幼なじみに婚約者の浮気について相談をしたら、彼女が浮気相手の1人でした。許してやれなんてよく言えたものです

珠宮さくら

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「これだけの令嬢とよく浮気できたな」
「……」


シャーロットは、婚約者の浮気相手を1人残らず調べ上げたのをある人に見せていた。それは、今浮気しているのともう終わっているが、浮気していた者も、1人残らず調べたことで、とんでもない数になっていた。

それを見せた者は、その数に呆れた声を出していた。

シャーロットも、出るは出るは、ここまでかというほど出る浮気の数々によく気づかなかったなと思ってしまった。

それを調べてくれた方も、1人では無理だと複数名で調べ上げて、全員が驚いていた。よく身がもつようなことを言っていた。調べて報告してくれた方が、疲れ切った顔をしていた。もう終わったものを調べるのが大変だと思っていたが、その辺は簡単だったようだ。

取っ替え引っ替えに浮気していて、よくかち合わないと変なところで褒めて、バレそうになってハラハラしすぎて疲れたようだ。

シャーロットが、仕返ししようとひているのにあっさりバレたら、仕返ししようがなくなると思って焦ったようだ。

それを聞いて、上乗せしてお金を渡したが、受け取ってもらえなかった。その代わり、血祭りにあげてくれればいいと言われてしまった。

まぁ、調べた方もここまでモテるのも珍しいが羨ましいかは別のように言っていた。そもそも、モテている理由が、アティカスに魅力があるからではないように言っていた。

もっとも、浮気相手を調べてくれと頼んだのだ。これだけ浮気できている理由ではなかったため、言いにくそうにされて聞くのをやめた。

それを思い出しつつ、目の前の彼の口調からシャーロットは、ふと気になってしまった。そんなはずはないと思うが、気になってしまったことを聞かずにはいられなかった。


「……リーヴァイ様。羨ましがっておられるのですか?」
「まさか。愛する人に永遠に嫌われることをわざわざするわけがないだろ。それのどこを羨ましがれと言うんだ? こんな男、男の風上にもおけない。ただ、私が言いたいのは……」


リーヴァイと呼ばれた男性は、チラッとシャーロットを見た。そして、そこで言い淀んだ言葉の意味が、シャーロットにはよくわかった。己に向いた視線に気づいて、フッと笑った。それは、自分でも気づいていたことだ。


「……そうですね。私らしくないですよね」


ここまでとは思わなくても、浮気をされているのを知っていながら、それでも縋るように幼なじみに相談するほどだったのだ。

全くもってシャーロットらしくない。相談なんてせずにたった1人と浮気したとしても、昔のシャーロットなら速攻で婚約を破棄してもらおうと動いていた。その浮気相手が、誰であろうとも、気の迷いだろうが、出来心だろうが。謝られようとも、逆ギレされようとも許すなんてしなかっただろう。

血祭りにあげてやろうと思うシャーロットこそ、シャーロットらしいことだった。


「シャーロット。その子息のことが好きだったのではないか?」
「……」


それを言われてシャーロットは、何とも言えない顔をした。それを見て、リーヴァイと呼ばれた男性はシャーロットに婚約者のことを言うのをやめてしまった。

泣きそうな顔をしているつもりはなかった。ただ、別のことを想うと胸が張り裂けそうな痛みが未だにあることにいたたまれなくなってしまっただけだ。アティカスを想って、そんな表情をしたわけではない。

好きだったのではと言われても、シャーロットは言葉にできなかった。婚約したから、必死に好きになろうとしていたが、本当に好きになれていたのか。そう思い込んでいただけなのか。よくわからなくなっていた。


「それで、私に何をしてほしいんだ? 何でも言え。可愛い私の唯一の義妹になるはずだったんだ。血祭りにあげてほしければ、腕のいいのを紹介してやろう」
「……」


とてつもなく物騒なことをサラッと言った。おや、シャーロットも血祭りにあげてやろうとしているが、本当に亡き者にしたいわけではない。そんなことで終わらせるなんて、生ぬるいことをして解決したいわけではない。

だが、この人はシャーロットが頼めば本気でやる。そう言う人だ。未だに可愛い唯一の義妹と言ってくれるのが、その証拠だ。

だが、シャーロットがなりたかったのは、可愛い唯一の義妹ではない。でも、今はそこを掘り下げる気はない。掘り下げた先のことなど考えたくなかった。


「リーヴァイ様にそんなことをさせては、私がお姉様に顔向けできなくなります」
「何もしなければ、私が顔向けできなくなる。言え。どうしてほしい?」


何を言っても、叶えてくれる。それが、どんなにとんでもない願いでも、シャーロットが望んでいるのなら、叶えてくれる。

そんな風に今も義妹になるはずだったから、シャーロットのことを大事にしてくれているのだ。姉は、もういないというのに。


「……」
「血祭りにあげるだけでは気が済まないのだろ?」


シャーロットは、亡き姉の婚約者だった王太子にあることを頼んだ。そのために会いに来たのだ。

それは、姉の頼みでもあった。こんなことで、姉の遺言を口にするとは思わなかったが、この機会を逃したら、もう言うことはできない気がして利用することにした。

王太子は、シャーロットの姉を心から愛していた。結婚直前に病気がわかり、姉は婚約を解消しようとしたが、王太子は病気が回復するのを願って解消を拒み続けた。

それは、シャーロットも同じ気持ちだったが、姉は絶対に治ると心から信じていた。

でも、姉はとっくに覚悟を決めてしまっていた。だから、あんなことを妹に頼んだのだ。


「シャーロット。あなたにしか、頼めないことなの。私が死んだら王太子に新しい婚約者を見つける手助けをしてあげて」
「っ、お姉様。そんなこと言わないで」


それを聞いた時、手助けなんてできないと思っていた。それを承諾したら、姉を失ってしまうと思った。

でも、それから何度も会うたび、必死に頼まれたのだ。


「シャーロット。お願い」
「……わかったわ。でも、上手くいかなくても怒らないでね」
「ありがとう」


それが、姉と最後に交わした会話だった。やっと、了承したシャーロットに姉は嬉しそうに笑ったのだ。

もう、あれから3年になる。未だに姉のその時の頼み込んできた声をシャーロットは、昨日のことのように覚えていた。そして、最後の笑顔も。そんなことを頼んであの笑顔を見せるのは、狡いとしか言えない。


(こんな風に手助けを頼むことになるなんて、お姉様も思わなかったでしょうね)


大体、シャーロットの気持ちを知っていたら、姉はそんな遺言を妹にはしなかったはずだ。


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