天使たちにはハナマルを!

狗嵜ネムリ

文字の大きさ
55 / 59
静かの夜に

3

しおりを挟む
「優しい世界だな」
 感想は遠慮すると言ったのに、画用紙でできた絵本を閉じた蒼汰が小さく笑った。
「捕食種と被食種が共存する話は基本的に好きだし、このヘタクソな絵も味があっていい」
「う、うるさいな……。蒼汰だって絵ヘタなくせに」
 午前一時。父さんも武虎も、とっくに夢の中だ。
 今日は泊まって行くことになった蒼汰が、俺のベッドに腰掛けて大きく溜息をついた。
「……正直言うとさ。俺、始めは翼に良い印象持ってなかったんだ。たまにいるんだ、教室を託児所代わりにしてなかなか迎えに来ない親が。……あの日翼が武虎を迎えに来なかったのも、それと同じような理由だと思ってた」
「そ、それは、……ごめん」
「それに加えて、生徒から聞いた話もあってさ。『武虎の兄ちゃんが夜中に公園で遊んでる』って、どんな不良なんだって思ってた」
 蒼汰が噴き出し、俺も釣られて笑う。
「もしかして、それで真相を確かめにあの夜公園に来たのか?」
「ひょっとしたら公園でウリでもやってんのかなって。カマかけたら意外にも乗ってきたから、ますますお前への不信感が募ってった」
「……う、うん」
「だけど、違った。お前は自分の生活を犠牲にしてまで武虎のことに一生懸命だったよ。普通なら遊び呆けて家族のことなんか構ってられない年齢だろうに、お前はいつだって武虎のことを第一に想ってた」
 伸びてきた蒼汰の手が、俺の頭に乗せられる。
「家族の絆なんて綺麗事だと思ってた俺に、お前は身を持って教えてくれた」
「そ、蒼汰だって、俺に色々教えてくれた。バイクに乗ったのも生まれて初めてだったし、夜中に出掛けたのも楽しかったし、俺が出来ないやり方で武虎を喜ばせてくれたじゃん。俺ほんとに嬉しかったんだよ。ハロウィンの日に教室で、武虎のミイラを褒めてくれた時」
 蒼汰への気持ちが確かなものになったのはあの時だと、今でははっきりと分かる。褒められた武虎は勿論嬉しかっただろうが、俺だって相当に嬉しかったのだ。
 意地悪だと思っていた蒼汰が持っていた何気ない優しさ。それに触れることができて、胸が高鳴るほどに嬉しかった。
「俺達、互いに探り合いから始まって、最高の形で分かり合えた」
 絡んだ指先が、しっかりと繋がれて結ばれてゆく。見つめ合っていた瞳が閉じられ、ゆっくりと唇が近付いてゆく。触れるだけのキスは、まるで結婚式で男女がする誓いのキスのようだった。
「好きだぜ、翼」
「俺も」
 照れ臭さを笑いで誤魔化し、赤くなった顔が見えないよう蒼汰に抱き付く。
「俺も、蒼汰が好き」
 耳元で小さく囁くと、蒼汰が俺の背中に両手を回して強く抱きしめ返してくれた。今日一日色々なことがあったけれど、こうして蒼汰と抱き合えることに俺はこれ以上ないほどの幸せを感じていた。
 武虎も、父さんも、俺も──蒼汰も。今日だけで色んなことを考えたし、学んだ。四人のうち誰か一人でも欠けていたら、今日という日は無かった。幾つもの偶然が重なって作られたこの瞬間が、今はただ愛おしい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...