えっ、一ヶ月以内にエッチしないと死ぬ異世界転生!?

gulu

文字の大きさ
15 / 19

"本物"の"主人公"

しおりを挟む
《回想》

 あいつの生まれと育ちは特別だったわけではないでシ。
 だから虐待とかもされなかったでシ。
 ただまぁ少しばかり両親が馬鹿だったでシ。

 詐欺とかに遭ったわけじゃないでシよ?
 人に薦められるがままに株とか投資とかしていっただけでシ。

 最初はただの付き合いだったわけでシが、徐々にそのしがらみが鎖のように絡みついて離れなくなって、最後はその鎖共と一緒に沈んで首を吊ったでシ。
 自分の子供を道連れにしなかったのは後ろめたさなのか、それとも親としての最後の矜持だったのか、どっちでもいいでシ。

 だからあいつは乱数とか運を徹底的に排除してから物事に挑むんでシ。

 そして残されたのはあいつと妹の二人だったでシが、まぁそれなりに平和に暮らせてたでシ。
 一つ問題があったとすれば、あいつが望んだものがことごとく手に入らなかったことでシ。

 勉強していい学校に入ろうと頑張ったでシ。
だけど裕福な家で満足に勉強できるやつらには勝てなかったでシ。

 アルバイトで少しでもお金を稼ごうとしたでシ。
 両親を亡くした子供を働かせるとは何事かとクレームが入って辞めることになったでシ。

 友達がほしかったでシ。
 他のやつにはある時間がなかったせいでダメだったでシ。

 誰かに助けてほしかったでシ。
 だけど誰もあいつに何もしなかったでシ。

 だからあいつは人の痛みが分からないわけじゃないでシ。
 むしろ誰よりも痛みに慣れてしまっただけでシ。

 そのくせ、生涯で一度しか助けられなかったくせに、本気でヤバイ奴は助けるから、親の血をしっかり継いでるでシ。

 一度は助けられたから望みは一度叶っただろうでシか?
 違うでシ、あいつはその助けだけは絶対に受け取りたくなかったでシ。

 あいつには妹がいたって言ったでシ?
 あいつは自分の望みも夢も何もないまま”存在”をすり減らしながら妹の為に生きたでシ。
 自殺しなかったのも妹がいたからでシ。

 やるだけやって、残せるものを残して、バトンタッチして死ぬつもりだったでシ。
 こんな世界にひとり妹を残す自分は最低だとか思ってたみたいでシ。
 本当に最低だったらそんなことも考えてねぇでシ。
 けどこれが最悪の結果を招いたでシ。

 ある時、2人は火事に巻き込まれて重症を負ったでシ。
 あいつはこれでようやく死ねると思ったけど、そうはいかなかったでシ。

 瀕死の妹が最後に自分に残ってる無事な皮膚を兄に移植してくれって頼んだでシ。
 今までずっと貰い物で生きてきたからこそ、最後に返したかったんでシね。

 その結果、最後の最後にあいつは妹を守るという願いすら叶えられず、自分だけが生き残ったわけでシ。

 世の中プラスとマイナスがつりあってて、人生の帳尻は合うようになってるってほざくやつがいたら、そいつをミキサーに入れてバラバラにしても許されるのがあいつでシ。

 だからこそ、ニェにとっては都合がいい存在だったでシ。

 ニェは本物を探してるでシ。
 真実でも、綺麗でもない……”本物”の愛でシ。

 誰も彼もが愛を素晴らしいと称賛するでシ。
 だからニェもその素晴らしいものを見たかったでシ。

 なのに世界中のどこを見ても”本物”はなかったでシ。

 なぁなぁで愛を囁く有象無象、ただの偶然を運命だとうそぶく偽物、どれもこれもニェを震わせるものはなかったでシ。

 なら――――自分で”本物”を見つけるしかないでシ。
 あいつはその為の"主人公"なのでシ。

 誰かの特別になれず埋もれていったあいつが。
 世界に救いも希望もないと認めたあいつが。

 もしも……もしも、また人を信じて、誰か愛せるようになったとすれば。
 それこそがきっと、ニェが探し求めていた”本物”なのでシ。


《回想終了》

「とまぁ、こんな感じでシ。……泣くような話だったでシか?」
「ご、ごめん……な…さい……」

 凜音だけならまだしもダイヤまで泣いてるのは分からんでシ。
 これより不幸な出来事だって探せばあるでシ。

 ただ、選ばれたわけでもなく、特別でもないという意味では、あいつは逸材だったでシ。

「イェーイ! 見て見て! 車輪に剣をくっつけて回転させるとこれも剣判定でダメージが発生する! しかもこれ盾判定も入ってるから攻撃も防げる! これを並べて突っ込めばコンバインで耕すように魔王も――――あれ、なんか空気おかしくない?」

 肝心のこいつは、その場の雰囲気をブチ壊す勢いで入ってきたでシ。

 まぁこいつは最初、世界に救いがないのなら死後の世界という都合のいいもんもないと思ってたでシ。
 それが実際に死んだら、異世界転生を体験できたわけでシから、こうやってはっちゃるようになっても仕方ないでシ。

 だからこそ、こいつはハーレムやら愛やらに妥協しなくなったでシ。
 なにせ今まで存在していないと思っていたものが、在ると証明されたんでシから。
 だからこそニェはお前なら"本物"を見せてくれると期待してるんでシ。

「お前がどうしてモテないか語ったら皆泣いたでシ。よかったでシね、感動大作でシ」
「何してんだこの野郎! それは感動じゃなくて同情とか憐れみだよ! 何も嬉しくねぇよ!」

 それと、これは誰にも言ってないでシが、お前は妹の皮膚を移植されてから時間を無為に過ごしすぎたでシ。
 だからお前が無駄にした時間はどれほど価値あったのかを理解させる為に、わざと1ヶ月という期限を設けてるんでシ。

 さぁ死ぬ気で生きるでシ、妥協せずに追い縋るでシ。
 そしてニェに“本物”を見せるでシ!
 お前という主人公を見つけたニェは、たとえ百万回異世界転生するとしても、絶対にお前を逃がさんでシ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
ファンタジー
壊れた椅子も、傷ついた心も。 手を動かせば、もう一度やり直せる。 ——おじいさん村で始まる、“優しさ”を紡ぐ異世界スローライフ。 不器用な鍛冶師と転生ヒロインが、手仕事で未来をリメイクしていく癒しの日々。 今日も風の吹く丘で、桜は“ここで生きていく”。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...