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第31話:マルクト王朝襲撃

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 くだらねぇ話をしてたところで列車がマルクト王朝に到着した。
 このセフィロト大陸において最も古い国であり、一番最初に異世界転生者が建国した国とも言われている。

「ほわぁ……!」

 列車から降りたキリエがガラス張りのホームから見える風景に息を呑んでいる。
 整然とされた煉瓦作りの建物、高く大きな時計塔、そして遠くにそびえ見える初代が作り上げたとされる巨大風車と水車。
 あ~ここに転生してきた奴、ぜってェ楽しかっただろうなァ!

「ねぇ、行かないの?」

 キリエと違い、クソ女の方はズンズンと先に向かおうとしてやがった。

「行くっつーの。 ってか女、テメェはここの景色見てもなにも思わねェのか」
「洗脳されてる時はなんとも。 今は綺麗とかよりも妬ましいって気持ちかしら」
「はァ?」
「だってアルフ達のいる場所と比べると、恵まれすぎてるもの」

 そりゃそうだ、失敗作の集大成であるクリフォト大陸じゃこんなの造れるわけねぇからな。

「あーハイハイ、可愛げのねェ奴だ」
「んもー妬ましい☆」
「可愛げを出せって意味じゃねぇよ」

 ってかそれでも腹の奥底から出てる黒い感情が見え隠れしてるぞ。

「それよりショウ様ぁ、これからどうするんですかぁ?」
「適当に荷物揃えて向こうに行く移動手段の確保だ」

 俺ひとりだったら跳躍でスグだが、こいつら抱えてやったら途中で落ちるか速度に耐え切れずに全身の骨が折れる。
 ったく、めんどくせぇ奴らだ。

「ショウ様、待ち伏せ」
「アァ?」

 タイロックがこちらへやってくる一団を指差す。
 人の波が割れ、その一団の正体が判明した。

「初めましてショウ王子。 この度の不幸な出来事、王子の心中を察するに余りあるものであると存じ上げます」

 うやうやしく頭を下げるオッサンの執事服には見覚えのある刺繍が入れられている。

「チッ、メレクの奴から聞いたなテメェら」

 元婚約者のメレクの家、マルクト王朝でもそれなりに長く続いているシェキナ家。
 国家特許のひとつである【無線通信】を握っている。

 個人ではなく国が保護する特許が持つ特権というものはやべぇ。
 設備の設置やらメンテは必ず特許保持国が行い、利用した内容なども全て記録されることが義務付けられている。

 つまり情報が筒抜けになるってワケだ。
 そして他の国もそれに対抗して国家特許を独占してる。
 おかげでこの世界の文明が所々にチグハグだ。

 まぁメレクは元々この国の人間だから利用するのに忌避感がないのだろう。
 あと国に対して不利益なことはしないとこっちの奴らが判断してのもあるんだろうが。

「―――で、何の用だ? 止めに来たのか? 残念だが俺ァ今王子じゃねぇ、邪魔するならまとめて家まで帰してやるぞ」

 腕をコキリと鳴らしたが、執事のオッサンは静かに首を横に振った。

「いいえ、あくまで王子の……失礼、ショウ様のお力になりたく存じます」
「恩でも売るつもりか? テメェらの力がなかろうと俺ァ親父殿の首は取り戻せるぞ」
「恩を売るなどと、滅相もございません。 それにショウ様のことはお嬢様からよくお聞きしております」

 なんだァ?
 メレクの奴、俺のことなんて言ってんだ?

「凛々しき横顔は美術史に残るほど、逞しき腕に抱かれた時の心の高鳴りはオーケストラのように、そして秘めたる力は深遠に届き、悪鬼羅刹をも打ち払う苛烈さを持ちながらも、大いなる器に情け深さと家族への親愛があると」
「ちょっとアイツ医者に見せてこい、妄想癖をこじらせてんぞ」

 【万能戦闘技能】のチートがあるから悪鬼羅刹どころか魔王でもブチのめせるのは本当だが、他の箇所については異議しかねえ。
 つうか鉄兜があるからアイツ俺の素顔ほとんど見たことねぇだろ。

「ショウ様、単純、分かりやすい」
「うるせぇ毛皮にすんぞ!」

 タイロックが分かり顔で肩を叩いてきやがったから裏拳をぶちこむ。

「そんなショウ様の微力になることをお嬢様がお望みであれば、これに勝る喜びはございません」
「チッ、いいだろう。 大いに喜びやがれ」

 ここで意地を張る理由もない、しょうがないから世話になってやるとする。
 執事達が再び深く頭を下げ、駅の外へと案内される。
 そこには明らかに注目の的となっている馬車が用意してあった。

 ここで文句をつけるのもアレなので我慢して馬車に乗り込むと、ほどなくして動き出した。

「それではショウ様、旅に必要になりそうな荷物は予めある程度こちらでご用意させて頂きました。 不足分がありましたらお申し付けください」
「テメェらが全部準備したせいで、メレクが渡した金がほとんど無駄になったんだが、それについてはどう思う?」
≪コツコツ≫

 執事のオッサンが気まずそうに目を逸らしやがった。
 下手にでしゃばるからこういうことになんだよ、アホウ。

「えー……それで移動手段についてですが、飛行船は如何でしょうか」
「随分と豪勢なもん用意したじゃねぇか」
≪コツコツ≫

 こっちの飛行船は骨組みが木でバルーンや動力は呪文士で補ってる。
 とはいえ墜落しねぇように人数を用意するのが面倒だが、いざとなれば俺がやるから大丈夫だろ。

「…………」
≪コツコツ≫
「ウルセェぞ!!」

 先ほどから馬車に何かが突っつくような音が鳴ってるせいで不快でたまらない。
 鳥が巣でも作ってんのかと思い馬車の窓を開けて見上げる。

「オイ、いつからこの国は鳥類憐れみの令を出しやがった?」
「あ、あれは……ッ!」

 馬車の屋根を見ようと外に身を乗り出すと、何十匹もの鳥が馬車をつついており、空には覆いつくすほどの鳥が飛び回っていた。
 あのクソ女も窓から身を乗り出して外に出てくる。

「おいテメェ邪魔だろ、退けや!」
「あれは……チート持ちよ! 種類は―――」
「言わなくても分かる、テイマーだろ!」

 魔物、動物を操るといえばそれくらいだ。
 俺が全力で戦えば楽勝だが無駄に死人が出る。
 さぁてどうしたもんか。
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