好き逃げ! = 好きですけど、逃げていいですか? × 俺の許容範囲は限界です!(連載版)

m.sei

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好きじゃない

80 四章〈3〉① 冷たく震える手*


 昼食から戻り、しばらく同僚と談笑したあと、一足早く席に着いていた吉田は時計を見た。

 何度か時間を確認したが、もうすぐ午後の就業時間になるというのに、隣の席の藤崎がまだ戻ってきていなかった。

 真面目な藤崎が遅れるはずがないと思っている吉田は、なにかあったのではないかと心配していた。

 ――昼は主任と途中まで一緒で、そのあとは……

 その主任である東條も、今はオフィスにいなかった。

 急遽、得意先からの電話で呼び出された東條は、出かけてしまっていた。

 ――う~ん。俺がここで気を揉んでも、仕方ないんだけどね。

 そう思いながら、ぽりぽりと頭をかいていると、藤崎がようやく戻ってきた。

「すみません……。時間、過ぎちゃいましたよね……。あの、主任は?」
「ん? あぁ、大丈夫大丈夫。数分くらいなら問題ないって。主任は出かけたし、誰も気にしないよ」
「出かけた?」
「うん。得意先に呼ばれて、当分帰ってこないと思う」
「そう、ですか」

 ほっとしたような顔をした藤崎だったが、吉田は藤崎がオフィスに入ってきたときからずっと気になっていた。

「藤崎くん、具合悪い? 顔色がよくないみたいだけど。調子が悪いなら、医務室に連れてくよ?」

 オフィスに戻ってきたとき、いつもよりも蒼白な顔をした藤崎は、少しふらついていた。元気がないというよりは、覇気がないと言ったほうが近い藤崎の様子が、吉田は気になった。

「いえ……、大丈夫です。ちょっと、食べ過ぎちゃって……」

 言葉を濁す藤崎に、吉田は尋ねた。

「もしかして、吐いた?」
「あ……、えっと……。はい」
「やっぱり、医務室に行こう」

 慌てて藤崎の手を握った吉田に、藤崎は一瞬驚いたような顔をしたが、大丈夫だと引き止めた。

「薬を飲んだから、もう少ししたら落ち着きます。だから、大丈夫です」
「そーなの? それなら、いいけど……」

 だが、吉田は気がついた。触れた藤崎の手が冷たく、かすかに震えていることに。

 ――前に手を握られたときは、もっと、あったかかったのに……

    
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