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しおりを挟む平民となったアンジェリーカをわざわざ笑いの種にし始めたのは、アンジェリーカの元婚約者のカロージェロと彼の新しい婚約者となったジネーヴラが、いつも発端になっていた。
「ここにあの恥さらしがいなくて本当に良かったな」
「えぇ、本当ですわ。せっかくの卒業パーティーを台無しにされたらたまったものではありませんもの」
卒業パーティーだというのに重苦しい空気をどうにかしたかったのもあったようだが、それを聞いた出席者たちも面白がってアンジェリーカのことを酷く馬鹿にして話し始めていた。
「確かに祝福も、魔力も全くなくなるなんて前代未聞な女が、学園にいたかと思うとゾッとするな」
「勘当されただけだとこの国にもまだいたかも知れないものね」
「殿下が、追放処分と言い出してくださったのが良かったんですよ」
そこかしこで、あざ笑う言葉が飛び交っていたところにアンジェリーカが、待ち侘びた者が現れたのだ。
「え?」
「格好いい」
「なんて、美しいんだ」
アンジェリーカが直接会ったエルフの王子であるメンフィスとアンジェリーカの家庭教師をしていたエジェオだけでなく、たくさんの見目麗しいエルフたちが一緒になって、卒業パーティーに現れたことで、パーティーに出席するのに着飾っている者たちは、着飾ってはいないが美しい旅装束を着こなすエルフたちの美しさの足元にも到達できないほど、チンケなものにしか見えなかった。
急に現れたエルフたちを見て、ざわめくことになった。見目麗しい集団の登場にどよめくこととなったのは、無理もなかった。
そんなことお構いなしに彼らは、アンジェリーカを探したが、そこには見当たらないことに首を傾げずにはいられなかった。
「な、なんだ。お前ら!?」
「救世の乙女。アンジェリーカ嬢は、どこにいる?」
「は? 救世の乙女??」
「すっごい美形!!」
エルフたちは、埒が明かないことに眉をしかめていた。人間たちに見惚れられることは、今に始まったことではないが、派手な衣装に化粧をして香りの強い香水をつけた面々がよったくったパーティーに慣れていないエルフたちは、人間たちが益々理解できなくなっていた。
未だにアンジェリーカ以外の人間のことを好きではなくて、嫌いだと思っているエルフはかりだが、それでもアンジェリーカに礼を伝えたくてやって来ているに過ぎなかった。
「もう一度聞く。アンジェリーカ嬢は、どこだ?」
「アンジェリーカ? あの女なら、追放処分になって、何年も見てないですよ~」
「は? 追放処分だと!?」
やって来たエルフたちは、それに激しく動揺していた。
その間にカロージェロと婚約したジネーヴラや他の令嬢たちも見目麗しいエルフたちにアンジェリーカのことを話して、気を引こうとしたのも早かった。
祝福が消え、魔力が消えたことで、婚約破棄となり、勘当されることになり、神から祝福を消された者だとして嘲笑って面白おかしく教えたのだ。それで、エルフたちの興味をひけると思っていたのだ。
笑い者にすればするほど、エルフたちの顔をしてが虫けらを見るような顔と目をしていくことに令嬢たちは気づくことはなかった。
それが当たり前となっていて、どんなに意地悪くて醜い顔をして説明しているかに人間たちは、誰も気づいてはいなかった。
人間たちだけが、それで盛り上がっていたが、エルフたちがその話で盛り上がるわけがなかった。盛り上がれるはずがなかった。いたたまれない顔をしているエルフが増えていた。
「祝福と魔力が消えたから、追放したのか?」
「ふん。当たり前だ。そんな恥さらしを国においておけば、この国の汚点になるだからな」
カロージェロは、誇らしげに言っていた。それをエルフたちは殺気立って聞いていた。相変わらず、カロージェロは周りがどう見ているかなんて気にもしてはいなかった。
「この国の汚点だと? よく言う。汚点は貴様らのようなことを言うはずだ」
「何だと!? 大体、貴様らは何なんだ!」
「我らは、アンジェリーカ嬢に祝福と魔力を借りたことで、危機を脱することができた。借りたものを返そうとしただけだ。それなのに恩人の侮辱を聞かされるとは……」
イライラして殺気が更に増すことになり、そのせいで気温がぐんぐん下がり始めて、ようやく人間たちの顔色が悪くなり始めていた。
ようやく、エルフたちがとてつもなく怒っていることがわかったようだ。
「メンフィス様、お借りした祝福と魔力が跡形もなく消えています」
「何?」
「もしかして、人間界に来たことで、自然と戻ったのでは?」
「……」
メンフィスと呼ばれたエルフの王子は、思っていたよりも長くかかってしまったことを今更ながらに悔いていた。他のエルフたちも、世話になったアンジェリーカに感謝を伝えようと一緒に来ていた。更には、エルフ族総出で礼になるものをと貢ぎ物を用意するのに手間取ったこともあり、それが中途半端なものでは申し訳ないからといいものを用意するのに手間取ったのだ。
エルフたちの真心からの礼をと思って用意したものだが、裏を返せば見栄でしかなかった。そんなことをしていなければ、成人した時にはバッチリ間に合っていたはずだが、あっさりと貸し出したのを見ていたこともあり、数ヶ月遅くなったところで問題ないと思っていたのだ。
そんなことに躍起になっていたが、肝心の恩人がいないなんてことまで想定していなかったメンフィスは困惑していた。
人間たちを見て、目的の人物が散々な目に合ったことを知ったエルフたちは、怒りに燃えていた。
「……やはり、借りるのではなくて、一緒に来てもらえば、こんなことにはならなかったはずなのに」
メンフィスの言葉に他のエルフたちも、何とも言えない顔をしていた。
祝福と魔力があっても、消えかけている人間たちばかりなのを他所にもう用はないとばかりにその場を後にするのも早かった。
エルフたちが、その場からいなくなった途端、そこにいた者たちは、目をパチクリさせていた。
「何をしていたんだったか」
「えっと~」
メンフィスたちが来ていたことも忘れ、アンジェリーカのことも綺麗さっぱり忘れていた。
その日を境にアンジェリーカのことを馬鹿にする者は、この国では1人もいなくなった。
それまでは、名前だけが独り歩きしていて実際に会ったこともない平民ですら、アンジェリーカのことを散々に言って笑っていたのだが、エルフが立ち去ってからは別の話題で馬鹿にする人間が日毎に変わるだけで、笑っている人間が別の誰かに笑い者にされているのが、当たり前な国になっていくのに時間はかからなかった。
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