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失踪7〜8日目 夜間
26話
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「真由美ちゃん、もう起きて良いわよ」
「ん、んぅ?」
10分か1時間か、もしくは8時間かも知れない。どれだけ寝たかもわからず少し焦った坂上は、目を開けてすぐに時間を確認しようと、鞄に手を伸ばそうとして驚く。
「え?」
しっかりと目を開けた坂上は、自分の右手を見ても状況が理解出来ず、ただ同じように「え?」と繰り返すしか出来ない。しかし何度目を凝らして見ても現実は変わらず、自分の右手首には革製の手枷が巻かれているのだ。
左を見ればそちらも拘束されており、足を動かそうとしても手と同じように動かない為、そちらも合わせて拘束された四肢がベッドの四隅へと繋がれていることがわかった。
「なっ!志穂さん!助けて!」
ようやく自分が完全に動けないことを受け入れた坂上は、さっき声がした筈の成田を探す。
「ふふ、ここよぉ」
左右を見ても足元を見ても居ないと思ったら、頭の方に立っていたらしい。ベッドの上方からヌッと顔を出した成田の顔が、坂上の顔の目前に迫る。
「寝顔、とっても可愛かったわ」
「志穂さん?」
ここに来てようやく、坂上はこの拘束を誰がしたのか正しく理解した。そして初めて会った時から変わらない、美しい笑顔で自分を見る彼女を、心底恐ろしいと感じる。
「私ね、罪ってきっと奈々恵ちゃんへの物じゃないと思うの」
仮眠用のベッドの周りをグルグル回りながら、成田は落ち着いた声で説明していく。
「だってそれなら私がここに居る意味がないでしょ?奈々恵ちゃんには会ったことないし。でもね?もし罪を探せって言ってるのが、殺人ピエロなんだとしたら、私実は心当たりあるんだぁ」
推理としては滝田と同じ結論。だが坂上は素直にその話を聞いてはいられない。
「あの、志穂さん。これ外してくれませんか?」
「だーめ」
「うっ」
成田はベッドへ上ると、坂上のお腹の上に馬乗りになって先を話し始める。
「私小さい頃からずっとお姉ちゃんが大好きだったの。7歳年上の実の姉のことを、ずっと、ずっと愛してた。家族として、友人として、そして女としても。お姉ちゃんの身体が欲しいって、ずっと思ってた」
「や、めて。くすぐったい」
拘束された坂上の腕を撫でながら、優しそうな顔でありし日の思い出を語る。
「でもそんなお姉ちゃんには彼氏が居たの。嫌いだった。いつも自信が無さそうで、オドオドしてて、言いたいことなんてなにも言えない男。なんでそんな奴がお姉ちゃんの彼氏なんだって、話を聞くたびに思ってた」
「志穂さ、ん。あ、いやぁ──」
「お姉ちゃんのこと何度も怒らせて、それでも最後はやっぱり許して貰って。あの日だって、いつも通りちょっと頭冷やせば、またすぐに仲直りしちゃうんだろうなって」
「や、めぇ、うっ」
坂上は目を瞑ってひたすら耐える。これは夢なんだと、自分に言い聞かすように。
「だから!自分の彼女が他の男と一緒に遊園地で遊んでも良いのかって言ってんの!」
「いや、その、でも」
「でも!?」
「友達、なんでしょ?」
「友達だったら良いの!?私が取られちゃっても良いってわけ!?」
「でも、それが果穂の幸せなんだったら」
「なによそれ!最低!」
木造の古い一軒家に元気の良い女性の声が響く。男性の母親も、ご近所の方々も、いつものことなので気にもしていない。
「だって僕なんかじゃ果穂を幸せに出来ないし」
「出来ないんじゃない!する気がないんでしょ!」
「ちが、でも、でも」
「でもじゃない!じゃあ本当に遊園地行っちゃうよ!?良いの!?」
「あ、あの遊園地は」
「ん?」
「僕らの、大切な場所、だから」
机の上に置いてあるピエロの人形が付いたオルゴールを見て、男は泣きそうになっている。それを見て少し落ち着いたのか、女性はトーンを落として話し出す。
「あの日、あの遊園地で約束してくれたでしょ?あの日見たピエロみたいに、いつも私を笑顔にしてくれるって。あれは嘘だったの?」
付き合った記念に買ったオルゴール。本体は彼の家に置いていて、可愛いピンクの巻き鍵だけ、彼女はいつもネックレスにして持ち歩いていた。それをギュッと握って男を見る。
「ごめんね、笑わせるどころか、いつも怒らせちゃって」
しかしその手から力が抜けていく。女性は諦めたように下を向き、小さく「馬鹿」と言って背を向けた。なにか言って引き留めないといけないと、男はわかってはいたが、結局なにも言葉が出ずに、ただ涙が流れた。
「なんで泣いてるの?泣きたいの、私なんだけど」
一度だけ振り向いた彼女は、流れそうな涙を必死で堪えて、低いトーンで言った。
「いつまでもそうやって泣いてたら良いよ」
本当に欲しかった言葉を貰えなかった彼女は、一度家に帰って歳の離れた妹に散々愚痴を言い、そのまま家の車で近所の遊園地へ向かった。
そして途中、とある公園の前で、子供が悪戯で道路に投げたボールに驚き、単独で事故を起こしてこの世を去った。
「お葬式でね、私あいつに何時間も言い続けてやった。お姉ちゃんが死んだのはお前のせいだって」
坂上はただ震えながら、なにかが終わるのを待つ。話なんてほとんど頭に入って来ない。なんの話をしているのかさえ。
「あとはね、仇を取れって言ってやった。お姉ちゃんを殺した子供を殺せって」
「は?」
耳に入って来た言葉を聞いて、必死に目を瞑っていた筈の坂上がパッと目を開ける。すぐ目の前には醜悪に歪んだ笑顔があった。
「遺族の私達にさえ、悪戯でボールを投げた子供の情報は貰えなかった。だから、子供が沢山居る場所で、出来るだけたーくさん!子供を殺してお前も死ねって!言ってやったの!」
まるで大好きな玩具を自慢する子供のような声で、楽しそうに彼女はそう言った。
「それが……殺人ピエロ……?」
坂上が聞くと、成田はいつもの笑顔に戻って「正解」と言った。
「ね?私の罪は明白でしょ?後悔なんてしてないし、あの大嫌いな男に殺されるつもりもないけどね」
「あ、や、やめて」
成田の手が再び坂上の足を撫でる。
「私ね、真由美ちゃんに嘘吐いてたの。私が探してたのは殺人鬼なんかじゃない。なぜか殺人現場の場所を知っている、あの写真をアップしてた人間なの」
「なんで?」
「なんでって、だってそうでしょ?自分が使う予定の場所を、先に言い当てられるなんて怖いじゃない。まあ、偶然だったみたいだけど」
「自分、が?」
「ね、良いこと教えてあげる」
チュ──。
坂上の頬に成田の唇が優しく当てられる。そして坂上の身体を弄っていた成田の両手が、坂上の首を撫でた。
頬から耳元へ、唇を移動させた成田は、息を吹き掛けるような声で囁く。
「犯人はね?犯してから殺したんじゃないの。殺してから、穢したのよ」
「がっ!かはっ!はあっ!」
坂上は必死に呼吸しようとしているが、成田の手が首を絞め、頸動脈を圧迫していく。
「私ね?お葬式の前に、死んだお姉ちゃんを穢した時のことが忘れられないの。だからごめんね?真由美ちゃんって、なんだかちょっとだけ、お姉ちゃんに似てるから」
坂上の意識がどんどん遠のいていく。まるで眠りに落ちるような感覚。しかしこの誘いのままに眠れば、2度と意識は戻らないだろうと、坂上の直感が言っている。
必死に成田を見つめる。口はもう動かない。四肢も、なにも。ただその目だけで訴えるが、豹変した彼女にはもうなにも伝わらない。むしろその瞳を見て楽しんでいる風にも見えて。
「っ!?」
そして一段と坂上の目が見開かれる。そろそろ最後の瞬間がやって来るのかと、成田はワクワクしながら、自分の手の中で命が無くなっていく快感を享受しようと呼吸を整えて──。
「え?」
2人のスマホから同時に音楽が流れ始めた。聞き覚えのある楽しげな音楽だ。成田はその瞬間まるで氷水でも上から落ちてきたような、身体が震える程の悪寒を感じた。腕が痛くなる程に力が入っていたはずなのに、今は一切力が入らない。それどころか、彼女は振り向くことも、瞬きをすることすら許されなかった。
「なに?」
なにかが居るのだ。坂上に馬乗りになったまま、その首に手を回した成田の後ろに。しかし動けない成田には、それがなんなのか確認する術はない。
「なんなの?なんで?あ、あぁ」
目の前の坂上は成田の手から解放され、どんどん顔に血の気が戻っていく。しかし坂上の表情はそれに反比例して、さっき以上に恐怖で歪んでいった。成田はそれを見て見えないなにかを想像し恐怖する。
「や、め、あ──うそ」
視線の端で、自身の顔の横から、血に染まった手が左右それぞれ伸びて来るのが見える。ゆっくりと伸びた指は彼女の頬を撫でながら、その綺麗な顔になにかの血を塗りたくり、そして先程彼女がやったのと同じように──。
「やめっ!あっ!いぃ!」
坂上は目の前の暗闇、成田の後ろから出て来た無表情のピエロの顔を見て失神寸前だった。伸びた手が成田の首を絞めるのを見ても、まだ意識があったのは、脳内の酸素がまだ少なくまともな思考が出来ていないからだろう。
「こはっ、かっ、はっ」
顔が赤くなり、目が白目になって、口からは泡状の涎が落ちてくる。少しだけ浮いた身体は痙攣して、そして次の瞬間──。
ゴキッ。
首が無理矢理左に折られた。
ガキッ。
今度は右に。口からは血が垂れ流れ、坂上の顔や身体にだらだらと落ちて来る。
ガッゴキガッギィ、ギィ、ギィ、ギィ。
そして目の前で、成田の首がグルグルとネジのように回されていく。身体はなぜか固定されたように動かず、信じられない力で無理矢理に。
ブチッ!
そして刃物を使わずに、胴体からそれが取り外され、恐怖で歪んだそれの血塗れの唇が、坂上の唇に無理矢理重ねられた。
「ん、んぅ?」
10分か1時間か、もしくは8時間かも知れない。どれだけ寝たかもわからず少し焦った坂上は、目を開けてすぐに時間を確認しようと、鞄に手を伸ばそうとして驚く。
「え?」
しっかりと目を開けた坂上は、自分の右手を見ても状況が理解出来ず、ただ同じように「え?」と繰り返すしか出来ない。しかし何度目を凝らして見ても現実は変わらず、自分の右手首には革製の手枷が巻かれているのだ。
左を見ればそちらも拘束されており、足を動かそうとしても手と同じように動かない為、そちらも合わせて拘束された四肢がベッドの四隅へと繋がれていることがわかった。
「なっ!志穂さん!助けて!」
ようやく自分が完全に動けないことを受け入れた坂上は、さっき声がした筈の成田を探す。
「ふふ、ここよぉ」
左右を見ても足元を見ても居ないと思ったら、頭の方に立っていたらしい。ベッドの上方からヌッと顔を出した成田の顔が、坂上の顔の目前に迫る。
「寝顔、とっても可愛かったわ」
「志穂さん?」
ここに来てようやく、坂上はこの拘束を誰がしたのか正しく理解した。そして初めて会った時から変わらない、美しい笑顔で自分を見る彼女を、心底恐ろしいと感じる。
「私ね、罪ってきっと奈々恵ちゃんへの物じゃないと思うの」
仮眠用のベッドの周りをグルグル回りながら、成田は落ち着いた声で説明していく。
「だってそれなら私がここに居る意味がないでしょ?奈々恵ちゃんには会ったことないし。でもね?もし罪を探せって言ってるのが、殺人ピエロなんだとしたら、私実は心当たりあるんだぁ」
推理としては滝田と同じ結論。だが坂上は素直にその話を聞いてはいられない。
「あの、志穂さん。これ外してくれませんか?」
「だーめ」
「うっ」
成田はベッドへ上ると、坂上のお腹の上に馬乗りになって先を話し始める。
「私小さい頃からずっとお姉ちゃんが大好きだったの。7歳年上の実の姉のことを、ずっと、ずっと愛してた。家族として、友人として、そして女としても。お姉ちゃんの身体が欲しいって、ずっと思ってた」
「や、めて。くすぐったい」
拘束された坂上の腕を撫でながら、優しそうな顔でありし日の思い出を語る。
「でもそんなお姉ちゃんには彼氏が居たの。嫌いだった。いつも自信が無さそうで、オドオドしてて、言いたいことなんてなにも言えない男。なんでそんな奴がお姉ちゃんの彼氏なんだって、話を聞くたびに思ってた」
「志穂さ、ん。あ、いやぁ──」
「お姉ちゃんのこと何度も怒らせて、それでも最後はやっぱり許して貰って。あの日だって、いつも通りちょっと頭冷やせば、またすぐに仲直りしちゃうんだろうなって」
「や、めぇ、うっ」
坂上は目を瞑ってひたすら耐える。これは夢なんだと、自分に言い聞かすように。
「だから!自分の彼女が他の男と一緒に遊園地で遊んでも良いのかって言ってんの!」
「いや、その、でも」
「でも!?」
「友達、なんでしょ?」
「友達だったら良いの!?私が取られちゃっても良いってわけ!?」
「でも、それが果穂の幸せなんだったら」
「なによそれ!最低!」
木造の古い一軒家に元気の良い女性の声が響く。男性の母親も、ご近所の方々も、いつものことなので気にもしていない。
「だって僕なんかじゃ果穂を幸せに出来ないし」
「出来ないんじゃない!する気がないんでしょ!」
「ちが、でも、でも」
「でもじゃない!じゃあ本当に遊園地行っちゃうよ!?良いの!?」
「あ、あの遊園地は」
「ん?」
「僕らの、大切な場所、だから」
机の上に置いてあるピエロの人形が付いたオルゴールを見て、男は泣きそうになっている。それを見て少し落ち着いたのか、女性はトーンを落として話し出す。
「あの日、あの遊園地で約束してくれたでしょ?あの日見たピエロみたいに、いつも私を笑顔にしてくれるって。あれは嘘だったの?」
付き合った記念に買ったオルゴール。本体は彼の家に置いていて、可愛いピンクの巻き鍵だけ、彼女はいつもネックレスにして持ち歩いていた。それをギュッと握って男を見る。
「ごめんね、笑わせるどころか、いつも怒らせちゃって」
しかしその手から力が抜けていく。女性は諦めたように下を向き、小さく「馬鹿」と言って背を向けた。なにか言って引き留めないといけないと、男はわかってはいたが、結局なにも言葉が出ずに、ただ涙が流れた。
「なんで泣いてるの?泣きたいの、私なんだけど」
一度だけ振り向いた彼女は、流れそうな涙を必死で堪えて、低いトーンで言った。
「いつまでもそうやって泣いてたら良いよ」
本当に欲しかった言葉を貰えなかった彼女は、一度家に帰って歳の離れた妹に散々愚痴を言い、そのまま家の車で近所の遊園地へ向かった。
そして途中、とある公園の前で、子供が悪戯で道路に投げたボールに驚き、単独で事故を起こしてこの世を去った。
「お葬式でね、私あいつに何時間も言い続けてやった。お姉ちゃんが死んだのはお前のせいだって」
坂上はただ震えながら、なにかが終わるのを待つ。話なんてほとんど頭に入って来ない。なんの話をしているのかさえ。
「あとはね、仇を取れって言ってやった。お姉ちゃんを殺した子供を殺せって」
「は?」
耳に入って来た言葉を聞いて、必死に目を瞑っていた筈の坂上がパッと目を開ける。すぐ目の前には醜悪に歪んだ笑顔があった。
「遺族の私達にさえ、悪戯でボールを投げた子供の情報は貰えなかった。だから、子供が沢山居る場所で、出来るだけたーくさん!子供を殺してお前も死ねって!言ってやったの!」
まるで大好きな玩具を自慢する子供のような声で、楽しそうに彼女はそう言った。
「それが……殺人ピエロ……?」
坂上が聞くと、成田はいつもの笑顔に戻って「正解」と言った。
「ね?私の罪は明白でしょ?後悔なんてしてないし、あの大嫌いな男に殺されるつもりもないけどね」
「あ、や、やめて」
成田の手が再び坂上の足を撫でる。
「私ね、真由美ちゃんに嘘吐いてたの。私が探してたのは殺人鬼なんかじゃない。なぜか殺人現場の場所を知っている、あの写真をアップしてた人間なの」
「なんで?」
「なんでって、だってそうでしょ?自分が使う予定の場所を、先に言い当てられるなんて怖いじゃない。まあ、偶然だったみたいだけど」
「自分、が?」
「ね、良いこと教えてあげる」
チュ──。
坂上の頬に成田の唇が優しく当てられる。そして坂上の身体を弄っていた成田の両手が、坂上の首を撫でた。
頬から耳元へ、唇を移動させた成田は、息を吹き掛けるような声で囁く。
「犯人はね?犯してから殺したんじゃないの。殺してから、穢したのよ」
「がっ!かはっ!はあっ!」
坂上は必死に呼吸しようとしているが、成田の手が首を絞め、頸動脈を圧迫していく。
「私ね?お葬式の前に、死んだお姉ちゃんを穢した時のことが忘れられないの。だからごめんね?真由美ちゃんって、なんだかちょっとだけ、お姉ちゃんに似てるから」
坂上の意識がどんどん遠のいていく。まるで眠りに落ちるような感覚。しかしこの誘いのままに眠れば、2度と意識は戻らないだろうと、坂上の直感が言っている。
必死に成田を見つめる。口はもう動かない。四肢も、なにも。ただその目だけで訴えるが、豹変した彼女にはもうなにも伝わらない。むしろその瞳を見て楽しんでいる風にも見えて。
「っ!?」
そして一段と坂上の目が見開かれる。そろそろ最後の瞬間がやって来るのかと、成田はワクワクしながら、自分の手の中で命が無くなっていく快感を享受しようと呼吸を整えて──。
「え?」
2人のスマホから同時に音楽が流れ始めた。聞き覚えのある楽しげな音楽だ。成田はその瞬間まるで氷水でも上から落ちてきたような、身体が震える程の悪寒を感じた。腕が痛くなる程に力が入っていたはずなのに、今は一切力が入らない。それどころか、彼女は振り向くことも、瞬きをすることすら許されなかった。
「なに?」
なにかが居るのだ。坂上に馬乗りになったまま、その首に手を回した成田の後ろに。しかし動けない成田には、それがなんなのか確認する術はない。
「なんなの?なんで?あ、あぁ」
目の前の坂上は成田の手から解放され、どんどん顔に血の気が戻っていく。しかし坂上の表情はそれに反比例して、さっき以上に恐怖で歪んでいった。成田はそれを見て見えないなにかを想像し恐怖する。
「や、め、あ──うそ」
視線の端で、自身の顔の横から、血に染まった手が左右それぞれ伸びて来るのが見える。ゆっくりと伸びた指は彼女の頬を撫でながら、その綺麗な顔になにかの血を塗りたくり、そして先程彼女がやったのと同じように──。
「やめっ!あっ!いぃ!」
坂上は目の前の暗闇、成田の後ろから出て来た無表情のピエロの顔を見て失神寸前だった。伸びた手が成田の首を絞めるのを見ても、まだ意識があったのは、脳内の酸素がまだ少なくまともな思考が出来ていないからだろう。
「こはっ、かっ、はっ」
顔が赤くなり、目が白目になって、口からは泡状の涎が落ちてくる。少しだけ浮いた身体は痙攣して、そして次の瞬間──。
ゴキッ。
首が無理矢理左に折られた。
ガキッ。
今度は右に。口からは血が垂れ流れ、坂上の顔や身体にだらだらと落ちて来る。
ガッゴキガッギィ、ギィ、ギィ、ギィ。
そして目の前で、成田の首がグルグルとネジのように回されていく。身体はなぜか固定されたように動かず、信じられない力で無理矢理に。
ブチッ!
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