幼なじみのお姉さんは、妹の浮気が許せないようですが、勘違いだとわかると私のせいになるのは、どうなのでしょう

珠宮さくら

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この状況にプリシャは流石にまずいと思った。誤解を先に解かなければと思って話そうとした。プリシャは一生懸命だった。


「それが……」
「ちょっと! どういう神経しているのよ!?」


だが、おっとりしているプリシャが誤解を解くのは難しかったようだ。頭の中で、あれこれと目まぐるしく考えても、言葉にしようとすると難しいところがあった。

すぐさま、シーラが声を荒げてしまい、プリシャがちょっと待ってとばかりに止めようとわたわたとしていることに誰も気づいてくれなかった。

ここにプリシャの婚約者がいたら、すぐに解決してくれただろうが、残念ながら頼もしい彼は、今はここにはいない。

そもそも、ここに彼がいたら、浮気しているなんて不愉快極まりない誤解を早々に解いていただろう。プリシャのようにどういうことかと聞き入れることなどないはずだ。

いや、婚約者でなくとも、目の前の2人ですら、シーラの勘違いをなんか変だなと聞いていたりしないはずだ。やはり、普通とはプリシャはどこかズレているようだ。

いきなり姉に怒鳴られた妹とその婚約者は、怪訝な顔をした。それは、そうだろう。2人は浮気などしてはいないのだ。神経も何も、やましいことなどしてはいない。堂々としているのは当たり前だ。

婚約している2人を浮気者と言う姉も、中々いないはずだ。

それにそんな風に大きな声で騒ぎ立てるから人が集まって来てしまっている。わざと目立つことをしている気がしてならないほど、騒がしくしていた。


「あ、あの」


これは、流石にまずいことになりそうだとプリシャも慌てたが、やはり止めきれなかった。そもそも、こうなって来るとプリシャでは止めるのが難しかった。周りの軽妙なテンポに全くついていけないのだ。


「いきなり、なんだ?」
「怒鳴りつけるなんて、何なの?」
「何なのですって!? 信じられない。どういう神経しているのよ!」


シーラは、本気で勘違いしているようだ。怒鳴り散らしたあとで、幼なじみの婚約者と浮気するなんて神経を疑うかのように言ったのだ。

それを聞いて、やっぱり勘違いしているだけだとプリシャは思ってしまったが、プリシャが止めようとする声なんて、誰にも聞こえていなかった。

シーラだけではない。浮気うんねん言われた方が、プリシャの声より、そちらに気を取られてしまっているからに他ならない。

プリシャには、人が話しているのに間に入るのが非常に難しいものがあった。


「は? プリシャ嬢の婚約者とカルニカが浮気なんてできるわけないだろ。あいつは、留学中じゃないか」
「そうよ。お姉様、変な言いがかりはやめてよ。いつも、おかしなことを言うんだもの。そんなんだから、幼なじみに会わせたくなかったのよ。他の令嬢にも、そうよ。今まで、どれだけ迷惑してきたことか」


カルニカは、幼なじみと一緒にいるのも嫌そうにしていた。

プリシャは、こういうことだったのかと思い始めたが、今はそれに納得している場合ではない。

これで、シーラがおかしいとわかってくれればよかったのだが、わかってくれることはなかった。迷惑しっぱなしだったのがわかるところだった。

ちょっとプリシャは、そちら方面にいくことを期待した。何か変だなと辺りをキョロキョロしてくれたら、よかったのだが、シーラの暴走は止まることなく続いた。彼女の母親やカルニカが会わせたがらないのが、よくわかる暴走っぷりだった。

プリシャは、そんな令嬢に初めて会った。勘違いに勘違いが重なっていくところを。それこそ、生きにくそうだとすら思ってしまった。プリシャが思うほどだ。余程のことだ。


「白々しい。今、目の前でどこからともなくやって来ておいて、浮気じゃないって言うの? 信じられない。どういう神経しているのよ!」


そこまで聞いて、カルニカが更に不愉快そうにした。無理はない。浮気なんて言葉を言われることは何もしていないのだ。

そもそも、この2人が婚約者でなくとも、たまたま一緒にここまで歩いて来ただけかもしれないのだ。それを一緒に話しながら密会でなく歩くだけでも浮気と言われるのなら、この学園では大騒ぎになっているところだ。

それこそ、誰も彼もが浮気だと騒がれている。楽しげに談笑して歩くことすら浮気に入ったら、


「お姉様、プリシャの婚約者は、留学中だと言ってるでしょ。彼は、ジテンドラ様は、私の婚約者よ」
「へ?」


シーラは、本気でジテンドラがプリシャの婚約者だと思っていたようだ。間抜けな声だけでなく、顔をしていた。侯爵令嬢としては、ちょっとまずい顔をしている。

先程までの会話でもわかりそうなものだが、浮気しているのは間違いないと思い込んでいたせいでわかってはくれなかったのだ。きっと、本気で浮気を心配してくれていたからだとプリシャは思っていたのだが、シーラはキッ!と睨みつけてきた。その眼力にプリシャは身体を震わせた。

睨まれたのは、カルニカではない。


「っ、プリシャ! そうなら、そうと言ってよ!」
「っ、」
「いらぬ恥をかいたじゃない!」
「え、あの、それは……」


そんなことを言われるとは思わなかったし、親の仇のように睨まれるとは思わなかった。何より、呼び捨てにされるとは思いもしなかった。そこまで、親しくはない。幼なじみに言われるならまだしも、幼なじみのお姉さんというだけだ。

理不尽に怒鳴りつけられながらも、プリシャとて止めようとしたのだが、間に合わなければ意味はないことかも知れないと思った。思わず謝罪しかけたプリシャだったが……。


「ちょっと、プリシャを怒鳴るのは筋違いよ。お姉様が、どうせいつもみたいに勘違いしたんでしょ」
「そ、そんなことないわ! プリシャが、勘違いさせるようなことしたから悪いのよ!」
「え、私、そんなことは……」


していない。プリシャのところに来た時には勘違いしていた。勘違いさせるようなことなど全くしていないのだが、そういうことにしたかったようだ。


「お姉様。呼び捨てにするのも、どうなの? プリシャは、私の幼なじみなのよ。どうせ、了承も得ずにそうしてるんでしょ?」
「っ、勘違いさせるようなのを呼び捨てにしたって、別にいいでしょ」
「はぁ? そんなわけないでしょ。どういう神経しているのよ」
「っ、煩い! 妹の癖に生意気なのよ!!」
「何それ。そっちこそ、姉だからって何してもいいわけじゃないのよ。私の幼なじみに迷惑かけないでよ」


シーラは、結局プリシャが悪いと喚き散らして、カルニカが謝れと言っても謝罪もなくいなくなってしまった。

そのやり取りを見聞きしていたプリシャは、ただ呆然としていた。こんな令嬢にプリシャは初めて会った。世の中は広いとは言え、できれば二度とお近づきになりたくないタイプの令嬢だ。

浮気していると言った妹にも、その婚約者にも謝罪しないのにもプリシャは驚いていた。クラナ侯爵家の令嬢であるシーラが、そんな態度を取るとは思わなかったのだ。

言い逃れもいいところだ。更にプリシャの婚約者まで浮気していると侮辱したのだが、それにも何もなかった。全て、プリシャが悪いからで済ませたかったようだが、済むはずがない。

きっと、妹には先程の言い争いで勝てないのがわかっているから、この中で勝てそうなプリシャを標的にしたかったのではなかろうか。


「信じられない。プリシャ、ごめんなさい。あの人、いつも変な勘違いをするのよ」
「え? いつも?」


どうやら、カルニカには日常茶飯事のことのようだ。幼なじみも苦労しているのだけは、プリシャにもよくわかった。

カルニカの横にいるジテンドラは、眉を顰めたままだった。そりゃ、そうだろう。婚約者と一緒にいるだけで、浮気相手と間違われて騒がれたのだ。頭にこないわけがない。

それすら、困ったお姉さんだなでは済まされない。シーラは、怒鳴り散らしすぎて責め立てすぎていた。


「私も、婚約者ではなくて、カルニカの浮気相手と思われているとは思わなかったな。カルニカたちに色々聞いていたが、あれはとんでもないな」
「姉が申し訳ありません。だから、極力会わないようにしたのに」


カルニカは、申し訳なさそうに謝罪していた。プリシャと同じく、婚約者にも会わせようとしなかったようだ。それで、婚約者を勘違いしたのかも知れない。

プリシャには、どこをどうしたら、そんな勘違いが生まれるのかが、全くわからなかったが。

ジテンドラとて、謝罪してほしいのは、シーラのため、プリシャと同じくカルニカのことは許した。彼女は、とばっちりを受けたに過ぎない。

だが、これで終わらなかったのだ。

終わってくれたら、厄介な姉がいて大変だとプリシャとジテンドラは思うだけだった。それが、シーラは大人しく終わるような令嬢ではなかったようだ。


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