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しおりを挟むヴァリャは、読書三昧をして過ごしていた。医者に学園に通ったら、もっと無茶をしそうだからと読書量も制限され、ならばとチャクラバルディ侯爵家の雑用でもやろうかと思ったが……。
「お嬢様にそんなことさせられません!」
「私たちが、旦那様に叱られます!」
「これは、私たちの仕事ですから」
「……」
使用人たちにそう言われていた。そう、この頃にはヴァリャは侯爵令嬢になっていた。
今更、チャンダ男爵家には何の未練もなかったため、シダルタたちに養子にしたいと言われて、拒むことはなかった。
ただ、すんなり父が許すのかと思っていたため、喜んでいるというより、複雑な顔をしていたと思う。だが、ヴァリャの心配など何のそので、養子になっていいと言われたらしい。
それどころか。迷惑な存在が、男爵家からいなくなってよかったとそんなことを言われたようで、養父となったシダルタが憤慨してチャンダ男爵家から戻って来て、養子のことが駄目だったのかと思ったが、そうではなかったことにヴァリャは、ホッとした。
それも、ディルフィニアが婚約したらしく、それに浮かれていたようだ。それを聞いて思わず、ヴァリャは聞き返してしまった。
「あの子が? 一体、どなたと?」
「何でもパタルカール伯爵子息と婚約したとか。そのおかげで、更に好き勝手に散財しているようだ」
「……」
学園にも通っていないし、パーティーにも、お茶会にも出たことがないのに一体、どこで見初められたのか。
ヴァリャだけでなく、ラヴィシャもその話を聞いて首を傾げていた。
「ヴァリャ。知っている?」
「……そういえば、図書館でよく会った方が伯爵子息だったような気がします」
「あら、本が好きな方なの?」
「いえ、借りているのも、読んでいるのも見たことありません」
ヴァリャは、覚えているまま、さらっとそう言った。
「……というと?」
「私が、本を読んでいてもお構いなしに図書館で、話しかけて来ていました。そのうち、他の生徒の邪魔になるからと追い出されて以来、見かけなくなりました」
「「……」」
ヴァリャの言葉に養父母は、何とも言えない顔をしていた。わからなくはない。図書館で本を読んでいるのに普通は、話しかけてこない。
それに空いている席は他にたくさんあるのにわざわざヴァリャの隣に座る必要もないはずだ。それに本の話でもなく、なぜヴァリャに話しかけて来ていたのやら。
ふと、その子息にしつこく名前を聞かれて、自分の名前ではなくて、ディルフィニアの名前を口にしたような……?
そこまで、思い出して、まずいことをした気がし始めていた。
「……」
「どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
ヴァリャは養子になったことで、もう会うこともないと思って、それ以上のことを考えないようにした。すんなりあの家から離れられたのだから、感謝はしたが、名前は思い出せなかった。いや、思い出せないというより、自己紹介されていないことに気づいた。
だが、すぐに名前なんて知りたくないから、別にいいかと思った。
養子になったことを喜んでくれたのは、カシシャだ。そして、ここに留学しに来た護衛たちとフィロマの友達だった。特にカシシャは自分のことのように大喜びして、ディルフィニアがパタルカール伯爵の子息と婚約したのも知っていた。
シダルタよりも、彼女の方が留学しているのに詳しく知っていた。
「あの子息も、パタルカール伯爵夫妻も、勘違いしているのよ」
「というと?」
「子息は、ディルフィニアをあなただと思っているの。パタルカール伯爵夫妻は、あの病に効く薬を見つけた令嬢が、ディルフィニアだと思っている。それだけのことよ」
さらっと教えてくれたことの前半は、ヴァリャには身に覚えがある。だが、後半がわからなかった。
「薬……?」
「えぇ、しつこくお母様にどの家の娘が、あの病に効く薬を見つけたのかを聞いて来て、あまりのしつこさにチャンダ男爵家の令嬢だと言ってしまったの。そしたら、伯爵がそれとなく、チャンダ男爵に聞いたみたいで、自慢に思っている娘のことをペラペラと話したのよ。そこからディルフィニアが探している令嬢だと思って、息子も婚約したがっているからと婚約させたみたいよ」
「……」
とんでもない勘違いが起こっていたようだ。その上、利用できると思っているらしく、ディルフィニアたちが散財するお金を出してくれているようだ。
そのため、ヴァリャの養子の話を聞いても、厄介な娘でしかない娘を追い出せるチャンスと思って、渋ることもなく金づると思われることもなく、捨てられることになったようだ。
そんなことになっているところに帰らずに済むことに心底、ホッとしてしまった。
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