星の糸

kudamonokozou

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星の糸

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昔々、まだ人間が神様と、面と向かってお話できていた頃の話です。

ナガスネヒコとノミノスクネという、とても力の強い男が二人、野原に寝っ転がって、夜空の星を見上げておりました。

夜空にはいっぱいの星が、満ち満ちておりました。

「なあ、ノミノスクネよ。わしにはどうしても分からんのだが、どうしてあの空の星は、宙に浮いたままで落ちてこんのだろうな。」
とナガスネヒコが聞きますと、ノミノスクネは笑って答えました。
「お主はそんなことも分からんのか。あの星は、目に見えぬ糸でつるしておるんだよ。」

ナガスネヒコは驚いて、
「お主はその糸に触れたことがあるのか。」
と聞きましたので、ノミノスクネはまた笑って答えました。
「わしもまだ触れたことは無いが、そうに決まっておるだろう。そうに決まっておる。」
「それなら、今から国中で一番高い山に登って、二人で見届けようではないか。」
と、ナガスネヒコがノミノスクネを誘って、二人は出かけて行きました。

それで二人は、国中で一番高い山に登って行きました。
二人は山の途中で、地面から見上げると、てっぺんが見えないほどものすごく高い木を選んで、「バキバキバキ」と切り倒し、それぞれ肩に担いで、また山に登って行きました。

山頂に辿り着くと、夜空にはもう、溢れんほどの星が輝いています。

「これだけたくさんの星があれば、いくらかは星の糸に触れることができるというものだ。」
と言って、二人は自分たちが担いでいた大木を両手で抱え持ち上げて、ぐるぐる星の回りを探って、星の糸に触れようとしました。
しかし、いっこうに触る気配がありません。空振りばかりです。

『どうもおかしい。ちょっと足りないようだ。』
疲れてきたナガスネヒコは、ノミノスクネに提案しました。
「悪いが、お主の持っている木の上に、わしを乗せてくれまいか。そうすれば届くというものだ。」
それでノミノスクネは、高く持ち上げていた大木を一度寝かしてやり、その上にナガスネヒコが大木を肩に担いで乗りました。
そして「よいしょ!」と、ノミノスクネが大木を再び持ち上げましたので、ナガスネヒコはずいぶん星の高さにまで近づいたと思いました。そして自分の担いでいる大木を両手で高く持ち上げました。

ですから、ノミノスクネがとても高い大木を持ち上げ、その上にナガスネヒコが乗って、これまた高い大木を持ち上げましたので、とてもとても高い木の塔が出来上がったのです。

ナガスネヒコが見上げると、空にはもう眩いほどの星が輝いています。
『あともう少しだ。』
ナガスネヒコは、わくわくしました。

ナガスネヒコは持っている大木をグルグル動かして、星の回りを探ってみます。
今にも星に届きそうな気がしました。
また、星をつついて見ようともしましたが、手応えがありません。

「おう、もう少しで届きそうなんだが。悪いが、もう少し左へ動いてくれまいか。そこなら届きそうな気がする。」
それで、ノミノスクネは少し左へ動いて、
「どうだ、届いたか。」
とナガスネヒコに尋ねましたが、ナガスネヒコは、
「いや、もうちょっとなんだがな。もう少し前に動いてくれまいか。」
と言いましたので、ノミノスクネは少し前に動いてまた尋ねました。
「どうだ、届いたか。」

こうして二人は、何度も右へ行ったり左へ行ったり、前へ行ったり後ろへ行ったりしましたが、星にも星の糸にもいっこうに触ることができません。
ふたりはもう、汗びっしょりです。

「おい、もうそこまで星が見えているではないか。しっかりしろよ。」
「いや、今触れたと思ったのだがなあ。おかしいな。」
「おい、わしと代れ。お主はどうも下手のようだ。」
二人は上と下で、大声で叫びあっています。

あまりにやかましいので、熊や鹿や鳥たちが『何をしているのだろう。』と、不思議そうに眺めておりました。

いつの間にか動物たちのそばに立っていた山の神様は、
「本当に人間って、おかしなことをするものね。」と言って、袂で口を隠してクスッとお笑いになりました。
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