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しおりを挟むそんな風に周りで色々と起こっていることも何も知らないまま、ユズカは早いもので大学生となった。ユズカの体感では、あっという間のことだった。
大学生となって、ユズカが一人暮らしを始めた頃には、おばあちゃんは人生を満喫するのだと言って旅行に行ってしまい、世界を飛び回ることを楽しんでいた。
それは、ユズカが世話になる前にしていたことだったようだ。ユズカを1人にできないと店を構えていたようだが、元来は旅好きで1箇所に根を生やすタイプではなかったようだ。
(おばあちゃんって、本当にびっくりするくらい元気だな。年齢を聞かずにいるけど、一体幾つなんだ?? 祖父母と知り合いってだけでも、それなりの歳だよね……?)
そんなことを思っていたユズカは、旅行に行くと張りきるおばあちゃんをにこにこしながら見送ったのを昨日のことのように鮮明に覚えている。
あんなに目を輝かせたおばあちゃんは初めて見たし、何なら若返ったようにすら見えて、それが嬉しいような、寂しいような複雑なものがユズカになかったわけではなかったが、止めるなんてできなかった。
ユズカはというと大学生活は順調だった。そう、そのはずだった。どこにも、ヘマなんて呼べることをしてはいないというのに卒業が近づいているのに内定が、なぜか一つももらえずに頭を抱えることになってしまったのだ。
仲の良い友達が、小中高とできなかったことに悩んだこともなかったわけではないが、親しい友達がいなくとも、おばあちゃんとそのお客さんと話すことが多かったこともあり、友達がいなくとも別段困ったことがなかったのとはわけが違う状況にユズカは、すっかり困り果てていた。
(な、何でなのかな。どんなに思い返しても、やらかしたことなんてないのに。遊び呆けて単位を落としたこともないし、一夜漬けで試験に挑んだこともない。真面目にコツコツと頑張って来たのにどうして……? こんな切羽詰まったことになってるんだろう。私の何がいけなかったって言うの?)
周りは続々と内定をもらえている中で、ユズカは手応えが全くないまま、今月も終えようとしていたことに珍しく焦り始めて気が変になりそうになっていた。
今日はバイトもない。バイトをしていれば、それはそれで気分転換にはなっているが、ないものは仕方がない。他の気分転換が必要になり、いつもの喫茶店にユズカはいた。テラスでお茶をしながら、挑むような目でスケジュール帳の一点を見つめていた。
「もう、ここしかなくなっちゃったな」
手帳に書き込んだのを見つめて、ため息をついた。10月に一つだけ、最後の面接が残っている。これが駄目だった時は、今、やっているバイト先で正社員として雇ってもいいと店長からは有り難いことを言ってもらっていたりするのだけど。
ユズカは、そこに受かる自信が持てずにいた。それまでは、それなりに自信があった。全部落ちたが、自信はあった。でも、最後となるところだけが、自信が最初からないところだった。
それなのに妙なことになっていることに首を傾げずにはいられなかった。最後なのだから、喜んでいい状況なのだが、素直に喜べなくなっていた。
「私より優秀な人たちが落ちて、何で私だけが面接まで進めたんだろう……? 誰かと間違えたとかってないよね? それだと切なすぎる」
そこだけが、謎だ。今までで一番望みの薄いと思っていたところが、奇跡的に面接を受けられることにまでなったのだ。
あまりにも落ち過ぎてしまったせいで、ユズカはネガティブな感情がちらほらとしてしまっていて、そんな自分に気が滅入り始めてもいた。こんなの自分らしくない。情けなさすぎる。
「なぁに黄昏てんのよ」
「シレネ」
ぼんやりとしていたら、声をかけられた。彼女はシレネ・ユニフローラ。大学生となって、ユズカに初めてできた友達が彼女だった。大学生になって初めての友達ではない。これまで生きてきた中で、初めての友達が彼女だった。
それまでのユズカの人生で、出会ったことのないほど、彼女はびっくりするくらい人懐っこいところがあった。
何かと一人でいたユズカを見かねたのもあるのかも知れない。小中高でずっと一人を満喫していたこともあり、大学でも同じことになるだろうと思っていたら、すぐにできた友達にユズカはどれほど喜んだかわからない。
シレネは、友達が一人もできたことがないと聞いて、勿体ないと言ってくれたのだ。それもまたユズカの堪らなく嬉しい言葉だった。
そして、彼女は友達だけでなくて、彼氏ができるなり、一番にユズカに紹介してくれたのだ。親友として、紹介されてユズカが号泣してしまったことで、シレネのことを慌てふためかせたのも、今ではいい思い出だ。
就活が始まって、ユズカが知る中で一番に内定をもらったのは、シレネだった。
「シレネ。おめでとう!」
「ありがとう、ユズカ」
何をさせても要領がよくて、面倒見もよくて、彼氏もいい人で、凄くお似合いのカップルだ。
それはもう幸せそうな2人を見ているとこっちまで、お腹いっぱいになるほどだったが、羨ましいと思えども、そんな彼女を狡いと思う気持ちをユズカは一度も持ったことがなかった。
シレネは、買い物帰りなのか、たくさんの紙袋を空いてる席に置いて、ユズカの真向かいに座った。
そこが、いつもの定位置だった。
「紅茶だけ? ケーキ食べないの?」
「あー、一人だと気が引けて」
「なら、私が奢るから食べましょ」
「そんな、悪いよ」
「いいからいいから。すみませーん! 期間限定のケーキセットを2つお願いします。あ、ケーキセットは、AとBのやつで。飲み物は、紅茶ね~」
店員さんとも慣れたものだ。ここで、よくおしゃべりしていることもあり、勝手知ったる何とやら状態だ。
近くまで店員をこさせずに注文を口にしたのだ。
「は~い。少々、お待ち下さい」
ユズカが注文するのを聞いてメニュー表を開くと美味しそうなケーキセットが期間限定で2種類あった。何気に今日までの限定ではないかとシレネを見た。
「どっちのセットも気になってて、食べたかったのよ。危うく食べ損ねるところだったわ。半分こしていいでしょ?」
「もちろん」
そんなことを言うシレネに嫌と言うことはなかった。むしろ、ユズカもどっちも食べてみたいと思っていて、気が合うなと思うばかりだった。
すっかり冷めきった紅茶を飲みきってから、ユズカは新しい紅茶の香りに目を輝かせた。
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