8 / 30
8
しおりを挟む「本当に美人だよな」
「見ているだけでも目の保養になるよな」
そんな風に婚約者がいる子息ですら、ユーフェミアのことを見つめていることが増えた。その美貌は化粧でそうなっているわけではない。内面から輝く美しさに心奪われ始めている者が増え始めていただけに過ぎないのだが、しみじみと言うが、ユーフェミアの婚約者になろうとする者は未だにいなかった。
遠くから眺めているだけでも十分な高嶺の花となっていた。見ているだけならいいが、ポカーンと口を開けて眺めていたり、つい言葉にしてしまう者がいるせいで、婚約している令嬢たちは気に入らないとばかりにユーフェミアが誘惑したと言って騒ぐのも、いつものことになっていた。
誰とも親しく話すことをしていないというのに酷い言われ方をしながら、ユーフェミアは勝手に馬鹿にされ、悪く言われることを聞かない日はない中で、気の休まらない日々を過ごしていた。
その頃には、みんなの思い出の中のエレインは、すっかり崇拝対象となっているように思えた。
ユーフェミアは、そんなおかしな環境の中で過ごしていた。
(こんなのにいちいち付き合っていたら、こっちが変になりそうだわ。みんな誰も気づいていないのね。どうして、これが普通になってしまったんだろうか。エレインが、そうしてくれと言ったわけでも、そこまでのことをユーフェミアがしていたにしては根に持ちすぎだわ)
深く考えれば気が滅入ってしまうかと思いきやそんなことはなかった。しばらく経ってしまうとおかしくて仕方がなくなっていた。
おかしいと思う理由というか。正気でいられる理由は単純明快だ。
自分が自分と戦っているだけなのだ。どういうことかというとユーフェミアは、しばらく前までエレインと呼ばれていた。
つまり、双子の片割れと揉み合った末にお互い階段から落ちたことで、入れ替わっているだけとなっているのだが、周りはそれを知らないため、本物のエレインが本気になってここにいるだけなのに養子にいった方は、もっと凄いのだと勝手に言っている似すぎないのだ。
おかしく思うのは無理はないはずだ。誰も彼もが、どちらがどちらなのかをわからずにいるのだ。
それは、赤の他人だけではない。両親も、同じだった。一番よくわかっているはずの母が、ユーフェミアとエレインの区別がついていなかったのだ。
(所詮は、ユーフェミアではなくて、次女としてしか見ていなかったってことになるのよね)
更に叔母も、エレインだと思ってあちらを養子にするのに連れて行ったが、ユーフェミアだとは思っていないようだ。わかっていたら、養子にはしていないはずだ。いや、養子にしてからわかっても、恥ずかしくて言えないだけなのかもしれないが。今のところ戻って来る気配はまるでない。
あちらも、同じように頑張っていたら、そっくりな見た目をして生まれたのだから、今のユーフェミアと並んでも引けはないかもしれない。でも、今のユーフェミアを超えさせる気はない。
そうなれば、面白いことになるはずだが、戻って来る気配も、知らせも今のところ何もないから並び立つなんて日が来るかはわからないが、今散々なことを言っている人たちが何と言うのかが気になるところだった。
そのためにお膳立てなんてする気はないが。拒むつもりもない。
隣国のグウィネス国で、この国の才女となったユーフェミアよりも優れた者がいるとは聞いたことはないが、そんなことどうでも良いかのようにユーフェミアだけに嫌味なことを言っていた。
本物のユーフェミアは、よく暴食していた。もしかするとあちらでストレスを感じて、暴食しているかもしれない。
それだけでも、本物ではないとわかるはずだが、それで騒がれることにはなっていないのは、叔母たちが認めていないからかもしれない。
いや、あちらではこちらでストレスを感じたら何をやるかを知らないから、記憶をなくしたことで思い通りにいかずに癇癪を起こす令嬢だと思われて終わりかもしれない。
(あの子が静かなのって、珍しいわよね。記憶が戻っていないから、叔母たちに言われるままにしているのかしらね。……それが幸せなら、いいけれど。私みたいに同じようになっていたら、代わっても代わらなくても一緒になるから、元に戻っても幸せになれるかは微妙なところよね。でも、この国に残るよりは、マシなはずだけど)
ユーフェミアは、そんな感じに思わずにはいられなかった。新しい場所でも同じになるのなら、どこにも夢も希望も持てなくなる。
周りに振り回されたせいで、今があるのだとしたら、片割れも被害者でしかない。母に溺愛されたことで、こうなったにしては説明がつかないことが起こっていた。
こんなことになってみてようやく、色々とわかってきたが、ユーフェミアではないのだと暴露する気はなかった。しても誰も信じてはくれないだろう。
だって、それが本当なら、自分たちの見る目のなさを露見することになり、認めることになってしまうのだ。
そんなことに行き着いたユーフェミアは、誰にも気付かれずにため息をつくことも増えた。
それから、ユーフェミアが悪いとばかりにもっと酷い目にあって、母にまで前のような目で見られ扱われることになったら、それこそ地獄でしかない。
誰も味方してくれない世界ほど恐ろしいものはないとユーフェミアは思っていた。
そんな中でユーフェミアは、ただ1人信じてくれる人がいればいいと思っていた。それが欲しくて、入れ替わったのだ。
それがなくなれば、もう頑張る意味すら見失うほどだった。今のユーフェミアが頑張っている理由は、自分のためではない。母のためだ。母の自慢の娘になりたくて、頑張っているにすぎない。
それを喜んでくれる母がいる限りやめる気はなかった。
34
あなたにおすすめの小説
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢呼ばわりされる彼女には、溺愛してくれる従兄がいた。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
ざまぁは添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった
みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。
この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。
けれど、運命になんて屈しない。
“選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。
……そう決めたのに。
彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」
涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる