王太子と婚約した幼なじみが、何の相談もしてくれないまま駆け落ちした相手は、私のことを嫌っている兄でした。愛の逃避行は儚すぎました

珠宮さくら

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プリシラは、義兄に言われて反省した。部屋に戻るなり、酷いことをしたと思った。


「すぐに会うのはむりだろうけど、謝らなくては」


そして、自分がすぐにでも伝えたかった言葉を口にしようと思っていた。

それなのにそんな時にアドルファスが、なぜかプリシラに会いに来たのだ。


「え、兄さん……?」
「お前、知ってたのか?」
「え?」


いつも着飾っていた兄は、薄汚い格好をしていて、一瞬誰だかわからなかった。


「あの女が、私たちの腹違いの……腹違いの私の妹だって、お前は知っていたのか?!」


ぎりっと腕を凄い力で掴まれたプリシラは痛みに悲鳴をあげそうになった。そんなことをアドルファスはしたことがなかった。言葉ばかりだった。顔をあわせれば、プリシラに酷いことを言うばかりの兄が、激高していた。


「っ、痛い。兄さん、離して」
「その顔は、知ってたんだな! よくも、黙っていたな!」
「兄さん、何で……」


プリシラは言いたかった。なんで、それで私を責めるのかと。責められる理由などない。


「お前が、黙っていたせいで、あんなのと駆け落ちしてしまったんだぞ! 婚約する相手は、王女だったのに。あんな女のせいで、腹違いの妹のせいで、何もかも失った。どうしてくれるんだ!」
「そんなの知るか。すぐにプリシラを離せ。もう、お前の妹ではない。私の義妹だ」
「義兄様」


エシュウィネは騒ぎを聞いて、アドルファスからプリシラを引き離した。やはり、エシュウィネの方が頼りになるとプリシラは思わずにはいられなかった。


「割って入るな、無礼だぞ」
「それは、そっちのはずだ。あの女呼ばわりしている女性と駆け落ちして、家から勘当されているのは、そっちだろ。それをいつまでも偉そうにしているな」
「っ、」


プリシラは、駆け落ちしたジュディスのことは聞いていたが、そういえばアドルファスも駆け落ちしたのだから、そうなって当たり前かと聞いていて思った。

それに縁を切ったのに兄さんと呼んだのがまずかったのだと思って、そう呼ばないようにした。

アドルファスいわく、駆け落ちしてしばらくは楽しかったが、貴族暮らしが長かったせいもあり、平民の暮らしも、使用人もおらず、質素な暮らしをするのにうんざりし始めたのは、割と早かったようだ。

その上、ジュディスが腹違いの妹ではないかと耳にして、アドルファスは駆け落ちしたにしては根も葉もいかないことが噂されて疑問が生まれたようだ。

それに駆け落ちしようと現れたジュディスの必死さもあって、ジュディスを問い詰めたら母親にそう言われて居ても立ってもいられずにアドルファスのところに行ったのだと聞いてアドルファスは、吐き気がしたようだ。

相手が腹違いの妹だとわかって、途端に冷め始めたものが嫌悪感に変わってしまったようだ。

つまりは、その程度の愛しかなかったのだ。そもそも恋人というより、理想の妹のように思っていただけだったと今更ながらに気づいたようだが、気づくタイミングがまずかった。

そのせいで、大喧嘩となり家に戻るよりも、隣国にいるプリシラに当たり散らしに現れたようだ。

それこそ、そんなことで当たり散らされても困るし、責め立てられても迷惑なだけだ。そもそも、プリシラを責めてどうするつもりなのか。

ここまで来たなら、ジュディスの母であり父親の不倫相手に怒鳴りつければまだわからなくもないが、アドルファスはそんなことをする気はないようだ。

そんなことより、プリシラは幼なじみが気になった。


「あの、ジュディスは一緒では?」
「は? 何であんな嘘つきと一緒にいなくてはならないんだ」


大喧嘩の末、置いて来たようだ。腹違いの妹と恋愛する気はアドルファスにはないと言わんばかりの態度だ。

それにプリシラだけでなく、エシュウィネも、この男は自分のことばかりだなと思わずには居られなかった。


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