前世のことも好きな人を想うことも諦めて、母を恋しがる王女の世話係となって、彼女を救いたかっただけなのに運命は皮肉ですね

珠宮さくら

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ファティマが、この世界に転生して10年が過ぎた。

転生する前は不慮の事故で亡くなることになった一児の母だった。気づいたら、弟妹たちがたくさんいる伯爵家の長女となり、生まれ変わっていた。

そこでファティマは物心ついてから弟妹たちの面倒を見ていた。


(は? また、生まれるの?!)


それこそ、弟妹が増えるのは嬉しいが、計画的に子供を産むなんてことを考えていないようにしか思えない親に頭を抱えたくなった。


(先のことなど何も考えていないのでしょうね。妊娠を理由に家事から逃れているとかないわよね……?)


夫婦仲が良すぎて年子で生まれては、家族が増えていく弟妹たちの世話を率先してファティマはこなしていたが、ふとそんな疑念を抱いてしまった。

今世の母親は育児が得意ではない。不得意でも、やろうとしてくれるなら、まだ良かった。……いや、そうなるとファティマがやることが倍に増えることになるから、やる気がない方がよかったのかもしれない。

だからと言って次から次へと産んでいくのも、いかがなものか。ファティマは、両親に呆れるしかなかった。それに貧乏ではなないはずなのにベビーシッターを雇うお金すらケチるのみならず、子供たちにお金を使うのが嫌なようなのだ。


(自分たちの買うものはケチらないのに。なんて親かしらね)


前世のファティマは、両親にも驚かれるほど母親らしいことをしていると言われた。


「変われば変わるものね」
「……」
「どうした?」


前世の両親にそんなことを言われていた。そのたび、首を傾げたくなった。


「……私、そんなにできなかったっけ?」
「できなかったのではないかもしれないな。できるのにやろうとしなかったのかもな。あっちが、何でもできたからな」
「……」
「そうね。あなたたち、そっくりな双子だもの。頑張ればできたのに。あの子は甘えていたのかもしれないわ」
「……」


そんなことを言われて、不思議な感覚がした。自分は、前々からできたのに。急にできないのが、息子が生まれてからよくできるかのように言われたのだ。

でも、息子を育てるのが楽しくて、その疑問も深くは考えなかった。

ただ、結婚相手をなぜ選んだのかが、自分が選んだ人ではない気がし始めていたが、それに気づかないふりをした。


(まぁ、考えても仕方がないわよね。もう、戻ることもできないのだもの)


ファティマは、違和感を感じるたび、生まれ変わってからは、考えるのを無理やりやめた。

それよりも、生まれ変わった先。今のことだ。

伯爵家のそんな環境に一番最初にこの家に生まれたのもあり、見かねたファティマは姉であるより、母親のような毎日を送っていた。弟妹たちに不自由な暮らしをさせたくなくて、並々ならぬ愛情を注いだ。

家事全般をこなし、おもちゃも手作りし、ツギハギだらけの衣服もおしゃれに見えるようにした。

そして、誕生日すらしない親などほっといて、繕いもので稼いだお金で、弟妹たちの誕生日を必ずした。まとめてなんて決してしなかった。

数日違いであろうとも、きちんとその日に誕生日をした。その日に手作りの洋服をプレゼントするのだ。

両親たちはあてにならない存在だとすっかり刷り込まれていた。自分たちのことは、自分たちでどうにかしなくてはならないと。

更には、姉と呼ぶより、ママと呼び間違えることもあったが、その度、ファティマが飛び起きるため、ママとは呼ばないように気をつけていることをファティマは知らなかった。


(自立精神は養われているけど、この先が心配だわ。私は人生二度目だからいいけど。この子たちは違うんだもの)


そんなことを思って、弟妹たちの将来を憂いていた。そんな姉の誕生日は、1つ下の弟が頑張ってくれて、ファティマは毎年感激して泣いていた。

10歳の誕生日もしてもらったばかりだ。弟妹たちからの似顔絵や花のプレゼントは、ファティマの宝物になっていた。もらった花は押し花にしていた。


「姉さん。それも、取っておくの?」
「もちろん。……とは言えないわ。悪いけど」
「うん。庭に放しておくよ」


虫が好きではないファティマに採った昆虫をプレゼントしたのもいた。次男だ。それを見て、プレゼントでなければファティマは悲鳴をあげていたはずだが、悲鳴をあげずにたえた。

1つ下の弟は、虫が嫌いなことをよく知っていた。ここまで、弟妹が増えていない時に散々、悲鳴をあげる姉を見てきたのだ。

だが、弟妹が増えていき、次男が昆虫を捕まえるのが好きなことがわかり、ファティマは半泣きによくなっているが、長男以外は気づいていない。

そこまで苦手なものでも、いらないと言う姉が不思議だったのだろう。


「……どうして、嫌いなものをもらってもお礼を言うの?」
「あの子が、意地悪をしようとしたわけではないからよ」
「……」
「自分の好きなものをくれようとしただけよ。現にとても珍しい物を捕まえたのでしょうし」
「でも、それを逃がしたと知ったら……」
「珍しいのなら、なおさら家族を作って増えてもらわなきゃ。それに私がもらって死なせるのは、忍びないもの」
「物は言いようってことだね」
「……」


この弟は、建前より本音に気づくのが早すぎる。


(将来が、頼もしいようで心配になるわ。……世の令嬢が、ほっとかない子息になるでしょうね)


ファティマの側にいるせいだとは思いたくないが、一番の理解者だ。影響を受けないはずがない。

弟妹たちのために優しい兄であり、姉が母の代わりをするように父の代わりをしていたのは、彼だ。


(良い父になるでしょうね)


弟が父となる時は、その隣には相応しい妻がいるはずだ。


(実母のようなのは選ばないでしょうね。美しい妻を選ぶか。可愛らしい者を選ぶか)


それを考えただけで、心が痛んだ。

女の自分よりも、弟は男の子だ。この家の跡継ぎでもある。文字の読み書きや前世から知っていることのみならず、この世界のことも教えたのは、ファティマだ。

下手なことを教えられないファティマは、独学で覚えたものばかりだ。

そんなことを思っていれば、弟は虫を見るのも嫌いな姉の視界から、それとなく虫を遠ざけるように自分の身体でそれを隠してくれていた。


(優しいのよね。きっと、良い夫になる。……その者が、羨ましい)


「気に入った?」
「え?」
「……」


何がとは、弟は言わなかった。視線をたどれば弟がくれた刺繍のセットがあった。

ファティマは、何かおかしな方向に思考が動いてしまっていた気がするが、すぐにファティマは忘れていた。それは、考えてはならないことだ。覚えていなくてもいいものだ。

それよりも、今年は目の前にいる弟がこれをくれたのだ。


「えぇ、とても綺麗ね。……みんなが好きな色ね」
「うん」
「これは、あなたが好きな色」
「うん」


(小遣い稼ぎを頑張っていると思っていたけど、このプレゼントのためだったのね。みんなの好きな色の刺繍なんて、弟らしい)


「とても気に入ったわ」


それを聞いて、弟は嬉しそうに笑った。その顔は、年相応だった。


(せっかく、貯めたのならば、自分のために使えばいいのに)


そう言いながらも、ファティマはそのプレゼントが嬉しくてならなかった。弟がくれたものの中にファティマの好きな色があったからだ。


(私が好きな色を知っていた。話したことなどなかったはずなのに)


弟妹たちの色を知っているのも嬉しかった。

弟は手先も器用で、他の弟妹たちの誕生日には手作りのおもちゃをプレゼントしていた。

それを街で売って、お金にするまでになった。流石は、ファティマの弟だ。子守りをしながらも、そんなことをやれるのだ。大人であろうとも、子供が子供の世話をするのだ。くたくたになってしまうはずだが、弟は姉を模範としている。

ファティマにとっては、二度目の人生だ。真似をさせすぎては困ってしまう。だが、真似るとも言えない。


(そんなことをすれば、全てを話さなくてはならなくなる。それは、できない)


他の子たちも、趣味を極めつつ、お金になるのを伸ばそうとしているところがあった。姉と兄を真似ているのだろうが……。


(この暮らしが普通になってしまっている。普通の暮らしをさせてあげたいのに。普通すら教えてあげられないなんて)


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