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それから

13.王城での女子会

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視察から王都に戻って三日後。


今日は王城へ、フリーダに会いに行く。

フォンス様から聞いた後、私はすぐにルト様とフリーダに手紙を送った。フリーダからは気丈な返事が届いたけれど、ルト様によると、気丈に振る舞っているのが痛々しいと書かれていた。普段から快活な彼女の頑張りが目に浮かぶ。


「それにしても、あのクズ……。いつまでもやらかしてくれるわよね」

「まったくです」

王城へ向かう馬車の中で、今日も一緒のシスとぼやく。

「でも、手土産にフリーダの大好きなスイーツも持ったし!少しでも元気になってくれたらいいなあ」

王都で一番の人気店のアップルパイ!!今朝私が並んで買いに……行きたかったけど、もちろん家からお許しが出ず。シスが並んで買ってきてくれたのだ。公爵家の名前で届けさせるのは簡単だけど、町の皆も楽しみに待っているのだから、ね。権力は他で使う所存。

「きっと喜んでいただけますよ」

「シス、私のワガママに付き合ってくれてありがとう」

「とんでもないことでございます。お嬢様のお気持ちは、認識しているつもりですから」

シスが目を細めて優しく微笑んでくれる。自分の理解者が、側で見守ってくれる幸せ。つい甘えてしまう。そしてその甘えられる幸せったらないわよね。

「あ~、どこかにシスみたいな男性がいないかなあ。シスみたいな人と結婚したいなあ」

「分かりました、お嬢様」

「え?」

「ハルマンとは直ぐに婚約解消致します!ぜひ私と結婚致しましょう」

私の甘えた言葉に、私の両手を握りながら、真顔でシスが返してくる。め、目が本気に見える!

宝塚の男役さんのようなシスからそんなんされると、変にドキドキしちゃう……けどっ! 

「やめて!そんな可哀想なことをしないで!!例え!例えだし、シスは大好きだし理想だけど、同姓婚も否定はしないけど、そこはシス似の男性でお願いします!」

私のしどろもどろなセリフに「残念です」と言いながら、シスは嬉しそうに笑っている。「お嬢様からの大好き……やはり至福」と、ぼそっと言った一言は聞き取れなかったけれど。ハルマン様の危機は回避できたわよね。可哀想なことをするところだったわ。


なんて、シスとわちゃわちゃしているうちに、馬車はお城に到着した。






「リア姉様!本日はありがとうございます」

「フリーダ。こちらこそ、ご招待ありがとう。手土産にルブランのアップルパイを持って来たわよ。後でいただきましょう」

「わあ!ありがとうございます!楽しみです」

今回は、フリーダの私室にてのお茶会だ。フリーダたっての希望もあり、シスもフリーダ専属侍女のリンさんも共にテーブルを囲む。気心の知れた人たちと、気軽に女子会をしたいらしい。

フリーダの部屋は、レースとふわふわがたっぷりの可愛いお部屋だ。でも下品ではなく王女らしく纏まっている。

「フリーダのお部屋は相変わらず可愛いわね」

「……少女趣味でしょう?」

フリーダは少し上目遣いで、恥ずかしそうに言う。

「そんなことないわ。綺麗に纏まっていて、可愛らしいフリーダに似合っているわ」

「ありがとうございます。……実は、前世から憧れていたのです」

フリーダははにかんだ笑顔で話し出す。なんでも、前世ではキツめの顔立ちだったので似合わなかったと。

「リア姉様は似合っていたでしょう?羨ましかったのよ」

「確かにお嬢様はお似合いでしたよね。でも、ご本人は……」

「ごめんね、好きではなかったの。私はシスやリカちゃんのように、シュッとしたスレンダーでカッコいい女性に憧れていたわ。全く似合わないので諦めたけど……」

そう、一度憧れのスタイルを試してみたら、悠希斗に「いや、無理すんなよ」と真顔で止められたのよね。あ、目から汗が。


「目から汗って、姉様、面白いわ」

フリーダがクスクスと笑う。良かった、笑顔だ。

「あら、声に出てた?」

「それに私を……」

「あ、本当だ!思い出したわ、リカちゃん!私と正反対のカッコいい子だったわよね!羨ましかったのも思い出したわよ~!今生は真逆な感じで二度楽しくていいわね!」

「思い、出して……」

「え~、何で私は今回もちんまりタイプなの?どうせならシスとかリカちゃんみたいに生まれたかった!!記憶がなかったからかなあ……」

「お嬢様、若干支離滅裂ですよ」

「だってぇ~」

「お嬢様はお可愛らしくて、それでいいのです」

「え~、でもでも……って、フリーダ?!どうしたの?ごめん、なんだか嫌だった?」

シスと私が不毛な言い合いをしていると、フリーダが泣き出していた。リンさんが、フリーダの背を優しく微笑みながら優しくなでている。

「ちが、ごめんなさい、思い、出してもらえて、うれ、しくて……でも、やっぱりごめんなさい。嫌な事も思い出し、ましたよね……?」

「そんなことないわ。憧れていたのは、お互い様だったのね?何だか嬉しいわ」

「わた、し、なんかに……!」

情けないようだけれど、いつだって隣の芝生は青く見えるし、無い物ねだりだってしてしまうのが人間だ。自分の持ってるもので頑張るぞ!と気合いを入れても、他人が眩しく見えることなんてザラにある。

私だってそんなものだと言えば、フリーダは更に泣き続けた。子どものように泣きじゃくる彼女に、リンさんがずっと寄り添っていた。

そして、彼女はポツリポツリと、ロイエに会い行った時の話をしてくれた。私達の話を聞いても、まだどこかで変な罪滅ぼしの気持ちで、私とロイエがやり直す道を探せないかと思っていたこと。……そして、あわよくばロイエが自分を思い出して、気持ちを戻してくれるかもしれないと期待していた嫌な自分もいた、とも、正直に話してくれた。

「結果は惨憺たるものでしたが……。ようやく、目が覚めました。私も姉様みたいに、きちんと前に進みます」

フリーダが、憑き物が落ちたような爽やかな笑顔でそう言った。


ようやく、本当に解放された感じなのかな。


だったら嬉しいな。

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