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失踪7日目
16話
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部屋に帰って写真を眺める坂上。背景が暗過ぎて殆ど見えない。先の2枚と違って夜に撮られたようだ。ゴツゴツした岩場のような場所に、看板っぽい物も見える。
「どこ、どこなの?」
あの廃墟の時と同じで、いくら考えても知らない場所は思い出せない。ただ知らない場所とも限らないので、必死に写真を拡大させたり薄目で見たりして調べていく。
「あ、れ?」
その写真を見ていると、なにかの記憶が呼び覚まされそうになる。思い出せそうで思い出せないなにか。坂上は次第に頭を上げ、遂には目を閉じて自分の記憶を探り始める。
──小さい時、どこか、騒がしい場所、悔しい、嫌い、怖い、でも本当は、たの、しい?
「ひぃっ」
その瞬間、頭の中で大勢の悲鳴が響いた。机からガタッと立ち上がった坂上は、いつの間にかびっしょりと掻いた額の汗を手で拭きながら、ポツリと呟いた。
「遊園地だ……」
かつてこの市の象徴でもあったそれは、数年前に潰れて今は廃墟になっている。記憶の中で見た光景と写真が一致するのか、ネットで画像検索を掛けていく。
「やっぱりそうだ」
暗くて岩場に見えたのは北極の氷を模した壁。看板の形も一致した。そこは間違いなく、潰れた遊園地にある『北極世界』の入り口だ。ネット情報では、-30℃だかの極寒の世界を再現したウォークスルータイプのアトラクション。坂上はそこまで考えてようやく違和感を覚える。
──私、あの遊園地行ったことあったっけ?
小さい頃にそこに行った記憶が無い。ただ考えてみたら色んな場所に連れて行ってくれた両親が、近場にあるあの遊園地だけ連れて行かない理由がない。
いや、ひとつだけあった。坂上は自身が道化恐怖症であることが原因かと考えた。ピエロが居る可能性のある遊園地なら連れて行かないだろう。だが坂上が道化恐怖症になったのは、遊園地が潰れる2年前のことだ。もっと小さい時なら行っていてもおかしくない。ではなぜ?
坂上はそもそも自分が道化恐怖症になった理由について考え始める。きっかけになる事件は明白だが、それを直接体験した訳でもないのに、ここまで病的に怖がるものか?もしかして自分はあの場所に居たのではないか?
行った記憶が無いのに、この写真の場所を知っていた。それこそがその答えのように感じた坂上。その拭いきれない違和感に、若干の恐怖を感じながらも、坂上は今すべきことに集中しようと両頬を叩く。
「集中!」
場所がわかったのだ、行くしかあるまい。時刻は21時。正面から家を抜け出すのは難しい。両親には申し訳ないが、窓からこっそり抜け出そうと、坂上はこそこそと準備を始める。
玄関から靴を取り、窓から出て夜の街を走る。生暖かい風が頬に当たり、夏の匂いがする空気を吸い込んでは吐き出す。
家から逃げるように走った坂上は、最寄り駅で電車を待ちながらスマホを睨む。そこには3つの連絡先が登録されていた。オカルト記者滝田、警察の浜中、そして成田の3人。
興味本位で足立を探す男、滝田。彼は心霊スポット情報は詳しいが、言ってしまえばそれだけであり、性格にかなり難がある。あの廃遊園地は調べればきっと山程に心霊情報があるのだろう、それは予想される。他2つの場所との共通点に、心霊スポットという条件があるのは確かだが、だからと言って彼が居てどうなるとも思えない。
そもそも坂上と加藤もそうではあるが、殺人現場になった場所に昼間居た男でもあり、殺人事件の犯人の可能性が無いとも言い切れない。
とりあえず滝田はすぐに候補から外れた。そして次に浜中の電話番号が表示される。足立の写真が撮られた場所で事件が起こるのならば、今日今からあの廃遊園地で事件が起こる可能性は非常に高い。これまでと違い、時間はすでに21時を回っているのだ。殺人犯と出会ってしまうとどうしようもない。ならばやはり警察は呼ぶべきか?
かなり迷ったが、坂上は連絡しないことにした。そもそも本当に彼に頼るのならば場所を伝えるだけで良い。家を出る必要など無いのだ。彼が坂上を連れて廃遊園地を捜査するなんてことは無いのだから。
もし連絡すれば、絶対来るなと言われるのがオチだ。それならばせめて、自分が遊園地に入ってから連絡するぐらいでちょうど良いだろうと考えたのだ。先に入ってしまっていれば、浜中に見つかってもなんとか言って追い出されないように出来るかも知れない。もちろん危険性はかなり高いが、坂上はどうしても自分が足立を助けるんだと少し意固地になっていた。
そして最後に坂上は、残った連絡先を表示した。坂上に友人を失って欲しくないと言った成田。本当にそれだけが協力の理由では無いのだろう。流石に坂上もそれぐらいはわかった。
彼女はきっと自分の友人を殺した犯人を探している。だから今日現場に居て、坂上にも探りを入れたのだ。犯人を見つけてどうするつもりかは知らないが、坂上は信じようと思った。坂上をひとりに出来ないと言った成田の言葉にも、嘘は無かったと思いたかったのだ。
坂上は電話を掛ける。そして待ち合わせの駅前広場で成田と合流した坂上は、成田の運転する車に乗って廃遊園地へと向かった。
後に坂上はこの選択を、本当に自分が考えて行ったのか疑問に思う。だがそれはまだ先の話だった。
「どこ、どこなの?」
あの廃墟の時と同じで、いくら考えても知らない場所は思い出せない。ただ知らない場所とも限らないので、必死に写真を拡大させたり薄目で見たりして調べていく。
「あ、れ?」
その写真を見ていると、なにかの記憶が呼び覚まされそうになる。思い出せそうで思い出せないなにか。坂上は次第に頭を上げ、遂には目を閉じて自分の記憶を探り始める。
──小さい時、どこか、騒がしい場所、悔しい、嫌い、怖い、でも本当は、たの、しい?
「ひぃっ」
その瞬間、頭の中で大勢の悲鳴が響いた。机からガタッと立ち上がった坂上は、いつの間にかびっしょりと掻いた額の汗を手で拭きながら、ポツリと呟いた。
「遊園地だ……」
かつてこの市の象徴でもあったそれは、数年前に潰れて今は廃墟になっている。記憶の中で見た光景と写真が一致するのか、ネットで画像検索を掛けていく。
「やっぱりそうだ」
暗くて岩場に見えたのは北極の氷を模した壁。看板の形も一致した。そこは間違いなく、潰れた遊園地にある『北極世界』の入り口だ。ネット情報では、-30℃だかの極寒の世界を再現したウォークスルータイプのアトラクション。坂上はそこまで考えてようやく違和感を覚える。
──私、あの遊園地行ったことあったっけ?
小さい頃にそこに行った記憶が無い。ただ考えてみたら色んな場所に連れて行ってくれた両親が、近場にあるあの遊園地だけ連れて行かない理由がない。
いや、ひとつだけあった。坂上は自身が道化恐怖症であることが原因かと考えた。ピエロが居る可能性のある遊園地なら連れて行かないだろう。だが坂上が道化恐怖症になったのは、遊園地が潰れる2年前のことだ。もっと小さい時なら行っていてもおかしくない。ではなぜ?
坂上はそもそも自分が道化恐怖症になった理由について考え始める。きっかけになる事件は明白だが、それを直接体験した訳でもないのに、ここまで病的に怖がるものか?もしかして自分はあの場所に居たのではないか?
行った記憶が無いのに、この写真の場所を知っていた。それこそがその答えのように感じた坂上。その拭いきれない違和感に、若干の恐怖を感じながらも、坂上は今すべきことに集中しようと両頬を叩く。
「集中!」
場所がわかったのだ、行くしかあるまい。時刻は21時。正面から家を抜け出すのは難しい。両親には申し訳ないが、窓からこっそり抜け出そうと、坂上はこそこそと準備を始める。
玄関から靴を取り、窓から出て夜の街を走る。生暖かい風が頬に当たり、夏の匂いがする空気を吸い込んでは吐き出す。
家から逃げるように走った坂上は、最寄り駅で電車を待ちながらスマホを睨む。そこには3つの連絡先が登録されていた。オカルト記者滝田、警察の浜中、そして成田の3人。
興味本位で足立を探す男、滝田。彼は心霊スポット情報は詳しいが、言ってしまえばそれだけであり、性格にかなり難がある。あの廃遊園地は調べればきっと山程に心霊情報があるのだろう、それは予想される。他2つの場所との共通点に、心霊スポットという条件があるのは確かだが、だからと言って彼が居てどうなるとも思えない。
そもそも坂上と加藤もそうではあるが、殺人現場になった場所に昼間居た男でもあり、殺人事件の犯人の可能性が無いとも言い切れない。
とりあえず滝田はすぐに候補から外れた。そして次に浜中の電話番号が表示される。足立の写真が撮られた場所で事件が起こるのならば、今日今からあの廃遊園地で事件が起こる可能性は非常に高い。これまでと違い、時間はすでに21時を回っているのだ。殺人犯と出会ってしまうとどうしようもない。ならばやはり警察は呼ぶべきか?
かなり迷ったが、坂上は連絡しないことにした。そもそも本当に彼に頼るのならば場所を伝えるだけで良い。家を出る必要など無いのだ。彼が坂上を連れて廃遊園地を捜査するなんてことは無いのだから。
もし連絡すれば、絶対来るなと言われるのがオチだ。それならばせめて、自分が遊園地に入ってから連絡するぐらいでちょうど良いだろうと考えたのだ。先に入ってしまっていれば、浜中に見つかってもなんとか言って追い出されないように出来るかも知れない。もちろん危険性はかなり高いが、坂上はどうしても自分が足立を助けるんだと少し意固地になっていた。
そして最後に坂上は、残った連絡先を表示した。坂上に友人を失って欲しくないと言った成田。本当にそれだけが協力の理由では無いのだろう。流石に坂上もそれぐらいはわかった。
彼女はきっと自分の友人を殺した犯人を探している。だから今日現場に居て、坂上にも探りを入れたのだ。犯人を見つけてどうするつもりかは知らないが、坂上は信じようと思った。坂上をひとりに出来ないと言った成田の言葉にも、嘘は無かったと思いたかったのだ。
坂上は電話を掛ける。そして待ち合わせの駅前広場で成田と合流した坂上は、成田の運転する車に乗って廃遊園地へと向かった。
後に坂上はこの選択を、本当に自分が考えて行ったのか疑問に思う。だがそれはまだ先の話だった。
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