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良夫の絵から利益を貪る悪人は誰?
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明美は、狐につままれたような感じだった。
孝治は毎週、良夫の絵を取りに来て、現金を置いていってくれる。明美はその現金をありがたく思っていた。
毎回数万円、月にすれば十万円くらいにはなった。それでも今の中谷家にとっては、まことにありがたい収入であった。
ところが、野見山の話では、良夫の絵は安くても五十万で売れると言う。孝治の話とは合わない。
しかし、野見山が嘘をついているとは思えない。またこの電話そのものが、野見山の名前を騙ったいたずら電話であるとも思えない。
明美は野見山の声を、電話で何回も聞いていて覚えているからだ。
どちらが嘘をついているのか。
その週の土曜日、いつも通り孝治は訪ねてきた。
「お兄さん、今日はサイダーでも召し上がって行ってくださいよ。」
明美は引き留め工作に出た。
「いや、忙しいよってにすぐ帰るわ。すまんけど、また今度な。」
確かに、良夫の絵を売るようになってから、孝治は中谷家に長居をしなくなった。孝治は明美の顔をまともに見ようともせず、良夫の部屋に入ろうとした。
「この間、野見山さんから電話があったわよ。」
明美が孝治の背後から、やや強い口調で一言浴びせた。孝治はぎくっとして、一瞬体が固まった。
「主人の絵、本当はいくらで売れたのかしら。」
明美はさらにたたみかけた。
「なんや、知っとんたんかいな。人が悪いな。」
恐る恐る振り向いた孝治の目は、取り押さえられたコソ泥のように臆病であった。
「あら、人が悪いのはどっちかしら。」
明美は容赦しなかった。
孝治はすっかり意気消沈した様子で、うつむき加減で黙って立ちすくんでいたが、突然廊下に土下座をして、涙ながらに弁明を吐いた。
「すまん、不景気で店の方がうまく行かんでな、借金が膨らんでしもたんや。堪忍して、堪忍して。」
孝治の言い訳は明美にとって意外であった。
明美は孝治に、経済的援助を真剣に頼もうと考えたことがあったのである。しかし実際には、その孝治が借金で首が廻らない状態だったのだ。
「頼む、次の客は二百万で買う言うてんねん。これが入ったら、店も何とか持ちなおすんや。そうしたら、今まで借りてた分は返す。これが最後やよってに、見逃して。」
二百万と言う高額に驚いたが、明美はこれ以上兄の哀れな姿を見るに忍びなくなった。
明美は孝治と応接間で向かい合い、事実関係を問いただした。
孝治はしょんぼりしていたが、生来しゃべり好きの性格であるので、一旦口を開くと、悪びれることもなく話し出した。
「ほんまにすまん。正直に言うわ。絵を売るにあたって、わしのつてを頼るというのはあれは嘘や。ほんまはなあ、良夫君が通っていたという絵画スクール、あそこに最初から持って行ってん。年末に持って行こう思たけど、もうスクールが休みに入ってたんで、年明すぐに行ったんや。」
孝治は、正直に話しているように思えた。
「わしは良夫君の義理の兄と名乗り出て、良夫君が描いた絵が売れないものか、代理で来ましたと言うたわけや。そしたら、あの野見山言う講師が出てきて、絵を拝見しましょうと言うて来よったんや。ほんで、あのガッシュで描いた絵見せたら、眉間に皺寄せて、これ本当に中谷さんの絵ですか言うて、疑り深い目で見よる。わし、なんかしら冷や汗が出たんやが、野見山はんのその目は、良夫君の絵に対する賞賛の意味やったというのが、後から分かった。スクールに通てた時は、この絵に溢れている才能のこれっぽっちも見せなかった、素晴らしい才能の開花や言うて、えらい褒めようや。他の講師も集まってきて、皆しきりに感心しよる。確かに中谷さんの癖が見えるような気がするけれど、絵のクオリティは月とスッポン、提灯に釣り鐘や言うて、大騒ぎになった。」
孝治はここで、明美が注いでくれた冷たいお茶を一口飲んだ。
「ほんで、この絵でも売れるけど、油彩でカンバスに本格的に描いた方がいいと、講師たちが口々に言うわけや。ほいでわし、慌てて油絵道具とカンバスとイーゼルを買って、良夫君の元に届けたのや。」
それで兄は、あんなに汗だくになってまで、画材道具を持ってきたのかと、明美はその時のことを思い出していた。
「それでな、この絵画スクールのオーナーというのが大した資産家で、画廊も経営してるんや。そいでもって、ガッシュの絵も、野見山はんがオーナーの画廊に出品しといてくれたのやけど、なんとすぐに八万円という値が付いたのや。そら驚いたで。それからわしが毎週こっちまで取りに来て、油絵を出品するようになったわけやけど、見る見る値がつりあがっていって、大体五十万から、高いときには百万で売れるようになった。バブル景気がはじけて、投資先を株から絵画に乗り換えたものがおるらしい。えらいもんやな。評判が評判を呼んで、次から次へと新しい買い手が付くようになった。そいで次の買い手は、絵も完成してないうちに二百万という値を付けよったから、わし、よっしゃ言うて、契約してもうたんや。」
と、孝治は一気にしゃべったが、
「え、兄さんが契約したの?夫にも私にも無断で?」
と、明美は嫌味に切り込んだ。
それを聞いて、孝治の顔は青ざめた。
このままでは、詐欺で訴えらても文句は言えない。
「すまん、堪忍して!これからは、明美の言うとおりにするから。な、頼む!良夫君の絵はな、これから向こう半年間は既に予約が入ってるんや。あとで必ず返すから、今回の二百万は僕の手に入れさせて!」
孝治の白状話を聞いて、明美は野見山がなぜ電話でいきなり絵の話題を切り出してきたのか、合点が行った。
良夫の絵は今、専門家の間でも注目の的なのだ。
嘘のような話である。
孝治はいずれ返すつもりだったから、領収書も全部とってあると釈明をした。
それならばと、明美は孝治に、今までの良夫の絵の売り上げを掠め取った分の借用書を書かせた。根は正直な孝治は素直に書いた。
それでもまだ、どことなく信じられない気がする明美は、良夫の絵が飾ってあるという画廊を見に行くことにした。
野見山に、画廊の場所を詳しく聞いておいた。
仕事帰りに、都心にある画廊に立ち寄った明美は、いつものラフなスタイルであった。
画廊に入ると、周りは着飾った男女ばかりである。明美は少し気後れした。
戸惑っていると、スーツに身を固めた一人の男が近寄ってきた。
「失礼ですが、中谷画伯の奥様でいらっしゃいませんか。」
「あ、はい、中谷の妻ですが。」
「あー、やっぱり。そろそろお越しになると、お待ちしておりました。」
声から判断して、この男が野見山であると分かった。
なかなかの男前である。明美よりだいぶ若そうである。
「お顔とお姿を拝見して、あの絵のモデルの方だとピーンと来ましたよ。そうすると奥様ではないかと。あ、これは失礼しました。私、アートスクールで講師をしております野見山でございます。」
そう言って、野見山は明美に名刺を渡した。
『あの絵のモデル...』
それを聞いて、明美は嫌な予感がした。
「すみません、もうすぐ終了時間なので、早速ご案内いたします。」
と言って、野見山は明美を、ある絵の前に連れてきた。
何人かのギャラリーが、その絵をしげしげと見つめていた。
それは、例の絵だった。明美は、頭から湯気が出るほど顔が真っ赤になった。
「中谷画伯は、モデルを使わないことで有名なのですが、初めてのモデルが奥様だったとは。これはプレミアが付きますよ。買ったお客様は得をしたなあ。」
絵には、二百万円の値札が付けられていた。既に売約済みである。
「本当に、中谷画伯は内面を映し出す力が素晴らしいです。しかも、一週間に一枚のペースで作品を仕上げられている。しかも表面乾燥の段階で、飛ぶように売れるのです。これは驚異的です。我々も、中谷画伯がスクールに通われているときは、全く気が付きませんでした。こんな大画家がスクールの生徒だったとは。」
他にも何枚か、良夫の絵が飾られていたが、どれも五十万から百万円の値が付けられている。しかも売約済みだ。
明美は、『本当に売れてるのだ。』と、感激した。
「すみません。時間なので閉店させていただきます。」
と、野見山は言ったが、
「奥様、少しお話させていただきませんか。」
と、明美を外に連れ出した。
そして向かった先は、高級そうなレストランであった。
「この店は、ドレスコードなど野暮なものはありませんので、どうぞ気になさらずに。さあ、参りましょう。」
と、野見山は強引に明美を店に連れ込んだ。
『ちょっと、仕事の付き合いで遅くなるから、出前を注文して食べておいて。』
と、子供達には電話で断っておいた。
「それにしても、中谷画伯の覚醒には驚かされましたよ。今、株への資金が絵画に回っていまして、値がつり上がっていましてね。その流れに中谷画伯の絵は乗ったのですね。」
『中谷画伯の絵は、観るものを圧倒する物凄いエネルギーを感じる』と、さらに野見山は良夫を絵を絶賛した。
良夫の絵の良さが分からない明美は、何と答えてよいのか戸惑った。
『あのレベルの絵を、あのハイペースで描き続けるのは、天才としか言いようがない。うちのオーナーは資産家なので、自分はあまり利益を取らず、画家の育成を重んじている。奥様は幸運です。それにしても、旦那様が売れっ子画家なのに、奥様は気取ったところが一切無く、内面の美しさを感じます。』
などと、野見山はべらべら饒舌に喋った。
明美は気を良くして、酒も随分飲んだので、ほろ酔い加減になって気分がハイになった。
食事が終わって、
「お送りします。」
と、明美はタクシーに乗せられたが、付いた先はラブホテルであった。
酔いがますます回っていた明美は、言われるままに部屋に入り、服をすっかり脱がされた。
「奥さんは本当にお美しい。僕のモデルになってほしいくらいだ。」
野見山のお世辞は上手かった。プレイボーイのようだ。
乳房を散々弄ばれて、すっかり感じてしまった明美は、セックスは久しぶりということもあって、色々な体位で野見山と交わう時間を楽しんでしまった。
酔っていたので、初めての相手というのに、ずいぶん大胆で、恥ずかしい体位を許してしまった。声もたくさん出した。
野見山は、ちゃっかりとコンドームを用意していた。野見山は精力絶倫で、その晩、コンドームを2枚使用した。
「奥さん、僕と組みませんか。」
野見山は、そんな言葉をかけていたようだった。
しかし、エクスタシーの絶頂を楽しんでいた明美は、何と答えたか覚えていなかった。
明美が家に帰った時には、零時をだいぶ過ぎていた。
孝治は毎週、良夫の絵を取りに来て、現金を置いていってくれる。明美はその現金をありがたく思っていた。
毎回数万円、月にすれば十万円くらいにはなった。それでも今の中谷家にとっては、まことにありがたい収入であった。
ところが、野見山の話では、良夫の絵は安くても五十万で売れると言う。孝治の話とは合わない。
しかし、野見山が嘘をついているとは思えない。またこの電話そのものが、野見山の名前を騙ったいたずら電話であるとも思えない。
明美は野見山の声を、電話で何回も聞いていて覚えているからだ。
どちらが嘘をついているのか。
その週の土曜日、いつも通り孝治は訪ねてきた。
「お兄さん、今日はサイダーでも召し上がって行ってくださいよ。」
明美は引き留め工作に出た。
「いや、忙しいよってにすぐ帰るわ。すまんけど、また今度な。」
確かに、良夫の絵を売るようになってから、孝治は中谷家に長居をしなくなった。孝治は明美の顔をまともに見ようともせず、良夫の部屋に入ろうとした。
「この間、野見山さんから電話があったわよ。」
明美が孝治の背後から、やや強い口調で一言浴びせた。孝治はぎくっとして、一瞬体が固まった。
「主人の絵、本当はいくらで売れたのかしら。」
明美はさらにたたみかけた。
「なんや、知っとんたんかいな。人が悪いな。」
恐る恐る振り向いた孝治の目は、取り押さえられたコソ泥のように臆病であった。
「あら、人が悪いのはどっちかしら。」
明美は容赦しなかった。
孝治はすっかり意気消沈した様子で、うつむき加減で黙って立ちすくんでいたが、突然廊下に土下座をして、涙ながらに弁明を吐いた。
「すまん、不景気で店の方がうまく行かんでな、借金が膨らんでしもたんや。堪忍して、堪忍して。」
孝治の言い訳は明美にとって意外であった。
明美は孝治に、経済的援助を真剣に頼もうと考えたことがあったのである。しかし実際には、その孝治が借金で首が廻らない状態だったのだ。
「頼む、次の客は二百万で買う言うてんねん。これが入ったら、店も何とか持ちなおすんや。そうしたら、今まで借りてた分は返す。これが最後やよってに、見逃して。」
二百万と言う高額に驚いたが、明美はこれ以上兄の哀れな姿を見るに忍びなくなった。
明美は孝治と応接間で向かい合い、事実関係を問いただした。
孝治はしょんぼりしていたが、生来しゃべり好きの性格であるので、一旦口を開くと、悪びれることもなく話し出した。
「ほんまにすまん。正直に言うわ。絵を売るにあたって、わしのつてを頼るというのはあれは嘘や。ほんまはなあ、良夫君が通っていたという絵画スクール、あそこに最初から持って行ってん。年末に持って行こう思たけど、もうスクールが休みに入ってたんで、年明すぐに行ったんや。」
孝治は、正直に話しているように思えた。
「わしは良夫君の義理の兄と名乗り出て、良夫君が描いた絵が売れないものか、代理で来ましたと言うたわけや。そしたら、あの野見山言う講師が出てきて、絵を拝見しましょうと言うて来よったんや。ほんで、あのガッシュで描いた絵見せたら、眉間に皺寄せて、これ本当に中谷さんの絵ですか言うて、疑り深い目で見よる。わし、なんかしら冷や汗が出たんやが、野見山はんのその目は、良夫君の絵に対する賞賛の意味やったというのが、後から分かった。スクールに通てた時は、この絵に溢れている才能のこれっぽっちも見せなかった、素晴らしい才能の開花や言うて、えらい褒めようや。他の講師も集まってきて、皆しきりに感心しよる。確かに中谷さんの癖が見えるような気がするけれど、絵のクオリティは月とスッポン、提灯に釣り鐘や言うて、大騒ぎになった。」
孝治はここで、明美が注いでくれた冷たいお茶を一口飲んだ。
「ほんで、この絵でも売れるけど、油彩でカンバスに本格的に描いた方がいいと、講師たちが口々に言うわけや。ほいでわし、慌てて油絵道具とカンバスとイーゼルを買って、良夫君の元に届けたのや。」
それで兄は、あんなに汗だくになってまで、画材道具を持ってきたのかと、明美はその時のことを思い出していた。
「それでな、この絵画スクールのオーナーというのが大した資産家で、画廊も経営してるんや。そいでもって、ガッシュの絵も、野見山はんがオーナーの画廊に出品しといてくれたのやけど、なんとすぐに八万円という値が付いたのや。そら驚いたで。それからわしが毎週こっちまで取りに来て、油絵を出品するようになったわけやけど、見る見る値がつりあがっていって、大体五十万から、高いときには百万で売れるようになった。バブル景気がはじけて、投資先を株から絵画に乗り換えたものがおるらしい。えらいもんやな。評判が評判を呼んで、次から次へと新しい買い手が付くようになった。そいで次の買い手は、絵も完成してないうちに二百万という値を付けよったから、わし、よっしゃ言うて、契約してもうたんや。」
と、孝治は一気にしゃべったが、
「え、兄さんが契約したの?夫にも私にも無断で?」
と、明美は嫌味に切り込んだ。
それを聞いて、孝治の顔は青ざめた。
このままでは、詐欺で訴えらても文句は言えない。
「すまん、堪忍して!これからは、明美の言うとおりにするから。な、頼む!良夫君の絵はな、これから向こう半年間は既に予約が入ってるんや。あとで必ず返すから、今回の二百万は僕の手に入れさせて!」
孝治の白状話を聞いて、明美は野見山がなぜ電話でいきなり絵の話題を切り出してきたのか、合点が行った。
良夫の絵は今、専門家の間でも注目の的なのだ。
嘘のような話である。
孝治はいずれ返すつもりだったから、領収書も全部とってあると釈明をした。
それならばと、明美は孝治に、今までの良夫の絵の売り上げを掠め取った分の借用書を書かせた。根は正直な孝治は素直に書いた。
それでもまだ、どことなく信じられない気がする明美は、良夫の絵が飾ってあるという画廊を見に行くことにした。
野見山に、画廊の場所を詳しく聞いておいた。
仕事帰りに、都心にある画廊に立ち寄った明美は、いつものラフなスタイルであった。
画廊に入ると、周りは着飾った男女ばかりである。明美は少し気後れした。
戸惑っていると、スーツに身を固めた一人の男が近寄ってきた。
「失礼ですが、中谷画伯の奥様でいらっしゃいませんか。」
「あ、はい、中谷の妻ですが。」
「あー、やっぱり。そろそろお越しになると、お待ちしておりました。」
声から判断して、この男が野見山であると分かった。
なかなかの男前である。明美よりだいぶ若そうである。
「お顔とお姿を拝見して、あの絵のモデルの方だとピーンと来ましたよ。そうすると奥様ではないかと。あ、これは失礼しました。私、アートスクールで講師をしております野見山でございます。」
そう言って、野見山は明美に名刺を渡した。
『あの絵のモデル...』
それを聞いて、明美は嫌な予感がした。
「すみません、もうすぐ終了時間なので、早速ご案内いたします。」
と言って、野見山は明美を、ある絵の前に連れてきた。
何人かのギャラリーが、その絵をしげしげと見つめていた。
それは、例の絵だった。明美は、頭から湯気が出るほど顔が真っ赤になった。
「中谷画伯は、モデルを使わないことで有名なのですが、初めてのモデルが奥様だったとは。これはプレミアが付きますよ。買ったお客様は得をしたなあ。」
絵には、二百万円の値札が付けられていた。既に売約済みである。
「本当に、中谷画伯は内面を映し出す力が素晴らしいです。しかも、一週間に一枚のペースで作品を仕上げられている。しかも表面乾燥の段階で、飛ぶように売れるのです。これは驚異的です。我々も、中谷画伯がスクールに通われているときは、全く気が付きませんでした。こんな大画家がスクールの生徒だったとは。」
他にも何枚か、良夫の絵が飾られていたが、どれも五十万から百万円の値が付けられている。しかも売約済みだ。
明美は、『本当に売れてるのだ。』と、感激した。
「すみません。時間なので閉店させていただきます。」
と、野見山は言ったが、
「奥様、少しお話させていただきませんか。」
と、明美を外に連れ出した。
そして向かった先は、高級そうなレストランであった。
「この店は、ドレスコードなど野暮なものはありませんので、どうぞ気になさらずに。さあ、参りましょう。」
と、野見山は強引に明美を店に連れ込んだ。
『ちょっと、仕事の付き合いで遅くなるから、出前を注文して食べておいて。』
と、子供達には電話で断っておいた。
「それにしても、中谷画伯の覚醒には驚かされましたよ。今、株への資金が絵画に回っていまして、値がつり上がっていましてね。その流れに中谷画伯の絵は乗ったのですね。」
『中谷画伯の絵は、観るものを圧倒する物凄いエネルギーを感じる』と、さらに野見山は良夫を絵を絶賛した。
良夫の絵の良さが分からない明美は、何と答えてよいのか戸惑った。
『あのレベルの絵を、あのハイペースで描き続けるのは、天才としか言いようがない。うちのオーナーは資産家なので、自分はあまり利益を取らず、画家の育成を重んじている。奥様は幸運です。それにしても、旦那様が売れっ子画家なのに、奥様は気取ったところが一切無く、内面の美しさを感じます。』
などと、野見山はべらべら饒舌に喋った。
明美は気を良くして、酒も随分飲んだので、ほろ酔い加減になって気分がハイになった。
食事が終わって、
「お送りします。」
と、明美はタクシーに乗せられたが、付いた先はラブホテルであった。
酔いがますます回っていた明美は、言われるままに部屋に入り、服をすっかり脱がされた。
「奥さんは本当にお美しい。僕のモデルになってほしいくらいだ。」
野見山のお世辞は上手かった。プレイボーイのようだ。
乳房を散々弄ばれて、すっかり感じてしまった明美は、セックスは久しぶりということもあって、色々な体位で野見山と交わう時間を楽しんでしまった。
酔っていたので、初めての相手というのに、ずいぶん大胆で、恥ずかしい体位を許してしまった。声もたくさん出した。
野見山は、ちゃっかりとコンドームを用意していた。野見山は精力絶倫で、その晩、コンドームを2枚使用した。
「奥さん、僕と組みませんか。」
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