私だけの王子様を待ち望んでいるのですが、問題だらけで困っています

珠宮さくら

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ルシアの部屋で、バレリアとアドルフィトは言い争うことになった。ルシアとしては、他所でも声が響いて何を話しているかがわかるほどなのに自分の逃げ場のない自室で、怒鳴り合うのを聞くのにため息をつきたくなっていた。


(せめて、場所を変えてから、言い争ってほしかったわ)


両親や兄は、どうにかしてルシアの部屋からバレリアを出そうとしてくれたが、バレリアにそんな気遣いなど理解できなかったのだ。

そもそも、それができていたら血だらけの妹が倒れているのを目撃して、婚約者と出かけて行ったりはできないだろう。

それこそ、バレリアは婚約者のバルトロメとデートしたかっただけだとしても、時と場合を考えるべきところだったのだ。

ルシアの側で、一番いい子とかけ離れた存在がバレリアとバルトロメだ。


(いい子の見本は、お兄様みたいな人のことなのかな? でも、そうだとしたら、神様が見ていて素敵な人と巡り会わせてくれるって、前世の祖母が言っていたのに。会えてないのは、いい子ではないからってことになるのよね? ……よくわからなくなってきたわ。やっぱり、あれは、いい子にさせるためだけの方便だったのかな。約束は絶対だとも教えてくれたけど、王子様に会えるって教えてくれていたから、約束のようなもので、それは絶対ってことは必ず叶うものと思っていたけど、違ったのかな)


ルシアは、アドリブで絵本を読み聞かせてくれていたにしろ。いい子にしていたらという言葉が頭から離れることは生まれ変わってからも、前世を思い出してからもなかったのだ。

孫を大人しくさせるための言葉にしても、実際に生まれ変わって、いい子にしていたことで幸せになれたのなら、祖母の言っていたことは正しいことになる。


(そうなれば、前世で早死にすることになったけど、今の私が報われることになる。それに生まれ変わる前の家族も、きっと、報われるはず)


ルシアは、そんなふうに思うようになっていた。

もっとも、前世の話やらを周りにはしていないため、そんなことを思っていることも誰にも話せずにいたが。

何はともあれ、バレリアと同じ言語で話しているはずなのに伝わらなさすぎる。理解しあえるのは、同類しか駄目なのかも知れない。


「は? 何で、そんな酷いことするのよ!」
「酷いのは、どっちだ。いいから、ルシアの部屋には二度と近づくな!」
「っ、」


父親の怒鳴る声にルシアは身体を震わせていた。それを見て、母親が眉を顰めた。


「あなた。ルシアが怯えるわ」
「ルシア。すまない。お前に怒鳴ったわけではないんだ」


そう言いながらも、父はバレリアを睨んでいた。母も同じく、ルシアのところで平然としているバレリアを信じられないとばかりにしていた。 

だが、そんな両親に何と言われようとも、何を言われようとも、バレリアは自分に土産がないことに腹を立てて怒鳴り散らして、その後も大変だった。

そもそも、なぜ貰えるものと思っていたのかがわからないが、土産をなしにするなんて酷いと言いたいようだ。そんなことをされるようなことをしていないと平然と言えるのだから、恐ろしくすら見える。

同じ両親から生まれたにしては、似てなさすぎるとすら思えていた。


(一体、誰に似たんだろ?)


ルシアは、そんなことを思っていた。


「酷くなってるな」


ぽつりとぼやく兄の言葉をルシアはばっちり聞いていた。


(やっぱりそうなんだ。婚約者ができて、変わった感じというより、同じような人と婚約したから、素が出てきてる感じってこと……? あれが、素だとしたら、ある意味で凄いわね。それで、周りの方が、おかしく見えるんだもの。あぁはなりたくないかな)


ルシアは、そんなことを思って実の姉の酷さに何とも言えない顔をしていた。


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