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1.幼馴染みの王子様?
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ルーエン様とのお見合いが決まって、翌日。
ただいまは夏休み中なので、私はせっせと自宅の研究室で魔法研究中!生活魔法を充実させたいと思っておりまして。聖女エマ様のアドバイスもあり、生活用魔法石なるものを作れたらと。自分の魔法属性に関係なく、魔力をちょっと込めたら水になる、とか。災害時とかにも良さそうでしょ?
なんて、偉そうに言いつつ、ただただ魔法の不思議が面白くて気になって、いろいろやりたくなっちゃうだけなんだけどさっ。
でもあれかな、お見合いもするし、少しは令嬢らしくとかもしないとかしら……。でも、研究は止められないなあ。まあ、いいか?年齢だけの理由かもしれないし?
……後で考えよう。
ともかく、長期休暇中なので、ますます研究が捗る……はずですが。
「なんでここに、王太子殿下が来るのよ?!」
実家の研究室は邪魔が入らず集中できるはずなのに!
「いいじゃん、幼馴染みだろ?昔はよく来たし。懐かしいな~。構わず研究続けなよ」
約束もなく訪れ、しれっと答えたのは、この国の(一応)王太子殿下のアンドレイ=グリーク様。
彼を案内してきたリズが部屋のドアを少し開けて、彼の護衛騎士と共にそっと出ていく。
「今、王太子の前に一応ってつけなかったか?」
「何を仰いますやら」
オホホと笑って誤魔化す。変なところに鋭い幼馴染みだ。
ちなみに、エマ様とこの王太子のお母上である王妃のローズマリー様は、我が国自慢の「二人の聖女」だ。魔法にもお詳しいし、いろいろなアイデアをお持ちのお二人なので、とても尊敬している。畏れ多くも、お二人共に私の研究にも協力的なのだ。
そして眼前に居られる、王太子殿下。見た目はお母様譲りのプラチナブロンドのサラサラヘアと、お父様譲りの海も真っ青な碧眼で、もちろん造形も整っていらして、ザ・王子様!!なんだけど。大勢の前では、きちんと王子様なんだけど。親しい人たちの前では、かなり自由なお人なのだ。
幼馴染みとして姉弟のようにしているが、自由過ぎて少々困る。私が言うのも何ですが。
「急に来られましても、何のおもてなしもできませんわよ、殿下」
一人で集中して研究を続けたい私は、暗に帰れと言ってみる。
「構わないよ。俺たちの仲だろ?それに最初に人をあんた呼ばわりしといて、今さら畏まるなよ。気持ち悪い。一緒に木登りして怒られたよな~、お転婆ダリシア。どうせ今も登ってるんだろ?」
うぐっ。
「そ、それは失礼しましたわ。でももう、お互いいい歳ですし。きちんと対応しませんと。き、木登りも封印致しますわ」
……ストレスが溜まったら分からないけれど。
「……何で?お見合いするから?」
何となくアンドレイ様の声が低くなった気がするけれど。まあいいかと会話を続ける。
「あら、ご存知でしたの?そうですわね、それもありますわ」
「だから、話し方。気持ち悪い」
ムスッとしてそっぽを向くアンドレイ様。子どもか。
それにしたって。
「気持ち悪い、気持ち悪い、って、レディに失礼ではなくて?」
私は少しイラッとする気持ちを押さえて、笑顔で言う。
「……また、その顔!気持ち悪いものは気持ち悪いんだから、仕方ないだろ?!」
その言葉に、私の薄~いガラスの令嬢猫被りは砕け散り、短すぎる導火線に火が点く。
ただでさえでも、研究を中断して相手をしていると言うのに!
「~~~人が優しく対応していれば!五歳児?五歳なの?!アンドレイ!」
「優しくなんて、頼んでないだろ?無駄美人が無理するなって言ってんの!!」
「はあ?!余計なお世話ですけれど?アンドレイこそ、そろそろ王太子らしくしたら?」
「俺は外ではちゃんとやってる!」
「ハイハイ、素敵な二重人格ですよね~」
「うわっ、腹立つ言い方!」
「人に散々言ってるくせに、文句言わないでよ」
もうこうなると、何だか子どものケンカだ。
すると。
「失礼致します、お茶をお持ち致しました」
収拾のつかなくなりそうな所で、リズがお茶を運んで来てくれた。ドアの前で聞いてくれていたのだろう。いつも助かる。
「リズ。ありがとう。いただくわ。……アンドレイも、良かったら」
「あ、ああ。いただこう」
リズが微笑みながら頷き、手際よくお茶の準備をしてくれる。その様子を見ながら、二人共に少し落ち着く。
私にとって、アンドレイは昔から可愛い弟分だったのだ。二人で城を抜け出して怒られたりとか、城に迷い込んだ猫を追いかけて泥だらけになって怒られたりとか、第二王子のサージュ殿下と三人で木登りをして、まだ小さかったサージュ様が木から降りられなくなって一緒に怒られたりとか。
……あれ、怒られてばっかりのような。まあ、でも楽しかった。二人で泣いて謝って、泣き疲れて一緒に寝て。
最近はどうにも言い合いのようになってしまう事が多い。私は、変わらず可愛くて大事な弟と思っているのだけれど、アンドレイはもう姉とは思ってくれていないのかな。あ!むしろお転婆だの無駄美人だの言われているような姉貴分が心配なのかもしれない。アンドレイは素直じゃないから、上手く言えなくて喧嘩腰になってしまうのでは?
お見合いの話も聞いたみたいだし、私が何かやらかすのが心配だったのかも。だからわざわざ侯爵領まで来てくれたんじゃない?
やだ、私ったら気付かずに、研究の邪魔と邪険にして。姉貴分として情けないわ。
研究は止められないと思うけれど、大人になると安心させないと。
「……アンドレイ、ごめんなさい。私ったら気付かないで」
「え?」
アンドレイが綺麗な所作でお茶を飲むのを止め、私の方を見る。
「私がお見合いすると聞いて、心配で来てくれたのでしょう?安心して?これでも侯爵令嬢よ、ちゃんと大人になってやり切ってみせるわ」
「……何で急にそんな話に」
アンドレイが顔をしかめて言う。まだ照れてるのね!大丈夫、お姉ちゃんは分かっているから!
「貴方の姉貴分として、大丈夫か不安なのでしょう?安心して!」
「……そんな心配はしていない」
憮然として言われる。あら、本当に違うの?それはそれで寂しいような。
「……するのか?」
「え?何?」
「こ、こん、やく……するつもり、なのか?ルーエンと」
アンドレイが少し顔を赤くしながら聞いてくる。なんでアンドレイが照れるのかしら。お年頃?可愛くて揶揄ってしまいたくなるけれど、またケンカになりそうだから止めておく。
「まだ決めていないわ。だからお見合いなのよ。ルーエン様がわざわざ私なんて、ただ家と歳のバランスがいいからだろうし、私も結婚とか全く考えていなかったし。でも、ルーエン様の魔法省のお話も、ちょっとお聞きしたいし、いい経験になるかと思って」
「そう、なのか?……そうか、魔法省……」
アンドレイがホッと息を吐き、ぼそっと一人言る。
「恋もしてみたいし!これが出逢いだったらラッキーだし!」
私がそう言った瞬間、アンドレイがまた固い顔になる。え?!私まずいこと言ってないよね?
困ってリズを見ると、リズも苦笑して首を傾げる。護衛の人に至っては、横を向き、肩が少し震えている。な、何?
「あの、アンドレイ?」
「……お転婆が、何を夢みたいなこと言ってんの?」
「~~~!なっ、そんな言い…!」
「帰る」
私の反論の途中で、アンドレイは立ち上がってドアに向かう。ず、図星だけど腹立つ~!何なのよ、結局、わざわざ来て!
でもいいわ、きりがないし、私が大人になりますよ!姉貴分ですからね!
「お帰りの道中、お気をつけて。殿下」
笑顔で送り出すわよ!どうだ!!
「……歳が近いのは、ルーエンだけじゃないだろ」
アンドレイは私を一瞥して、ぼそっとそう言い残して帰って行った。
私は呆気に取られて、そのまま佇んだ。
「お嬢様……」
リズが遠慮がちに声を掛けてくる。
「ねぇ、リズ?アンドレイは何でわざわざあんな事を言い残して帰ったと思う?そりゃ、学園にはたくさん同級生のご令息はいるけれど。ルーエン様からして、って言う言葉が足らなかったかしら?」
後でフォローをするべきかしらと悩む私の横で。
「お嬢様………………」
と、リズが言葉を失い、残念な子を見るような目で見ていることには気付かなかった。
ただいまは夏休み中なので、私はせっせと自宅の研究室で魔法研究中!生活魔法を充実させたいと思っておりまして。聖女エマ様のアドバイスもあり、生活用魔法石なるものを作れたらと。自分の魔法属性に関係なく、魔力をちょっと込めたら水になる、とか。災害時とかにも良さそうでしょ?
なんて、偉そうに言いつつ、ただただ魔法の不思議が面白くて気になって、いろいろやりたくなっちゃうだけなんだけどさっ。
でもあれかな、お見合いもするし、少しは令嬢らしくとかもしないとかしら……。でも、研究は止められないなあ。まあ、いいか?年齢だけの理由かもしれないし?
……後で考えよう。
ともかく、長期休暇中なので、ますます研究が捗る……はずですが。
「なんでここに、王太子殿下が来るのよ?!」
実家の研究室は邪魔が入らず集中できるはずなのに!
「いいじゃん、幼馴染みだろ?昔はよく来たし。懐かしいな~。構わず研究続けなよ」
約束もなく訪れ、しれっと答えたのは、この国の(一応)王太子殿下のアンドレイ=グリーク様。
彼を案内してきたリズが部屋のドアを少し開けて、彼の護衛騎士と共にそっと出ていく。
「今、王太子の前に一応ってつけなかったか?」
「何を仰いますやら」
オホホと笑って誤魔化す。変なところに鋭い幼馴染みだ。
ちなみに、エマ様とこの王太子のお母上である王妃のローズマリー様は、我が国自慢の「二人の聖女」だ。魔法にもお詳しいし、いろいろなアイデアをお持ちのお二人なので、とても尊敬している。畏れ多くも、お二人共に私の研究にも協力的なのだ。
そして眼前に居られる、王太子殿下。見た目はお母様譲りのプラチナブロンドのサラサラヘアと、お父様譲りの海も真っ青な碧眼で、もちろん造形も整っていらして、ザ・王子様!!なんだけど。大勢の前では、きちんと王子様なんだけど。親しい人たちの前では、かなり自由なお人なのだ。
幼馴染みとして姉弟のようにしているが、自由過ぎて少々困る。私が言うのも何ですが。
「急に来られましても、何のおもてなしもできませんわよ、殿下」
一人で集中して研究を続けたい私は、暗に帰れと言ってみる。
「構わないよ。俺たちの仲だろ?それに最初に人をあんた呼ばわりしといて、今さら畏まるなよ。気持ち悪い。一緒に木登りして怒られたよな~、お転婆ダリシア。どうせ今も登ってるんだろ?」
うぐっ。
「そ、それは失礼しましたわ。でももう、お互いいい歳ですし。きちんと対応しませんと。き、木登りも封印致しますわ」
……ストレスが溜まったら分からないけれど。
「……何で?お見合いするから?」
何となくアンドレイ様の声が低くなった気がするけれど。まあいいかと会話を続ける。
「あら、ご存知でしたの?そうですわね、それもありますわ」
「だから、話し方。気持ち悪い」
ムスッとしてそっぽを向くアンドレイ様。子どもか。
それにしたって。
「気持ち悪い、気持ち悪い、って、レディに失礼ではなくて?」
私は少しイラッとする気持ちを押さえて、笑顔で言う。
「……また、その顔!気持ち悪いものは気持ち悪いんだから、仕方ないだろ?!」
その言葉に、私の薄~いガラスの令嬢猫被りは砕け散り、短すぎる導火線に火が点く。
ただでさえでも、研究を中断して相手をしていると言うのに!
「~~~人が優しく対応していれば!五歳児?五歳なの?!アンドレイ!」
「優しくなんて、頼んでないだろ?無駄美人が無理するなって言ってんの!!」
「はあ?!余計なお世話ですけれど?アンドレイこそ、そろそろ王太子らしくしたら?」
「俺は外ではちゃんとやってる!」
「ハイハイ、素敵な二重人格ですよね~」
「うわっ、腹立つ言い方!」
「人に散々言ってるくせに、文句言わないでよ」
もうこうなると、何だか子どものケンカだ。
すると。
「失礼致します、お茶をお持ち致しました」
収拾のつかなくなりそうな所で、リズがお茶を運んで来てくれた。ドアの前で聞いてくれていたのだろう。いつも助かる。
「リズ。ありがとう。いただくわ。……アンドレイも、良かったら」
「あ、ああ。いただこう」
リズが微笑みながら頷き、手際よくお茶の準備をしてくれる。その様子を見ながら、二人共に少し落ち着く。
私にとって、アンドレイは昔から可愛い弟分だったのだ。二人で城を抜け出して怒られたりとか、城に迷い込んだ猫を追いかけて泥だらけになって怒られたりとか、第二王子のサージュ殿下と三人で木登りをして、まだ小さかったサージュ様が木から降りられなくなって一緒に怒られたりとか。
……あれ、怒られてばっかりのような。まあ、でも楽しかった。二人で泣いて謝って、泣き疲れて一緒に寝て。
最近はどうにも言い合いのようになってしまう事が多い。私は、変わらず可愛くて大事な弟と思っているのだけれど、アンドレイはもう姉とは思ってくれていないのかな。あ!むしろお転婆だの無駄美人だの言われているような姉貴分が心配なのかもしれない。アンドレイは素直じゃないから、上手く言えなくて喧嘩腰になってしまうのでは?
お見合いの話も聞いたみたいだし、私が何かやらかすのが心配だったのかも。だからわざわざ侯爵領まで来てくれたんじゃない?
やだ、私ったら気付かずに、研究の邪魔と邪険にして。姉貴分として情けないわ。
研究は止められないと思うけれど、大人になると安心させないと。
「……アンドレイ、ごめんなさい。私ったら気付かないで」
「え?」
アンドレイが綺麗な所作でお茶を飲むのを止め、私の方を見る。
「私がお見合いすると聞いて、心配で来てくれたのでしょう?安心して?これでも侯爵令嬢よ、ちゃんと大人になってやり切ってみせるわ」
「……何で急にそんな話に」
アンドレイが顔をしかめて言う。まだ照れてるのね!大丈夫、お姉ちゃんは分かっているから!
「貴方の姉貴分として、大丈夫か不安なのでしょう?安心して!」
「……そんな心配はしていない」
憮然として言われる。あら、本当に違うの?それはそれで寂しいような。
「……するのか?」
「え?何?」
「こ、こん、やく……するつもり、なのか?ルーエンと」
アンドレイが少し顔を赤くしながら聞いてくる。なんでアンドレイが照れるのかしら。お年頃?可愛くて揶揄ってしまいたくなるけれど、またケンカになりそうだから止めておく。
「まだ決めていないわ。だからお見合いなのよ。ルーエン様がわざわざ私なんて、ただ家と歳のバランスがいいからだろうし、私も結婚とか全く考えていなかったし。でも、ルーエン様の魔法省のお話も、ちょっとお聞きしたいし、いい経験になるかと思って」
「そう、なのか?……そうか、魔法省……」
アンドレイがホッと息を吐き、ぼそっと一人言る。
「恋もしてみたいし!これが出逢いだったらラッキーだし!」
私がそう言った瞬間、アンドレイがまた固い顔になる。え?!私まずいこと言ってないよね?
困ってリズを見ると、リズも苦笑して首を傾げる。護衛の人に至っては、横を向き、肩が少し震えている。な、何?
「あの、アンドレイ?」
「……お転婆が、何を夢みたいなこと言ってんの?」
「~~~!なっ、そんな言い…!」
「帰る」
私の反論の途中で、アンドレイは立ち上がってドアに向かう。ず、図星だけど腹立つ~!何なのよ、結局、わざわざ来て!
でもいいわ、きりがないし、私が大人になりますよ!姉貴分ですからね!
「お帰りの道中、お気をつけて。殿下」
笑顔で送り出すわよ!どうだ!!
「……歳が近いのは、ルーエンだけじゃないだろ」
アンドレイは私を一瞥して、ぼそっとそう言い残して帰って行った。
私は呆気に取られて、そのまま佇んだ。
「お嬢様……」
リズが遠慮がちに声を掛けてくる。
「ねぇ、リズ?アンドレイは何でわざわざあんな事を言い残して帰ったと思う?そりゃ、学園にはたくさん同級生のご令息はいるけれど。ルーエン様からして、って言う言葉が足らなかったかしら?」
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