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そして
11.さすが私のお嬢様(アネシス視点)
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殿下のパーティーから三ヶ月後。お嬢様とグレイさんは、晴れて婚約されました。
家格の差はあるものの、ヘンドラー家が大商会であること、グレイさんが有望な跡取りであること、そして何より彼の真面目さと誠実さが決め手となり、旦那様もお嬢様の嫁入りを認めたのでございます。
もっとも、数年もすれば、王女殿下が降家される予定のアウダーシア家です。バランス的にもちょうどいいというところも否めませんが。
私にとっては些事な事。お嬢様が心から大切に思える方と結ばれたことが、何より嬉しくて大事なことなのでございます。
殿下の誕生パーティーですか?恙無く終了しましたよ。
ふふっ、お嬢様にエスコートを申し込んだ日、あの日のグレイさんは私が思い出しても笑ってしまうくらいでしたけれど。
お嬢様のお返事の後……。
「……えっ、どういうことですか」
ご自分で申し込んでおきながら、お嬢様のイエスの返事に支離滅裂気味になられていました。
「どう、とは?グレイさんは、私にエスコートを申し込んで下さったのですよね?」
「そう、です。そう、ですけど……お願いします?」
「はい。エスコート、お願いいたします」
再度、お嬢様の天使の笑顔で肯定されたグレイさんの目は、極限まで開かれていました。人間て、どうして驚き過ぎると固まってしまうのでしょうね。
「おねがい……」グレイさん何度か言葉を繰り返し、ようやく頭に言葉が届いたようで、その後は今までで一番赤い顔をされていました。
「……俺なんかで、よろしいのですか」
「グレイさんがいいのです」
グレイさん、動揺から一人称が俺になってます。そして、お嬢様の真っ直ぐな言葉を受けて、天を仰がれました。気持ちは分かりますよ。
そんなこんなで、お二人は少しずつ距離を縮め、めでたく婚約の運びとなりました。
もちろん、エスコートが決まった後にすぐ、お嬢様は殿下とフォンス様にそれぞれお会いになり、きちんとお断りとお礼をされました。グレイさんも共に行きますと申し出てくれたようですが、一人で二人ときちんと向き合いたいと、二人に対する誠意だからと、お一人できちんと話をされました。
「今生では、私、自分を大事にするって決めたの。自分を大事にできないと、周りの人も大事にできないもんね?……ルト様とフォンス様も、形は違うけれど、大事な人たちだもの。ちゃんとしなくちゃね」
と。さすが私のお嬢様。
お二人とも、とてもショックでしたでしょうが、笑顔でお嬢様を祝福されました。この辺りはさすがでございます。
それぞれお話をされた後、お嬢様はしばらく落ち込まれていました。お断りするのも勇気がいるものなのです。お相手が真剣であれば、尚更に。お二人とは長いお付き合いでしたから、余計にでございましょう。
ルトハルト殿下もフォンス様も、魅力的な殿方であることに否やはございません。お嬢様に対しても真摯であられた。けれど、ルト様はスタートが失敗だったのでは、と、フォンス様はやはりあのクズと共通点が多いことが敗因だったのではと私は愚考しております。
ルト様は、最初にあのクズにお嬢様を譲るべきではなかったのです、きっと。優しさとも言えるかもしれないそれは、諸刃の剣です。だって、また大事な友人にお嬢様が欲しいと言われたら?まさか婚約者をホイホイ譲ったりはされないでしょうが、優しすぎる不安、とでも申しましょうか。
フォンス様は、陰で姑息な事などはされない方と思いますが、ソツが無さすぎて不安を感じたのかもしれません。お嬢様の為にお仕事のひとつを辞退されたのはすごい事ですが……。
とはいえ、これは対お嬢様として私が勝手に分析しているだけでございます。お二人ともに素敵な方たちですので、今後の良き出会いをお祈りする次第です。
「「リアを泣かせたら、分かってるよね?」」
と、グレイさんはお二人に釘を刺されたようですが。
更に言えば、
「分かってると思うけど、グレイ殿はおかしなことはしないよね?」
と、カルム様からも一言あったようですが。
幸せ者ならではの出来事ですからね。仕方ありません。
そして。
「シャル、今度の長期休暇は隣国に行かないか?シャルの事業の参考にもなると思うし」
「いいわね、楽しみ!」
今、春の花の咲き誇るアウダーシア家のガゼボでは、仲睦まじいお二人がお茶会をしております。
始めの頃は、お嬢様の名前を呼ぶ度に赤面していたグレイさんも、今ではすっかり愛称呼びです。他の人が呼んでいない呼び方がいいとのことで、このようになったようでございます。ハイハイ、ですね。彼の表情も、だいぶ柔らかくなりました。その変わりぶりに、「さすが、愛の力か……」とは、アーロン様達の談。彼らの『シャルリア様を愛でる会』もお二人をほのぼのと見守っておられます。
そうそう、アズさんもこの展開にかなり驚かれたようですが、とても喜んでいました。「シャルリア様が近くなる~!ファンクラブ、ますます盛り上げます!!」とのことでした。私も名誉会長として邁進するつもりでございます。
お嬢様が穏やかに笑っておられる。まさに眼福なひとときです。
……どんなに強がってみせても、信じていた人間から裏切られるということは、とてもとても辛いこと。それが、想っていた人なら、尚更に次の一歩に響くものです。
きっと、グレイさんの良くも悪くも真っ直ぐさが、無自覚にもお嬢様の琴線に触れたのでしょう。彼なら、きっと大丈夫。お嬢様を安心して任せられます。
怖がりながらも、一歩を踏み出したお嬢様。さすが私のお嬢様です。
これからも、貴女の侍女として……いえ、数年後には乳母になれるでしょうか?
あと数ヶ月で生まれてくるこの子と、楽しみに待っている次第でございます。
家格の差はあるものの、ヘンドラー家が大商会であること、グレイさんが有望な跡取りであること、そして何より彼の真面目さと誠実さが決め手となり、旦那様もお嬢様の嫁入りを認めたのでございます。
もっとも、数年もすれば、王女殿下が降家される予定のアウダーシア家です。バランス的にもちょうどいいというところも否めませんが。
私にとっては些事な事。お嬢様が心から大切に思える方と結ばれたことが、何より嬉しくて大事なことなのでございます。
殿下の誕生パーティーですか?恙無く終了しましたよ。
ふふっ、お嬢様にエスコートを申し込んだ日、あの日のグレイさんは私が思い出しても笑ってしまうくらいでしたけれど。
お嬢様のお返事の後……。
「……えっ、どういうことですか」
ご自分で申し込んでおきながら、お嬢様のイエスの返事に支離滅裂気味になられていました。
「どう、とは?グレイさんは、私にエスコートを申し込んで下さったのですよね?」
「そう、です。そう、ですけど……お願いします?」
「はい。エスコート、お願いいたします」
再度、お嬢様の天使の笑顔で肯定されたグレイさんの目は、極限まで開かれていました。人間て、どうして驚き過ぎると固まってしまうのでしょうね。
「おねがい……」グレイさん何度か言葉を繰り返し、ようやく頭に言葉が届いたようで、その後は今までで一番赤い顔をされていました。
「……俺なんかで、よろしいのですか」
「グレイさんがいいのです」
グレイさん、動揺から一人称が俺になってます。そして、お嬢様の真っ直ぐな言葉を受けて、天を仰がれました。気持ちは分かりますよ。
そんなこんなで、お二人は少しずつ距離を縮め、めでたく婚約の運びとなりました。
もちろん、エスコートが決まった後にすぐ、お嬢様は殿下とフォンス様にそれぞれお会いになり、きちんとお断りとお礼をされました。グレイさんも共に行きますと申し出てくれたようですが、一人で二人ときちんと向き合いたいと、二人に対する誠意だからと、お一人できちんと話をされました。
「今生では、私、自分を大事にするって決めたの。自分を大事にできないと、周りの人も大事にできないもんね?……ルト様とフォンス様も、形は違うけれど、大事な人たちだもの。ちゃんとしなくちゃね」
と。さすが私のお嬢様。
お二人とも、とてもショックでしたでしょうが、笑顔でお嬢様を祝福されました。この辺りはさすがでございます。
それぞれお話をされた後、お嬢様はしばらく落ち込まれていました。お断りするのも勇気がいるものなのです。お相手が真剣であれば、尚更に。お二人とは長いお付き合いでしたから、余計にでございましょう。
ルトハルト殿下もフォンス様も、魅力的な殿方であることに否やはございません。お嬢様に対しても真摯であられた。けれど、ルト様はスタートが失敗だったのでは、と、フォンス様はやはりあのクズと共通点が多いことが敗因だったのではと私は愚考しております。
ルト様は、最初にあのクズにお嬢様を譲るべきではなかったのです、きっと。優しさとも言えるかもしれないそれは、諸刃の剣です。だって、また大事な友人にお嬢様が欲しいと言われたら?まさか婚約者をホイホイ譲ったりはされないでしょうが、優しすぎる不安、とでも申しましょうか。
フォンス様は、陰で姑息な事などはされない方と思いますが、ソツが無さすぎて不安を感じたのかもしれません。お嬢様の為にお仕事のひとつを辞退されたのはすごい事ですが……。
とはいえ、これは対お嬢様として私が勝手に分析しているだけでございます。お二人ともに素敵な方たちですので、今後の良き出会いをお祈りする次第です。
「「リアを泣かせたら、分かってるよね?」」
と、グレイさんはお二人に釘を刺されたようですが。
更に言えば、
「分かってると思うけど、グレイ殿はおかしなことはしないよね?」
と、カルム様からも一言あったようですが。
幸せ者ならではの出来事ですからね。仕方ありません。
そして。
「シャル、今度の長期休暇は隣国に行かないか?シャルの事業の参考にもなると思うし」
「いいわね、楽しみ!」
今、春の花の咲き誇るアウダーシア家のガゼボでは、仲睦まじいお二人がお茶会をしております。
始めの頃は、お嬢様の名前を呼ぶ度に赤面していたグレイさんも、今ではすっかり愛称呼びです。他の人が呼んでいない呼び方がいいとのことで、このようになったようでございます。ハイハイ、ですね。彼の表情も、だいぶ柔らかくなりました。その変わりぶりに、「さすが、愛の力か……」とは、アーロン様達の談。彼らの『シャルリア様を愛でる会』もお二人をほのぼのと見守っておられます。
そうそう、アズさんもこの展開にかなり驚かれたようですが、とても喜んでいました。「シャルリア様が近くなる~!ファンクラブ、ますます盛り上げます!!」とのことでした。私も名誉会長として邁進するつもりでございます。
お嬢様が穏やかに笑っておられる。まさに眼福なひとときです。
……どんなに強がってみせても、信じていた人間から裏切られるということは、とてもとても辛いこと。それが、想っていた人なら、尚更に次の一歩に響くものです。
きっと、グレイさんの良くも悪くも真っ直ぐさが、無自覚にもお嬢様の琴線に触れたのでしょう。彼なら、きっと大丈夫。お嬢様を安心して任せられます。
怖がりながらも、一歩を踏み出したお嬢様。さすが私のお嬢様です。
これからも、貴女の侍女として……いえ、数年後には乳母になれるでしょうか?
あと数ヶ月で生まれてくるこの子と、楽しみに待っている次第でございます。
応援ありがとうございます!
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続編ありがとうございます。なんだか記憶持ちが増えてる様ですね。更新を楽しみにしてます。頑張れぇ
螺さん、引き続きの応援、ありがとうございます!
とても励みになります!!
で、どうでしょう?笑
少しでも楽しんでいただけたらいいのですが……。ドキドキです。頑張ります!
早くも恋愛がどこまで絡められるか不安なのですが(^^;うん、頑張ります!
記憶持ちもお楽しみにしてくださいませ!
面白かったです。でも続編あったら嬉しいな。強い女の子はカッコいいね。お気に入りにしたので、また読ませていただきます。
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強い女の子、憧れなので嬉しいです(*^^*)楽しんでいただけて良かった(*^^*)
続編ご希望もありがとうございます~!
実は自分でも終わった後に、恋愛タグにしたものの、恋愛少なかった……?大丈夫かな……?と思ったので、新たな出会いでも書けたらいいかな?とも考えております!
少々お時間くださいませ!
おバカなロイエがむかつくけど可愛い。
リアはふっきれてると思うし
ロイエがどうまとわりついていくのか楽しみです!
感想ありがとうございます!
ロイエを可愛く思うのは危険です!気をつけて!笑
まあ、これ以上の害はない奴なのですが。多分。これからまだちょっと絡みます。見届けてあげてくださいませ。
更新、もう少々お待ちくださいませ~!