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しおりを挟むエウリュディケを連れて戻ったバシレイオスに彼の養父母となった叔父夫妻は、あまり驚いてはいなかった。それだけ、バシレイオスは幼なじみの話を家でしていたようだ。
ただ、やつれたエウリュディケを見て、目を見開いてつらそうにはしていたが、そんなところがバシレイオスに似ていた。
(不思議ね。あの人たちより、並んでいると親子みたいに見えるわ)
エウリュディケは、そんなことを思った。それこそ、初めて会うはずなのにずっと以前から知っているかのような気分だった。血の繋がりの濃い人たちが並んでいても、親子には見えなかった。こちらの養父母の方が実の両親のようにエウリュディケには見えて仕方がなかった。
「養父様、養母様、ただいま戻りました。紹介します。幼なじみのエウリュディケです」
「お帰り。エウリュディケ嬢も、よく来た」
「初めまして、突然おしかけてしまい、申し訳ありません」
「構わないよ。バシレイオスから、色々と聞いている。疲れただろう。まずは、ゆっくり休んでくれ」
エウリュディケは、バシレイオスを見た。フルネームを名乗らないことを察してくれているようだが、エウリュディケの身体を心配してくれたようだ。
だが、ゆっくりなんてしてはいられない。バシレイオスはエウリュディケの言いたいことを察してくれて、すぐに頷いてくれた。その場で養父に頼んでくれた。幼なじみだけはある。エウリュディケがやつれていても、馬車の中でしっかり休めたことで回復したのを理解したのだ。
「養父様。ゆっくりする前にエウリュディケの話を聞いてもらえませんか? 彼女、婚約破棄されて、勘当された挙げ句、国外追放にされてしまったんです」
「……とんでもないことになったようだな。まぁ、ここに来ているのだから、それなりのことは起こっていると思ってはいたが……。わかった。話を聞こう」
こうして、バシレイオスには掻い摘んで話した部分も詳しく話すことになったエウリュディケは、殺気立つ幼なじみを宥めながら話すことになった。
それでも、同じような日を繰り返し続けていたことをエウリュディケは話すことはなかった。かなり長いこと続いていたことを本人が覚えていないこともあり、エウリュディケ自身もそこまで身にしみておかしくなっている自覚があまりなかったことも大きかった。
「聖女の召喚に成功したなら、一大時ニュースだが、こちらには届いていないな」
「……そうですか」
(あれは、成功したというよりは、勝手に来たって方があってると思うのよね)
チラッと見るとバシレイオスが、知らぬ存ぜぬ顔をしていた。どうやら、彼はそういう顔もできるようになったようだ。王女の時のことで、身にしみる何かがあったのかも知れない。
(その素知らぬ顔をもっと早く身につけられていたら、王子も変なフォローをしなくて済んだでしょうに。バシレイオスだって、王子といい仲だと勘違いされることもなかったはずなのに)
トリニアの王子とバシレイオスが、溺愛中なんて話題で盛り上がっていたのが、エウリュディケは懐かしく思えてしまった。
こんな時に思い出すようなことではないが、それで盛り上がっていた王女や令嬢たちは、まだ可愛げがあった気がしてならない。
それが、ラトニケのことを褒めちぎるばかりの話題でもちきりになったのだ。あれを聞いているより、他の噂話を聞いている方がマシだった。
それから開放されたと思うと嬉しくて仕方がなかったが、エウリュディケはこれが夢で明日には、またテネリアであの同じような日々を送ることになるのではないかと気が気ではなかった。
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