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第2章
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しおりを挟む救えるものなら、世界とそしてその世界の住人全てを救いたいと思っていたフェリシアは、誰もが本物だと言われているメーデイアを誰もが認めている聖女だとして、フェリシアたちは元いた世界に戻って来ることにしたのも、それがその世界の住人の100%にほとんど近い願いになっていたからに他ならなかった。
「暗い顔ね」
「っ、」
「そんな顔を花嫁がしているものではないわ」
アルセーヌは、前世の姿をして花嫁衣装を着た自分を鏡で見て、目を見開いて驚いていた。
「なぁにあなた、自分の花嫁姿にびっくりしているの?」
「お、母さん……?」
「何よ。今度は私の顔を見ても驚くのね」
アルセーヌは、前世の母の姿を見て涙をためた。そこには、聖女として召喚されたあとで生まれ変わった時に養母となった女性がいた。
「あらあら、どうしたの? 私の義理の娘を泣かせているの?」
「変なこと言わないでよ。この子を産んだのは、私よ? 実の娘の結婚式でわざわざ泣かせるわけがないでしょ。ほら、泣かないの。お化粧が崩れてしまうわ。せっかく、綺麗にしてもらったんだもの。泣くのはあとになさい」
そして、フェリシアの養母となったアイネイアスの姿があって、驚いた。
前世の時は、気にもしていなかったが、あの世界で養父母になった人たちが、実の両親だったことに泣き笑いを見せた。
それでも、新郎の顔を見るまで不安そうにしていた。
「どうした?」
「……何でもないわ。ただ、緊張してるだけよ」
バージンロードを父と歩くことにではなくて、新郎の顔を見るまで気が気ではなかったが、それは色んな意味で緊張しているからだとした。
「緊張しすぎるな。いざとなったら、夫になる彼が、どうにかしてくれる。お前は、ただ笑ってればいい」
「……ただ笑ってるのって、難しいかも」
「だろうな。でも、男を立てろとは言わないが、夫だけでも立ててやれ」
父の言葉に花嫁は、目をパチクリさせた。
「まぁ、彼なら、そんなところも、お前らしいと許すんだろうがな」
「……」
新郎で、義理の息子になる男性がこの先思いやられるとばかりにする父を見て苦笑してしまった。
そんなことをしたことがあっただろうかと記憶を探るも、思い出せなかったのだ。
バージンロードの先に見えた人物が目に入るなり、駆け出しそうになるのを父が腕を掴んで阻止した。
「っ、」
「大概のことはフォローしてもらえるだろうが、ここは走って行くな。そんなことしたら、一生笑われるぞ」
その言葉に参列者を見て、ハッとした顔をした。その分、誓いの言葉に感極まり、誓いのキスではあまりにも熱烈ではなれない2人に痺れをきらしたのは、2人の母親たちだった。
「式が終われば、ゆっくりできるんだから」
「そうよ。今は、式を滞りなく終わらせることに専念なさいな。こんなんじゃ、いつまで経っても2人っきりにさせられないわよ」
母親たちを見て、フェリシアの前世である新郎は妻となった女性と同じように驚いた顔をした。
「変な夢をずっと見ていた気がする」
「私もよ」
そこで、お互いが見た夢の話をして驚いた。それを聞いて、ただの夢ではなかったと2人は気づいてしまった。
「……幸せになろう」
「そうね。あの世界で色々経験して頑張った分、2人で幸せになりましょう」
色々とあったことの全てを覚えているわけではなかった。
でも、離れ離れになって、やっとこうして結婚して一緒にいられることになったことを噛みしめた。
側には、懐かしいと思える両親たちがいた。あれやこれやと言われたが、そんなこと大したことないとばかりに2人は笑っていた。
その笑顔につられるように招待客たちも笑顔になっていた。
その後も、どこで見かけても幸せそうにする2人は、いつまでも仲睦まじくして一緒にいられるだけで幸せだと物語っていて、羨ましがられながら子供たちや孫たちに囲まれて最高の人生を謳歌することができた。
「そういえば、なんか忘れている気がするのよね」
「君もか? 俺もだ」
「……何を忘れてるのかしらね?」
「あー、思い出せないなら、大したことではないだろ」
「それもそうね」
召喚された世界で、期待されるまま聖女として世界を救い続けることから逃れられなくなったメーデイアは、一生懸命に頑張っても、聖女なんだから当たり前のようにされ、あの世界に残った住人たちが聖女に対して心からの感謝を口にすることはなかった。
メーデイアという聖女が転生し続けることで、あの世界は滅びることはないまま、別の世界の人たちから隔離されて、不平不満だらけになっても世界が滅びて消えてなくなることはなかった。
それが、はたしていいことなのかはわからないが、その世界の犠牲になる者たちは、それだけのことを散々して来た人たちのみしかいなかった。
フェリシアは救えるものなら救いたいと思う人々で、あの世界の養父母たちのようにフェリシアたちが戻って来た世界で、それぞれが幸せに暮らしていた。
あの世界のことをすっかり忘れたフェリシアたちは、その後も生まれ変わっても、どこにいても出会うべくして出会って幸せな日々を送ることに変わりはなかった。
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