私だけの王子様を待ち望んでいるのですが、問題だらけで困っています

珠宮さくら

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「あなた」
「旦那様」


ルシアが、屋根で昼寝をしているとわかり、それを見つけて降りておいでなんて言うのを聞いて、妻と使用人たちは避難めいた声と顔をしていた。

夫として、この家の主人として、女性陣にそんな目を向けられて苦笑しながら、こう言ったのだ。


「まぁ、あの子の木登りの技術は大人よりも上だ。迎えに行って、怪我人を増やすよりはいいと思うがな」
「そんなことを言ってる場合では……」


他の使用人も、悠長すぎると迎えに行ったが、その間にいつの間にやらルシアは降りてしまっていたようだ。

言い争う間にふと見上げるとルシアの姿が見えなくなっていたのだ。

それを見て、どこかに行ったとなったのは、割とすぐのことだった。


「ルシア様?」
「ん~?」


屋根の上に何とか登った使用人が、ルシアを呼ぶと呼ばれた方は間抜けな声で返事をした。

両親や使用人たちは、その声が地上の自分たちの側から聞こえたことにぎょっとして、声のした方を見た。それは自分たちの腰より下から聞こえていて、視線をそちらに向けると思いもかけない自分がそこにいて、驚かずにはいられなかった。

その声は、物凄く近い距離から聞こえたのだ。大人たちは、視線を自分たちの下の方に向けた。


「っ、ルシア!?」
「降りて来てたのか」
「ん! おりておいでっていわれた」
「確かにそう言ったな」
「あぁ、ルシア! もう、あんなところに登っては駄目よ」


母親は、心配したとばかりに娘を抱きしめた。


「? でも、あのひと、のぼってるよ??」


そう言ってルシアは、母親に抱きしめられながら、指差す先に震え上がって降りれなくなっている使用人がいた。


「す、すみません。降りられないです」
「「……」」


両親は何とも言えない顔をしていた。他の使用人たちも、同じような顔をしていた。

ルシアだけは、きょとんとしていて、怖がっている使用人にこんなことを言った。


「だいじょうぶ?」


ルシアは自分が原因だということに全く気づいておらず、困っているのだけはわかったようだ。

父親は、情けない声を出す使用人を他の使用人たちに迎えに行かせたが、ルシアのように登り降りが難なくできる者は一人もいないことに驚くばかりだった。

母親も、身体能力が桁外れなのだとわかったようだが、流石に屋根の上は駄目だとルシアに言い聞かせていたが、ルシアはお昼寝するのに丁度よくて、ぽかぽかしてるのにと残念がっていた。

そんなことをぼやくルシアに思ったことといえば……。


「お転婆姫は、前世は猫だったのかも知れないな」
「……私も、そんなふうに思えてなりませんわ。高いところが好きなのは心配だけど、降りれなくなるようなこともないようですものね」


それから、屋根に登ったはいいが降りれなくなった使用人たちを無事に降ろすのに活躍したのが、ルシアだった。

スルスルと屋根まで伸びた木を登ったり降りたりするのだが、どうにも簡単にこなしているように見えても、大人たちには難しいものがあったようだ。

そのため、気が緩んだ者が途中から落ちたり、ここからなら大丈夫だろうと降りただけで、足を挫いたりと負傷する者が出たのだ。

そんな使用人たちを心配しているルシアは、擦り傷だけだった。登り降りしたことで、だいぶ汚れているが、何往復かしたところで、ケロッとしていた。

そんな娘に父親は……。


「……ルシア」
「ん?」
「楽しかったか?」
「うん。たのしいよ。おとうさまも、やる?」
「いや、私はいいよ」


チラッと母親をルシアは見上げた。すぐさま、母も……。


「私も、いいわ。ルシア、木登りも、この辺りまでにしましょうね」
「……」


母親は木登りの高さを制限したかったが、ルシアは何とも言えない顔をするだけだった。

その後も、木登りをしてもルシアが擦り傷以外に大きな怪我をすることはなかった。

そんなルシアに慌てふためいて使用人が怪我をすることもなかったのは、あの木登りの何往復もする姿を見ていたからに他ならなかった。


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