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しおりを挟む楽しすぎる家族旅行を終えることになって、ユズカは寂しいなと思っていた。
(また、来年も来れたらいいな。ううん。来年は無理でも、数年後には必ずきたいな)
それが叶わなくとも、数年おきでもいいから、また来たいと思いながら、疲れが出たのか来る時と一緒で車に乗り込むと強烈な睡魔に襲われて、ユズカはすぐに眠ってしまっていた。
どのくらい経った頃だったろうか。ふと目を覚ますと車の窓から見える景色は、見慣れた何の変哲もない景色がそこには広がっていた。その風景から、日本だなとわかるものに変わっていた。
(あぁ、戻って来たんだ。……なんか、この景色が物凄く味気なく見えるな。それに目が痛い。車の中なのに眩しく感じる。連日、眼鏡かけなくて良かったのが不思議だわ。……なんか、もう既に戻りたくなってる。あちらに帰る家があればいいのに)
そんなことを思って旅行中に外していた伊達メガネをいそいそとつけて、げんなりしていると見える景色に違和感を覚えた。
(何でだろ。曇りなのに眼鏡をかけても眩しく感じる。……変な感じ。長く眠っていた気がしたけど、お日様がまだ昇りきってないところを見るとお昼前みたいね)
そんなに時間は経っていないようで、ユズカは深い眠りに落ちていたようだ。よく寝たはずなのに全然すっきりしていない感覚もしていて、ユズカはそれにげんなりしていた。旅行中、とても良く眠れていた反動のようだ。
もう既にさっきまでいたところに戻りたくなっていた。
そんなユズカを見ていたのか。物凄く疲れているように見えたのかも知らない。両親が、どこかで休憩しようかと話しているのを耳にした。
父がバックミラー越しにユズカを見て、ニコッと笑ったのが見えた。それを見てユズカもつられるように笑おうとしていたが、できなかった。
(あの車、変。ふらふらしてる)
そんな時だった。対向車線からはみ出して来たトラックが、父の運転していた車に正面衝突して来たのをユズカからも見えたのだ。
「ユズカ!」
「っ!?」
後部座席で、隣に座っていた母にも見えていて、ユズカはぎゅっと抱きしめられた。
(ママ、パパ)
あの時、抱きしめられた母の温もりを未だに覚えている。あの瞬間、みんなで天国に逝くのだと思った。
瞬時にそう思ったのは、少し前に祖父母のお墓参りをしていたことも大きかったのだと思う。亡くなると天国に逝くと聞いていたユズカは、自分もそこに逝けるのだとすぐに思った。家族みんなで、逝くのなら何も怖いことなどないとすら思った。
あんな大きなトラックと正面衝突したのだ。生き残れると思っていなかったのもあった。
でも、天国に逝ってしまったのは、両親だけだった。ユズカだけが信じられないことに無傷で、奇跡的に助かったのだ。
助かったことを喜ぶべきところなのだろうが、10歳のユズカは突然、一人ぼっちになってしまったことで、途方に暮れてしまったのは、目覚めたところでだった。
(怪我もせずに助かったのに。ちっとも喜べないな。ここにいることが望みだったのに変な感じ)
救急車で搬送されたのは、旅行で滞在していたところだったのだ。
ユズカの記憶は事故にあったばかりの頃は、あの車の中で時間が止まったままとなってしまっていて、おかしな感覚に気が変になりそうだった。
目が覚めた時、病院にいることがそもそも不思議で仕方がなかった。大きな怪我や事故にあったことは、それまで一度もなかった。
それでも熱を出して夜間診療で診てもらったりしたことはあった。そんな時に病院に行ったことがあったが、その時の記憶は熱を出していて朦朧としていてあまり覚えてはいない。でも、知り合いの人のお見舞いに行ったことがあった。その時は、病院の中のパン屋にハマって母としばらく通ったこともあって、病院の中をよく出入りしていたが、今回の事故で無傷だったとはいえ、検査入院していた時の感覚は、その時のどれとも違っていた。
どう違うのかと説明しろと言われると間違い探しのようにたくさんあるのだが、それもこの病院の個性というものにも思えなくもない。
そもそも、両親を亡くしたばかりなのに突っ込んで来たトラックから目が離せなくなっていた影響も大きかったのは間違いない。
そのせいで、ユズカの感覚がおかしくなっていたのかも知れない。前と一緒だと思っていることも、何だか違う気がするのだから精神的に両親の死にショックを受けていたのは間違いない。
間違い探しのように奇妙なものは、目を開いている間はずっとあったが、自分の頭がおかしくなったとも、周りがおかしくなっているとも思うことはなかった。それで、ユズカが益々追い詰められることはなかった。
誰かを責め立てて現実を受け入れられないと抵抗することもなかった。
(薄情って言うのかな? 戻らなくてもいいのなら、このままでいたいな。向こうに戻っても、親戚もいないし……。でも、こっちに残っても、親戚がいるわけでもないんだよね。小学生の私が、一人でどうにかできることじゃないんだろうけど)
無傷とはいえ、精神的に辛い状態なこともあり、しばらく病院で過ごしていた。その間、ユズカはそこに居続けることができないかと願っていた。
両親と過ごした家に戻りたいと思わなかったのだ。それこそ、今まで1年と居続けずに父の転勤で、引っ越してきたこともあり、あそこに思い入れがもてなかったのだ。
住んでいるところに思い入れしていると引っ越した時に辛くなるだけだ。だから、友達と呼べる子もあまりいなかった。
それこそ、来年も一緒にいられると思っていなかったこともあるが、だからといって蔑ろにすることもなかった。
それでも、相手の記憶に残っではいない程度の付き合いしか、これまでのユズカはしていなかったが、髪や瞳のことで色眼鏡で見る大人たちが多くて、そんな大人が親な子供たちはユズカにろくなことを言わないし、しないのだ。
それを見聞きするうちに元々アウェイなユズカと違い、元々仲良くしている子供たち同士の方が、そう言っているからとそれが正しいかのようになってしまって、それを訂正したり、言い返すのも中々大変だった。
(それこそ、毎回同じことしてても、数ヶ月したら、引っ越すんだと思うとそんなことで頑張るのも面倒に思えちゃってたんだよね。それに比べたら、ここはそんなことで頑張る必要なんてない。そんなこと誰も気にしてないくらい、ハロウィンを満喫している。まだ、ハロウィンの季節でもないのに。毎日が、ハロウィンみたいで凄く楽しいし)
言われ放題になっていて、それを言い返さないまま、何のリアクションもしなければしないで、あちらは面白くないらしく、そのうち飽きてしまうようだ。
飽きないまでが大変でも、ユズカはその辺が図太くなっていて、一人でいても平気だった。
まぁ、時折、とてもいい子に巡り会えたりするが、そんな子が毎回いることはなかった。
それこそ、旅行前までの学校の思い出なんて、ユズカにとってろくでもないものばかりだった。
その辺は家族が生きている時のことでも、ユズカはちっとも楽しい思い出とは程遠いものでしかなかった。
運動会や文化祭も、そうだ。みんなと同じように参加するのも、出展するのも難しいこともあった。前の学校で描いたり、作ったりしたものを文化祭に展示してもユズカの作品だけが浮いていた。運動会では団体のダンスや演技なんて、当日までに全部を覚えきれなくて、見ていたことも何度かあった。
そんな中途半端な時期にユズカは、転校してばかりいた。つまり、学期ごとではないため、試験の範囲も覚えきれなくて、補習を受けなきゃいけないこともよくあった。
特にこの時のユズカは、嫌なものが待ち構えていることもあって戻りたくないのもあった。
(戻ったら、運動会の練習があるんだよね。練習しても、引っ越す予定だったから、覚える気が全くなかったけど。この分だと戻ったら、参加しなきゃならなくなりそうだよね。いや、施設とかに入るなら、やっぱり運動会には出れなくなるのかな?)
ユズカは、そんなことを思って悶々としていた。
一番の気がかりは、両親の葬儀をどうするのかが気がかりで、その次が自分の身の振り方だった。
(パパとママをちゃんとお見送りしなきゃ。私のことは、二の次よ。私ができることをきちんとやってから、考えればいい)
そう思いながら、ユズカは涙が溢れ始めていた。いっぺんに色々あり過ぎて、今更になってユズカはベッドの上で毎晩、布団を被って泣いていた。
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