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王宮に着くまでも、アンネリースの方が気を急くことばかりだった。荷物も減ったというのに速度は変わらなかったのだ。
(最悪だわ。荷物は、関係なかった。あの荷物のせいで、思考が鈍っていたわ)
苛つく原因は、速度ではなかったことにアンネリースはようやく気づいた。
「あの、こんなにゆっくりで大丈夫なのですか?」
「構いませんとも」
「……」
侍医の言葉に不安しかなかったが、フェリーネもなぜなのかがわからないようで困った顔をしていた。
(もしかすると病弱とか、思われてないわよね?)
護衛に来た人たちも、ゆっくりと移動しているのにそれでもアンネリースを気遣うのだ。そこまで、気遣われるような生活をアンネリースはしたことがなかった。
マルへリートですら、そうだ。ここまでのことをバーレントですら、婚約者にはしていないはずだ。そもそも、気遣いなんてできる子息ではない。
(これが、ここでの普通……? ついていけるかな。私、せっかちなつもりはなかったのだけど、どうにも気遣ってくれている向こうに思惑がある気がしてならない。そんなことを考えてしまうなんて、私が毒されているようで嫌だわ)
アンネリースは、もどかしい思いをしていた。それもこれも、アンネリースの仮面や侍女の服を新調したことに原因があった。
ローザンネ国にいた時に両親が、こんな話をしていた。
「王女というのだから、仮面もそれなりにしなくてはな」
「それなりと言っても、難しくはありませんか?」
「だが、仮面1つでことが上手くいくならよいではないか。あれが、気に入られれば、今後は定期的に来ていた船も、頻繁に来ることになるやも知れん」
「そこまで、あれにできるとは思えませんわ」
「だが、だからといって、マルへリートを嫁にやれんだろ」
「それは、そうですけど。……そう言えば、侍女を連れて行くと聞きました。そちらの顔も見られてはまずいのでは?」
「確かに。あれは、それなりに見られる程度でしかないからな」
そんな2人によって、アンネリースの仮面は新調され、侍女は顔を隠すベールをつけることになった。
(前より周りが見にくいのよね。どんな張り切り方をしたんだか。それに服装ばかり見てしまうことで、この国の人たちの思考が、私の知る人たちと違い過ぎる。私の価値を過大評価しているから、見誤ってしまう)
フェリーネも、ベールをつけて動くことに慣れておらず、四苦八苦していた。そのため、2人とも視界が良好ではなかったことで、あることに気づいていなかった。
フェイル国では、侍女ですら美しい分類に入り、アンネリースのような王女こそ、絶世の美少女と呼ばれるに相応しい人物だということに。
フェイル国だけではない。ローザンネ国以外では、みんなそうだ。美醜が逆転しているのは、ローザンネ国だけなのだ。
なぜ、そうなったかと言うとあの海に囲まれた国に見た目のことで嫌な思いをして生きて来た者たちが、あそこに駆け落ちしたのが始まりだった。
海流の複雑さから、連れ戻そうとしても上手くいかなかったのだ。そこで、生まれた我が子の容姿に嫉妬したのだ。
「なんて醜いのかしら」
母親は我が子を醜いと言い出したのだ。父親もまた、同じようにそれまで散々言われてきた鬱憤を我が子に与え、八つ当たりをした。
でも、外から来た2人は色んなことを知っていた。元々島に住んでいた面々は、それが外の国々では当たり前なのだと思い込んでいたのだ。
だが、虐げられた子供が王となり、彼は王族だけでも家族で過ごすことを定めたりした。でも、国民にあまりにも酷い差別と区別が定着してしまっていて、それを正すことができなかったのだ。
それが当たり前になってしまったところにアンネリースが生まれたのだ。
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