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しおりを挟む(私の両親と話しているのを見たら、もっと色々と言われていそうだけど。そしたら、更にいびられることになりそうなのよね。旦那は、うちの両親が苦手で寄り付かないから、2人とも知らないだけなのだけど)
そんなことを思いながら、やっておくと言い出した夫を冷めた目で見た。
「なんだよ?」
「別に。わざわざ店に行くのよ? そこまで行くつもりなの? 会社から離れているところなのに」
電話で予約するのと直接行って予約するのとでは特典が違うのだ。息子が喜ぶのは、店に直接行った方だ。それに早めに頼めば割引もつくとあって、それもケチくさいと言いながらもやると言ったのは、夫だ。
(ケチくさいことをさせるようなお金しか稼いできてないだけじゃない。やりくりするこっちの身になってほしいわ。それなのに母親には見栄を張るし、自分の欲しいものも何の相談もなく買うくせに。息子の好きなもの1つ買うのに愚痴愚痴言うのは、母親にそっくりでムカつくったらないわ)
「わざわざなんて行くわけないだろ。今、近くの会社と商談してるから、よく行くんだよ。ついでに予約しといてやるよ」
「……」
何とも偉そうな態度に益々イラついたが、あまりにもやってやると言って、よく行くなら流石にやるだろうと任せることにした。
だが、それは間違いだった。
夫は、すっかり忘れていたのだ。何度も、何度も、妻はことあるごとにしつこいと怒鳴られても確認したというのに。
その度、うるさいだの。やっておくと言ったのにやかましくするから、忘れるんだと言い訳にもならないことを言っていた。
それでも、商談は続いているようで、その近くによく行くからついでにやっておくと同じことを言うのだ。
(商談って、そんなに頻繁に出向くものなの?)
「そんなによく行くの? 確か、営業で回っているのよね?」
「そうだ。あの辺は、俺の得意先が多いからな」
「……」
(これは、仕事関係じゃないわね)
商談と言っていたのを営業だとわざと間違えてカマをかけたら、そう言ったのだ。自分が数週間前に何を言ったかも覚えていないようだ。
(これは、私が行って頼んだ方が良さそうね)
息子の誕生日が終わったら、怪しい行動ばかりが目立つ夫のことを調べ上げようと思った。さっさと離婚した方が、息子にはいいと思った。何より、息子が……。
「ねぇ、ママ。何で、あの人と結婚したの?」
「え?」
パパと滅多なことでは息子は呼ばなくなっていた。それにあの父親は気づいていないはずだ。
「ママなら、もっといい人いるのに」
「……」
何でと言われると本人にもわからなかった。いや、奇妙な感覚はしていた。こんなダメな男を選ぶのは、いつも片割れの方だったはずだ。
でも、何もかもが入れ替わって名前を呼ばれるたび、結婚する少し前はもっと酷い違和感があった。
でも、それもあまりの酷さに現実逃避したかっただけかも知れない。
(そんなの私らしくないのに)
もし、それに理由があるのなら……。
(この子に会いたかったからかも。でも、それを息子には言えない。それを知ったら気に病んでしまう。それこそ、旦那や義母に似ていた子供だったら……、私は同じことを言えたかは怪しいし)
それはさておき、どこにも良いところが見当たらないない旦那は、自分が言ったことすら綺麗さっぱりと忘れて、妻を責め立てたのだ。
これも、いつものことだ。自分の失敗を他人のせいにする。
(これで、仕事ができるわけがないわよね。どうして、こんな性格の悪いのと結婚したんだろ? そもそも、婚約していると聞いて病室で目が覚めた時に驚いたのよね)
足を滑らして階段から落ちた。頭の打ちどころが悪くて、それまでのことを何も覚えていなかった。
そこで、自分が誰なのかを家族や婚約者に言われても、違和感だらけだった。
(あの時も酷かったわ)
結婚式を間近に控えていて、旦那と義母は延期したらお金がかかるからと無理やりその日に結婚式をしたのだ。
記憶をなくして混乱していた婚約者が、妻となっても、気にかけるなんてことをする人たちではなかったが。
(そんな人を選んで結婚しようとしていたのよね。その前のことを何も思い出せていないのだもの。聞かれてもわからないなんて言えないわ)
記憶が戻ることはないまま、子育てに追われた。
夫の給料が上がらないのも、この性格のせいだが、自分は誰よりもできているとどうやら本気で思っているようだ。おめでたい頭をしていて、そんな息子の言葉を信じているのが、血の繋がった母親だ。昔から成績もいまいちだったはずだが、それをすっかり忘れたのか。仕事は男だからできると思っているのかはわからないが、この親子の思考は全く理解できない。できたことなどない。
「母親なのに息子の誕生日ケーキも予約していないのか?」
「っ、」
(あんたが、散々やると言ったんでしょうが!!)
ぶちまけてやりたくなったが、追い討ちのようにそれを聞いて、こんなことを言われた。
「信じられないわ。それでも、母親なのかしらね」
「っ、!?」
義母も、息子の言葉を聞くなり、嫁が忘れていたと思ったようだ。これもいつものことだ。
「大体、何よ。飾り付けを一つもしてないじゃない。こんなんじゃ、写真映えしないわ」
「何だよ。あいつの友達も、呼ぶんだろ? 困難で間に合うのか?」
「っ、」
(あんたたちがそんなんだから、今年は誰も呼べないのよ!!)
追い打ちをかけるように散々な嫌味を言われることになった。義母がいなければ、夫にブチ切れていた。
それこそ、愛する子供の誕生日でなければ、おたくの息子がやると言って任せろとまで言っていたんだと言ってやりたかった。でも、それを飲み込むことにしたのは、時間がなかったからだ。
(今からでも、無理を聞いてくれるところを探さなきゃ)
そんなことを思って、すぐさまパソコンに向かうのと違って旦那と義母は、責め立てることばかりを言うだけで、何か手伝うことがあるかと聞いて来ることもなかった。
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