34 / 57
第2章
1
しおりを挟むフェリシアを連れて戻ったアルセーヌに彼の養父母となった叔父でありヴォルディアノヴァ夫妻は、あまり驚いてはいなかった。もしかするとアルセーヌがフェリシアを連れて戻って来ることになることを予測していたのかも知れない。
ただ、やつれた姿をしたフェリシアがアルセーヌに支えられながら馬車から降りて来たのを見て、目を見開いてつらそうにしたのを見た。
そんな表情をしてくれることにフェリシアは、こんなことを思ってしまった。
(そんな顔、実母ですらしてくれたことがなかったわ。私が無駄に頑丈だから心配無用だって思っているにしても、普通はそういう顔をしてくれるものなのよね。それにしても、その顔はアルセーヌによく似ているわ。……実のご両親と並んでいるより、こうして並んでいる方が、親子に見えるわ)
そんなことを思ってフェリシアは、血の繋がりが目に見えて、その姿と自分を心配してくれる姿を見ただけで、幼なじみがここで大事にされていることがよくわかって嬉しく思えて、それだけで感無量になって泣きそうになっていた。
それに気づいていないわけがないが、アルセーヌは平然としていた。
「養父母様、ただいま戻りました。こちらは、私の幼なじみのフェリシアです。フェリシア、私の養父母だ」
「お帰り。フェリシア嬢も、よく来た」
「初めまして、突然おしかけてしまい申し訳ありません」
「構わないよ。アルセーヌから、色々と聞いているからね。疲れただろう。まずは、ゆっくり休んでくれ」
フェリシアは、思わずアルセーヌを見た。彼はその視線にすぐに頷いて、養父に頼んでくれた。その辺は幼なじみだけあって、言葉にしなくともアルセーヌはわかってくれた。
(昔から、そうだったわ。私が一番したいことをやらせてくれる。それは、どんなに離れて暮らしていても、こうして久方ぶりに会っても、何も変わっていない)
今のままでは休むに休めない。休む前に済ませたいことがあるフェリシアを瞬時に理解してくれたのは、アルセーヌだった。
「養父様。ゆっくりする前にフェリシアの話を聞いてもらえませんか? 彼女、婚約破棄されて、勘当された挙げ句、国外追放にされてしまったんです」
「……とんでもないことになったようだな。わかった。話を聞こう」
こうして、アルセーヌには掻い摘んで話した部分も詳しく話すことになったフェリシアは、殺気立つ幼なじみを宥めながら、彼の養父母に話すことになった。馬車の中でもしたが、その時よりも殺気が凄まじいものがあった。
フェリシアが、腕を掴まえていなければ、今にもデュドネに引き返して、元婚約者や父、兄をふっとばしてしまいそうになっていた。
(そんな暴力に訴えるアルセーヌを見たくない。この手を血に染める姿なんて見たくもない。私のせいで
、そんなことになったら耐えられない)
そんなことを思っていると養父は首を傾げていた。
「聖女の召喚に成功したなんて、一大時ニュースは、こちらには届いていないんだがな」
「え?」
(一大ニュース。まぁ、この国では、そう呼んだも不思議ではないわよね)
デュドネで生まれ育ったことも大きいのか。まだ、慣れない部分がフェリシアにはあった。
そういうことをしなくてはならないらしいが、王太子の婚約者となってかなりになるが、そんなことをお妃教育の中でも習ったことがなかったのだ。
本当に聖女に関しての部分は、あの国ではおざなりになっていたようだ。
「そもそも、危機なんて起こってもいないのに聖女を召喚しようとするはずがありません。召喚するには、各国に通達することになっているのにそんな話も聞いてはいませんよ」
(通達……? そんなことするの。知らなかった)
それが、未だにエイベルにはなされていないらしいことはわかったが、他の国にはあったかもしれないと調べてくれたが、やはり通達はないようだとなるのも、すぐだった。
そうなるとデュドネで聖女として騒がれている女性が本物とは思えないと言い出したのだ。
(まぁ、そうなるわよね。私も、怪しさしかないと思っていたのよね)
52
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!
もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。
ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。
王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。
ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。
それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。
誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから!
アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる