7 / 12
7
しおりを挟むプリシラは、義兄に言われて反省した。部屋に戻るなり、酷いことをしたと思った。
「すぐに会うのはむりだろうけど、謝らなくては」
そして、自分がすぐにでも伝えたかった言葉を口にしようと思っていた。
それなのにそんな時にアドルファスが、なぜかプリシラに会いに来たのだ。
「え、兄さん……?」
「お前、知ってたのか?」
「え?」
いつも着飾っていた兄は、薄汚い格好をしていて、一瞬誰だかわからなかった。
「あの女が、私たちの腹違いの……腹違いの私の妹だって、お前は知っていたのか?!」
ぎりっと腕を凄い力で掴まれたプリシラは痛みに悲鳴をあげそうになった。そんなことをアドルファスはしたことがなかった。言葉ばかりだった。顔をあわせれば、プリシラに酷いことを言うばかりの兄が、激高していた。
「っ、痛い。兄さん、離して」
「その顔は、知ってたんだな! よくも、黙っていたな!」
「兄さん、何で……」
プリシラは言いたかった。なんで、それで私を責めるのかと。責められる理由などない。
「お前が、黙っていたせいで、あんなのと駆け落ちしてしまったんだぞ! 婚約する相手は、王女だったのに。あんな女のせいで、腹違いの妹のせいで、何もかも失った。どうしてくれるんだ!」
「そんなの知るか。すぐにプリシラを離せ。もう、お前の妹ではない。私の義妹だ」
「義兄様」
エシュウィネは騒ぎを聞いて、アドルファスからプリシラを引き離した。やはり、エシュウィネの方が頼りになるとプリシラは思わずにはいられなかった。
「割って入るな、無礼だぞ」
「それは、そっちのはずだ。あの女呼ばわりしている女性と駆け落ちして、家から勘当されているのは、そっちだろ。それをいつまでも偉そうにしているな」
「っ、」
プリシラは、駆け落ちしたジュディスのことは聞いていたが、そういえばアドルファスも駆け落ちしたのだから、そうなって当たり前かと聞いていて思った。
それに縁を切ったのに兄さんと呼んだのがまずかったのだと思って、そう呼ばないようにした。
アドルファスいわく、駆け落ちしてしばらくは楽しかったが、貴族暮らしが長かったせいもあり、平民の暮らしも、使用人もおらず、質素な暮らしをするのにうんざりし始めたのは、割と早かったようだ。
その上、ジュディスが腹違いの妹ではないかと耳にして、アドルファスは駆け落ちしたにしては根も葉もいかないことが噂されて疑問が生まれたようだ。
それに駆け落ちしようと現れたジュディスの必死さもあって、ジュディスを問い詰めたら母親にそう言われて居ても立ってもいられずにアドルファスのところに行ったのだと聞いてアドルファスは、吐き気がしたようだ。
相手が腹違いの妹だとわかって、途端に冷め始めたものが嫌悪感に変わってしまったようだ。
つまりは、その程度の愛しかなかったのだ。そもそも恋人というより、理想の妹のように思っていただけだったと今更ながらに気づいたようだが、気づくタイミングがまずかった。
そのせいで、大喧嘩となり家に戻るよりも、隣国にいるプリシラに当たり散らしに現れたようだ。
それこそ、そんなことで当たり散らされても困るし、責め立てられても迷惑なだけだ。そもそも、プリシラを責めてどうするつもりなのか。
ここまで来たなら、ジュディスの母であり父親の不倫相手に怒鳴りつければまだわからなくもないが、アドルファスはそんなことをする気はないようだ。
そんなことより、プリシラは幼なじみが気になった。
「あの、ジュディスは一緒では?」
「は? 何であんな嘘つきと一緒にいなくてはならないんだ」
大喧嘩の末、置いて来たようだ。腹違いの妹と恋愛する気はアドルファスにはないと言わんばかりの態度だ。
それにプリシラだけでなく、エシュウィネも、この男は自分のことばかりだなと思わずには居られなかった。
124
あなたにおすすめの小説
幸せな結婚生活に妻が幼馴染と不倫関係、夫は許すことができるか悩み人生を閉じて妻は後悔と罪の意識に苦しむ
❤️ 賢人 蓮 涼介 ❤️
恋愛
王太子ハリー・アレクサンディア・テオドール殿下と公爵令嬢オリビア・フランソワ・シルフォードはお互い惹かれ合うように恋に落ちて結婚した。
夫ハリー殿下と妻オリビア夫人と一人娘のカミ-ユは人生の幸福を満たしている家庭。
ささいな夫婦喧嘩からハリー殿下がただただ愛している妻オリビア夫人が不倫関係を結んでいる男性がいることを察する。
歳の差があり溺愛している年下の妻は最初に相手の名前を問いただしてもはぐらかそうとして教えてくれない。夫は胸に湧き上がるものすごい違和感を感じた。
ある日、子供と遊んでいると想像の域を遥かに超えた出来事を次々に教えられて今までの幸せな家族の日々が崩れていく。
自然な安らぎのある家庭があるのに禁断の恋愛をしているオリビア夫人をハリー殿下は許すことができるのか日々胸を痛めてぼんやり考える。
長い期間積み重ねた愛情を深めた夫婦は元の関係に戻れるのか頭を悩ませる。オリビア夫人は道ならぬ恋の相手と男女の関係にピリオドを打つことができるのか。
悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)
三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。
その愛情の行方は
ミカン♬
恋愛
セアラには6歳年上の婚約者エリアスがいる。幼い自分には全く興味のない婚約者と親しくなりたいセアラはエリアスが唯一興味を示した〈騎士〉の話題作りの為に剣の訓練を始めた。
従兄のアヴェルはそんなセアラをいつも見守り応援してくれる優しい幼馴染。
エリアスとの仲も順調で16歳になれば婚姻出来ると待ちわびるセアラだが、エリアスがユリエラ王女の護衛騎士になってしまってからは不穏な噂に晒され、婚約の解消も囁かれだした。
そしてついに大好きなエリアス様と婚約解消⁈
どうやら夜会でセアラは王太子殿下に見初められてしまったようだ。
セアラ、エリアス、アヴェルの愛情の行方を追っていきます。
後半に残酷な殺害の場面もあるので苦手な方はご注意ください。
ふんわり設定でサクっと終わります。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。なろう様他サイトにも投稿。
2024/06/08後日談を追加。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
婚約破棄? え? そもそも私たち婚約していましたか?
久遠れん
恋愛
「パトリシア・ヴェルガン! 貴様との婚約を――破棄する!!」
得意げな子爵令嬢のクロエを隣において侯爵令息フランクが高らかに告げた言葉に、きょとんと伯爵令嬢パトリシアは首を傾げた。
「私たち、いつ婚約していたんですか?」
確かに二人は古馴染だが、婚約など結んでいない。彼女の婚約者は辺境伯のアンドレである。
丁寧にそのことを説明し、明後日には嫁入りする旨を告げる。フランクもクロエも唖然としているが、知ったことではなかった。
嫁入りした土地で幸せな新婚生活を送る中、ある日ぽろりと「婚約破棄されたのです」と零したパトリシアの言葉に激怒したのはアンドレだった。
詳細を聞いた彼は、彼女の名誉を傷つけた二人への報復を計画し――?
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。
❤️ 賢人 蓮 涼介 ❤️
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。
「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」
もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。
先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。
結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。
するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。
ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。
私が、全てにおいて完璧な幼なじみの婚約をわざと台無しにした悪女……?そんなこと知りません。ただ、誤解されたくない人がいるだけです
珠宮さくら
恋愛
ルチア・ヴァーリは、勘違いされがちな幼なじみと仲良くしていた。周りが悪く言うような令嬢ではないと心から思っていた。
そんな幼なじみが婚約をしそうだとわかったのは、いいなと思っている子息に巻き込まれてアクセサリーショップで贈り物を選んでほしいと言われた時だった。
それを拒んで、証言者まで確保したというのにルチアが幼なじみの婚約を台無しにわざとした悪女のようにされてしまい、幼なじみに勘違いされたのではないかと思って、心を痛めることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる