フェリーチェの世界

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作るもの、作られたもの①

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「実験体No.777、成功です」
私が最初に聞いた声は、この感情の無い声だった。
その言葉の直後、沢山の何かの喜びに満ちた声が聞こえてきた。
「やっとだ!10年目にしてやっと…!」
「ついに私達の実験が成功する日が来たのだ!」
「あぁ…この瞬間をどれだけ待っていたか!」
「それで、そのNo.777番の母体の様子はどうなのだ?」
(さっきから言っているNo.777番とは誰の事…?)
「はい、母体の様子も安定しており、この様子だとあと1ヶ月程度で生まれるかと思います。」
「そうか、ではしっかり見ておけ。良いか?もし実験体に何かあった場合、お前の命は無いと思え。お前の代わりなんて大量にいるんだからな。No.750番」
「はい、分かりました」
数人の足音が聞こえると、数分後にはシン…とした空間と共にカチャカチャと言う機械音が聞こえてきた。
(なんの音だろう、さっきのはなんの声なんだろう…知りたい…見たい…)
そう思った瞬間、自分の体が振動しているのを感じた。
(なに!?なに!?)
混乱しているとまたも声が聞こえてきた。
「こちら実験室、母体が出産状態に入りました」
(出産…?ってなに…?)
ドタドタと何かが走り回る音がする。
すると、頭の先がぎゅぅぅぅと押される感覚がくる。
流されるまま耐えていると突然何か眩しいものが目に入ってきた。
何かの声も聞こえる。
「生まれたぞ!」
「まず健康チェックだ!暴れないように抑えつけろ!」
そう言って誰かに後ろから押し倒される。
「う…あ…あぁ」
自分から不思議な音が漏れる。
「凄い、もう声が出るのか!」
「あの失敗作達とは大違いだ」
(しっぱいさく…?)
そんな声が聞こえたと思うと急に意識が途切れてしまった。

目を開けるとそこは何も無い空間だった。
「起きた?」
声のする方を向こうと体を動かす。
でも、うまく動くことが出来ない。
「ごめんね、君が暴れないように縛ってるんだ」
何を言っているのか分からず動き続ける。
「それ、外すと僕達が怒られちゃうんだ…でも顔だけならいいかな」
すると途端に顔を自由に動かすことが出来た。
「ぼく…?」
「わぁ、凄い。もう喋れるんだね…僕達失敗作とは大違いだ」
「しゃべる、しっぱいさく」
同じ言葉を復唱する。どういう意味なのだろうか。
「失敗作って言うのは僕達のこと」
「ぼく」
「君は失敗作じゃないよ」
「……しっぱいさく」
目の前のものは苦笑する。
「そうだよね、まだ言葉の意味までは分からないよね」
「ことば、いみ」
「うん、そうだ、ねぇ僕が言葉を教えてあげるよ。しばらく君はここに居るらしいし、それに失敗作の中で僕が1番言葉は得意なんだ」
「しばら…く」
「だいたい1年くらいかなぁ…その間は僕が君のめんどうを見る事になってるんだ。その拘束具も1週間も経てば外してあげられるからね」
目の前のものはそう言って口角を上げた。
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