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あれから、オーギュストは本当にシャルレーヌの側にいるようになった。どこかで、ずっと見ていたかのようにシャルレーヌの邪魔にならないようにしていた。
「また、いるのか」
「……」
キルペルクは、シャルレーヌの側にオーギュストがいるようになったのが嫌なようで、あからさまに不機嫌になって、イライラしてばかりいた。
それにシャルレーヌは無言でいた。シャルレーヌの側にいるのは、キルペルクも同じなのだ。シャルレーヌは、もう好きに動いていて、罰のように留学して来た令嬢の平手打ちやら嫌がらせをわざわざ受け入れることをしなくなっていた。
それを見ている周りは……。
「王太子って、シスコンなんだな」
「みたいだな」
「シャルレーヌ様たちがいい感じなのにあからさまに邪魔してるの見るとあぁはなりたくないと思うな」
「全くだ」
子息たちは、双子の片割れが見目麗しい美少女だとしても、オーギュストが側にいると嬉しそうにしているのを見れば明らかなのに。王太子は、オーギュストを睨みつけるのに忙しくしていて、シャルレーヌのことなど見てはいなかった。
留学生たちに叩かれ続けている妹を助けきれない兄としても残念でならなかった。それにも気づいていないのだ。
だから、王太子としても、兄としても残念すぎると思われても仕方がない。
「妹の恋路を邪魔しているのに全く気づいていないみたいね」
「なんか、幻滅してしまったわ」
「本当ね。どんなに素敵な見た目でも、あれはないわよね」
令嬢たちも王太子の残念さを目のあたりにして、そんなことを言い始めていた。
でも、王太子はそれよりもオーギュストが気に入らないとばかりにしていた。それにシャルレーヌは、どうしたものかと思い始めた。
「……」
段々とシャルレーヌは、そんなキルペルクのやることに表情が消え始めていた。兄としてだけでなく、王太子としても、シャルレーヌ中心になりすぎた思考をするばかりとなったことにあからさまにつまらなそうにするようになった。
元々、兄に期待をかけすぎて失望などとっくにしていたのだ。顔には出さなかっただけで、つまらないものには前からなっていた。
でも、その表情は母以外に正しく読まれたことはなかった。どんなに顔に出そうとも、全部を曝け出したことはなかった。
なのにキルペルクがいない時にオーギュストが……。
「つまらなそうですね」
「っ、」
「退屈なら、どこかにお連れしましょうか? ここしばらくは怪我もしておられませんから、気分転換に出かけられても具合を悪くすることはないかと思いますが」
「具合……?」
「顔を思い切り叩かれていたので、出先で具合を悪くさせてしまうかと思って控えておりました。ですが、今は息抜きが必要のようにお見受けしたので」
「……」
「この国の素晴らしい景色をご覧になられたら、気も紛れますよ。とても、素晴らしい国です。そこに人の裏表などありませんから」
それを聞いてシャルレーヌは、じっとオーギュストを見た。何気に気になっていたことを聞くことにした。
「オーギュストは、私の顔が好きなの?」
「いえ、あなたが、あなたらしくしていてくださるのが好きなだけです」
「私らしく……?」
「はい。それが、見たくてお側におります」
「……なら」
「?」
珍しくオーギュストは、シャルレーヌが何を言いたいのかがわからない顔をした。表情だけでなく、全てを見てシャルレーヌが何を思っているかを察しようとオーギュストはした。それは、初めて話しかけて来た時からだった。
シャルレーヌの心の内を見るには、それが一番のように自然にしていた。そして、どうしてもわからない時は聞くのだ。それをシャルレーヌは何気に気に入っていた。
値踏みする目でも、品定めするのでもなく、ただシャルレーヌの気持ちを知りたいだけなのだ。シャルレーヌの心の内を知り、動くための判断材料にしている。それだけなのだ。
「ずっといればいい」
「よろしいのですか?」
「うん。あなたにいてほしい」
「っ、!?」
それを聞いた途端、オーギュストは本当に嬉しそうな表情をした。蕩けるような目を向けられたのは、その時からだ。
シャルレーヌがオーギュストと婚約したのは、そんなことがあって間もない時だった。
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