見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら

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(こんなに辛いのは、いつ振りだろう?)


吐き気に襲われ、ぼーっとする小柄な少女は、食事を取る時に付ける口元が出ている仮面を付けてぐったりと彼女は見慣れない部屋で横になっていた。

それこそ、ぐったりし過ぎて、この部屋が自室よりもいい部屋なのにうろちょろする元気もない。

そもそも、具合が悪い時に仮面を付けたままなのは、おかしいのだが、彼女はどんなに具合が悪かろうとも、死にかけていようとも、これを外していたことはなかったりする。

そんな環境が当たり前だった。もうこちらが、彼女の顔なのだ。生まれた時から付けているから、付けていない方が休まらない。

鏡で自分の顔を子供の頃にじっくり見た時以来、あまり見ていない。周りに色々言われ続けたから、自分の顔が嫌いなのではない。

顔に興味がなくなっているだけだ。仮面を付け続けていて、ろくな顔になってはいないはずだ。

他の者で仮面を付けて、顔に吹き出物やらできた者も多くいる。でも、それで痒いとか。痛いといったものを感じたことはないが、他のことでは幼い頃は辛い目によくあっていた。


「姫様、死んではなりませんよ!」


彼女の側に物心つく前からいた女性は母親ではなかった。苦しい時、辛い時、その女性が励まし続けてくれた。

その人が母だったら、どんなによかっただろう。本当の母は、真逆なことしか言わない人だった。


「何で、こんなところにいるのよ! あぁ、最悪の1日になったわ」
「っ、」


初めて会ったその女が、自分の実の母なのだと知ったのは、だいぶ後だった。なんか、変な服を着た人だった。

母だけではない。父も、娘を見て、物凄く嫌な顔と言葉を発する人だった。こちらも、変な服を着ていた。

幼い娘の服をどのくらい足したら、両親の服になるのか。ドスドスと音がするのが普通で、地団駄を踏むだけで、幼い子供の足場が揺らいだ。

そのうち、廊下のどこかが抜けるのではなかろうか。


「おい! こんなところを歩くな!」
「っ、」


色んなことを知ることになった。いや、知らなければ大変なことになるから、必死に覚えさせられた。


仮面を付けている者は付けていない人の視界に入ってはいけない。

顔をまじまじと見てはいけない。

仮面を付けていない者に気軽に声をかけてはいけない。

口答えをしてはいけない。


物凄くあれもこれも制限されるものばかりだが、側にいてくれるあの女性だけは、例外だった。

そして、同じくらいの女の子は、そんな両親に溺愛されていた。それを見た時、その子が誰なのかもわからなかった。


「ねぇ、さっきのこは、だれ?」
「姫様の双子の妹君ですよ」
「いもうと……?」


初めて妹がいることを知った。そして、今度は疑問がたくさん生まれることになった。

なぜ、あの子は仮面を付けていないのかとは聞けなかった。聞かなくともわかった。父と母と同じ顔をしていたから、溺愛されているのだ。

双子のはずなのに背の高さも、幅も、全然違っていた。体型もまた、両親にそっくりだった。

似ているのは髪の色と瞳の色くらいだが、顔をまじまじと見ることができないのと仮面を付けているから、そこが同じことを知らなかった。

両親を見て、妹を見て、周りの人たちを見て、自分ほど醜い生き物はいないのだと思った。

だから、仮面を付けていなくてはいけないのだと周りは当たり前のように言った。

でも、いつも寄り添い続けていた女性は、決して醜いとは言わなかった。彼女だけが、姫様と2人でいる時は呼んでくれた。


「おはようございます。アンネリース様」

「おやすみなさいませ。アンネリース様」


朝と夜の挨拶の時だけ、名前を呼んでくれた。でも、それ以外では呼ばなかったし、姫様とは部屋の外では呼ばないようにした。

だから、真似をして名前を呼ぶと嬉しそうにした。その笑顔をアンネリースは今も覚えている。

食べるものも、変なモノばかりだった。時折、家から持ってきてくれたものは、とても美味しかった。

だから、見た目が変でないものは美味しいものと思って口にしたら、死にかけた。

その時に彼女は、アンネリースの乳母の女性は、死んではいけないと必死にアンネリースに言い続けた。

その時のことを吐き気に襲われたあの頃から随分と成長したアンネリースは、思い出していた。

死んでは駄目だと言う人はアンネリースの側には、あの頃は乳母しかいなかった。

昔も今も、アンネリースは無意識に同じことを思っていた。


(どうして? こんなに苦しいのに。この苦しみを生きていたら、ずっと続くのに何で生きてなきゃいけないの?)


そう、昔、一番最初に死にかけた時は、毒の入ったものをアンネリースが食べてしまって、死にかけた。

今回の吐き気は、たべもののせいではない。これは、船酔いだ。でも、今は船に乗ってはいない。陸にいる。

船旅の間、アンネリースはピンピンしていた。なのになぜか、陸に上がってから船酔いになった。そこがおかしすぎたが、今はそれどころではない。

吐き気で薬が飲めず、横になっているしかない状態となったアンネリースは、久々にベットに横になって眠っても悪夢を見てばかりいた。

この時は、この状態でなぜ生きていなければならないのかと思ってしまっていた。


(みんなが、私の死を望んでいるのに。ずっと、側にいてくれた乳母だけが、私が生き続けることを願ってくれていたっけ)


生き続けることは、地獄のような生活を続けることになる。だから、アンネリースは終わりたいと何度目かの苦しみの中で思うようになった。


「死んではなりません」
「どうして?」
「では、なぜ、死にたいのですか?」


乳母の問いにみんなが望んでいると言えば、みんなではないと言われた。

辛いから、苦しいからと言えば、そうならないように動けばいいと言われた。

そこから、いかにしたら、辛くもなく、苦しむこともなく、仮面を付けていても生きられるかを乳母は教えてくれた。


(こういう時は、どうしたらいいんだろう?)


たくさんのことを教えてくれて、どんな状況でも死なないように、そう思わないように生きる術を叩き込まれたアンネリースは、初めての船酔いにそんなことを考え始めた。

乳母がいたら、答えてくれたかもしれないが、アンネリースの側にはもういない。


(船酔いは、病気だから、楽しいことでも考えればいいとか言われそうね)


アンネリースの楽しいことは、仮面を付けてない者には全く楽しいものではないはずだ。

必死に楽しいことを考えても、悪夢を見ることになり、ここでもアンネリースの苦しみを長引かせようとしているようで、昔のように死にたいと思うことはなかった。

ただ、目が覚めて見慣れないところにいるのに夢を見ている気がして仕方がなかった。


「アンネリース様」


今、アンネリースの側にいる侍女は乳母ではなくなっていて、彼女の娘が側にいた。

乳母なら、そんな顔をしないような顔を侍女はしていた。

もう何度も、夢かどうかをアンネリースは、侍女に聞いていた気がするが、よく覚えていない。


(陸に上がってからの船酔いほど、恐ろしいものはないわ)


やっと、あの地獄のような生活から抜け出せたはずなのに死にかけた時を凝縮したかのような辛さがあった。

こんな辛さと戦うことになったのは、フェイル国の王太子の婚約者に仮面を付けた者を所望されてのことだ。

醜いからローザンネ国では仮面を付けているというのにそれを美しいからと誤解して王太子の婚約者にと望まれたことでアンネリースが船に乗って、この国に来た。

そんなことになったのは、アンネリースからしたら随分昔のことのように思えるが、船旅は半月ちょっとだったから、その前に両親に説明にもなっていない決定事項を伝えられてから、2ヵ月くらいか。もうちょっと経っているかくらいのはずが、船酔いでだいぶ月日が経った気がしていた。

そもそも、アンネリースのいた国は、アンネリースからしたらとてもへんてこな国にしか思えなかった。

もう、戻って来るなと言われた国にアンネリースは、誰が帰って来るかと内心で思うような国は、そんなような国だった。


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