［完結］サクリファイス～主従の契約

第4章 唯一の宝

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 この世界はジーヴスの繁殖のために強制的な妊娠をさせる。
そのため、 行為は簡略的だった。
お互いに子を宿すと強く願い、 誓いの言葉を言う。
それだけで妊娠するのだ。
その為店にいるジーヴスの女性達、 又は主人同士により番にされたジーヴスの女性は肉体的苦痛を受けることなく妊娠する。
この方法はリアルドも一緒だ。

「………………」

 翌日目を覚ましたベルライナはゆっくりとお腹を撫でた。
不思議な事に子を宿すその日の晩、 女性達は夢を見る。 
産まれたばかりの我が子を抱きしめあやす自分自身の夢を見るのだ。
抱きしめて、 あやして名前を呼ぶ。
子守唄を歌って寝かしつける、 そんな母親の自分自身が。

「………ベル？」

「おはようございます」

 起き上がりお腹を撫でるベルライナを今起きたカーマインが目を細めながら見る。
そっと手を伸ばしてベルライナのお腹に手を当てた時、 1度だけドクン！と脈打つ。
男性に子を授かったと知らせる為、 1度だけ強く脈打つのだ。

 カーマインは目を見開く。
そしてすぐにベルライナを抱きしめた。

「…………ベル」

「はい、 カーマイン様」

「…………ありがとう」

ベルライナは幸せそうに微笑みカーマインの髪をすいた。

「………ベルは幸せものです」














 ジーヴスの妊娠期間は6ヶ月。
リアルドであるカーマインとの子を宿したベルライナの体は少しずつだが衰えていった。
つわりにしても、 体のだるさにしてもベルライナは通常よりも負担がかかる。
それはベルライナとカーマインの種族が違う為にベルライナの負担が大きい為。
それでもベルライナはいつも笑顔を浮かべていた。
カーマインに、お腹の子に感謝しながら。

 つわりで体調が悪くても、 通常のジーヴスの行動は変わらない。
それはベルライナも一緒で、 カーマインの世話や食事お茶の支度全てを完璧にこなした。
カーマインもクーフェンもそんなベルライナに動いたらだめだよ、 安静にして！と何度も言うが微笑み大丈夫です、 と言うだけだった。

 ベルライナのお腹が出てきて誰もが妊娠していると分かったそんな時、 出産を迎える事となる。
痛みと不安で顔を歪ませ、 声を上げるベルライナの姿を見るのは初めてだ。
カーマインは不安そうにベルライナを抱きしめ腰を摩り、 押し続けていた。

 この世界の出産は自宅出産である。
ジーヴスは基本的に自力で産むのだ。
今回ベルライナが出産にあたり、 助産師を呼んでいるがまだ到着していない。
カーマインは、 まだ来ないの！？とベルライナを擦りながら窓の外を見た。
丁度坂道を登っている所である。

 ベルライナの体力は消耗し、 通常より6キロ程体重が落ちている。検診の度に何度も食べなさいと言われたほどだった。
カーマインは心配だったのだ。
ベルライナが出産に耐えられるのか、 と。

 しかし、 母は強しとはよく言ったもので。

「はいはい、 遅くなってごめんなさいね」

 そういったリアルドの助産師が手際よく出産の準備を済ませ

「はい、 見るわよー………あ、 いいわね。はいいきんでー」

なんともまったりとした指示を出したのだった。














汗をダラダラと流し痛いのかなんなのか分からないこの不思議な現象を経験しているベルライナ。
痛みに声を上げ体が勝手に力を入れるのに、 なぜか気持ちは冷静だった。


「（ベルは本当にお母さんになるのですね）」


 あんなに望んだのに不思議だった。
こんなに張り裂けそうな位に大きくなったお腹に、 本当に子供がいるのか…と。

 しかし、 そんな心配は杞憂に終わった。

「はい、 お疲れ様立派な白い翼がある……女の子だね」

 小さな体で必死に泣く小さな赤ちゃん、 背中の中に織り込まれた翼は真っ白でまだ体外に出ていない。
産まれたばかりの赤ちゃんの翼は体内にあり、 成長と共に体外に出てくるのだ。
背中に描かれている真っ白な翼がリアルドの証だ。

「……ベル達の…赤ちゃん」

「さあ、 抱っこしてあげて」

 助産師は真っ直ぐカーマインに産まれたばかりの赤ちゃんを差し出した。
それを見たカーマインが

「……一番最初にベルに…妻に抱かせてやって。1番頑張ったのはベルだから」

ベルライナを見て言うと、 助産師は頷き横になるベルライナの肩口に赤ちゃんを置きベルライナの手を取った。

「…………ちいさいです…」

「うん」

「………可愛いです…」

「そうだね」

「………カーマイン様」

「うん？」

「ベルは……ベルは世界一幸せものです……！」

 泣きながら小さな小さな手に人差し指でチョンと触れると弱い力でベルライナの指を握った。
カーマインはそんな嬉しそうに笑うベルライナの頬にキスをして抱きしめる。
その片手は、 小さな頭を優しく撫でていた。

「ありがとう、 大変だったね。ありがとう、 俺達の子供を産んでくれて」