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静かの夜に
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「優しい世界だな」
感想は遠慮すると言ったのに、画用紙でできた絵本を閉じた蒼汰が小さく笑った。
「捕食種と被食種が共存する話は基本的に好きだし、このヘタクソな絵も味があっていい」
「う、うるさいな……。蒼汰だって絵ヘタなくせに」
午前一時。父さんも武虎も、とっくに夢の中だ。
今日は泊まって行くことになった蒼汰が、俺のベッドに腰掛けて大きく溜息をついた。
「……正直言うとさ。俺、始めは翼に良い印象持ってなかったんだ。たまにいるんだ、教室を託児所代わりにしてなかなか迎えに来ない親が。……あの日翼が武虎を迎えに来なかったのも、それと同じような理由だと思ってた」
「そ、それは、……ごめん」
「それに加えて、生徒から聞いた話もあってさ。『武虎の兄ちゃんが夜中に公園で遊んでる』って、どんな不良なんだって思ってた」
蒼汰が噴き出し、俺も釣られて笑う。
「もしかして、それで真相を確かめにあの夜公園に来たのか?」
「ひょっとしたら公園でウリでもやってんのかなって。カマかけたら意外にも乗ってきたから、ますますお前への不信感が募ってった」
「……う、うん」
「だけど、違った。お前は自分の生活を犠牲にしてまで武虎のことに一生懸命だったよ。普通なら遊び呆けて家族のことなんか構ってられない年齢だろうに、お前はいつだって武虎のことを第一に想ってた」
伸びてきた蒼汰の手が、俺の頭に乗せられる。
「家族の絆なんて綺麗事だと思ってた俺に、お前は身を持って教えてくれた」
「そ、蒼汰だって、俺に色々教えてくれた。バイクに乗ったのも生まれて初めてだったし、夜中に出掛けたのも楽しかったし、俺が出来ないやり方で武虎を喜ばせてくれたじゃん。俺ほんとに嬉しかったんだよ。ハロウィンの日に教室で、武虎のミイラを褒めてくれた時」
蒼汰への気持ちが確かなものになったのはあの時だと、今でははっきりと分かる。褒められた武虎は勿論嬉しかっただろうが、俺だって相当に嬉しかったのだ。
意地悪だと思っていた蒼汰が持っていた何気ない優しさ。それに触れることができて、胸が高鳴るほどに嬉しかった。
「俺達、互いに探り合いから始まって、最高の形で分かり合えた」
絡んだ指先が、しっかりと繋がれて結ばれてゆく。見つめ合っていた瞳が閉じられ、ゆっくりと唇が近付いてゆく。触れるだけのキスは、まるで結婚式で男女がする誓いのキスのようだった。
「好きだぜ、翼」
「俺も」
照れ臭さを笑いで誤魔化し、赤くなった顔が見えないよう蒼汰に抱き付く。
「俺も、蒼汰が好き」
耳元で小さく囁くと、蒼汰が俺の背中に両手を回して強く抱きしめ返してくれた。今日一日色々なことがあったけれど、こうして蒼汰と抱き合えることに俺はこれ以上ないほどの幸せを感じていた。
武虎も、父さんも、俺も──蒼汰も。今日だけで色んなことを考えたし、学んだ。四人のうち誰か一人でも欠けていたら、今日という日は無かった。幾つもの偶然が重なって作られたこの瞬間が、今はただ愛おしい。
感想は遠慮すると言ったのに、画用紙でできた絵本を閉じた蒼汰が小さく笑った。
「捕食種と被食種が共存する話は基本的に好きだし、このヘタクソな絵も味があっていい」
「う、うるさいな……。蒼汰だって絵ヘタなくせに」
午前一時。父さんも武虎も、とっくに夢の中だ。
今日は泊まって行くことになった蒼汰が、俺のベッドに腰掛けて大きく溜息をついた。
「……正直言うとさ。俺、始めは翼に良い印象持ってなかったんだ。たまにいるんだ、教室を託児所代わりにしてなかなか迎えに来ない親が。……あの日翼が武虎を迎えに来なかったのも、それと同じような理由だと思ってた」
「そ、それは、……ごめん」
「それに加えて、生徒から聞いた話もあってさ。『武虎の兄ちゃんが夜中に公園で遊んでる』って、どんな不良なんだって思ってた」
蒼汰が噴き出し、俺も釣られて笑う。
「もしかして、それで真相を確かめにあの夜公園に来たのか?」
「ひょっとしたら公園でウリでもやってんのかなって。カマかけたら意外にも乗ってきたから、ますますお前への不信感が募ってった」
「……う、うん」
「だけど、違った。お前は自分の生活を犠牲にしてまで武虎のことに一生懸命だったよ。普通なら遊び呆けて家族のことなんか構ってられない年齢だろうに、お前はいつだって武虎のことを第一に想ってた」
伸びてきた蒼汰の手が、俺の頭に乗せられる。
「家族の絆なんて綺麗事だと思ってた俺に、お前は身を持って教えてくれた」
「そ、蒼汰だって、俺に色々教えてくれた。バイクに乗ったのも生まれて初めてだったし、夜中に出掛けたのも楽しかったし、俺が出来ないやり方で武虎を喜ばせてくれたじゃん。俺ほんとに嬉しかったんだよ。ハロウィンの日に教室で、武虎のミイラを褒めてくれた時」
蒼汰への気持ちが確かなものになったのはあの時だと、今でははっきりと分かる。褒められた武虎は勿論嬉しかっただろうが、俺だって相当に嬉しかったのだ。
意地悪だと思っていた蒼汰が持っていた何気ない優しさ。それに触れることができて、胸が高鳴るほどに嬉しかった。
「俺達、互いに探り合いから始まって、最高の形で分かり合えた」
絡んだ指先が、しっかりと繋がれて結ばれてゆく。見つめ合っていた瞳が閉じられ、ゆっくりと唇が近付いてゆく。触れるだけのキスは、まるで結婚式で男女がする誓いのキスのようだった。
「好きだぜ、翼」
「俺も」
照れ臭さを笑いで誤魔化し、赤くなった顔が見えないよう蒼汰に抱き付く。
「俺も、蒼汰が好き」
耳元で小さく囁くと、蒼汰が俺の背中に両手を回して強く抱きしめ返してくれた。今日一日色々なことがあったけれど、こうして蒼汰と抱き合えることに俺はこれ以上ないほどの幸せを感じていた。
武虎も、父さんも、俺も──蒼汰も。今日だけで色んなことを考えたし、学んだ。四人のうち誰か一人でも欠けていたら、今日という日は無かった。幾つもの偶然が重なって作られたこの瞬間が、今はただ愛おしい。
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