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しおりを挟むダルト公爵夫人は、両親がダルト公爵家に来るのも駄目だとなって憤慨した。それこそ、男の子を産んだのだから、それなりのことは言ってもまかり通るとばかりにしたのだ。
だが、その話し方に問題があるとは彼女は気づきもしなかった。ダルト公爵も彼の両親も、その言葉を聞いて不愉快そうにしていたが、それにすら気づいてはいなかった。
もはや、ダルト公爵夫人の当たり前は偏りきった偏見に塗れていたが、その中で生きてきた彼女には、それがおかしいことがわからなかった。
「ダルト公爵家の夫人が、男しか跡を継げないと思っていたとはな」
「っ、そういうものなのでしょう?」
「お前は、あの親にそう刷り込まれただけだ」
夫にそう言われ、義両親を見て、初めて動揺し始めた。
「そんな、じゃあ、次女か、三女に継がせるつもりだと? そんな、なら、私は何のために男の子を必死に産んだのよ! 私が、どれだけ苦労したことか」
そのために娘たちを蔑ろにしてきた罪悪感なんて、そこにはなかった。全ては息子を産めば、嫁の務めは終わりだとばかりにしていた。
「お前の夫が、男を産めと言ったことがあったか?」
「それは……」
「私たちは男の子を産めと言ったことはないはずよ。それなのに子供たちをこんなに区別していたとは思わなかったわ」
義両親も、呆れきった目をしていた。
それでも母親は必要だと必死に縋っていたが、子供たちは誰も母親を必要とはしていなかった。
それでも、問題があるとしたら、せっかく王太子と婚約したばかりで、オリーヴの具合もよくなっていないのだ。タイミング的に離縁するにも、今はまずいとなり、あとにしようとなった。
ダルト公爵夫人とその両親は、あとにするだけで離縁する気が変わらないとは思っていなかったようだが、それが覆ることはなかった。
何だかんだと言っても、世間体もあるから離縁まではいかないと思っていたようだ。その辺もそっくりな親子だった。
母の愛情を独占していた弟は、オリーヴだけが姉のように思っていて、長女と次女には見向きもしなかった。
生まれた頃は、構い倒されていたが、それも犬猫を可愛がるように飽きたら、会いに行かなくなっていたようで、一方的な可愛がり方で玩具のように扱われたことを弟は察していたようだ。
それに比べて、オリーヴはただ困惑していた。どう扱ったらいいのかがよくわからなかったのだ。そこに玩具のように扱う気持ちはなかった。
ただ、姉だと認識されていることへの困惑しかなかった。
「ねぇね」
「……どうしたの?」
1つしか違わない弟は、姉のあとを必死に追いかけていた。オリーヴは、それにすっかり絆されていた。
最初は、弟と言われてもよくわからなかった。それが、ねぇね、ねぇねと呼ばれるうちに姉の自覚が芽生えたようだ。一緒にいようとしてついて来ようとするが、1つ違えばよたよたするのは無理もない。
見かねて手を貸すようになり、すっかり仲良くなるまで、そんなにかからなかった。
それに叔母と従姉にも、反応はなかった。叔母は、母が息子に嫌われていると知って嬉々としてやって来て、自分の方が好かれると思っていたようだ。その辺の自分は別格という考え方は母の家系の特徴のようになっていたが、嫌うどころか。まるでいないかのように存在を無視したのが、気に入らなかったようだ。それは、従姉も同じだった。
それまで、男の子が生まれたことで、何かあっては大変だからとダルト公爵夫人はあまり、妹と姪に息子を会わせたがらなかった。だが、そんなことを必死に頑張っていた彼女はダルト公爵の反感を買って別宅にいるため、女主人公のいない間に好き勝手にダルト公爵家に現れるようになっていた。
ついでのように姪が具合を悪くしている見舞いだと言えば、無下にもされないため、頻度は減るどころか。多くなるばかりだった。
「何この子、気持ち悪い」
「っ、!?」
オリーヴは、従姉の言葉に腹を立ててポカポカと叩いた。それは無意識なものだった。弟を侮辱したことが許せなかったのだ。
それにそんな威力はなかったが、ウザかったのか簡単に突き飛ばされてしまった。具合が悪い原因もわかっていないのもあり、それはあっさりと転んでしまった。
「ねぇね!」
「何をしているんだ!!」
「っ、その子が叩いて来たのよ」
「オリーヴ。なぜ、叩いた?」
「おとうとをきもちわるいって、いった」
ダルト公爵がやって来て、気持ち悪いと言う言葉に眉を顰めた。
叔母は慌てて……。
「子供のすることですから」
「子供? 確かにオリーヴは子供だが、そっちは子供だからと許される年齢ではないのでは? ダルト公爵家の子息を気持ち悪いなど、無礼がすぎると思うが?」
「それは……」
「オリーヴ。人を叩くのは、よくない。わかるな?」
「はい。おとうさま。ごめんなさい」
オリーヴは、泣きそうになりながらも謝った。
謝られた方は、当然のようにしているだけだった。
「叩いたことを謝ったというのにそちらからの謝罪はないのか? そもそも、娘も、娘なら母親が謝る気もないのは、あなたもそう思っているということだな? もう二度と我が家には来ないでくれ。今日のことは、ノリッジ伯爵にも知らせておく」
「ま、待ってください! 謝ります。ですから、夫には……」
だが、ダルト公爵がそれを聞くことはなかった。叔母は、長男を産んだままで世話などしていなかったのだ。あの両親に育てられたことで、娘たちはそれが当たり前になりすぎていた。
ノリッジ伯爵夫人が、ただ姉と違っていたのは、自分にそっくりな娘を可愛がっていたところだ。
ダルト公爵家に嫁いだ姉を妬ましく思っていて、娘と何食わぬ顔をしてやって来ていたが、そんなに頻繁にダルト公爵家にお邪魔していることをノリッジ伯爵である夫には全く話していなかった。
時折、姪が心配だからと見舞いに行っているとは話していたが、見舞いなんかする気はなかった。
このことがきっかけとなって叔母は、夫にも義両親にも、実父母にも色々と言われることになったようだが、オリーヴと弟はダルト公爵家に頻繁にやって来ていたのがなくなって喜んでいた。
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