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しおりを挟むそのことが、王太子と嫁いだ王女の夫から国王の耳にも、隣国の姫にとんでもないことをしたことは、すぐに知らされることになった。
耳にした国王は、あまりのことに頭痛を覚えたほどだ。
隣国の王女に怪我まで負わせて、自分の要求と保身ばかりな態度がジャスミンのことを溺愛している父である隣国の王の耳に入ったら、戦争になりかねない。
国王とて、娘が隣国で婚約者にそんな目にあわされていたら、ブチ切れずにはいられない。戦争となったら、多くの民が亡くなることになる。それだけは避けなければならない。
国王は、とんでもないことをやらかした息子と親をすぐさま呼んだ。王宮に呼ばれたことに浮かれきった両親と息子は、すぐにやって来た。だが、浮かれるような内容ではなかった。
「あの、侍女長だな。ジャスミンに伝えろと言っただけなのに告げ口なんてして」
「お前に応対した女性のことか?」
「そ、そうです。何かの行き違いがあったんだと思います」
「行き違いなどはない。その女性は、私の娘だ」
「へ?」
「降嫁した王女だ。ジャスミン姫だけではなくて、この国の元王女の顔も、知らんようだな」
「っ、」
国王の言葉に顔を青くし始めていたが、全てが遅かった。
「あの国と戦争にはなりたくない。意味がわかるな?」
「は、はい。この馬鹿は、勘当します!」
「っ、」
「……それだけで済むと思うか?」
「あ、いえ、詫びの品を見繕っておりまして……」
「それは、ジャスミン姫の詫びの品か? 世の娘を愚弄した詫びの品のことか?」
「っ、あ、いや、その、」
馬鹿息子のしでかしたことで、爵位を返上することになるまで、あっという間のこだった。それこそ、ジャスミンだけならまだしも国王の前でとんでもない勘違いを口にしたせいで、息子を勘当するだけで済まなくなったのだ。
そんなことをやらかし続ける息子をさっさと勘当しておけばよかったと両親は思ったようだが、彼の家族も似たりよったりな面々なせいで、この機会に爵位を返上させることができてよかったと思われていたことなど、気づかなかったようだ。
危うく両国で戦争でも始まるのではないかと思われる緊張状態となっていたが、それを止めたのはジャスミンだった。
目が覚めてから、とんでもないことになっていることを知って、即座に動いていた。
元婚約者を許したわけではなかったが、そのせいで罪のない民が巻き込まれるのは心が痛むと泣いたような染みつきの手紙をしたためて父のもとに届けさせたのだ。
その涙のような跡を見た王によって、娘に弱い父親と彼女の心優しい想いを組んだジャスミンの怪我を心配して暴走しかけていた王太子を動かさずに止めたことで、最悪なことにはならなかった。
原因となった馬鹿息子は勘当され、その実家も爵位を返上して、二度とジャスミンに顔を見せないことで、命だけは取られないことになった。
(寝ている間に殆ど終わっていたようなものだったわね。私のやれることが、お父様を涙に泣きくれたような染み付きの手紙で説き伏せるだけなんて思わなかったわ)
ジャスミンは、泣いてなどいなかった。そう見えるような模様をつけただけだ。
更には、王太子には泣き腫らしたような顔をチラッと見せただけだ。酷い顔をしているからとすぐに布で隠したが、ばっちり見えていたようだ。
(やらかしたのは、私だから恥を忍んで演技したけど、騙されてくれてよかったわ)
ジャスミンは、そんなことを内心で思っていたが、王太子だけでなくて、自分付きの女官や周りの面々が信じてしまっていることにまでは気づいていなかった。
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