元FPSプロゲーマーのデスゲーム攻略(ただし肉体は幼女とする)

彗星無視

文字の大きさ
9 / 39
第一章 黎明を喚ぶもの

第八話 『いくらなんでもドジすぎる』

しおりを挟む
「モンスターが怖い、か。俺は初日以降ずっとPKを標的にしてるから、平野のモンスターについてはよく知らないんだが。あのやたら発光してる虹色のスライムとかか?」
「あ、いえ、ゲーミングスライムくらいであればわたしもなんとか立ち向かえるんですけど——」
「あいつやっぱゲーミングスライムって言うんだ……」
「——平野でモンスター狩りをする時の狙いは、ああいった小型じゃなくて、もっぱら中型ですから。1SPの小型と違って、あっちは10SPももらえるんです」
「なるほど、レアモンスターみたいなのもちゃんといるんだな」
「はい、とは言ってもやっぱり稀なので、<和平の会>みたいなある程度規模のあるギルドで場所を取ってないとなかなか……。聞いた話では、一匹50SPの大型モンスターもごくたまに出るそうですよ」
「50SP! そりゃすごいな、一日分宿を取ってもまだ釣りがくる」
「流石にそこまで来るとモンスターもすごく強いそうですけど……って、話がそれちゃいましたね」

 ミカンもアレンと話すのに慣れてきたのか、リラックスした様子で微笑みかける。
 ……単に子どもと接する時の態度を取られているだけ、ではないことをアレンは祈った。

「とにかく、<アーミン>のみなさんは悪くないんです。わたしが役立たずで、いくじなしだから……足手まといをギルドに入れ続けるわけにもいきません。悪いのはわたしなんです」

 それはどこか寂寥感のにじむ、諦めたような笑みだった。
 町を囲う平野はさらに連なった山々に囲まれており、その面積が限られている以上は狩り場とて有限だ。自明の理として、一定周期でモンスターの湧くスポーン地点は奪い合いになる。

(それに……SPや経験値ってのは、最後に攻撃した転移者プレイヤーにのみ入る仕様のはずだ。チーターの悪評のせいでギルドにも入れず、ソロの俺には無縁の話だが)

 誰がとどめをさすかは、多くのギルドでたびたび争いの種となっている問題でもあった。
 ミカンの言う通り、足手まといを引き連れて狩りを行う余裕などあるまい。少人数のギルドであればなおさらだ。
 むしろ、早々にギルドから追い出したのはまだ優しい、とアレンは思う。
 ミカンをあわせて四名のみのギルドであれば、メンバーの枠はまだまだ余っている。役立たずであっても、それを理由に経験値を回してやることなく、利用するだけするといったことだってできなくはない。

「でも……やっぱり、悔しくて。面と向かって、お前はいらないって言われたようなものですから」
「まあ、な……。それで、アイテム屋なんて噂を信じて頼ろうとしたのか。だけどモンスターが怖くて動けないのは、どんなアイテムを手にしても同じことなんじゃないのか?」
「は、はい。その通り、です。全部、アレンさんの言う通りなんです。本当はわかってます……こうなった原因はわたしにあって、だから、わたし自身が変わらなきゃいけないんだって」

 道具に頼ったとして、根本的な解決にはならない。そのことは、ミカンも自覚しているようだった。
 とにかくこんな夜中に出歩くのは危険が過ぎる。
 アレンとしては、それだけわかってくれればいい。後はミカンの問題だ。なので、再度釘を刺し、安全なところにまで送って別れようと思っていたのだが——

「だっ、だから。わたしを、アレンさんの仲間にしてくれませんかっ?」
「……は?」

——想定外の懇願に、アレンは素っ頓狂な声を漏らした。

「な、なんだって? 仲間? なんでいきなりそんな」
「だってアレンさんは、すっごく強くて……それに、みんなのためにPKの人たちを倒して回ってるんでしょう? わたしのことも助けてくれましたし——」
「違う! 誤解だ、俺はそんなんじゃない! 俺は……」

 PKプレイヤーキラーKキラーとして、この二週間PKプレイヤーキラーを狩り続けたアレンのレベルは18にまで達している。一文なしだったSPも、今や8760と五桁にまで手が届きそうなほどになった。
 これらはすべて、我欲の成果だ。
 目的はただひとつ、自身の実力の証明。そのために人を撃った。
 しかし——ならば、どうしてPKプレイヤーキラーのみを狙う?

「俺は——」

 決して誰かのため、ミカンのような他の転移者プレイヤーのためにPKKをしているわけではない。
 なのにどうしてか、アレンは二の句を継ぐことができなかった。

「わたしもアレンさんみたいに、誰かを守れて、誰にも臆さないくらいに強くなりたいんです! お願いしますっ!」
「駄目だ! 俺は誰とも組まない。仲間なんてもうたくさんだ!!」

 アレンの脳裏に、あたかもチーティングをしているかのように加工された、自身のプレイ動画がアップされた時のことがよぎる。
 味方視点だった以上、それはチームメイトから漏れている。
 フラッガーのサイレント。IインGゲームLリーダーのリトル。スナイパーのマグナ。サポートのカーバンクル。
 その誰かが、自分を裏切ったのだ。苦楽をともにしたはずの仲間が。
 四人のうち裏切ったのが誰だったのか、追求することはあまりに恐ろしかった。だからアレンは今でも犯人を知らない。どの道、尋ねたとして素直に言う道理もない。

「そ、そんな……っ!」
「それに知らないだろうが、俺はチート使用を疑われて周囲に信用されず、ギルドにも入れないんだ! そんな俺についてきちゃミカンの方だって割を食うに決まってる。なにを言われるかわかったもんじゃないぞ!」
「信用されない……? って、見た目が子どもだから怪しまれてるのもあるんじゃ?」
「それは…………まあ……そうかも……しれないが……!」

 選択として、アレンは独りでいることを選んだ。
 独りであれば誰もアレンを裏切らない。誰もそばにいなければ、裏切りもなにもない。
 ギルドにも入らない。アレンの悪評を知らないところ、知ったうえで籍を置くことを許してくれるところを探すのはできる。
 だがアレンはそうしなかった。孤独な証明の道を選んだ以上は、ミカンのことも拒む。
 だいいち、強くなりたいだなどと言われても、その方法を教えてやれるわけでもない。アレンのボーナスウェポンは銃で、彼女は盾だ。ひょっとすれば素養次第で、『鷹の目』の原理をいくらか伝えることくらいはできるかもしれないが——
 アレンにはなんのメリットもない。
 そばにいることを許す理由など。

「俺は自分のためにプレイヤーキラーを倒す、そのついでに君を助けただけだ。ただそれだけなんだよ。ここまでくれば一人で帰れるだろ、じゃあな」
「あ……ま、待って! 待ってくださいっ、アレンさん!」

 路地を脱し、通りに出る。
 まだ完全に安全だとも言い切れない場所ではあったが、どこにいたとしても生きている以上いくらかの危険はつきまとうものだ。アレンは別れを告げ、足早に去ろうとする。

「——、しつこいぞ、ミカン……あっ」
「え? きゃあっ!?」

 しかし、背後の足音からミカンが追いすがっていることに気づき、強く言わねばわからないのかと勢いよく振り返る。すると彼女はちょうど肩に向かって手を伸ばしていて、アレンが動いたせいでその手は空を切った。
 アレンを追いかけ、駆け出していたミカンは急には止まれず、演算された慣性に従って顔から地面へと突っ込む。

「い、いたた……」

 ミカンはうめきながら、近くの金属でできた柵に手をやり、立ち上がろうとする。
 不意にビリッ、と音がした。
 その布地が裂ける嫌な響きは紛れもなく彼女の服の裾から鳴っていた。倒れた拍子に、槍の穂先のようになっていた柵の先端が引っかかっていたようだ。
 それにミカンが気づいた時、彼女の腰から上を包む衣服は、細やかな光の粒となって消失した。
 一連の光景を眺めていたアレンは、「そうか」と手を叩く。

「ボーナスウェポン以外の装備には耐久値が存在するそうだが、限界を迎えるとこういう挙動になるのか。ふむ……転移者プレイヤーがゲームオーバーになる時と似てるな」
「なにを冷静に分析してるんですか。……なにを冷静に分析してるんですかっ!?」
「なぜニ回言う」
「だってアレンさん男のひとじゃないですかー! 見た目がロリっ子すぎて今一瞬、完全に同性の意識でしたよぉ! 脳がバグっちゃってました!」
「ああ、服の替え持ってるか? 俺スカートだけ余ってんだけど」
「被れと!? 見ての通り必要なのは上の服なんですけどぉ!? 信じらんない……も、もう、自分で持ってますから、アレンさんは早く後ろでも振り向いててくださ……あっ」

 顔を真っ赤にしながら、虚空に手を滑らせ、焦る様子でインベントリのウィンドウを操作しているミカン。
 だが焦れば焦るほど、失敗は幾重にも重なっていくものだ。
 彼女の手に表れたのは衣類ではなく、先の銀色の大きな盾だった。

「まっ、間違え——いったー!」

 出し間違え。想定外の重量を彼女の腕はとっさに支えられず、ずしんと盾が下へ沈む。すると角のところがちょうどミカンのつま先を潰した。

「あ、足の指が……って、わわ、うわぁっ!?」

 思わず盾を手放すと、地面へ倒れる盾に足を巻き込まれて後ろに転倒。後頭部を手すりにぶつけ、ゴツンと派手な音が鳴る。

「痛いっ、いたいですぅ……! うぅっ」
「そんなバカな……!」

 すべてを余さず目撃したアレンは、なお自身の目を疑いたくなった。
——こいつ、いくらなんでもドジすぎる!
 下着を晒したまま地面に倒れてのたうつ少女を前に、アレンの頭にひとつの考えがよぎる。

(ここで別れて放っておいたら……こいつ、本当になにかの弾みで死ぬんじゃないか!?) 

 どこにいたとしても生きている以上いくらかの危険はつきまとうものだ——
 そしてミカンという少女には、その最低限度の障害にさえ全力でつまずいてしまうのではないかと思わされる、無類の危うさがあった。
 もっとも近しい概念を挙げるならば、そう。
 赤ん坊だ。
 アレンは屈み込み、上だけ下着姿のミカンと目を合わせる。

「仕方がない。そう長く付き合うつもりはないが……少しの間なら面倒を見てやる」

 そして、その最低限の防御のみを残す巨大な胸部の双丘には一瞥もくれず、どこか柔らかな声音で告げた。

「——。どうしてこのタイミングで…………?」

 対するミカンはと言えば、頭とつま先を抑え、痛みのあまり涙目になりながら呆然とするばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...