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しおりを挟むアンジェリーカの婚約者となった相手は、これまでに見た大人たちの中でも俺様な人で一言で言うと物凄く残念な男の子にしか見えなかった。
(この人が、この国の王子様……?)
アンジェリーカから見なくとも多くの者から見ても、そうだと思うのだが、アンジェリーカの両親だけが妙な期待をしているように思えてならない。その期待がろくでもないことだけは確かだろう。
そんな両親は、この日も出かけていた。元々、アンジェリーカの婚約者が来るなんて話を両親から聞いていなかったが、突然何の連絡もなくやって来た相手が相手なせいで、追い返すなんてできずに部屋に通した。
彼は、アンジェリーカと同じ年だったが、背の高さはアンジェリーカの方があったようだが、その差が気に入らなかったようで部屋に入るなり、すぐに座ってしまったことで体面で話すことになった。
(好き勝手なことばかり話していて、名乗りもしないのだけど、これってどうやって自己紹介すればいいのかしらね。あまりのことに入る隙がなさすぎて、名乗れなくなってしまったわ。それにしても、変な格好。恥ずかしくないのかしら?)
何も話さなければ、そこまで馬鹿には見えなくもない。この年頃の少年なら、自分に似合っているか、どうかなんてよくわからずに好きなものを着ていてもおかしくはないだろう。
アンジェリーカは、好みがしっかりあるから大人しく両親の用意したものを身に纏うことはしたくなくて、魔力で抵抗したりしてばかりいたが、言葉で両親に趣味が悪いから着たくないと伝えたことは一度もない。
婚約者がいいように着せらているだけなら、まだマシなのかも知れない。これが、彼自身の好みだとしたら、残念なのは間違いないはずだ。
アンジェリーカは、王子だからと目立つ格好を選んで着ているとは初対面のこの時は気づいてもいなかった。流石にそこまで馬鹿な理由で、おかしな格好をしていると思わなかったのだ。
悪目立ちすることで、自分の存在感を補いつつ、アピールしているようだ。そんなことをしておいて、王子だからみんながすぐに気づくのだと思っているようだ。何ともおめでたい頭をしているところがあったことを話すうちに気づくことになるとは思いもしなかった。
おめでたいから、平然と着ていられるのかも知れないが、それを周りは褒めちぎって下手なことを言わないようにしていることも相まって、勘違いしているのも大きかったようだ。
ある意味、褒めちぎられているのを本気にとっていて、馬鹿にされていることに全く気づいていないところは素直すぎると言えなくもないが。
そんなところで素直さを出すなら、別のところで出してほしいところだとアンジェリーカは思わずにはいられなかった。
そんな彼との初対面は、こんな感じだった。
「ふん。まぁ、見た目はいいようだが、俺の足を引っ張るようなことだけはするなよ」
「……」
そんなことを言われて、アンジェリーカは更に残念な者を見る目になっていたが、彼は全く気づかなかったようだ。
まぁ、そういうことに敏感なら、こんな態度ではいられないだろう。彼が自分の方を見てないとわかると、彼と一緒に来た面々は、アンジェリーカと同じような目を向けているのだから。
(こんな目を向けられていることにも気づいてないんだもの。私が、どんな顔してようとも気づいてはくれなさそうね。……そういうところは、両親と一緒ってことね。両親が家にいない時でよかったわ。家族と殿下の相手なんてしたら、疲れるだけなのは目に見えているもの)
アンジェリーカは、そんなことを思って、もう既にため息をつきたくなってしまっていた。もっとも、両親が帰って来てから、婚約者が来ていたと聞いたら、それはそれで騒ぐのは簡単に想像できたが、それはどうせ想像通りにしかならないのだから、今考えることではないとアンジェリーカは目の前のことに集中することにした。
こんな人が、この国の唯一の王子のようだ。唯一なのに王太子になれないのも、この短時間でよくわかってしまった。
(本当に残念な人)
ここまで残念だとアンジェリーカが何度も思ってしまうほど、彼はこの国の、この世界の未来に関わらない方がいい人にしか見えなかった。
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