにすぐに使えるようになったが、王太子や花鶏のことを思い出すことはできなかった。

エウフェシアの記憶が戻ることがないまま、王太子がエウフェシアのところに姿を現してくれることもない日が続いて、その間にクリストフォロスの両親である国王と王妃と会う機会があった。

特に王妃は、エウフェシアのところに時間を作っては会いに来てくれていた。彼女は、エウフェシアと同じように他所の国から、マカリオス国の住人となった人だけあってエウフェシアの気持ちをよく理解してくれる人だった。


「クリストフォロスとは、どう?」
「どう、とは?」


エウフェシアは、王妃の問いになぜそんなことを聞くのかと思った。エウフェシアのところになんて来ていないのだ。それは、知っているものだと思っていた。


「ずっと、出かけずにいるようだから、どこかに連れて行ってもらうといいわ。マカリオス国には、素晴らしいところがたくさんあるのよ。結婚すると何かと忙しくなるから、婚約しているうちに2人でたくさん出かけるといいわ」
「あの、殿下とは目覚めた時にお会いしただけで、その後は一度も会っていません。そもそも、お忙しい方のようなので、出かけるのは無理かと」
「……待ってちょうだい。一度も、会いに行っていないの?」


王妃は、信じられない顔をしていた。エウフェシアは、なぜそんな顔をするのかがわからなかった。そんなエウフェシアに王妃は、色々と聞いて来たことに嘘をつくことなく答えた。


「なんてことなの。あの子ったら、婚約者をほっといて何をしているんだか」
「……」


呆れた顔をしていたところを見ると本当に知らなかったようだ。

そんな王妃にエウフェシアは、婚約を帳消しにすることができないかと尋ねていた。


「エウフェシアは、婚約を解消したいの?」
「できるなら、その方がいいと思うんです。何も思い出せない私より、相応しい方がいるはずです」
「……」


エウフェシアは、それにと付け足すように言葉にしたのは、気が遠くなる寿命を生きることに自信がないことだった。


「おかしいのですが、私はもう十分生きた気がしてならないんです」
「っ、」
「叶うなら、ゆっくり休みたい。……おかしいですよね」


エウフェシアは、記憶が戻らないながらも、そんなことに行き着いてしまっていて、王妃はそれを聞いて悲痛な顔をしていたことに気づかなかった。


(こんなこと思うのは、変なはずなのに)


それをクリストフォロスが聞いているとも知らず、エウフェシアと王太子との婚約が解消されることになったのは、それから間もないことだった。

それに納得できない者は多かったが、エウフェシアの後遺症が酷く、マカリオス国の住人となって生きるのに相応しくないという理由で、エウフェシアは自国ではなくて別の国に移り住むことになった。

婚約が解消される時にクリストフォロスに会ったが、彼とは目も合うことはなかったので、エウフェシアはその程度だったのだと思っていた。


(私から王妃様にお話してよかったわ。じゃないとずるずると長引くだけで、お互いのためにはならなかったもの)


エウフェシアは、そんな風に思っていた。

別の国に移り住んでからは、エウフェシアが何者かも知らない人と添い遂げることになり、幸せな家庭を築くことになった。

でも、その幸せはつかの間のものだった。エウフェシアは、2人目を産んだ直後に亡くなることになり、それを知ったクリストフォロスは悲嘆に暮れることになったのだ。


「エウフェシア」


自分の側に居ない方が幸せになれると思っていたが、そうならなかったことに後悔する日が、こんなに早く来るとは思わなかった。

その日からクリストフォロスは、エウフェシアと婚約解消した時よりも深い悲しみに明け暮れることになった。

だが、エウフェシア本人は我が子と対面できて、子供の成長を見れずに逝くことになっても、それはそれだと受け入れていた。クリストフォロスが思うほど、悔いる人生ではなかった。


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