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第三章 建国祭と学園と
44.エレナ=グリッタとグローリア=エクスシス
「エレナ、学園は慣れまして?わたくしも来年からだから、楽しみだわ」
「ええ、恙無く過ごしていますわ。グローリア様の入学がわたくしも楽しみよ」
学園の夏季休暇に入り、私、エレナ=グリッタは寄親であるエクスシス家のグローリア様の招待を受け、公爵家自慢のサロンでお茶をいただいている。
「もう、エレナ。わたくしにも様はつけなくて構わないと言っているじゃない」
ひとつ年下とは言えど、公爵家のお姫様で王太子殿下の婚約者候補、優雅で更には青色魔力もある、完璧なご令嬢。砕けた話し方は許されているけれど、敬称は外せずにいる。だって。
「わたくしのような半端者が、グローリア様にそこまで馴れ馴れしくは……」
「まあ!エレナは半端者などではなくてよ?……またお父上?困ったものね」
「……わたくしが力及ばずですもの、仕方がないわ」
私は力なく微笑む。……ちゃんと笑えているだろうか。
「エレナだって学園に入学できたじゃない!成績だって優秀じゃないの!常に上位5人に入っているのだから」
「……それでも、常にトップである異母兄には敵わないので」
「エレナ」
「それでも!未来の王太子妃のグローリア様の支えになれるよう、努力するわ」
そう、みっつ年上の兄の母と私と弟の母は違う。兄の母は、兄の出産後の産後の肥立ちが良くなく、儚くなってしまったのだ。彼女は父の学園の同級生で、金髪碧眼の優秀な伯爵家のご令嬢だった。お互いに青色魔力で切磋琢磨したと、さすが自分たちの子どもだと、兄を褒めながら私たちの前でもよく話す。
翻って、私たち姉弟はと続くのだ。
私と弟の母は子爵家だ。父は先妻が亡くなり、喪が明けてすぐの再婚に難色を示したらしいけど、お祖父様に押し切られた。タイミングも、侯爵家に子爵家の嫁が来ることも、母の緑色の魔力量も、地味な水色の髪も瞳も、父は何もかもがお気に召さなかったようだ。緑色だって、平均よりは上なのに。そして、青色魔力に届かなかった私たちを、兄が先妻にそっくりなのと相まって、出来損ないと扱う。私たちの地味な紺色の瞳は、不本意ながら貴方似なんですけどね。
父の言葉に、母は申し訳ございませんとひたすら謝り、父がいない所で私たちにもごめんねと謝る。震えながら抱きしめられて、いつも考える。母の何が悪いのか。
兄も悪い人ではない。私たちをかばう発言をしても、父が結局兄を持ち上げて更に私たちを下げてくるので、困った顔をして何も言わなくなっただけ。兄だってまだ学生だし、何かしてほしいとは思っていない。
「エレナ。下を向かないで。わたくしが王太子妃になった暁には、侍女になってくれるのでしょう?」
「グローリア様」
「わたくし、絶対にフィス様の隣に立ってみせますわ。公女として、あんなやる気のないポッと出の侯爵姉妹になど、負けませんから安心なさいな」
「はい。わたくしも、力が及ぶかぎりお手伝いをしますわ」
サバンズ侯爵家の姉妹。うちと似たような境遇なのに、なぜか眩しい彼女たち。その強すぎる光に、自分の影が更に濃くなったような心地さえしてしまう。
「わたくしからいわせれば、グローリア様の方が聖女にふさわしいと思うわ。お立場的にも」
「あら、それは陛下に不敬よ、エレナ。……でも、あの方、まだ聖魔法を使えていないのでしょう?」
「失礼しました。でも、そうなの、他にいらっしゃると考えるのもおかしくはないでしょう?」
「まあ。ここだけの話にしておくわね。でも、そうね。未来の国母であれるよう、鍛練はかかさないわ」
「さすがグローリア様」
「そうそう、それにね、3日後久しぶりにフィス様とお会いできるのよ!今から楽しみで」
キラキラとした未来を疑わないグローリア様。
学園での殿下とマリーアを見ていないからだ。二人は否定しているけれど、あの気安さには不安を掻き立てられる。
私には、なぜできないのだろう。
違う、今はグローリア様よ。殿下はみんなの憧れの人。グローリア様が妃になれば、私も侍女として近くにいることができる。そうすれば、あのお茶会で2番テーブルにしか座れなかった私も、お父様にきっと認めてもらえる。エクスシス家の寄子みんなも安泰だ。
だから、私は。
かわいいあの子に貰った、この願いが叶うブレスレットに今日も魔力をそっと注ぐ。不思議な魔石が散りばめられた、珍しいブレスレット。
『力がほとんどない魔石なんですけど、毎日少しずつ魔力を注いであげると、だんだんと色が変わるのですって!そして壊れたら願いが叶うとか』
『まあ!でも壊れてしまうのは何だか残念だわ。せっかくのお土産なのに』
『エレナ姉様の願いが叶うなら、全然!お土産はこれからもいくらでもですから!』
そんなおまじないのようなもの、心から信じている訳ではない。けれど、あの子の心遣いに支えられているのも、どこか縋る気持ちがあることも確かで。
いつか……そう、いつか。
願いが、叶いますように。
「ええ、恙無く過ごしていますわ。グローリア様の入学がわたくしも楽しみよ」
学園の夏季休暇に入り、私、エレナ=グリッタは寄親であるエクスシス家のグローリア様の招待を受け、公爵家自慢のサロンでお茶をいただいている。
「もう、エレナ。わたくしにも様はつけなくて構わないと言っているじゃない」
ひとつ年下とは言えど、公爵家のお姫様で王太子殿下の婚約者候補、優雅で更には青色魔力もある、完璧なご令嬢。砕けた話し方は許されているけれど、敬称は外せずにいる。だって。
「わたくしのような半端者が、グローリア様にそこまで馴れ馴れしくは……」
「まあ!エレナは半端者などではなくてよ?……またお父上?困ったものね」
「……わたくしが力及ばずですもの、仕方がないわ」
私は力なく微笑む。……ちゃんと笑えているだろうか。
「エレナだって学園に入学できたじゃない!成績だって優秀じゃないの!常に上位5人に入っているのだから」
「……それでも、常にトップである異母兄には敵わないので」
「エレナ」
「それでも!未来の王太子妃のグローリア様の支えになれるよう、努力するわ」
そう、みっつ年上の兄の母と私と弟の母は違う。兄の母は、兄の出産後の産後の肥立ちが良くなく、儚くなってしまったのだ。彼女は父の学園の同級生で、金髪碧眼の優秀な伯爵家のご令嬢だった。お互いに青色魔力で切磋琢磨したと、さすが自分たちの子どもだと、兄を褒めながら私たちの前でもよく話す。
翻って、私たち姉弟はと続くのだ。
私と弟の母は子爵家だ。父は先妻が亡くなり、喪が明けてすぐの再婚に難色を示したらしいけど、お祖父様に押し切られた。タイミングも、侯爵家に子爵家の嫁が来ることも、母の緑色の魔力量も、地味な水色の髪も瞳も、父は何もかもがお気に召さなかったようだ。緑色だって、平均よりは上なのに。そして、青色魔力に届かなかった私たちを、兄が先妻にそっくりなのと相まって、出来損ないと扱う。私たちの地味な紺色の瞳は、不本意ながら貴方似なんですけどね。
父の言葉に、母は申し訳ございませんとひたすら謝り、父がいない所で私たちにもごめんねと謝る。震えながら抱きしめられて、いつも考える。母の何が悪いのか。
兄も悪い人ではない。私たちをかばう発言をしても、父が結局兄を持ち上げて更に私たちを下げてくるので、困った顔をして何も言わなくなっただけ。兄だってまだ学生だし、何かしてほしいとは思っていない。
「エレナ。下を向かないで。わたくしが王太子妃になった暁には、侍女になってくれるのでしょう?」
「グローリア様」
「わたくし、絶対にフィス様の隣に立ってみせますわ。公女として、あんなやる気のないポッと出の侯爵姉妹になど、負けませんから安心なさいな」
「はい。わたくしも、力が及ぶかぎりお手伝いをしますわ」
サバンズ侯爵家の姉妹。うちと似たような境遇なのに、なぜか眩しい彼女たち。その強すぎる光に、自分の影が更に濃くなったような心地さえしてしまう。
「わたくしからいわせれば、グローリア様の方が聖女にふさわしいと思うわ。お立場的にも」
「あら、それは陛下に不敬よ、エレナ。……でも、あの方、まだ聖魔法を使えていないのでしょう?」
「失礼しました。でも、そうなの、他にいらっしゃると考えるのもおかしくはないでしょう?」
「まあ。ここだけの話にしておくわね。でも、そうね。未来の国母であれるよう、鍛練はかかさないわ」
「さすがグローリア様」
「そうそう、それにね、3日後久しぶりにフィス様とお会いできるのよ!今から楽しみで」
キラキラとした未来を疑わないグローリア様。
学園での殿下とマリーアを見ていないからだ。二人は否定しているけれど、あの気安さには不安を掻き立てられる。
私には、なぜできないのだろう。
違う、今はグローリア様よ。殿下はみんなの憧れの人。グローリア様が妃になれば、私も侍女として近くにいることができる。そうすれば、あのお茶会で2番テーブルにしか座れなかった私も、お父様にきっと認めてもらえる。エクスシス家の寄子みんなも安泰だ。
だから、私は。
かわいいあの子に貰った、この願いが叶うブレスレットに今日も魔力をそっと注ぐ。不思議な魔石が散りばめられた、珍しいブレスレット。
『力がほとんどない魔石なんですけど、毎日少しずつ魔力を注いであげると、だんだんと色が変わるのですって!そして壊れたら願いが叶うとか』
『まあ!でも壊れてしまうのは何だか残念だわ。せっかくのお土産なのに』
『エレナ姉様の願いが叶うなら、全然!お土産はこれからもいくらでもですから!』
そんなおまじないのようなもの、心から信じている訳ではない。けれど、あの子の心遣いに支えられているのも、どこか縋る気持ちがあることも確かで。
いつか……そう、いつか。
願いが、叶いますように。
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