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第1章 リアルドとジーヴス

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「ベル、 大丈夫かい?」

「……ご迷惑をお掛けして……」

「迷惑なんてかけてないだろ?」

ベッドに横になっているベルライナは真っ赤な顔をしていた。
前日解熱鎮痛剤を飲みアイリスをおもてなししたベルライナであったが、 あの後寒気が収まらず発熱した。
現在39℃を超えていて、 ぐったりとしている。
そんなベルライナのベッドに腰掛けて額を触るカーマイン。

「……まだ熱いね…やはり雨に濡れてしまって風邪をひいたんだね」

「不甲斐ないです」

「どうしてそうなるの」

もう……とベルライナの頭を小突き、 カーマインは冷たく濡らしたタオルで顔を拭った。
首元も軽く吹くと、 ベルライナはその気持ちよさに目を細める。
身体中から発汗していて全身がベチャベチャだ。

「うーん、 ベル1度起きれる?」

「は…い」

フラフラと体を起こしたベルライナの背中に手を伸ばして支えるが、 パジャマもぐっしょりと濡れていた。

「ベル、 着替えをしよう。このままじゃ良くならない」

「は、 い……」

起きれる?と手を貸して立たせると、 部屋のソファに一度ベルライナを座らせた。
寒さに体を震わせる様子を見て、 まだ熱が上がるかな…と呟く。
カーマインは一言断りを入れてからパジャマを取り出す。
着替えやすかと出した薄手のネグリジェを片手にベルライナの元に戻ると呆然と座っていた。

「ベル?1人で着れる?」

「大丈夫……です」

「うん、 無理そうなら声掛けてね」

近くにある衝立を置いて目隠しをしたカーマインは、 手早くベルライナのシーツを取り替え、 布団も変える。
既に湿っているそれは洗濯に出すとして…と今後の予定を立てながらベッドを綺麗にしたカーマイン。

振り向き衝立を見る。

「ベル、 着替えた?…………ベル?」

大丈夫?入るよ?
そう言いながら衝立の奥、 ベルライナが座るソファに近づいた。
意識はあるが動きたくないのか、 ネグリジェを持ったまま動かない。

「ベル、 大丈夫かい?」

「……あ、 すみません、 すぐに着替えます」

「いいよ、 無理しなくて」

ネグリジェを受け取ったカーマインは、 ごめんねと伝えてからネグリジェを頭から被せる。
ん?ん?と働かない頭で言うベルライナは、 ネグリジェの中に手を入れてパジャマのボタンを外すカーマインをただ黙って見ていた。

「…………はい、腕をパジャマから抜いてー
、 はいこっちも」

ふくらはぎまでくるネグリジェを着せてから肌が見えないように隠して中のパジャマを抜き取ったカーマインは、 ベルライナを抱き上げてベッドに連れていった。
横にさせてから同じ要領でズボンを脱がせたカーマインは、 息をつく。

「………こういう時は女性の手が欲しいな…」

「…………ダメです」

「ん?」

「…私以外にジーヴスを…サクリファイスをするのですか……嫌です……私だけ……」

熱に浮かされながら何とか手を伸ばしカーマインの袖を掴むベルライナに、

「………バカ…そんな事するわけない」

「……そ…………ですか……よか……」


すぅ……と眠りについたベルライナ。
袖を握る手にも力が抜けてベッドにパタリと落ちる。
そんなベルライナに、 カーマインは顔を赤らめて口元を抑えた。

「………もうー、 急に可愛いこと言うのやめてよね…」

袖を握っていた手にそっと触れたカーマインは、 意識のないベルライナの額に口付けた。

「………早く良くなって、 また一緒にお茶にしよう、ね」


サラリと前髪を撫でてから部屋を出たカーマイン。
ベルライナは幸せな夢を見ているのか、 口端がゆっくりと持ち上がった。







「…………ん?」

ベルライナはゆっくりと目を開ける。
寒気は止まっていて先程よりも体調はいい。
体を起こすと、 ちょうどカーマインが入ってきた。

「ベル、 目が覚めたかい?」

お盆に置かれた飲み物と小さな土鍋に薬、 それをミニテーブルに置いてカーマインはベッドの端に腰掛けた。

「………ご主人さま、 すみません私どのくらい眠ってましたか」

「ん?3時間くらいかな……少し熱下がったみたいだね」

外は大分暗くなってきていて、 カーテンが引いていない少し開いた窓からはリアルドの怒声とジーヴスの謝罪の声が聞こえる。
カーマインは窓を見つめ、 立ち上がる。
電気を付けてから窓を閉めカーテンも閉めた。
こんな声聞くことないと言うかのように。

「おじやを作ってきたよ、薬を飲まないといけないから少し食べて」

喉が乾いているだろうと、 先に水を数口飲ませたあと、  カーマインは手ずからベルライナの口元におじやを運ぶ。

「ご主人様……自分で!」

「いいから、 こんな時じゃないとベルは俺に甘えてくれないじゃないか。今日くらい俺に甘えなよ」

「ですが……」

「俺に世話をされるのはイヤ?」

「…………そんな質問ずるいです」

「ふふ……俺はベルの為ならなんにでもなってやるよ?ほら、 今日の俺はズルい奴だから、 ちゃんとお食べ?」

「…………もう、 恥ずかしいです」

差し出されるスプーンが引っ込むことは無いと理解したベルライナは発熱とは違う顔を赤らめて口を開いた。

「………美味しいです」

「よかった、 さあもう少し食べようか」

「………私、 ひとりで……」

「ん?」

「うぅ………」

何を言っても無駄だとベルライナは諦めて口を開ける。
運ばれる食事を必死に食べるベルライナを満面の笑みで見るカーマイン。
そんなカーマインをじっと見ながらお腹に運んだ。
もう、 味なんてわからない。

「あぁ、 ごめん。口の端についたね」

ちょうど半分ほど食べた時、 スプーンが当たり口の端におじやがついた。
そっと指先で取り口に入れるカーマインの動きはあまりにも自然で、 ベルライナは一瞬思考を停止したあと撃沈。
恥ずかしさが頂点に来てベッドに倒れ込んだ。

「え?……ベル?」

器をテーブルに置き、 ベルライナの顔の横に手をついて上から覗き込むクーフェン。
そっと上を見ると至近距離にカーマインの顔があった。
急いで顔を両手で隠し横を向く。


「!!!!!」

「ふふ……顔が真っ赤になった。ベル可愛いね」

「か!からかわないでください!!」

「からかってないのに」

手を捕まれ顔から離されると、 嬉しそうに笑うカーマインにベルライナはさらに顔を真っ赤にした。

「っ…今日のご主人様は…いじわるです」

「こんな俺は嫌?嫌い?」

「き……嫌いなわけ……ありません」

「それはよかった」

優しく頭を撫でるカーマインを、 ベルライナは困ったように見つめた。



「……?私いつ着替えましたっけ?」

「…………………さっき、 かな」


あまり覚えていないベルライナの質問に、 カーマインは言葉を濁らせながら返事を返した。




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