突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら

文字の大きさ
57 / 57
第2章

00

しおりを挟む

救えるものなら、世界とそしてその世界の住人全てを救いたいと思っていたフェリシアは、誰もが本物だと言われているメーデイアを誰もが認めている聖女だとして、フェリシアたちは元いた世界に戻って来ることにしたのも、それがその世界の住人の100%にほとんど近い願いになっていたからに他ならなかった。


「暗い顔ね」
「っ、」
「そんな顔を花嫁がしているものではないわ」


アルセーヌは、前世の姿をして花嫁衣装を着た自分を鏡で見て、目を見開いて驚いていた。


「なぁにあなた、自分の花嫁姿にびっくりしているの?」
「お、母さん……?」
「何よ。今度は私の顔を見ても驚くのね」


アルセーヌは、前世の母の姿を見て涙をためた。そこには、聖女として召喚されたあとで生まれ変わった時に養母となった女性がいた。


「あらあら、どうしたの? 私の義理の娘を泣かせているの?」
「変なこと言わないでよ。この子を産んだのは、私よ? 実の娘の結婚式でわざわざ泣かせるわけがないでしょ。ほら、泣かないの。お化粧が崩れてしまうわ。せっかく、綺麗にしてもらったんだもの。泣くのはあとになさい」


そして、フェリシアの養母となったアイネイアスの姿があって、驚いた。

前世の時は、気にもしていなかったが、あの世界で養父母になった人たちが、実の両親だったことに泣き笑いを見せた。

それでも、新郎の顔を見るまで不安そうにしていた。


「どうした?」
「……何でもないわ。ただ、緊張してるだけよ」


バージンロードを父と歩くことにではなくて、新郎の顔を見るまで気が気ではなかったが、それは色んな意味で緊張しているからだとした。


「緊張しすぎるな。いざとなったら、夫になる彼が、どうにかしてくれる。お前は、ただ笑ってればいい」
「……ただ笑ってるのって、難しいかも」
「だろうな。でも、男を立てろとは言わないが、夫だけでも立ててやれ」


父の言葉に花嫁は、目をパチクリさせた。


「まぁ、彼なら、そんなところも、お前らしいと許すんだろうがな」
「……」


新郎で、義理の息子になる男性がこの先思いやられるとばかりにする父を見て苦笑してしまった。

そんなことをしたことがあっただろうかと記憶を探るも、思い出せなかったのだ。

バージンロードの先に見えた人物が目に入るなり、駆け出しそうになるのを父が腕を掴んで阻止した。


「っ、」
「大概のことはフォローしてもらえるだろうが、ここは走って行くな。そんなことしたら、一生笑われるぞ」


その言葉に参列者を見て、ハッとした顔をした。その分、誓いの言葉に感極まり、誓いのキスではあまりにも熱烈ではなれない2人に痺れをきらしたのは、2人の母親たちだった。


「式が終われば、ゆっくりできるんだから」
「そうよ。今は、式を滞りなく終わらせることに専念なさいな。こんなんじゃ、いつまで経っても2人っきりにさせられないわよ」


母親たちを見て、フェリシアの前世である新郎は妻となった女性と同じように驚いた顔をした。


「変な夢をずっと見ていた気がする」
「私もよ」


そこで、お互いが見た夢の話をして驚いた。それを聞いて、ただの夢ではなかったと2人は気づいてしまった。


「……幸せになろう」
「そうね。あの世界で色々経験して頑張った分、2人で幸せになりましょう」


色々とあったことの全てを覚えているわけではなかった。

でも、離れ離れになって、やっとこうして結婚して一緒にいられることになったことを噛みしめた。

側には、懐かしいと思える両親たちがいた。あれやこれやと言われたが、そんなこと大したことないとばかりに2人は笑っていた。

その笑顔につられるように招待客たちも笑顔になっていた。

その後も、どこで見かけても幸せそうにする2人は、いつまでも仲睦まじくして一緒にいられるだけで幸せだと物語っていて、羨ましがられながら子供たちや孫たちに囲まれて最高の人生を謳歌することができた。


「そういえば、なんか忘れている気がするのよね」
「君もか? 俺もだ」
「……何を忘れてるのかしらね?」
「あー、思い出せないなら、大したことではないだろ」
「それもそうね」


召喚された世界で、期待されるまま聖女として世界を救い続けることから逃れられなくなったメーデイアは、一生懸命に頑張っても、聖女なんだから当たり前のようにされ、あの世界に残った住人たちが聖女に対して心からの感謝を口にすることはなかった。

メーデイアという聖女が転生し続けることで、あの世界は滅びることはないまま、別の世界の人たちから隔離されて、不平不満だらけになっても世界が滅びて消えてなくなることはなかった。

それが、はたしていいことなのかはわからないが、その世界の犠牲になる者たちは、それだけのことを散々して来た人たちのみしかいなかった。

フェリシアは救えるものなら救いたいと思う人々で、あの世界の養父母たちのようにフェリシアたちが戻って来た世界で、それぞれが幸せに暮らしていた。

あの世界のことをすっかり忘れたフェリシアたちは、その後も生まれ変わっても、どこにいても出会うべくして出会って幸せな日々を送ることに変わりはなかった。



しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!

もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。 ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。 王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。 ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。 それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。 誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから! アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。

処理中です...