4 / 63
3
しおりを挟むファティマが、この世界に転生して10年が過ぎた。
転生する前は不慮の事故で亡くなることになった一児の母だった。気づいたら、弟妹たちがたくさんいる伯爵家の長女となり、生まれ変わっていた。
そこでファティマは物心ついてから弟妹たちの面倒を見ていた。
(は? また、生まれるの?!)
それこそ、弟妹が増えるのは嬉しいが、計画的に子供を産むなんてことを考えていないようにしか思えない親に頭を抱えたくなった。
(先のことなど何も考えていないのでしょうね。妊娠を理由に家事から逃れているとかないわよね……?)
夫婦仲が良すぎて年子で生まれては、家族が増えていく弟妹たちの世話を率先してファティマはこなしていたが、ふとそんな疑念を抱いてしまった。
今世の母親は育児が得意ではない。不得意でも、やろうとしてくれるなら、まだ良かった。……いや、そうなるとファティマがやることが倍に増えることになるから、やる気がない方がよかったのかもしれない。
だからと言って次から次へと産んでいくのも、いかがなものか。ファティマは、両親に呆れるしかなかった。それに貧乏ではなないはずなのにベビーシッターを雇うお金すらケチるのみならず、子供たちにお金を使うのが嫌なようなのだ。
(自分たちの買うものはケチらないのに。なんて親かしらね)
前世のファティマは、両親にも驚かれるほど母親らしいことをしていると言われた。
「変われば変わるものね」
「……」
「どうした?」
前世の両親にそんなことを言われていた。そのたび、首を傾げたくなった。
「……私、そんなにできなかったっけ?」
「できなかったのではないかもしれないな。できるのにやろうとしなかったのかもな。あっちが、何でもできたからな」
「……」
「そうね。あなたたち、そっくりな双子だもの。頑張ればできたのに。あの子は甘えていたのかもしれないわ」
「……」
そんなことを言われて、不思議な感覚がした。自分は、前々からできたのに。急にできないのが、息子が生まれてからよくできるかのように言われたのだ。
でも、息子を育てるのが楽しくて、その疑問も深くは考えなかった。
ただ、結婚相手をなぜ選んだのかが、自分が選んだ人ではない気がし始めていたが、それに気づかないふりをした。
(まぁ、考えても仕方がないわよね。もう、戻ることもできないのだもの)
ファティマは、違和感を感じるたび、生まれ変わってからは、考えるのを無理やりやめた。
それよりも、生まれ変わった先。今のことだ。
伯爵家のそんな環境に一番最初にこの家に生まれたのもあり、見かねたファティマは姉であるより、母親のような毎日を送っていた。弟妹たちに不自由な暮らしをさせたくなくて、並々ならぬ愛情を注いだ。
家事全般をこなし、おもちゃも手作りし、ツギハギだらけの衣服もおしゃれに見えるようにした。
そして、誕生日すらしない親などほっといて、繕いもので稼いだお金で、弟妹たちの誕生日を必ずした。まとめてなんて決してしなかった。
数日違いであろうとも、きちんとその日に誕生日をした。その日に手作りの洋服をプレゼントするのだ。
両親たちはあてにならない存在だとすっかり刷り込まれていた。自分たちのことは、自分たちでどうにかしなくてはならないと。
更には、姉と呼ぶより、ママと呼び間違えることもあったが、その度、ファティマが飛び起きるため、ママとは呼ばないように気をつけていることをファティマは知らなかった。
(自立精神は養われているけど、この先が心配だわ。私は人生二度目だからいいけど。この子たちは違うんだもの)
そんなことを思って、弟妹たちの将来を憂いていた。そんな姉の誕生日は、1つ下の弟が頑張ってくれて、ファティマは毎年感激して泣いていた。
10歳の誕生日もしてもらったばかりだ。弟妹たちからの似顔絵や花のプレゼントは、ファティマの宝物になっていた。もらった花は押し花にしていた。
「姉さん。それも、取っておくの?」
「もちろん。……とは言えないわ。悪いけど」
「うん。庭に放しておくよ」
虫が好きではないファティマに採った昆虫をプレゼントしたのもいた。次男だ。それを見て、プレゼントでなければファティマは悲鳴をあげていたはずだが、悲鳴をあげずにたえた。
1つ下の弟は、虫が嫌いなことをよく知っていた。ここまで、弟妹が増えていない時に散々、悲鳴をあげる姉を見てきたのだ。
だが、弟妹が増えていき、次男が昆虫を捕まえるのが好きなことがわかり、ファティマは半泣きによくなっているが、長男以外は気づいていない。
そこまで苦手なものでも、いらないと言う姉が不思議だったのだろう。
「……どうして、嫌いなものをもらってもお礼を言うの?」
「あの子が、意地悪をしようとしたわけではないからよ」
「……」
「自分の好きなものをくれようとしただけよ。現にとても珍しい物を捕まえたのでしょうし」
「でも、それを逃がしたと知ったら……」
「珍しいのなら、なおさら家族を作って増えてもらわなきゃ。それに私がもらって死なせるのは、忍びないもの」
「物は言いようってことだね」
「……」
この弟は、建前より本音に気づくのが早すぎる。
(将来が、頼もしいようで心配になるわ。……世の令嬢が、ほっとかない子息になるでしょうね)
ファティマの側にいるせいだとは思いたくないが、一番の理解者だ。影響を受けないはずがない。
弟妹たちのために優しい兄であり、姉が母の代わりをするように父の代わりをしていたのは、彼だ。
(良い父になるでしょうね)
弟が父となる時は、その隣には相応しい妻がいるはずだ。
(実母のようなのは選ばないでしょうね。美しい妻を選ぶか。可愛らしい者を選ぶか)
それを考えただけで、心が痛んだ。
女の自分よりも、弟は男の子だ。この家の跡継ぎでもある。文字の読み書きや前世から知っていることのみならず、この世界のことも教えたのは、ファティマだ。
下手なことを教えられないファティマは、独学で覚えたものばかりだ。
そんなことを思っていれば、弟は虫を見るのも嫌いな姉の視界から、それとなく虫を遠ざけるように自分の身体でそれを隠してくれていた。
(優しいのよね。きっと、良い夫になる。……その者が、羨ましい)
「気に入った?」
「え?」
「……」
何がとは、弟は言わなかった。視線をたどれば弟がくれた刺繍のセットがあった。
ファティマは、何かおかしな方向に思考が動いてしまっていた気がするが、すぐにファティマは忘れていた。それは、考えてはならないことだ。覚えていなくてもいいものだ。
それよりも、今年は目の前にいる弟がこれをくれたのだ。
「えぇ、とても綺麗ね。……みんなが好きな色ね」
「うん」
「これは、あなたが好きな色」
「うん」
(小遣い稼ぎを頑張っていると思っていたけど、このプレゼントのためだったのね。みんなの好きな色の刺繍なんて、弟らしい)
「とても気に入ったわ」
それを聞いて、弟は嬉しそうに笑った。その顔は、年相応だった。
(せっかく、貯めたのならば、自分のために使えばいいのに)
そう言いながらも、ファティマはそのプレゼントが嬉しくてならなかった。弟がくれたものの中にファティマの好きな色があったからだ。
(私が好きな色を知っていた。話したことなどなかったはずなのに)
弟妹たちの色を知っているのも嬉しかった。
弟は手先も器用で、他の弟妹たちの誕生日には手作りのおもちゃをプレゼントしていた。
それを街で売って、お金にするまでになった。流石は、ファティマの弟だ。子守りをしながらも、そんなことをやれるのだ。大人であろうとも、子供が子供の世話をするのだ。くたくたになってしまうはずだが、弟は姉を模範としている。
ファティマにとっては、二度目の人生だ。真似をさせすぎては困ってしまう。だが、真似るとも言えない。
(そんなことをすれば、全てを話さなくてはならなくなる。それは、できない)
他の子たちも、趣味を極めつつ、お金になるのを伸ばそうとしているところがあった。姉と兄を真似ているのだろうが……。
(この暮らしが普通になってしまっている。普通の暮らしをさせてあげたいのに。普通すら教えてあげられないなんて)
93
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる