世界は節目を迎えました

零時

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第二章 外の景色

三十一話 脱出

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 僕らは来た時の車に乗って壁を出た。あそこにはもう誰もいない。唯一、精神崩壊したKY、プリンにボコられた2人それと僕とプリンの5人だけが車に乗っている。と言っても内3人は意識がない。
 おそらく消えた人たちはあの芋虫に食われたんだろう。
 芋虫は緑の体液をまき散らすと、間もなく動かなくなった。正体はよくわからない、死体はプリンがすぐ燃やしてしまったのだ。

 「どこに向かってるんだ?」
 「安全な場所だ。こんな所よりもずっとな」

 プリンは、なれた風にハンドルを緩く握り軽快に答える。
 車は壁からひたすらまっすぐに進んでいて、適当に走っているとしか思えない。

 「それは別の壁ってことか?どれくらいでつく?」
 「そうだな、正確には分からないが遠くは無いと思うぞ」
 「あー、いっそのこと元の壁に帰りたいんだよ。もう目的も果たせないだろ?そろそろ元の壁に返してくれないか」 
 「安心しろって近いから、な」
 「それは答えになってないだろ!?」

 車が大きな衝撃を受け両の右車輪が一瞬浮いた。
 プリンが並外れたドライブテクニックで車をドリフトさせどうにか車を安全に停止させる。衝撃で後部座席の気絶3人組はもみくちゃだ。現代アートと化している。
 
 「あいつは…ちがうな。まあ近くにいるっぽいな」

 車から降りたプリンが何かを見てそうつぶやくと、現代アートから解き放ったばかりの先行隊員二人を乱暴に担ぐ。
 
 「不死身!!早くその馬鹿かかえて逃げるぞ!」
 「逃げるって何からだよ!」
 「お前あれが目に入ってないのか!早くしろ!!」

 KYを担ぎつつ目をプリンが指さしている方向に向けると壁の中にいた真っ黒い巨大な芋虫がいた。芋虫は動きを止め首を上げてこちらをじっと観察しているようだった。
 
 「あいつが動いたら終わりだ。さっきの衝撃で車も使えなくなった。走るぞ!!」

 プリンの声にしたがって足にめいっぱい力を込めて動かす。それでもKYを担いでいるせいで遅い。今芋虫が動き出したらあっという間に追いつかれてしまう。
 
 「いや待てよ!あいつお前がさっき殺したろ!なんで…」
 「いいから走れ!!説明は後でする!!」
 
 そうプリンが叫ぶと同時に芋虫は動き出す。その距離は二人のダッシュがハンデだとでもいうように、芋虫は異常な速さで這いすぐ近くまで迫る。
 
 「そいつを下ろせ!!」
 「は!?何言ってるんだよ!!見捨てろって言ってんのか!!」
 「いいから早くしろ!!」
 「だめだ!!」

 僕が強く拒むとすぐそこにいた芋虫が大口を開けて僕を飲み込もうとする。その口の中に再度暗闇を目撃した。やっぱりこれに食われたら終わりなようだ…。
 生存をあきらめたその時不死身の頭上を何かが通り過ぎ芋虫にドンッと当たった。思いのほか強烈だったようで、芋虫はそのまま勢いに任せて倒れる。

 プリンが何かを当てたようだ。倒れる芋虫に背を向け距離を取る。プリンも僕が追い付く辺りで止めてた足を動かし始める。

 「助かった。ありがとな」
 「おう」

 と言葉を交わして気づく。
 
 「プリン、おまえもう一人はどうした?」

 プリンの左肩には先ほどまで担がれていた先行隊の一人がいなかった。
 走ってるうちに落としたか!?それなら普通気づくだろ。ならどうして…

 プリンは口を開かなかった代わりに瞳が一点を見つめている。
 走りながらでぶれるがそれは僕らが走ってきた方向。
 目に映った芋虫に足まで飲み込まれつつある人間の姿だった。先行隊員その1だった。

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