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エピローグ
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そして、赤い月がやってくる。
「全員そろったな。今夜は前々から言っていた通り、攻略階層を進める予定だ。みんな、準備はいいか?」
転生から二か月が経ち、初めて訪れたあの日に比べればずいぶんと賑わう宿の食堂で、集う者たちに向けて永一は問いかける。
集まったのは十人と少しで、その中にはこの『月の赤色亭』の店主である、赤い髪のアテルの姿もあった。出陣前の腹ごしらえとばかりに、さっきまでは妻のローズとともに集う協会の仲間たちに夕食を振る舞っていた。
そう、今やこの『月の赤色亭』こそが、永一の率いる『螺旋迷宮踏破協会』の本部となっている。
「おお————!」
十人そこらでは地を揺るがすとまではいかないが、それなりにそろった返事が返ってくる。声の大きさはまばらで、高低も様々ではあったが、その意気は皆同じだった。
魔物を根絶する。そのために、ギルドに代わり螺旋迷宮を踏破する。
協会に集まった中には、シンジュやコハクと似た境遇の者も何人かいた。家族や知り合いを魔物に殺された者だ。
ほかにも、私腹を肥やすギルドに義憤を燃やす者。また、食堂の隅では、まだ少し気まずいのか声は出していなかったらしいラクトの姿があった。ギルドを追放になった彼も紆余曲折あり、フキジとリンシーとともに協会の一員となっている。
「うむ、皆よい顔じゃ。今夜も犠牲なく、無事に帰ってくるのじゃぞ」
エプロン姿のままのパードラが、壁のそばで一同を見渡して満足げに頷く。
協会の本部とするついでに、パードラはここで働いてもいた。アテルとローズの娘、メルとも仲はいいようだった。
「ふたりはどうだ、調子。いけるか?」
「もちろんです。このシンジュ、エーイチ様のご命令とあらば、いつでも身命を賭す覚悟ですっ」
「わたしも……大丈夫、です。今夜は……たくさん狩ってみせます」
「は、聞くまでもなかったか。頼りにしてるぞ」
そばで控える姉妹は、変わらない忠義を示す。
その目的が永一と重なった今、三者はもはや運命共同体だ。二か月も近くで過ごすうち、姉妹の献身も以前以上に強くなっている。
永一としては、年頃の男としてもう少しプライベートな時間が欲しかったりもしたが——
「やあ、待たせたね。ふふ、改めてみればここも中々大所帯になったじゃないか」
カウンターの向こうから、剣を背負ってアテルが現れる。類まれな魔術の才を持つ彼は、しかしそれを活かさず宿の店主として過ごしてきた。
それを、永一が説得の末、今はこうして迷宮攻略に協力してくれるようになったのだ。
ギルドへの不信感に加え、シンジュらの里が滅んだ時になにもしてやれなかった後悔がアテルの内では燻っていた。それでも、家族との生活を第一にしていた彼を協会に誘い、あまつさえ宿を協会本部にまでしてもらうのは、口で言うよりずっと険しい過程があった。
「すみません、今夜も力を借ります」
「今さら謝ることじゃないさ。これも、僕が選んだ道だ。……本当はもっと早くに決断するべきだった」
「アテルさん——」
「そんな顔をしないでくれよ、リーダー。これでもキミには感謝しているんだ。エーイチ君がいなければ僕は、向き合うべきことから今も逃げたままだった。それにほら、客入りの少ない宿をやるよりは魔物を殺してる方が収入もいいからさ」
娘と同じで黄色がかった目を細め、冗談めかして笑う。
永一としては複雑な気持ちもあった。
アテルの協力は協会にとって不可欠だった。だが、家族のために生きると既に決めていた彼を説得し、危険に満ちた迷宮の攻略に同道させることは、彼ら家族の在り方を歪めることと同義だった。
そんな罪悪感も、簡単に見透かされているのだろう。
「外は暗くなって、月も出た。リーダー、そろそろ頃合いだろう?」
「夜の間に螺旋迷宮に潜り、日が昇るまでに引き返す——皆用意は万全じゃ。あとはおぬしの一声だけじゃぞ、エーイチ」
「エーイチ様、ご命令を」
「わたしたちは……従うのみです」
協会のメンバーが、一様に永一を見る。歳も性別も様々な彼らだったが、皆永一を慕い、目的を同じくする同志たちだった。
その発端となったのは、それを率いる永一ではない。重い年月と孤独に負けず、他世界に危害を加える螺旋迷宮の成長を止めんとしてきた、パードラこそが始まりだ。
そして、女神たる彼女が掲げた目的とは——
永一は軽く息を吸い、もう一度、集まる顔ぶれに呼びかける。
「いいか、オレたちの目的はただひとつ! 事実上、攻略を停止した冒険者ギルドに代わり、螺旋迷宮を踏破する!」
頂きにある迷宮の核を破壊し、その成長を止める。それは魔物を生む機能を止めることでもある。
「魔物がいない世界——誰も、魔物の犠牲になることのない世界のために!」
——そして、家族を。
怪獣災害によって命を落とした、地球のすべてのひとたちを助けるために。
取り戻せないものを取り戻す。
あの男の治める冒険者ギルドに比べれば、まだまだ規模も小さいけれど。それでもこの小さな宿が、この世界と、未来の異世界の人々を救う手立てにつながるようにと願いながら。
「さあ——行くぞ! 螺旋迷宮へ!」
赤い月に照らされた、夜の中を往く。
螺旋の果てへ、いつの日かたどり着くと信じて。
「全員そろったな。今夜は前々から言っていた通り、攻略階層を進める予定だ。みんな、準備はいいか?」
転生から二か月が経ち、初めて訪れたあの日に比べればずいぶんと賑わう宿の食堂で、集う者たちに向けて永一は問いかける。
集まったのは十人と少しで、その中にはこの『月の赤色亭』の店主である、赤い髪のアテルの姿もあった。出陣前の腹ごしらえとばかりに、さっきまでは妻のローズとともに集う協会の仲間たちに夕食を振る舞っていた。
そう、今やこの『月の赤色亭』こそが、永一の率いる『螺旋迷宮踏破協会』の本部となっている。
「おお————!」
十人そこらでは地を揺るがすとまではいかないが、それなりにそろった返事が返ってくる。声の大きさはまばらで、高低も様々ではあったが、その意気は皆同じだった。
魔物を根絶する。そのために、ギルドに代わり螺旋迷宮を踏破する。
協会に集まった中には、シンジュやコハクと似た境遇の者も何人かいた。家族や知り合いを魔物に殺された者だ。
ほかにも、私腹を肥やすギルドに義憤を燃やす者。また、食堂の隅では、まだ少し気まずいのか声は出していなかったらしいラクトの姿があった。ギルドを追放になった彼も紆余曲折あり、フキジとリンシーとともに協会の一員となっている。
「うむ、皆よい顔じゃ。今夜も犠牲なく、無事に帰ってくるのじゃぞ」
エプロン姿のままのパードラが、壁のそばで一同を見渡して満足げに頷く。
協会の本部とするついでに、パードラはここで働いてもいた。アテルとローズの娘、メルとも仲はいいようだった。
「ふたりはどうだ、調子。いけるか?」
「もちろんです。このシンジュ、エーイチ様のご命令とあらば、いつでも身命を賭す覚悟ですっ」
「わたしも……大丈夫、です。今夜は……たくさん狩ってみせます」
「は、聞くまでもなかったか。頼りにしてるぞ」
そばで控える姉妹は、変わらない忠義を示す。
その目的が永一と重なった今、三者はもはや運命共同体だ。二か月も近くで過ごすうち、姉妹の献身も以前以上に強くなっている。
永一としては、年頃の男としてもう少しプライベートな時間が欲しかったりもしたが——
「やあ、待たせたね。ふふ、改めてみればここも中々大所帯になったじゃないか」
カウンターの向こうから、剣を背負ってアテルが現れる。類まれな魔術の才を持つ彼は、しかしそれを活かさず宿の店主として過ごしてきた。
それを、永一が説得の末、今はこうして迷宮攻略に協力してくれるようになったのだ。
ギルドへの不信感に加え、シンジュらの里が滅んだ時になにもしてやれなかった後悔がアテルの内では燻っていた。それでも、家族との生活を第一にしていた彼を協会に誘い、あまつさえ宿を協会本部にまでしてもらうのは、口で言うよりずっと険しい過程があった。
「すみません、今夜も力を借ります」
「今さら謝ることじゃないさ。これも、僕が選んだ道だ。……本当はもっと早くに決断するべきだった」
「アテルさん——」
「そんな顔をしないでくれよ、リーダー。これでもキミには感謝しているんだ。エーイチ君がいなければ僕は、向き合うべきことから今も逃げたままだった。それにほら、客入りの少ない宿をやるよりは魔物を殺してる方が収入もいいからさ」
娘と同じで黄色がかった目を細め、冗談めかして笑う。
永一としては複雑な気持ちもあった。
アテルの協力は協会にとって不可欠だった。だが、家族のために生きると既に決めていた彼を説得し、危険に満ちた迷宮の攻略に同道させることは、彼ら家族の在り方を歪めることと同義だった。
そんな罪悪感も、簡単に見透かされているのだろう。
「外は暗くなって、月も出た。リーダー、そろそろ頃合いだろう?」
「夜の間に螺旋迷宮に潜り、日が昇るまでに引き返す——皆用意は万全じゃ。あとはおぬしの一声だけじゃぞ、エーイチ」
「エーイチ様、ご命令を」
「わたしたちは……従うのみです」
協会のメンバーが、一様に永一を見る。歳も性別も様々な彼らだったが、皆永一を慕い、目的を同じくする同志たちだった。
その発端となったのは、それを率いる永一ではない。重い年月と孤独に負けず、他世界に危害を加える螺旋迷宮の成長を止めんとしてきた、パードラこそが始まりだ。
そして、女神たる彼女が掲げた目的とは——
永一は軽く息を吸い、もう一度、集まる顔ぶれに呼びかける。
「いいか、オレたちの目的はただひとつ! 事実上、攻略を停止した冒険者ギルドに代わり、螺旋迷宮を踏破する!」
頂きにある迷宮の核を破壊し、その成長を止める。それは魔物を生む機能を止めることでもある。
「魔物がいない世界——誰も、魔物の犠牲になることのない世界のために!」
——そして、家族を。
怪獣災害によって命を落とした、地球のすべてのひとたちを助けるために。
取り戻せないものを取り戻す。
あの男の治める冒険者ギルドに比べれば、まだまだ規模も小さいけれど。それでもこの小さな宿が、この世界と、未来の異世界の人々を救う手立てにつながるようにと願いながら。
「さあ——行くぞ! 螺旋迷宮へ!」
赤い月に照らされた、夜の中を往く。
螺旋の果てへ、いつの日かたどり着くと信じて。
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そうか……投げつけるのか……それを…
敢えて言おう!
デュラハン戦法、と。
まあ、何を破壊すれば死ぬのかわからない生きているアンデッドなのだから、厄介極まりない。
今回にしても、相手はわかってはいても根本で見た目の生者に騙される。
吹き出す血飛沫を浴びて目を潰され、そこへ頭突き?……エグいわ……絵面、笑っていいのか恐怖したらいいのか、悩む。