異世界転生だけはやめてくれ! ~女神たちが俺を全力で殺りに来る件~

彗星無視

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前日譚は騒がしく

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——それは、一対のトラックだった。
 昼下がり、赤梁あかはりレンがバイト先のファミレスを出て横断歩道に踏み出そうとした瞬間、無人のトラックがレンを轢殺せんと向かってくる。
 それも左右両方からだ。白い車体が迫る壁のように、車線も信号も法定速度も無視して突っ込んでくる。

「——来たか!」

 黒い髪に特別高くもなければ低くもない背丈、強いて特徴を挙げるならば表情に馴染んで張り付く、畜生系サラリーマンのような濃い疲労の色だろうか。しかし彼、レンは全身に満ち満ちたバイト直後の疲れを押し、直感に従って素早くカカッと後ろへ跳んだ。
 派手にトラック同士が衝突し、音を立て双方の外装が割れ車体がひしゃげる。なにもしなければレンはそれらに挟まれ、サンドイッチの具になっていただろう。それもケチャップ多めの。

「ああ惜しい、バイト終わりなのに油断しないんだから! レンさんってばっ」
「お前の手は読めてるんだよ、ヴェレーナ……!」

 パラパラと微かに音を立てる、無残なトラック二つ。運転席には誰もいない。
 その上にひょい、と現れて顔を見せたのは真っ白い髪をなびかせる、マリンブルーの瞳をした美麗な若い容姿の女性だった。

「まさか四日もわたしの転生攻撃をかわし続けるだなんて思わなかったわ。果ては奥義、デストラックデスサンドまで……流石は勇者と言ったところね」
「なにが転生攻撃だ、やってることは人殺し一歩手前じゃねーか! だいたい勇者なんて言われても困るんだよっ。あとお前の奥義は世界で一番悪趣味だと思う、デスが二つも入ってるし……」

 ヴェレーナ。そう呼ばれた彼女はため息交じりにトラックから体を離し、そのままふわふわと宙を漂う。
 その浮世離れした容姿といい、重力に囚われない不可思議といい、見てわかる通り彼女はただの人間ではない。
 四日も前からレンを突け狙う、異世界の女神。その一人だった。

「待ちなさいヴェレーナ、レン様はわたくしが転生させます! 彼の身柄は我がレッドアーカディアのためにあるのです!」

 ヴェレーナの後ろから、また一人の女性が宙を舞って現れる。金糸のような艶めく黄金の髪に、熾火を込めた深紅の瞳。身長はヴェレーナと変わらないが、その胸は彼女よりもずっと豊満なのがドレスに似た服の上から容易に見て取れた。
 名をステラ。近頃ヴェレーナと同じくレンを殺害しようとする、二人目の女神だ。

「お覚悟ください、レン様! はああぁぁぁ——!」
「ちょ、待っ」
「せいっ!」

 ステラのすらりとした腕の先、手のひらに赤い力が収束していく。それは彼女の瞳にも似た煌めきを発し、内に炎を秘めつつ球状となり、回転を伴いながら撃ち放たれた。

「あぶねええぇ——っ!」

 一目散に顔面に向かってくる赤い球体を、ドッヂボールのようになんとか身をかがめて回避する。対象を外した火球はそのまま慣性に従って地面にぶつかると、ごうっと音を立てて爆発した。
 吹きすさぶ熱風が頬を撫でる。思わず手で顔を守りながら目を開けて着弾地点と様子を確認してみると、アスファルトは溶け、近くの鉄で出来た手すりがどろりと形を変えていた。
 これもまた、まともに受けていれば絶命は必至。首から上が消し飛んでいたことだろう。

「おいステラ、こんないきなり——」
「いいえ、レンくんは私のものです」
「——っ⁉」

 文句を言う間もなく、屈んだレンの目の前にぬっと少女の顔が出てくる。
 吸い込まれるような紫紺の双眸。身長は低く顔立ちもやや幼く、濡れ羽色の髪と同じ黒の着物を着こんでいる。
 彼女こそが三人目の女神。シラヌイと名乗った、これまた異世界の女神である。

「や、やべえっ」

 先のステラと同じように、彼女もまたすっと小さな手のひらをかざす。そこへ紫がかった、黒い粒子がどこからともなく現れては収束していき——
 その顛末を見終えるまでもなく、レンはすぐに身を起こして走り出した。焦燥に駆られながら必死に足を動かし、数歩したところでちらりと後ろを振り返る。
 
「異変に見舞われたヘイガンを救うため、彼の地へ転生してもらいます。お受けください……私の転生攻撃!」

 ちょうど、紫の霧を纏ったエネルギーの塊がその手を離れ、緩やかな軌道を描いてレンへと向かう。
 側頭部を射貫かんと迫るそれを、レンは上体をひねって紙一重で避けきった。もはやこの四日で手慣れたものだ。
 レンの頭部を破壊しかかった死の砲弾は、代わりに並木の一本を捉えた。ベキィ! と嫌な音を立てて太い幹がへし折れ、道路にその身を横たえる。

「ひええ」

 それを横目に見て、冷や汗が背筋を伝う。
 やはり慣れなどしない。これも一歩間違えば即死、頭が弾けたざくろみたいになった中々に愉快な死体になれただろう。

「こらっ待ちなさい! レンさんはわたしが貰うのよ!」
「いいえ、断じて渡しません! わたくしこそがレン様の女神です!」

 足を止めた一瞬で、ヴェレーナとステラも追いついてきてしまう。
 三人の女神に囲まれ、しかもそれぞれが自分を取って争い合う——ともすれば男としてのドリームを体現した光景のようにも見えるが、レンの肝はこれ以上ないくらいキンキンに冷え切っている。
 なにせ、彼女たちの目的はただ一つ。赤梁レンの殺害だ。
 正確には、『異世界転生』なのだそうだが……その過程に一度転生攻撃を挟む。そして転生攻撃とは女神による残酷さを覆い隠すためのオブラートであり、その実態はただのトラック飛ばしだったり大爆発を起こすガチの殺人技だった。

「だから、俺は誰のものでもねえ! 異世界転生なんてゴメンだ、もう追い回すのはやめてくれ! ただでさえ朝も夜もバイトでクタクタなんだ」
「えぇー? でもレンさんが転生してくれないと、わたしの世界——シリディーナが救われないのよね。それって女神的にすっごい困るっていうか」
「わたくしのレッドアーカディアもです。レン様だけが過酷な世界の運命を変えられる、勇者なのですから」
「……私の、ヘイガンも。レンくんがいないと、異変に人々が翻弄されたまま。レンくんがどうしても必要」

 レンの必死の懇願もむなしく、三者三様……もとい、三女神三様に断られた。
——事の始まりは四日前までさかのぼる。
 病院を出たところでレンは、暴走するトラックに轢かれかけた。それだけならただの人身事故未遂だが、トラックは無人で、女神を名乗る白髪の女が現れて言ったのだ。
 曰く、「赤梁レンには勇者の素質がある」と。
 十八年の人生を生きてそんなことを言われたのは、幼い頃に奮発して買ってもらったテレビゲームの中くらいのものだ。本物らしき女神にそう告げられた時はレンもそれなりに喜びもした。

 が、勇者の責とは異世界を女神の導きに従って救うことであり、なにより転生するには転生攻撃でその命を一度絶たれねばならない。
 普通に嫌だった。
 この世界を離れることも、トラックに轢かれて死ぬのもだ。
 そして轢殺せんと迫る幾多のトラックから逃げるうち、ステラとシラヌイもいつの間にか現れ、バラエティに富んだ攻撃でレンを殺そうとしてきている。
 それがもう四日だ。気分はまるで暗殺者につけ狙われる要人、普通なら頭がおかしくなっていても不思議ではない。

「さあレンさん、いさぎよくっときましょう! 今ならトラックのカラーを選べますよ! 赤がいいですか? 青がいいですか? 豪華な金色っていうのもありますっ!」
「わたくしの熱で溶かしてあげますわ。心配なさらず、骨の一片も残らずどろどろにして憂いなく転生させて差し上げます」
「レンくん……頭からかじられるのと足からかじられるの、どっちがいい?」

——そして今、この四日間最大の危機に面していると言っても過言ではなかった。
 広い歩道、まれに通る通行人に奇異な目で見つめられることしきり。
 レンを囲い、三人の女神はじりじりとその距離を詰めようとする。誰の手が最初に届こうが結末は同じだ。レンの命はもはや風前の灯火、情けなくもここで死んでしまうと思われた。

「頭も足もかじられたくはないし、体を溶かされるのも嫌だし、トラックのカラーに関してはマジでどうでもいい……ちょっと待て、落ち着いてくれよ御三方」

 女神たちの柔らかな、死の冷たさを帯びた手が迫る。
 もとより人外、人と同じ倫理など持ち合わせてはいないのだろう。それに彼女らにとってレンを転生攻撃で殺すことは、死とイコールではない。自らの世界に転生させるのだから。
 しかしレンにしてみればそんなことは関係ない。肉体の生命活動を停止させ、地続きの意識を途切れさせるのだから、それは一切の瑕疵かしなく殺人だ。
 レンはなんとか時間を稼ぐため、必死に頭を回す。そして舌に載せた言葉を、さして精査する間もなく吐き出した。

「さ、三人の世界はどんななんだっけ⁉ せめて俺も転生先のことは詳しく知っておきたいなぁ! 今のうちに!」
「む……一理あるわね」
「確かに、情報を提示しきらないのはフェアではありませんわね」

 一方的に殺そうとしてくる女がフェア精神を語るなよ。
 喉元から出かかった言葉を、レンはなんとか飲み込んだ。
 説得の第一段階、時間を稼ぐことはなんとか成功の兆し。ここから窮地を脱し、逃げ切るところまで運ばねばならない。

「わかった……ならレンくんに一度私たちの管轄する世界について、れくちゃー? してあげます」
「あっ、ならわたしからでいい? いいわよね?」
「…………まあいいです。私は懐が広いので、お譲りします」
「やったぁー! トップバッターでアピールできるわ!」

 なにやらシラヌイは襟を正し、「ごほん」と咳払いまでして意気揚々と話しかけたのだが、横からヴェレーナが一番手を掻っ攫ってしまう。
 ヴェレーナは光を弾く雪のような真っ白い髪を手でなびかせると、「では」と前置いて真面目な顔つきになった。

「わたしの管轄する世界、シリディーナは今大混乱に陥っています」
「……なるほど、具体的に?」
「元来争いの絶えぬ人間族と魔物族、それとバベルの塔から降りてきた天使族、あとついでになんか魔界から侵攻してきた悪魔の四種族がゴリッゴリに紛争しまくってます。もう地形とか変わるし大陸は沈むし、かなりメチャクチャです」
「…………うん、それで?」
「レンさんに全部の紛争止めてもらおうかと」
「できるわけねえだろバカが、ジャンヌダルクでもダッシュで逃げるわ」

 スケールがでかすぎる。
 人間同士の戦争ですらこの星は止められないのに、なんでわけのわからない四種族の紛争を個人でなんとかしなければならないのか。
 異世界の戦争がどれほどのものかわからないが、大陸が沈むようなレベルをどうこうできるはずがない。まず死ぬ。絶対に死ぬ。

「えぇーできますって、勇者なんですから」
「俺にそんなすげー力ねえよ。無理にもほどがある」

 生まれてこの方、平々凡々——あるいはそれ未満だ。そんな力が発揮できるのならまず真っ先にバイトなんて辞めて、楽に金を稼いでいる。

「フフ。ヴェレーナは振られてしまったようですね、ならばわたくしの出番ですわ。この女神ステラ、レン様のお眼鏡に適う世界を提示できるかと思います」
「おっ、言ったな。そこまで言うのなら聞かせてもらおうか」

 ステラは自信に満ちた、気品を思わせる表情で頷いた。
 それからルビーのように赤く美しい瞳をレンに向け、詩でもうたうように語りだす。

「わたくしの世界、レッドアーカディアは地も空も灼熱の溶岩のように赤い土地なのですが……今はそれだけでなく、一日中『ベルギウス』という真っ赤な陽が昇り、ヒトの精神を壊す光を地に降り注いでいます」
「……うん?」
「端的に言えば、レン様にはその人々を狂わす『ベルギウス』を堕とし、我がレッドアーカディアに『永遠の落陽』をもたらしていただきたいのです」
「お前もスケールすごいなオイ。もうかなりキツいよ俺」
「ちなみに平均気温は八十二度です」
「お前人間の体温が何度まで耐えられるか知ってっか?」

 どうしてそこまで自信満々なのか本当に理解できない。
 昨今の日本の夏にダブルスコア付けてる気温で人間が生存できると本当に思っているのだろうか、ステラは。

「あと『ベルギウス』の光を浴びると、常人なら五秒程度で発狂します」
「もうそれ転生直後にリスキルされるレベルじゃん」

 気が狂って死ぬか暑さで死ぬか、最悪の二択がそこにあった。
 まだヴェレーナが管轄する世界の方が億倍マシだ。そもそも星を一つ堕とせなどと、指令の時点で荷が勝ちすぎる。

「無理無理! わりいけどステラの世界も無理だ! いやそこは本当に無理すぎる、無理の中でも相当に無理だぞ⁉」
「そ、そんなにムリムリ言わないでもらえます? わたくしだって、できるだけフェアになるよう誠実に情報の開示をですね——」
「なにがお眼鏡に適うだ、そんなとこ選ぶ奴は自殺志願者だけだろうが!」
「そこまで言わなくてもよいのではなくって⁉」

 過酷なところであっても郷土愛みたいなものはあるのか、があんとショックを受けてステラは項垂れた。声もちょっと潤んでいる。
 だが無理なものは無理だ。

「ふう……やはり、ここは真打たる私がレンくんのいるべき世界を示すしかないようですね」
「シ、シラヌイ。今度こそお前は信用してもいいのか?」
「もちろん。特に、私の管轄するヘイガンはこの日本とも似たところがありますからね。レンくんも……きっと親しみやすいと思います」
「おお……!」

 ない胸を張るシラヌイは普段と同じく抑揚に欠けた喋りではあったが、端々に自信めいたものが浮いている。それに、日本と似たところというのも惹かれるフレーズだ。
 異世界転生など御免ではあるが、もし仮にどこかへ行かなければならないのなら、せめて見知った場所やそれに近いところがいい。

「この世界の基準で言えば、トクガワが統治していた時分に近しい文化水準と言えます」
「江戸時代辺りってことか……。現代に慣れちまった俺には大変そうだが、まだマシか?」

 少なくともバリバリの紛争地域だとか、外に出るだけで発狂させてくる地よりはまだ生存の余地がある。もうこの二つに比べれば生きているだけで儲けものだ。

「ですです。違いと言えば、鬼や妖怪、生霊なんかが闊歩しているくらいですかね」
「あれ、なんだかちょっと話違ってきたぞ」
「今ヘイガンでは、人間が突然妖怪化するという未知の異変に見舞われています。なので、レンくんには……その調査と解決をお願いしたいのです」
「それ俺も妖怪化しない? 大丈夫? 人間にその異変解決させようとしてるの人選ミスすぎない?」
「いや……まあ……勇者の素質がこう、なんか……いい感じに作用するので、きっと平気だと……思います。たぶん。おそらくは」
「フワッフワしすぎだろ誰がその条件で首を縦に振るんだよ」

 原因不明の、人が妖怪とやらになる現象。そんなところに放り込まれては気が気でない。
 結局、ヘイガンも他の異世界——シリディーナ、レッドアーカディアと大差ない。どこへ行っても命が危うい超絶ハードモードだ。

「そ、そんな……。妖怪さんたちも話せば結構わかる方たちなのです、考え直してはくれませんか?」
「やだよ、普通にこえーし」
「お庭でよくバーベキューとかやってるんです」
「そういうアメリカンなノリ、苦手だな」
「あうぅ」

 シラヌイも肩を落とし、心底残念そうに目を伏せた。
 きっと見た目だけとはいえ、幼い少女を悲しませるのは心が痛む。しかしかといってそんな恐ろしい世界に飛ばされるのはやはり御免だ。第一、転生攻撃とかいう言い繕ったダイナミック殺人で一度死ぬのも嫌すぎる。

「……わたくしたち三人、どの異世界もレン様は無理だとおっしゃるのですのね」
「まあ、お前のトコはひと際」
「き、傷を抉るようなことは言わないでくださいます?」

 そもそも異世界がいいところだとしても、レンは家族を置いて自分だけで転生したくはないし、そのために一度殺されるのも論外だ。だからレンとしては話すまでもなく当然の帰結だったが、これで女神三人が諦めてくれればいい。
  そういう思惑だった。が、しかし。

「——なら、やっぱり強引に転生させるしかないわね。できるだけ痛くはないようにするから、心配しないでレンさん!」
「やっぱりこうなるのかよ……!」

 ヴェレーナがすっと右手を挙げ、青い目でレンを見据える。この四日間何度も死線をくぐらされた転生攻撃。その予兆だ。
 説得は失敗。レンはすぐに踵を返すと走り出し、その背後で女神の右手が下ろされる。

「逃がさないわ! 消し飛びなさい!」

 街中を駆けるレンに、不意に影が被さった。
 頭上を確認する間も惜しく、レンはすぐに横へ跳ぶ。すると直後、縦向きになったトラックが一秒前まで居た地点に落下しアスファルトを無残に砕いた。近くに人がいないのはせめてもの幸いだろう。もっとも犠牲者がいなくとも、器物損壊罪辺りは確定の犯罪行為であることに変わりはなかった。

「なりふり構わねえなあお前は! この人殺し!」
「物騒なこと言わないでくれる⁉ まだ殺してないじゃない!」
「未遂でもアウトだろおおおおおーッ!」

 息をつく間もなく、再び頭上を影が覆う。一つ避け、さらに一つ避け、そこにさらにもう一つ。なんとか必死に逃げ出し命からがら、死の棺桶に圧死されるのを逃れる。
 道路にはいくつもの縦向きになったトラックが突き刺さり、さながらテ〇リスの長い棒みたいになっていた。

「ヴェレーナに奪われるくらいなら、わたくしも……! 腹をおくくりください、レン様! えいっ」

 さらに横から、ステラが逃がすまいと宙を浮いて追走し、手のひらをかざす。
 妙な熱気を感じる——そう思ったときには既に、彼女の手からうねる炎が放たれていた。いかなる原理か、さながら人間火炎放射器だ。
 避ける間もなく、炎はすぐにレンの肩に燃え移り、舐めるようにして広がっていく。

「熱ッ、いけど……死ぬには程遠いッ!」

 パニックになりかかる頭を制してレンは上着を脱ぎ捨てた。肩口は少々ひりひりと痛むが、おかげで全身に燃え広がる前に切り離すことに成功する。

「くっ、上手いですわね。ですが逃がしません!」

 投げ捨てられた燃える服は、せめてもの妨害とステラに向けられていた。が、すぐに細い腕で払いのけられ大した時間稼ぎにもなりはしない。
 そこへ、後ろからヴェレーナも追いついてきた。嗜虐の笑みを浮かべ、再度上空にトラックたちを展開する。
——これは本当に死ぬかもしれない。
 心臓はどくどくと忙しなく脈打ち、逃れられない死の予感に震えそうになる足。
 地では産毛の一本一本まで焦がすような灼熱が渦巻き、空からは発射の号令を今か今かと待ちわびる、数多の白い死神トラックたち。

「これで終わりよ、ぶっ潰れなさい!」
「灰も残さず消し去ってあげますわ……我がレッドアーカディアの未来のため!」

 津波めいて赤が這い、天の裁きのごとく白が迫る。
 ほとんど天変地異にも等しい過剰な殺傷攻撃が放たれ、もはや回避など不可能。どこへ逃げても無駄だ。地面は焼き払われ、その上から白い流星が降り注ぐ。
 今度ばかりはどうしようもない。初めから相手は人外の女神、逃れることなどできなかったのだ。
 諦めとともに目を閉じる。そして、せめて転生先はまだリスキルのないシリディーナであってくれ——そう祈ろうとしたその時。

「……大丈夫です。レンくんは、私が守ります」

 体を押しつぶされる圧死よりも、全身を火に舐め溶かされる焼死よりも先に、宙を舞う浮遊感がレンを包んだ。

「シ、シラヌイ……!」
「あなたを殺させは、しませんので」

 驚愕とともに目を開けた先には、意志を宿した紫紺の瞳。普段感情に乏しいその無表情には、今はそれでも微かな決意が浮かんでいる。
 シラヌイの小さな体躯に抱えられながら空中を飛び去って行く。遠のいていく眼下では、ステラが驚きに炎を止め、ヴェレーナが悔しさに地団太を踏む。
 そんな彼女が悪あがきとばかりに、トラックを三台ほど宙のレンたちに向けて放った。

「うわっ」

 時速でどれほど出ているのだろうか。少なくとも一般道路では、間違いなくスピード違反でしょっぴかれることになるだろう。白い車体はすさまじいスピードで空中を直進し迫ってくる。

「無駄なことを、ヴェレーナ」

 シラヌイは動じず片手でレンを抱えたまま、空いた手で虚空を一振りする。すると、なにもない空間に紫の魔法陣じみた円形の模様が浮かぶ。
 それは質量を伴っているようで、迫る白のすべてを難なく防ぎ切り、逆に空中で破壊した。
 空に響いた轟音と、頭上から降り注ぐ細かなトラックの破片とで、地上で罪なき一般人たちの困惑の響きが届く。まだ死者が出ていないのは単に奇跡か、一応女神たちも無駄な民間人は殺すまいとしているのか。微妙なところだった。

「ふむ……落ち着いたところへ行きましょう」
「え、ああ」

 言うや否や、シラヌイは高度を落とすと手近な民家の屋根へゆっくりと着地した。そして、レンのことを優しく下ろす。

「ありがとうシラヌイ、助かった。でもどうして」

 まだ心臓の高鳴りは収まらない。恐怖に縮み上がった精神をほぐすように、ゆっくりと深呼吸をして息を整えながらレンはそう訊いた。
 シラヌイははだけかけた着物を直しながら、ふっと表情を和らげる。

「……レンくんを誰にも殺させはしませんよ」
「シ、シラヌイ……」

 珍しくも彼女が見せた、温和な笑み。
 この四日間、彼女もレンを何度も何度も殺そうと、謎のエネルギー弾を放ってきたり、縄で首を絞めようとしてきた。時には短刀片手に寝首を掻こうとしてきたことや、自宅の押し入れに潜んでいたこともあり、トラックと炎の派手な二人と比べればホラー枠といった趣の殺し方を試みてきたシラヌイだったが、ことここに至り考え直してくれたのだろうか。

「——だって……レンくんは私がヘイガンに異世界転生させるんですから」
「だよなぁ知ってたよクソおっ!」

 空中に波紋が広がっていくようにして、シラヌイの両手に黒い粒子が集まっていく。考えを改めることなどあるはずがない。彼女もまた、レンを殺めるためにこの場にいるのだ。
 レンは毒づきながら屋根を駆け、意を決して飛び降りる。躊躇なく飛んだ甲斐あって、背を穿たんと後方から放たれた黒い砲弾はすんでのところで当たらなかった。が、背後から浴びせられる殺気の奔流は追撃を予感させている。
 足を止めることなく屋根から塀へ、塀から手すりを経由し地面へと転がり込む。そうしてパルクールの真似事をして進み、その直後、足場にした地点が間を置かず理外の力によって砕かれていく。

「見つけたわ! 逃がすもんですかぁー!」
「観念してわたくしのモノになりなさい、レン様!」
「やべっ……!」

 想定よりもずっと早く、空を浮遊して白と金の女神たちが必死の形相で追いかけてくる。これでは振り出しだ。息も絶え絶えになりながら、それでも足を動かして走る。
 迫る炎と黒い死の砲弾、さらに空や左右の視覚外から猛スピードで突っ込んでくるトラック。時折傷を受けつつも、四日間の経験をフルに生かし、ギリギリのところで命を保つ。常人ならば百度は死んでいるであろう転生攻撃の豪雨を受けて生きているのは、皮肉にも彼が勇者の素質を持つ人物だというこれ以上ない証左だった。

「クソ、もう……」

 しかし、それでも限度がある。今日一日に限っても肉体・精神ともにオーバーワーク極まりないが、四日も断続的に逃避行を続け、しかも朝夜は過酷なアルバイト生活だ。疲労に疲労が積み重なり、体は軋み、肺と心臓は今にもはちきれそうに悲鳴を上げている。

「あれ、ここは」

 ふと足を止めたのは、だが疲れのせいではない。朦朧としかかった意識の中で町を抜け、たどり着いた場所に気が付いたせいだった。
 広い敷地。眼前には白い清廉さが眩しい、巨大マンションにも似た建物がある。
 どうやら走るうち、つい目的地だった病院に来てしまったらしい。
 市立の病院。その大きな入口の前で止まるレンへ、遅れてヴェレーナたちが追い付く。

「なるほど、病院に逃げれば患者たちが実質的な人質になる——ちっとは考えたものねぇ、レンさん。だけどその程度でこのわたしたちが攻撃をためらうとでも……ッ?」
「そんな考えしてねえよ少しはためらえよ、発想が怖すぎるだろ。ここに妹が入院してるから、今日は見舞いに来る予定だったんだよ。誰かさんたちのせいでメチャクチャだけどさ」

 生まれつき心臓の弱い、レンの妹。
 今日は夜にシフトが入っていないので、四日ぶりに様子を見に来るつもりなのだった。

「さ、流石のわたくしも院内では大人しくしていますわ」
「……レンくんにはヴェレーナこれが女神のデフォルトだとは思わないでほしいです。間違っても」
「なっ。なによあなたたち、わたしのことそんな目で見て。わかってるわよ、わたしだって冗談よ。冗談」

 幸い、ステラとシラヌイは最低限のマナーはあるらしかった。
 どの道これ以上逃げるのは厳しい。レンに院内の人たちを人質にするようなつもりは毛頭ないが、三人が大人しくしてくれるのなら、妹の見舞いは予定通りに行うことにした。
 絶世の美貌、文字通り浮世から離れた異邦の女神たちを連れ、すれ違う人たちに見つめられながらもその病室の前へやって来る。
 108号室。傷一つないナンバープレートに飾られた一部屋。その硬い引き戸を軽くノックし、レンたちは中へそっと入った。

「あら、レンさんには似つかない可愛さね」
「ほっとけ」

 狭い個室のベッドには、五つ下の愛すべき妹が眠っていた。表情は穏やかで、寝息も聞こえない。ともすれば死んでいるとすら思える彼女は、しかし微かにその小さな胸を上下させている。

「……どうやら、間が悪かったみたいだな。いろは」

 赤梁いろは。
 生まれてからずっと、その生涯のほとんどを病室のベッドで過ごす哀れな妹。
 この四日間の荒唐無稽な体験のことでも話してやりたかったが、こうも安らかに寝ているのを起こすのは気が引ける。もっともよく考えたらアホほど死にかけてるしそんなに笑い話にならない気もするので、これでよかったのかもしれない。心配をかけてしまいそうだ。
 レンはいろはが起きないように、ゆっくりと優しく髪を撫で、すぐに病室を出た。

「よいのですか?」

 その背に、声量を抑えてステラが問う。

「いい。起きたら残念がるかもしれないけど……いろはがうなされずに寝てるのは珍しいからな。ゆっくり寝かせてやりたい」
「そう、ですか。失礼ですがその——いろは様? は、なにかのご病気で?」
「そうだよ。心臓が悪くて、生まれてこの方病室暮らしだ。既に何度も危ない橋を越えて、ギリギリのところでなんとか生きてる」

 音を立てないようにしてドアを閉める。廊下の壁にもたれながらそう口にするレンの喉もまた、無意識に心情の波立ちを表さぬようしていた。
 赤梁いろはは、不幸な子だった。
 幼くとも聡いいろは自身は、口が裂けてもそんなことは言わないが、彼女の不運な生い立ちは今も昔も狭い部屋から出られていない時点で誰が見ても明らかだ。
 少なくとも周囲は口を揃えて、赤梁いろはを不幸だと言った。
 そしてまた、赤梁レンもそうであると。

「……毎日のアルバイトは、ひょっとして妹さんの医療費のためですか。レンくん」
「いろはのためかって訊かれると、そういうことになるな」

 赤梁の家に父はいない。物心ついた時には、母と二人の子を残して消えていた。そして、母の手一つで家庭を支えるにはいろはの医療費が重すぎる。
 だからこそレンは義務教育課程を終えてすぐ、今の生活を選んだ。学校に行くこと選ばず、働き詰める日々を。
 そのことに後悔はない。妹のことを疎ましく思ったことなど神に、あるいは三人の女神に誓って一度たりともない。

「若いのに……大変ですね。さぞ苦労することでしょう」
「そうでもないさ。いろはを見ればなんだって苦じゃない。今日は残念ながら話せなかったけどな」
「しかし、そういう事情があるのでは……レン様を強引に異世界転移させてしまうと、いろは様が」
「ああ。だから俺はまだ死ぬわけには——この世界からいなくなるわけにはいかないんだよ。わかってくれないか?」

 改めて、レンは三者を見据えてそう頼み込む。
 レンが死ねばいろはの医療費を振り込む者もいなくなる。母が負担してくれるかもしれないが、既にパートの生活だけで手一杯だ。これ以上の重みは年齢的にも荷が勝ちすぎる。体が壊れるのは目に見えていた。

「? だったら、そのいろはさんの心臓を治せばいいんじゃないの?」
「……え?」

 こともなげに、ヴェレーナはきょとんとした顔でそう言った。なんでもないことのように、極めて自然な疑問として。

「な、治せるのか? 完治で? どんなお医者さんだって無理だって言ったんだぞ?」
「まあ、トラックいっぱい出すよりは簡単だし……」
「…………なるほど」

 妙な説得力があった。
 見れば、ステラとシラヌイもどこか神妙な表情で頷いている。彼女らも超常現象を引き起こす、人間を能力を軽く超越した女神だ。ヒトの心臓一つ修理する程度、造作もないのかもしれない。
 だったら——

「だ、だったら! 頼む……! 妹を救ってやってくれ!」

 ヴェレーナの肩を掴み、食い入るほどの剣幕で頼み込む。ここが院内であることすら忘れ、廊下の向こうにまで届いてしまうほどの声。
 それに対し、麗しき女神たちは困ったような顔をした。

「お願いだ、異世界転生でもなんでもやる! いろはが助かるんなら、どこにだって行ってみせるから! 頼む、頼む……!」
「ん~……あんまりそういう、ガッツリとした干渉はNGなのよね、女神的に」
「そんなの道路にトラックぶっ刺しまくっといて今更だろ……⁉」
「あっ、確かに。そこを突かれるとぐうの音も出ないわね」

 既に公共物の破壊度はそこらの災害をゆうに超えていた。

「ですが……せっかくいろは様が動けるようになっても、肝心のあなたがいないのではあまりに不憫ではないですか。わたくしはここで手を引きますわ」
「えっ? いいのか、ステラ」
「わたくしとて血も涙も流れる女です、勇者候補は他を当たることにしましょう。あなたの妹愛に完敗した、と言ったところですわ。心臓の件はわたくしで良ければ治癒させますのでご心配なく」
「……そうですね。私も、レンくんといろはちゃんを引き裂くのは酷な気がします。レンくん並の素質を持つ人を探すのは骨が折れそうですが、私もレンくんを見習ってがんばってみましょうか」
「シラヌイまで……みんな……!」
「え、マジ? じゃあわたしがレンさん貰っていってもいいってこと?」
「お前だけは本当にブレねえな……」

 ステラ、シラヌイが折れてくれると言っている中、ヴェレーナだけはどこ吹く風の晴れやかさだった。
 深紅と紫紺、二種の瞳がたしなめるように白髪の彼女を見つめる。圧を持った無言の視線だった。それを受けて、ヴェレーナも「う」と小さく声を出してたじろぐ。
 まるで姉に叱られる妹だ。大人しいいろはとは似ても似つかないが、レンはその関係性から妹のことを連想した。

「や、やあね、これも冗談よ。ウィットに富んだ小粋な女神ジョークってやつ。わたしもそこまで鬼じゃない……いや最初から鬼じゃないし、お優しい女神だわ」
「最低でもサイコパスだと思うぞ」
「普通にひどくない? まあ、女神が二柱ふたはしらも引き下がるとあっちゃわたしだけ我を通すわけにもいかないわ。チッ、今日のところはこのくらいで勘弁して見逃したげるわよ」
「完全にヤー公の捨て台詞じゃん……」

 ともあれ——彼女らは再びいろはの病室に入り、その胸に軽く手を当てるとなにやら光を注ぎ込んだ。それで終わりらしい。長く、生まれてからずっとレンの妹を蝕んでいた楔は、それだけで呆気なく失せた。
 いくら礼を尽くしても足りないくらいだったが、挨拶もそこそこに、立つ鳥のように三人はすぐ去って行ってしまった。



 後日。宣言通りに、いろはの心臓は完治し退院を果たした。
 医者は奇跡だと言い、母は泣いて喜んだ。レンもまた日夜の労働から解放され、日々は以前よりも鮮やかな色彩を帯びている。
 あれから半年——妹と過ごす時間以上に、心が安らぐ時はない。あの清廉な檻を出て、猥雑な日の下を歩けるようになったのだ。これを喜ばずしてなにを喜ぶと言うのだろう。

「散々な四日間だったけど……いろはが助かったのはあの三人のおかげだ。別れはあっけなかったけど、またいつかどこかで会えたら礼をしたいな」

 一人、自室でノートに計算式を走らせながら呟く。
 幾度となく転生攻撃に殺されかかったが、それでも最後には妹を助け、レンのことも見逃してくれた。ヒトとは異なる女神と言えども、そこには確かな情があった。
 そろそろ、明日の準備をしなければ。レンは鞄に教科書を仕舞おうと椅子から立ち上がる——

「レンさーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」
「……え」

——瞬間、パリン! と爽快な音とともに窓ガラスが木っ端みじんに砕け散り、室内に人影が飛び込んでくる。
 朝の光を浴びる積雪のような、淡い白の髪。海の水を掬ったような青みがかった瞳。果てしない爛漫さを帯びた端整な容貌。

「ヴェ、ヴェレーナ……⁉ どうしてここに」

 現れたのは女神ヴェレーナ。大恩あれども、幾度となくレンにトラックをぶっ放してきた神だった。
 唐突なダイナミックエントリーにレンは驚きを隠せず、椅子を倒して床に尻もちをつく。

「だからあの時言ったじゃないの、今日のところは見逃すって! さあ今からバリバリ追い込みの開始よ!」
「今追い込みって言った? 手口が本当にヤクザじみてない?」

 今日のところは、の部分を強調しながらヴェレーナはしたり顔を浮かべる。
 ……詰まるところ。彼女はレンを見逃すつもりなどさらさらなく、いろはを救いはしたものの、レンを勇者に据える計画は諦めていないらしい。

「ちょっと、姉さ——ヴェレーナ! 抜け駆けはずるいですわよ!」
「そうです、ここは姉妹らしく平等にです」

 その後ろから、ステラとシラヌイまで宙を飛んでやって来る。
 もはや懐かしさすら覚える、美しくも何度もレンを窮地に陥れてきた女神たちだった。

「レンくん、実は私たちも話し合ってルールを決めたんですよ」

 顔を合わせるや否や、シラヌイがずいっと前へ出る。殺意はない。今のところは、だが。

「ルール? なんだそれ」

 聞いてみるだけならばタダだ。レンは軽く警戒しながらも、とりあえず彼女の言に耳を傾けてみることにした。
 シラヌイはこくりと小さな顎を下げて頷く。

「一年ずつでレンくんをこの世界と異世界で往復させるんです。そうすれば定期的に妹さんとも会うことができますよ」
「地獄の参勤交代か?」

 やっぱりロクでもなかった。そもそも一年だって彼女らの世界で生きていける気はしない。
 シラヌイは少し残念そうに「そうですか」と細い肩をすくめ、そして両手を構える。
 その後ろではステラがちりちりと熱気を発し、部屋の中を陽炎がゆらめく。
 そして、ヴェレーナは手を軽く挙げる。

「さあ覚悟はいいですかレンさん! 新たな生を得る時です、死の忘却を迎え入れなさい!」
「一年だけ! 一年だけでよいのですわ!」
「レンくんみたいな素質ある人、やっぱり見つからないから……しょうがない、です」

 手が下ろされ、轟音とともに壁がごく簡単に崩落する。壁を壊して突っ込んできたのは、悪夢のような白い車体だった。
 同時に狭い部屋の中を炎が渦巻き、とぐろを巻いて熱量を増していく。
 さらにシラヌイの手には、半透明の粒子がどこからともなく集う。

「……頼むから」

 もはや自室は崩壊し、楽園を追われるかの如くレンは扉から飛び出した。だが、それだけで女神たちが見逃してくれるはずもなく、廊下を駆ける背をバタバタと追う。
 救われるべき世界、彼を異世界へ転生させんがために。

「頼むから、異世界転生だけはやめてくれえええええーーーーーっ!」

 妹は助けられ、夜はぐっすり眠れるようになった。
 しかし、女神たちに追われるこの騒がしい日常はまだ続くらしい——

 これは麗しき神たちとともに三つの世界を駆け、やがて救世主と呼ばれた男の前日譚。
 それでも、冒険活劇の幕開けまではまだ少しだけ、時を要するのだった。


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